029話『自分で言いなさい?』
「ガードゥナ! もう一度融合を! 診療院まで飛びます!」
「無理ですよ……底の底まで魔力を使い切ったでしょう」
その言葉通り、元々半透明だったガードゥナの全身は透明度を上げ、今にも消えそうになっていた。
ハレッタ自身もフラフラで今にも倒れそうだったが、なりふり構わず大股で踏ん張りながら、人間たちの方をキッと睨む。
「僧侶班の人! 早く来て!!」
騎士団やその他の人間たちは何が起こったのかわかっておらず、ハレッタの叫びに慌てて近づいてくる。
「何やってるんですか!? あなたたち人間が同胞を助けなくてどうするんです!」
「は、はい! ただ今……」
駆けつけた僧侶の女性は、半身で横になったルーラの体に手を当て、回復魔法の法詞を詠唱し始める。
が、魔法陣が発現したかと思うと、すぐに光は失われた。
「ちょっと! 早くしてったら! まさか、あなたも魔力が尽きてるんじゃないでしょうね?」
「い、いえ……それが、その……」
僧侶は青ざめた表情で、何度も回復魔法を繰り返した。
が、その度に魔法は掻き消されてしまう。
「受け付けません……! 魔族の魔法が干渉しているのでしょうか……」
「そ、そんな……」
最後の気力で踏ん張っていたハレッタは、プッツリ糸が切れたかのように膝をつき、四つん這いのままルーラの顔を見つめた。
ルーラはフウフウと小さく息を吐いていたが、力なく瞼を開きハレッタに微笑む。
「ハレッタ様……元気そうで……よかった……」
その笑顔に、ハレッタの瞳から涙が滲みそうになる。
が、それを必死で飲み込み、語気を強めた。
「なに言ってるの? ルーラはバカよ! 『人間などどうでもいい』と言うエルフを庇って……バカ過ぎです!」
「私には……エルフも同じ人間としか思えないですし。それに……種族とか関係なく、ハレッタ様を助けるのに何の疑問もないですよ」
「もう喋らないで! すぐに城へ運んで魔法の除去を……」
ルーラは小さく首を振り、力なく手を伸ばす。
ハレッタは残る力を振り絞り、四つん這いのまま近づくと、その手をとった。
「ザクト様のところへ……行って……。ほんとは私もお手伝いしたかったけど……」
「うぬぼれないでったら! 兄様はあなたなんか居なくても、余裕で敵を倒しますわ、ええ!」
「あは……そうですよね。一度同じこと言われてるのに……私、バカですね」
「ええ、バカですよ、バーカ! こんな無駄話してないで、早く人間たちに運ばれなさい!」
呆然としている人間たちに、ハレッタはイラついた。
「ボサッとして、揃ってバカなんですか!? わたくし達は大仕事をして動けないんです! あなた達がサッサと馬を……」
キャンキャンと吠えるハレッタの手を、ルーラはギュッと握った。
「死ぬのは……嫌ですけど……もう無理みたいですから。みんなを責めないで……」
「そんな言葉、口にしないで!! 人間だって……簡単には死なないわ!!」
ハレッタはその時、意を決した表情になり、左耳のピアスを手に取った。
「ハレッタ、それは……」
「ガードゥナ、黙って!」
何か言いかけたガードゥナを制し、ハレッタはそれを胸の前で握る。
「ハレッタ様が……これだけ私を心配してくれる……その声が……とてもとても……好きです。お友達に……なりたかった……」
「……過去形にしないでください。あなたの『なりたい』という気持ちはそんなものかと思われますよ」
さっきまで『取り乱している』というほどだったハレッタは、涙を浮かべながらも怖いくらいに冷静で真剣な顔に変わっていた。
「『ザクト様に人生を捧げる』って約束したのに……恥ずかしいです。ザクト様に……謝っておいてくださいね」
「絶対にイヤですわ。そうしたいなら、自分で言いなさい?」
「もう……意地悪ですね。でも……そんな顔も…………っ……」
ルーラが眉を寄せたその瞬間、ハレッタはピアスの宝珠を口に含み、咬み砕いた。
(絶対…………死なせない!!)
強く想うと、その瞬間、ハレッタの全身が光に包まれる。
そして、間髪を入れず、唇を重ねた。
口移しで、宝珠の中に仕込まれていた魔法を凝縮したような液体をルーラの中へ流し入れる。
キィン――
光はルーラへと移り、より強く輝きを増す。
すると、ルーラの顎がピクンと上がり、うっすらと唇が開いた。
「! 今なら……行ける!?」
僧侶はハッとして、あらためて法詞を詠唱、回復魔法を再開する。
瞼は開かないが、ルーラの顔はさっきまでの生気ないものではなく、穏やかに眠るような表情へと変わっていく。
「ふん……エルフの死を覆す魔法薬ですもの。人間くらい余裕ですわ、ええ」
「まったく……ザクトが聞いたら、ぶっ倒れますよ。しーらない、っと」
それは、エルフにとって代えの利かない重要アイテム、【エルフの命雫】。
エルフの常識なら『人間に使うなど、もってのほか』なのだろうが、ハレッタの表情はそんなことを微塵も感じさせない、晴れやかなものだった。
ちょっと主人公不在のシーンが長めになっちゃいましたが、
ハレッタ×ルーラのエピソードはイイ感じ(だったらいいな)にひと区切り。
どうだったでしょうか……感想、お待ちしてます!
告知もナシでしたが、土日お休みしまして、
今後は【月・水・金】の更新を目指そうかと思ってます。
ちょっとほかにもやることが色々ありまして、
これでも厳しいかもなんですが……。
PVもポイントも落ち着いてきてしまいましたが、
楽しんでくださる読者さんがいてくれるなら、
がんばっていきたいところです。
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