034話『俺はダメ騎士だ!!』
「いや、『こんなものか』と言ったのは撤回しよう。魔力が十分に満ちていれば、こうして受け止めることはできなかった」
焦げた左手で軽く宙へ放り、180度回転させたその柄を握り直す。
「弱き者には過ぎた剣よ。見合わぬ力を求めたお前の弱さは罪……」
パチパチッ――バツンッ!
フォルキルが握った手に集中すると、まるで電圧の規格が合わない器具でも接続したかのように魔力がぶつかり合う音が弾ける。
しかし、それも数秒。
【神の紅炎】の刀身から、青紫色の爆炎が禍々しく立ち上る。
「来世で鍛え直すのだな」
フォルキルの左腕がゆっくりと振り上げられる。
魔族を倒すために持ってきた神の剣が、奪われ、ジード自身を斬ろうとしている。
その絶望的な事実に、ジード・ロックスの頬に涙が伝う。
それは『死への恐怖』でも『プライドを粉砕された悔しさ』でもなく――
「俺は……ダメ騎士だ!! 国に申し訳ねえッ!!」
ただ、国の危機を憂う涙。
「エルフの民よ!! 俺が悪かった!! 俺が……弱かった!!」
ジードの叫びに、フォルキルは眉間に深いシワを入れる。
「この国を……騎士団の代わりに、この国を守ってくれ!!」
「人間は度し難いな……弱いだけでも許されんというのに」
フォルキルはそう言い、また強く神剣を持つ手に魔力を込める。
「ダメ……ッ!!」
紫炎がさらに勢いを増した時、ジードの前にユーティカが飛び出した。
代わりに剣を受け止めようと武器ガードの構えをとる。
が、フォルキルは二人まとめて消し炭にする勢いで神剣を振り下ろす。
バギィン!!
物理と魔法の入り交じった衝撃音。
ほぼ同時に、ユーティカの短い悲鳴が弾ける。
「ふぎゃっ!!」
吹き飛んだユーティカはジードに激突し、ふたりまとめてゴロゴロと地面を転がっていく。
慌てて顔を上げると、炎が飛び交っていた現場は冷気と水蒸気が立ちこめ、少しヒンヤリと感じられた。
衝撃が弾けた爆心地には、フォルキルのほかに、ジードからバトンを受けた者が立っていた。
「ジードさんの国を想う心……本物だよね。強いとか弱いとか関係無く、僕、尊敬しちゃうな」
水煙の中、フォルキルの一撃を受け止めたザクトが、背中でジードにエールを送る。
ガードの剣を焼き折った神剣がユーティカに届く寸前、ザクトは満を持して刀を介入させていた。
「ウ、ウソ……ザック君!? なんで君が!」
「そ、そうだ! 俺は……卑猥な格好をしたあのエルフに頼んだんだ! 子供がかなう相手じゃねえ!!」
(どこまでも失礼な奴ですね……あのキレ芸突撃騎士)
シャノンが遠目から心の中で反応しているのはさて置き。
ジードは本気で心配するが、目の前には実際に『上級魔族と子供が真っ正面から鍔迫り合いする光景』があり、自分のセリフが的外れであることを思い知らされる。
「シャノンはめちゃめちゃ強いけど……まずは『エルフの弟子』みたいな僕、見習い少年剣士を倒してもらおうかな」
ザクトはそう言い、自分の刀に魔力を込める。
キィンと刀身が輝き、吹雪のような白い元素が湧き水のごとく噴き出る。
「むうッ? この魔力は……」
フォルキル自身はすでに押し込むほどの力は入れていなかった。
が、そのまま持って行かれそうな引き寄せられる感覚に、一瞬心を乱される。
ピシッ――ビキビキビキ――
刀同士が触れ合う箇所の『炎が凍てつく』という珍しい現象。
それを確認し、フォルキルは反射的に一歩その場を離れる。
「お前は…………何だ?」
異様な空気を感じ、フォルキルは右手に【神の紅炎】を、左手に自前の大剣を構え直す。
「何でもいいでしょ」
ザクトはゆったりと正中に構え、静かにフォルキルを見据えた。
冷静に、目立ち過ぎないように、余裕を持って振る舞う姿がむしろ特別感を醸し出してしまう。
「何でもよくはない。強者と死合い、超えることこそが我の在る理由。お前をそう認めたから、訊いている」
ザクトの顔から少し緊張が抜け、うっかり口角が上がりそうになるのを抑える。
(ほんとに……特撮か少年漫画かっていう、こんなテンプレ戦闘狂キャラがいるんだ。この世界……まだまだ知らないことばかりだもんなぁ)
ひとつ深く深呼吸し、ザクトはフォルキルの右手の刀を見つめながら口を開いた。
「あんたは倒した相手の名を集めて悦に入るのが趣味かもしれないけど……僕は興味ないんで」
(そう……僕は、その刀に用がある)
バッサリと言葉で斬り捨てられ、紺炎の魔王フォルキルはゆっくりと二刀流のための構えに移行した。
「……我を愚弄しているのか?」
また遅めの更新になってしまいました……(19時台を目指してます)
ザクト君を、よろしくお願いします!




