035話『残心』
フォルキルはザクトを侮らず、敬意を表したつもりだった。
が、それを軽く流されてしまい、自分の生き方を否定されたような気分になる。
「神剣まで奪われ、自暴自棄になっているのか……それとも、エルフに属す者ゆえか。力はあるのだろうが、戦いを甘く見すぎではないか?」
「そんなつもりはないよ。フォルキル……だっけ。身内以外で、あんたレベルと本気でやり合うのは初めてみたいなもんだし。緊張してるよ……」
そう言いつつ、力の抜けた構えで深呼吸するザクト。
そのあまりに自然体な所作を受け、フォルキルは自分ばかりが心を乱されているようで、さらにモヤモヤさせられていた。
「シャノン! 避難誘導の方、よろしくお願いしまーす」
「……御――意」
このふたりの関係性も、何らかの小芝居を入れた方が良さそうなものだが、この非常時なので『エルフの社会は独自の何かがあるのだろう』と解釈され、なんとなくスルーされていた。
「さて……ケイト防衛軍の皆さん、危険なので門のそばまで下がってもらえますか」
シャノンが告げると、人間たちはすぐ言われた通りに移動を始める。
神剣を奪われたことが決め手となったらしく、ほとんどの者が心を折られていたようだった。
が、そんな中――
「俺は……見届けさせてもらう! 彼も強いのだろうが、もし危なくなるようなことがあれば、この身を代わりにしてでも……!」
立てないほどに消耗しながらも、ジード・ロックスは這いつくばりザクトを見つめる。
「アタシも! いくら戦力外だからって、遠くから見てるなんてできない!」
なんだかんだ似た者同士の騎士なのか、ユーティカ・アイズも続く。
シャノンは眉間を人差し指で押さえ、めんどくさそうに溜息をついた。
「いや、『ここから居なくなって欲しい』って意味なんですがね。どうしましょうか、こいつら。いっぺん眠ってもらって……」
「シャノン、もういいよ。その代わり……ふたりが危ない時はよろしく」
ザクトはそう言うと、手にした刀の峰をポンポンと優しく叩く。
「雪音、ちょっと荒っぽくなるかもだけど……あとでしっかり手入れしてあげるからね」
返事するかのようにキィンと刀身が鳴り、光を帯び始める。
それに微笑みかけ、ザクトは次に自分の胸元、ペンダントへ視線を落とす。
「ディアム、調律の方はお願い」
「ハァ……わかったよ、任せとけ」
ペンダントからパートナー精霊であるディアムが姿を現し、光を発する刀身をコンコンとノックするように確認する。
と、刀がより一層強い光を放ち、大きな白い魔法陣が浮かび上がった。
「ふーむ……昨日のオークとはワケが違うしな。とりあえず、5式まで入れてみろ」
「5ね……じゃ、この辺かなぁ」
ザクトは短い詠唱を繰り返しながら、ひと回り小さな色とりどりの魔法陣を連続で出現させる。
それをひとつずつ白い魔法陣へ投入し、効果をかけていく。
それは『硬度を上げる』であったり『重量を上げる』であったり『水属性の効果を増幅する』であったり『追加の魔法が効率よく乗りやすくなる』であったり。
ザクトの打った魔法刀は、様々な術法を融合することで大きく能力を伸ばせることが最大の特徴だ。
「よし、安定した。好きに暴れたらいいけど……油断するなよ、ザクト」
「あはは、油断なんかしないってば」
白さがより増した刀身を確認し、ディアムはペンダントに戻る。
ザクトは掲げた刀をうっとりと見つめていたが、一閃、目にもとまらぬ所作で空を切った。
まばたきもしていなかったはずのユーティカが、目を丸くする。
「ザック君、今、振ったんだよね? ジード、見えた?」
「み、見えたに決まってんだろ! しかし、さすがエルフに鍛えられた子供……やってくれるじゃねえか」
ジード達が見守る中、準備を終えたザクトは正眼の構えでピタリと止まる。
身が引き締まるような冷気で、辺り一帯が緊張感に満ちる。
「おまたせ。手合わせ、よろしくお願いしますよ、フォルキル先輩」
「ふん……お前がどんな気構えであろうと、我にとって戦う価値を持った剣士であることに違いはない。楽しませてもらうぞ……」
実際、結構な準備時間を待ってくれていたフォルキル。
ジリジリと相手を見合うような開幕ではなく、待ちわびたとばかりに、いきなり左手の大剣を横薙ぎに振るう。
「ほっ……!」
圧し潰すような斬撃を高いジャンプで躱したザクトは、当然飛んでくる次の斬り上げを刀で受ける。
バンッ!!
火と水の魔力が激しく衝突し、いきなり大爆発が起こる。
「うわっ……と!」
想像よりも強い爆発に驚きつつも、その衝撃に乗ってさらに高く舞い上がる。
フォルキルは当然のように落下予測地点へ位置し、2本の剣を構えた。
その場所へ向かい落下するザクトは、敵の間合いに入る寸前、刀を振るう。
「そー……れっ!」
水と風の魔力を最大限にまで高め、吹雪の魔法が吹き荒れ、ザクトの体が浮き上がった。
「ぬぅんッ!!」
フォルキルは、すでに振り上げ始動していた神剣の紫炎で吹雪を切り裂くが、その斬撃はタイミングをずらされ空振りに。
その隙を突き、ザクトは魔力を込めた刀を振り下ろす。
ルーラが訪ねてきた時、大樹を切る用でかけたものの上位版に当たる魔法。
(ルーラは感動してくれたけど……上位魔族が大木と同じくらいの強さなら苦労しないんだよな)
ガギンッ!!
「くッ……!」
大剣で受けたフォルキルは、それが接点を氷結・破壊するものであることを踏まえ、無理やり力技で剣の角度を変えた。
「ぬああああッ!!」
大剣を滑り落ちるようにいなされたザクトは、着地してすぐ相手に切っ先を向け、敵の状態を確認する。
転生前、長年の剣道で培ってきた概念【残心】は、エルフになっても身に染みついた基本の心構えだ。
23時更新という……ギリギリ時間になってしまいました汗。
体調も完全でない状態で、なかなか厳しいスケジュールに……。
がんばります! 応援よろしくお願いします!




