039話『エルフ王ザクト』
「すげえ……悔しいが、アイツなら……ザックなら、やってくれる……!」
ジードはただただ無心で『ザクトVSフォルキル』のカードに見入っていたが、思わず正直な気持ちが口から漏れる。
「ははは、ジードも素直になったもんだ! アタシは、今のアンタの方が好きだよ」
「なッ……ユーティカ、なに言ってんだテメエ! す、好きとか……本気で言ってんのか!?」
「へ? あ……ヤだ、そんな意味じゃないよ! 『今の方がマシ』って話してんのに、そんなカンチガイする? 怖っ!」
ドン引きするユーティカに、ジードは耳までカアッと赤くする。
「つまんねえこと言ってねえで、ザックの戦いを見てろっての! 子供だからってナメられねえ……俺たち騎士団全員が参考にすべき戦い方だ!」
「は~い、わかってますって! アタシだって、あんな風に戦えたら……」
ふたりの騎士がすでに『ザックの勝利』を確信するほどに、ザクトは一方的に攻め続けていた。
傷と氷だらけのフォルキルとセットで見れば、当然の感想だ。
が、フォルキルはその劣勢の中、決して自暴自棄ではなく楽しむような笑みを浮かべていた。
「お前ほどの剣士と出会え……我は嬉しい。我が身が傷つけば傷つくほど……戦う価値があるということなのだからな」
「うわ……真性の変態さんじゃないっすか。僕、付き合いきれないよ?」
「フッ……そう言わず、付き合ってくれ!」
フォルキルはもはやラブコールのように叫び、ザクトのまばたきタイミングに合わせ、自分の両手首に金色の魔法陣を浮かび上がらせた。
「ッ!?」
ザクトが一瞬警戒した瞬間、フォルキルの両腕がバチンと稲妻のような電撃を発し、消えた。
――ように見えただけで、予約詠唱していた雷属性の強化魔法により、限界突破した我が身を高速で動かしたのだった。
(少年よ、お前ほど上手く剣に魔力を込められはしないがな。我は、この肉体を限界まで使う!)
(クッ、見……ッ!)
ザクトの視界の下端、脇腹をえぐるような角度から、紫炎を置いて行くスピードで赤の神剣が迫る。
(ヤバ……ッ)
受けるも避けるも間に合わない逆袈裟斬り(斬り上げ)を確認し、ザクトはあろうことか神剣の刃を素手で掴んだ。
「ザク……ッ!!」
思わずシャノンが名を呼びそうになる。
それほど、歴代でも最大の危機と言っていい状況に見えた。
(よーし……いい刀だ……!)
本来ならあっさり切断されるはずだが、スローモーションに感じる刹那の中、ザクトの手は赤色の刃をガッチリ受け止めていた。
切断でないというだけで、ザックリと手のひらに食い込んでおり、赤い血がツウッと一気に落ちる。
(このまま押し込んでくるか? 大剣が来るか?)
見えない以上、フォルキルの次の動きを予想するしかないザクト。
左右どちらでも対応できるようにしつつも、【神の紅炎】に込められた気から判断し、それを握る左手へ70%、右へ30%と魔力を調整する。
が、その瞬間――
「ッ……!!」
手の中の刃から魔力が消え、ザクトは体勢を崩される。
(刀を……手放した?)
すべてが一瞬。
まさしく稲妻のごとき所作で、フォルキルはすでに大剣を両手で握り、振りかぶっていた。
本来のトレードマークである紺炎をまとう大剣を、本来のスタイルである両手持ちで。
まるで旗印のように掲げる。
「ふんッッッ!!」
バガンッ!!
バカデカい鉄塊が目で追えない速度で振り下ろされ、魔力反応による元素の大爆発が起こる。
石舞台どころか、辺り一帯の地面がえぐり取られるような衝撃。爆煙。爆風。
その轟音の中、いち早くハレッタが叫んだ。
「シャノン!? 確認してッ!!」
「は、はい!」
シャノンはハレッタの代わりに風の魔法を発現し、メチャクチャにぶつかり合う土煙の流れを何とか整理する。
凹んだクレーターの手前に、ようやくひとりの人影が確認できた。
「満足できる死合い……。やはり、無理にでも名を聞いておくべきだったな」
フォルキルは心底残念そうに目を伏せ、ひとつ深呼吸した。
魔族としての限界も超えて酷使した両腕はさすがに力が入らないようで、突き立てた大剣に寄りかかるように立つ。
「そ、そんな……ザクト様…………神様……!」
ルーラが神を疑ったその時――
ゴォオオオオオッ!!
フォルキルからクレーターを挟んだ向こう岸、真紅の炎が渦を巻いて立ち上る。
火柱は上昇気流を巻き起こし、土煙も元素の塵も何もかも晴らしていく。
雲も晴れ、陽光に照らされたその場には――
『これぞ二刀流』と言いたくなる、両手に日本刀を握る少年剣士が立っていた。
「そう……わたくしは疑ってなどいませんでしたとも! ええ!」
ハレッタは強がったが、内心は動揺して気を失いそうだった。
兄の上半身の衣服はすでにボロボロ、しかもその胸には大きな傷痕があったからだ。
「よかった…………で、でも……あわわ……」
ハレッタと違うところで、ルーラはとても慌てていた。
ハレッタもシャノンもそれを見慣れているため、胸の傷ばかり気にしていたが――
「ザック……アイツ、エルフ……なのか?」
激闘を傍観することしかできなかったジードが、とうとう言葉にした。
そう、エルフ耳を隠していたバンダナも吹き飛んでいたのだった。
「ザクト……」
自分の名を、自分で確かめるかのようにポツリ呟く。
そして、あらためて、赤と白の日本刀をビシと構え、大きく息を吸い込んだ。
「エルフ王……ザクト!」
「あッ…………」
あまりに堂々とした名乗りに、シャノンは呆気にとられて言葉を失った。
「な、なんで名乗ってるの!? バカにーさま!」
ハレッタも遅れてハッとし、あらためて頭を抱えた。
持病の感冒後咳症候群が始まってしまい、毎日呼吸をするのがつらいです……。
その体質からもう抜け出せないみたいなので、とにかくウイルスにかからないようするしかないんですが、なかなかそうはいかないですね。
皆さんも体調には十分気をつけてください……!




