032話『紺炎の魔王』
「シャノンさんには、だいぶご負担おかけしまして……。誰も死んでないね?」
「ほんと大変ですよ……。神剣を持つジード以外の者は瞬殺される恐れがあるのに、ポンポン向かっていくんですから……ッ」
シャノンは呆れるように溜息をつき、俯くような仕草をしたかと思えば――
そのままノールックで腕を振り、短剣を発射した。
「ぬう……ッ!」
20mほど離れた戦いの現場で、攻撃の所作途中だった上級魔族は寸前で狙撃を弾き、その射出ポイントを視認した。
「エルフ…………お前か、要所要所で的確に邪魔していたのは」
やはり苦々しく思っていたようで、ギロリと眼光を鋭くする。
が、すぐに口角を上げ『やっと面白くなりそうだ』とでも言うような顔を一瞬見せた。
「と、まぁ……敵が様子見してくれているのと、他団員たちの補助があって、持ちこたえてるって感じですね。ジード氏は」
「あはは……騎士道精神ってやつかな。国を守るため、個の命を捨ててでも1本の剣として敵を討つのが騎士団……」
「その割に、めちゃめちゃ罵り合ってましたけどね」
シャノンはそう言うと、ザクトのいつもの『刀愛で』をイジるかのように、手にした短剣をまじまじと点検する。
「魔法毒も仕込んでるんですが……さすがは上級魔族、ちっとも効いてないですね。不感症かな?」
「ま、そんな小細工で倒せるなら、僕らが出しゃばらなくてよかったんだろうけど」
いまだ観客でいることしかできないザクトだったが、いつでも割って入れるよう腰の刀を握り直し、魔力のエンジンを始動だけしておく。
そのわずかなエレメント揺らぎを感じ取り、【敵】は初めて大きな声を出した。
「エルフの女と……人間の少年よ! 我が名は紺炎の魔王フォルキル! この騎士どもが倒れた時、お前たちが戦ってくれるのか?」
ようやく『フォルキル』という名を口にした魔族の男は、今まで片手で振っていた大剣を両手で握る。
と、大剣から神剣を上回るかというような濃紺の炎が噴き上がる。
フォルキルのその名乗りに眼前のジードはプライドを傷つけられたが、その内容には気になる点がいくつもあった。
「魔王……『王』だと? 魔族の一国がこの国を狙っているのか!?」
「いや、我は単独……その心配は無用だ。魔族の世界では、名乗りたければ自由に『王』を名乗るのでな」
フォルキルはゆっくりとジードに視線を戻す。
が、その顔には『早くあのエルフ達と戦いたい』とでも書いてあるように見えた。
「クッ……こっちは神の剣なんだ。魔王にだって負けねえ! 神よ! 俺の魔力に応えろ!!」
ジードは負けじと魔力を高め、赤い炎を増大させる。
その気を一瞥したフォルキルは、あらためてジードに剣を向けた。
「人間にしてはなかなかの魔力量、鍛えてもいる。が……足りんな」
「テメエらみたいに最初から特別な能力持ってるわけじゃねえんでな! 足りねえ分は! テメエの何千倍の気合でヤるんだよ!!」
叫ぶと同時に神剣を振り、フォルキルの頭めがけて炎弾を飛ばす。
それを左手で払いのけたフォルキルの目の前へ、ジードは一気に距離を詰め飛びかかった。
「オラアアアッ!!」
ガインッ!
ジードの一撃をフォルキルの大剣が寸前で受ける。
「気合は……確かにお前が上回っている」
受けた剣で一気に押し返し、そのまま猛スピードで横回転。
体制の崩れたジードの横っ腹を、大剣の腹の部分で殴り飛ばす。
「ぐえッ!!」
空気抵抗などお構いなしのスピードで幅広の鉄ハリセンを受け、ジードは吹っ飛ぶ。
その着弾ポイントはザクト達のすぐそばの樹の幹で、明らかにフォルキルの意図が込められていた。
「ぐ……うッ! アバラが……ッ」
「ジードさん、そのダメージじゃキツいよ! 僕に……戦う許可をくれないかな」
「な……なんだと?」
ザクトの言葉に、ジードは眉根を寄せた。
「実は、僕も戦うために来てるんだ。こう見えて、剣も魔法もエルフ仕込み。迷惑はかけないよ」
フォルキルが『エルフの女と人間の少年』と言った時点で、違和感はあった。
「バカを言うな! 『自国の戦力で』という理由で手出しさせないってのに、子供にやらせるわけねえだろ!」
「体裁がそんなに大事? ジードさんも騎士団の中で若くして実力を示してきたんでしょ?」
「う……そ、そういう問題じゃねえ!」
ジード自身、なんとなくただの子供ではないと感じていた。
が、無意識に認めようとはしなかった。
「そもそも俺は……騎士団は、まだ負けてねえ! 騎士団が生きてる限り、余所者は手出し無用だ!」
「大事な考え方だと思うけど……ジードさんが死ぬまで加勢できないのはイヤな気分だなぁ」
「イヤなこと言うんじゃねえ! 俺は死なん!!」
より意固地になるジードに、ザクトは困った顔。
(うーん……あまりイイ言い方できてないかも。ただでさえ閉じたコミュニティで育ってきたし、コミュ力も課題だよなぁ)
この時点で少しズレているのだが、ザクトもすっかりエルフの国民性ということか。
のほほんと思案するザクトに、シャノンがダメ元で耳打ちする。
「あの……私が行きますので、ザクト様は援護に回ってくれません?」
「シャノン……うすうす気付いてると思うけど、この戦いは『この子を守る戦い』でもあるんだ」
『この子』が何のことなのか、言いはしないが、ジードが手にする神剣【神の紅炎】のことなのはシャノンもわかっていた。
「ずっと我慢してるんだよね……この子がザツに扱われてるのを見てて。でも、それは元はと言えば僕のせいで……」
ザクトがブツブツと刀煩悩モードに入るのを見て、シャノンは――
(ダメだこの王。早くなんとかしないと……)




