038話『普通にキレそう』
そんな風にハレッタがパニクって暴言を吐いているのを、ザクトは戦闘継続しながら横目で確認していた。
(よかった……ハレちゃんもルーラも無事みたいだな。心配ごとが無くなって……スッキリ!)
紺炎と紫炎の二刀が絶え間なく襲ってくる中、最小限の動きですべて捌いていたザクト。
そこから急にリズムを変え、攻めの手を増やしていく。
これまで、開戦時から『相手に読まれるリズムの裏をかく攻防』をお互いに積み重ねてきた。
が、そういうチェスのようなやりとりとは違う、まるでダンスバトルのような自由で楽しげな動き。
「ふん……知的な構成に飽きてきたか? そういうところは子供らしいのか」
テンションアゲな剣を受けながら、フォルキルは鼻で笑う。
「ま、そう取ってもらってもいいよ。僕はあんたと違って戦闘狂じゃないし、こだわりなんてないから……ねッ!」
吹雪をまとう刀身に自分の全体重をかけるような大振り。
その大斬りを、フォルキルは双剣をクロスさせ受ける。
が、炎が氷結するスピードが予想以上に速く、フォルキルは力任せにザクトの刀を撥ね上げ、間髪入れず鋭い蹴りを打ち込んだ。
ザクトは体勢を崩しながらも、その蹴りに合わせ足を差し出した。
「わ……ッと!」
蹴りの威力を殺し、フワッと一回転して着地する予定だった。
が、魔族の膂力はすさまじく、吹っ飛ばされたザクトは結局また大きく距離を開けることとなる。
「さすがは上級魔族……まともに食らったら、蹴りだけで肉体破壊されるな」
(もちろん体術も剣の戦いのうちだと思うけど……『剣か蹴り、どっち貰っても一発アウト』なんて、なんか納得いかないよな)
唇を尖らせるザクトだが、対するフォルキルも得体が知れないままの少年剣士に様々な疑問を膨らませていた。
「少年、お前が使っている剣も……七神剣のひと振りなのか?」
「え? あ、違うよ? この刀は昨日生まれたばかりの雪音。北方のフラネイア鉄を手に入れてね……配合バランスの正解を導き出すの、けっこう大変だったんだよ?」
自分の愛刀に興味を持ってもらったようで、ザクトは頬をゆるめ、手にした刀を掲げる。
「剣を自分で打ったと言うのか? ますます信じがたい……」
「いやー、しっかり苦労してますから! でも、苦労すればするほど愛着わくもんでね。どう? 可愛いでしょ?」
「……くだらんな」
「は?」
フォルキルの溜息に、ザクトは笑顔のまま停止した。
「神か悪魔かというほどの能力を持っていながら、武器を『可愛い』などと……。せっかくの非凡な才能も真の意味で発揮されてはおらんのだろうな」
基本、冷静さを保つフォルキルだったが、ジードが弱みを吐露した時には不快感を示した。
その時と同じくらいの怒り表現ではあるが、それは眉間のシワに、勢いを増した炎に、確かに表れていた。
「やはり、お前は戦いを愚弄している。子供であろうが……容赦はせんぞ」
「いやいやいやいや……」
変わらず笑顔のザクトは、刀を掲げたまま大きくひとつ深呼吸した。
それを見ていたシャノンが、観客4人の首根っこを掴み、順番にズルズルと地べたを引きずっていく。
「ちょ、ちょっとシャノン! 引きずらないで! 何なの!?」
「いえ……もう少し離れておいた方がいいかと思いまして」
いつもフザケ気味のシャノンがサラッと自然に言うので、ハレッタは妙にゾッとしてしまう。
「フォルキル先輩、失礼なのはあんただよ。可愛い刀に『可愛い』と言うのがくだらんって? あはは……」
吹雪のように噴き出していた氷の魔力がピタリと止まった。
「割と…………普通にキレそう」
そう告げた瞬間、ザクトは摺り足で一気に距離を詰めた。
同時に、刀を中心とした半径15m内の水元素が一気に減少する。
「ぬお……ッ!?」
フォルキルが目眩を起こすのと同時にザクトは1回転し、その遠心力のまま横一閃。
バギンッ!!
咄嗟に大剣で受けるが、剣同士が触れるか触れないかというタイミングでフォルキルの左腕が氷漬けになる。
「ぐあッ!!」
声は上げても、フォルキルはすぐ凍結した左腕に魔力を集中する。
内側からは火属性魔力を活性化させ、外側からは神剣の炎で自分の腕を焼き、なんとか応急処置をする。
「なんで……この可愛さ、わかんないかなぁ? いや、もっと体験してもらえれば……!」
「クッ!」
『どうしたら伝わるのか』 ザクトはどうも本気で考えているようで、ブツブツ呪文のように唱えながら、尋常でないスピードの連撃を繰り出す。
堪らず防戦一方になるフォルキルだが、防御しても氷結で動きを悪くさせられるという悪循環。
「ウォオオオオオオオッ!!」
体内の炎力をフルに湧き立たせ、プライドを捨てた本気の防御で弾き返す。
そんなフォルキルの本気の表情に、ザクトは『伝わってきたかも!』と、一方的な嬉しさを感じていた。




