028話『おまえが決めるな!!』
「ハレッタ様ッ!!」
「えひゃ!?」
突然、飛び起きたルーラに抱きつかれ、ハレッタは素っ頓狂な声を上げた。
そのまま草の絨毯に押し倒され、衝撃で『ぐふっ』と色気ない声が漏れ出てしまう。
「な、な、な、何ですか!? わ、わたくしはまだ友達の関係とも認めては……」
パニクって両手を挙げ、まるで身を差し出すような状態になるハレッタ。
ルーラは荒い息で、その慎ましやかな胸に顔を埋めていた。
「っていうか、あなた元気ありますね! やっぱり心配しすぎたようで! わたくし、すっかり騙され…………え?」
自分ばかり早口で喋っていて恥ずかしくなったところで、ハレッタはルーラの異状に気づく。
「ガードゥナ! お願い!」
覆い被さったルーラを自分では抱き起こせず、融合したままだったガードゥナを分離して現状を確認させる。
ガードゥナはふたりの真上に浮き上がると、すぐに周囲の風元素を集めた。
「ハレッタ、起き上がらないで。敵がいます。ルーラは攻撃を受けたようですね」
「こ、攻撃!? ちょっと待って、どういうこと!?」
「背中に短剣が刺さってます」
「なっ…………!!」
ハレッタはルーラの背中へ腕を回し、おそるおそる指を這わせる。
「ハレッタ、待って、触らないで。魔法がかけられている……」
ルーラの背に突き立った短剣には小さな黒の魔法陣が付いており、ただのダメージだけではない何かを仕掛けられていることがわかる。
「ああ……ここまで上手くいかんとは。自分の運のなさに、ほとほと嫌気がさす……」
いかにも悪らしい品のない男の声。
それは少しくぐもった音で、何か一枚隔てた空間から聞こえているようだった。
「誰です? どこから狙って……」
ハレッタが何とか少し体を起こすと、ガードゥナの背中越しに額縁のようなものが浮いているのが見えた。
その額縁の絵の部分には、聞いていた声どおりのずんぐりした男が映っていた。
が、その頭には1本の短い角があり、ハレッタはあらためて敵であることを認識する。
「おっと、攻撃は無駄だ。この額縁の中にいれば、俺は魔法の効果を受けない。まぁ、魔法も物理も力を使い果たしてるだろうが」
「中級魔族……といったところかしら。おまえが最後ですか?」
「もう攻撃はしねえよ。ゾンビたちが一掃されたら……俺自身はスキついてナイフ投げるくらいしかできないもんでね」
自分の能力・役割をわかっているようで、自嘲気味に笑う。
「おまえが……アンデッドを送り込んできた首謀者ですか?」
「パンデルってケチな者だ。今、正門にフォルキルが来てるだろ? アイツがこの国を攻めるって聞いて、手薄になった裏から仕掛けたんだが……バレてんだもんなぁ。やっぱ予知ってのはズルいよ」
(正門を襲っているのは『フォルキル』というの? パンデルは……別勢力? いえ、今はそんなことどうでもいい!)
「短剣の魔法を解きなさい! この娘に何かしたら……」
「ああ、それはもうどうでもいいんだ。元々、エルフをアンデッドにするための魔法だからな」
パンデルが指を鳴らすと、短剣にかけられていた魔法陣はパキンと音を立て消え去った。
「わたくしをアンデッドに……ですって?」
「エルフの兵士を作れたら、今回の侵攻失敗も帳消しくらいの戦力になるかと思ったんだが……結局、人間に邪魔されるなんて。人間もバカにできないな」
「な……何を言ってるの?」
「魔界でも勢力争いがあってね。俺も負けてらんないんだが……アンデッド使いなもんで、兵力補充のためにはこういう面倒なこともしなきゃならん。今回みたいな予想外もあるし……ほんと大損害だよ」
まるで被害者のように溜息をつくパンデル。
その悪びれない淡々とした口調に、ハレッタは目眩がしそうなほどだった。
(こんな純然たる悪……目の当たりにすると、頭がどうにかなりそう! でも、とにかく今はルーラのことが最優先……)
「パンデル、おまえの企みはわたくしとルーラが阻止しました。今は見逃してやりますから……サッサと行きなさい」
「その人間の手当てか? 焦らなくても、もう助からないよ」
「ッ……助かります!!」
「? 何をそんなムキになって……人間ひとりくらい、どうでもいいだろう」
この魔族も、やはり『エルフは人間より魔族側』だと思っているのだろう。
人間に寄り添うようなハレッタの言動を前に、魔族なりの理不尽なイラつきがあるらしい。
「アンタ、今からでも遅くない。仕入れに協力してくれないか? エルフって身分でありながら、人間なんて不安定で弱い種族に肩入れするもんじゃ……」
「ガードゥナ!!」
ハレッタの叫びと同時に、精霊ガードゥナは疾風のごとき空中ダッシュで額縁に接近した。
「うお……ッ!?」
そのまま額縁の中に手を突っ込み、パンデルの体をゴッソリ一気に引きずり出す。
「何だ、この怪力!? ウ、ウソだろ……ッ!」
元々、アンデッド使役の能力だけで渡り歩いてきた非力なパンデル。
ガードゥナの細腕にギリギリと締め上げられ、高い位置で固定される。
「魔法が効かないとのことなので……外に出てもらいましたわ。ガードゥナが魔法専門なんて、言いましたっけ?」
パンデルはハッとして、そちらへ視線を向ける。
ハレッタはルーラを抱きかかえつつ、反対側の手に凝縮した魔力の塊を光らせていた。
「わたくしの価値観を! おまえが決めるな!! ええッ!!」
「ひッ……!!」
ドォン!!
大気の震える音が響き渡り、ハレッタの手から一直線に細い竜巻のような魔力の束が突き抜ける。
パンデルの体は一瞬にして空気の渦に巻き取られ、中心へ収束しながら原形をとどめない塵となり、どこへともなく消えた。
更新時間、遅くなりましたが……よろしくお願いします!




