036話『思い出したくないので……』
「うむ……予想以上だ、少年」
ザクトの斬撃は届かなかったが、フォルキルの胸には一文字の切り傷が浮かび、赤黒い血が滲んでいた。
片手で無理やり軌道を変えたものの、その力を逃がしきれず、大剣の裏側で自分の体を傷付けていたのだった。
「神剣と戦うことが目的だったのでな。それが期待外れだった今、戦う価値ある者がほかに居て、本当に助かった」
フォルキルの言葉を、すでに観客と成り下がったジードは唇を噛み聞いていた。
が、目を逸らすことはなく、少しでも自分の剣へ活かせるものはないかと睨みつけるように凝視する。
そんな視線をムズ痒く感じながら、ザクトはフォルキルへ返事を投げた。
「『助かった』って……僕、あんたを助けるために来たわけじゃないからね」
「その気がなくとも、お前は我を助けているのだ。面白いものだな」
「……挑発してくれるなぁ」
(どこまでもベタな戦闘狂キャラを貫いてくる。漫画だと面白がってたけど……現実じゃ迷惑この上ないよ)
短い溜息。
と同時に距離を詰め、最小の刀さばきでフォルキルの右手首を狙う。
「む……ッ!」
フォルキルは寸前で手首を返し、神剣の鍔で受ける。
鈍い金属音のあと、バチバチと砂利を投げつけたようなノイズ。
武器ガードの上から氷のつぶてを吹き付け、氷結魔法により片腕だけでも自由を奪おうとするザクト。
「ふッ……はッ!」
それだけではなく、ガードされた反動をナチュラルに利用し、二の太刀のエネルギーへ。
切り返した刃は、次に敵の左足を襲う。
フォルキルは大剣に青の炎をまとわせ、ガードと同時に氷結を打ち消す。
「はぁああああッ!」
その要領で、切れ目なく連撃を繰り出すザクト。
フォルキルはとにかく防御に集中し、両手の剣で捌いていく。
(此奴……我のまばたきと呼吸を見ているのか? ならば……)
フォルキルは咄嗟に呼吸のリズムを変え、ザクトの剣を受ける角度もほんの少しずらす。
「ッ…………と!」
違和感にリズムを狂わせたザクトの一瞬の隙を見て、フォルキルは右手に魔力を集中させる。
「おおおおおッ!!」
ズゴォオッ!!
神剣へ爆発的な魔力が送り込まれ、今日イチの火力を持つ紫の爆炎が巻き起こる。
「っと……さすがにそれはっ」
ザクトは咄嗟に得物へ左手をかざす。
「【アイシクル】!」
予約詠唱していた【氷槍護】を発現。
武器を氷属性の防壁で覆い、火属性耐性を大幅強化する魔法。
それが3枚重ねでかかっており、ザクトの手にはドデカい氷柱が現れたようだった。
それを目で確認するよりも速く、フォルキルは攻撃を開始していた。
「ふぅんッ!!」
最大級に高まったエネルギーが1本の刀に凝縮され、ザクトの鎖骨あたりへ振り下ろされる。
その太刀筋を100%で受け止める角度から、つららによる斬り上げが繰り出される。
「よい……しょおっ!」
魔法と物理、どちらも高レベルの攻撃がぶつかり合い、口で表現できない独特な激突音が空気を震わせる。
魔法刀同士の本気の衝突でしか見ることができない音と光、それを感じるのも一瞬――
バンッッッ!!
魔法反応による元素爆発が起こり、その中心から半径10mの石畳が一瞬で吹き飛んだ。
「どひゃッ!!」
「ユーティカ!」
爆風でまた転がっていきそうなユーティカをジードが抱き留める――
が、そのままふたりまとめて吹っ飛びそうになる――のを、シャノンが受け止めた。
「だから、離れててもらいたかったんですが……」
シャノン自身はそういう影響を受けにくいよう、自分の体に魔法をかけていた。
受け止めたふたり分の体重をめんどくさそうに放ると、シャノンは彼らにも魔法の干渉を軽くする術法をかけてやる。
「す、すまねえ。いや、それにしてもスゲエ剣術だ……どんな達人に、どれだけ鍛えられたらああなるんだ?」
「あ~……私も同じエルフの剣術師範に習ってましたけどね」
シャノンは遠い目をしながら、ジードに答えた。
「思い出したくないので……そんなこと訊かれても困りますね」
またまたギリギリ23時更新ですみません!
アクションシーンはつい時間かかってしまうので……
もうちょっと勢いで行けるようにナントカしたいところ……




