027話『泣いてくれたんですか?』
「ハッ…………夢……? うっ……い、いえ、違う!」
魔力総量が底を尽きかけ、ハレッタは正常な意識を取り戻す。
「やりすぎ! やりすぎですわ! 風の元素よ……在るべき姿、在るべき場所へ戻りたまえ……!」
宝珠に手を当て終了の合図を告げると、杖の先端をキー魔法陣に振り下ろす。
ピキンッ――
盤面に稲妻が走り、周囲の各円盤から斬撃ではなく輝く強風がドーム内へ送り込まれる。
バチバチに殴り合っていた鎌刃は一斉に、輝く元素へと戻っていく。
キラキラと舞い散る光の粒は雪が降るようで、今度こそ、巨大なスノードームが完成した。
「う、美しい……二転三転したが、やはり天使か?」
「いや、油断すると、また悪魔に変わるかもしれんぞ」
「神も悪魔も紙一重……『神頼みし過ぎることなく、自国の防衛を怠るな』ということか。今一度、根本的な国防を見直さねばならんな……」
ハレッタの大魔法を目の当たりにし、騎士団はあらためて国の守り手として気を引き締めた。
もちろん、ハレッタにそんな啓発活動をしにきた意識はない。
「はぁ……さすがにスッカラカンですわ。それもこれもルーラの魔法に引っ張られたせいで……あっ」
肝心なことを思い出す。
「あの子、大丈夫よね? 『信じると決めた!』なんてクサいセリフを口にしておいて、アンデッドと一緒に微塵切りしていたら、わたくし…………え?」
ピシッ!
ハレッタの乗っていたドーム外壁に大きなヒビが入り、それはあっという間に全体へ広がった。
どうやっても壊れないと思われていた防壁が一気に崩壊し、ハレッタはバランスを崩しドーム内へ転落する。
「嘘っ? ま、まさか本当に……ルーラッ!!」
光翼を羽ばたかせ、姿勢制御。
魔力も限界だったが、何より、今回の作戦における相棒の危機を想い、ギリギリの速度で下降する。
「ルーラ! 返事を……返事をしなさい!!」
吹き荒れる光のカケラに目を細めながら、ドームの中心だった場所へ降り立つ。
そこには――
「ルーラ!!」
魔物の残骸と斬撃による傷痕だらけな地面の中、そこだけ小さく円形の花畑が残っていた。
その緑のベッドには、まさしく眠り姫のようにルーラが横たわっていた。
「外傷は……ない? 命力を使い果たした? そんな……ルーラ? ルーラ!!」
まだ知り合って1日しか経っていない。
が、初めて『エルフ以外で信じられるかもしれない』と思えた人間。
『友達になれるかもしれない』と思えた人間。
ハレッタの中では、自分でも気づいていないくらい、なぜかその人間が気になっていた。
勝手にどんどん盛り上がって、ポロポロと涙が溢れていた。
「人間なんて……ほっといても100年経てば死んでしまうのに。バカですよ、あなたは…………ルーラッ!」
「……は、はぁ~い」
「っ!?」
遠慮がちな返事に、ハレッタはビクッと後ずさる。
気まずそうに目を開けたルーラは、力なく笑った。
「ル、ルーラ……生きてるなら早く言いなさい! ええ!」
「す、すみません。爆音が止んで『終わったかな』と思ったら、急に力が抜けて……気絶しちゃってました」
ハレッタは一気に全身の力が抜け、ルーラのそばにペタンと座り込む。
その放心したような顔を見て、ルーラは嬉しそうに言う。
「もしかして……私のことで泣いてくれたんですか?」
「もう……バカッ!」
せっかく見つめていたルーラの顔から、ハレッタは結局、目を逸らした。
「力が抜けて……と言いましたけど、ハレッタ様の魔法が強すぎて、ドームの維持はそもそも限界だったんですよ」
「な、なに言ってるんですか! あなたがあんな魔法式を組むから、予定より出力が出過ぎてしまったんでしょう?」
「そ、そうですか? でも本当にすごかったですよ。真っただなかにいた身としては……生きた心地がしませんでした」
「まぁ、その反射魔法のおかげで、かなり効率的に済みましたけど……」
その『ツン』を見上げるルーラは笑顔を作りつつも、さすがに瞼を閉じ深く息を吐き出した。
(防御魔法には自信があったけど……こんなすごい攻撃魔法を使う人だっているんだよね。ほんとに危なかった……私、うぬぼれてたかも)
あらためて目を開け、そっぽ向くハレッタの横顔を見る。
子供っぽく拗ねる表情を見ていると、ルーラはなぜかゾクッとする不思議な魅力を感じていた。
(ザクト様は……ハレッタ様より強いのかな? というか、この時点でちょっと怖いんですけど……)
救世主たるエルフの者たちに、さらなる凄みをルーラが感じていたその時。
力を使い果たしたエルフを狙う悪意――ザクトが危惧していた一手がそこにあった。
いつもの時間より、ちょっと遅れました……うーん、ギリギリ進行です汗。
慌ててることでミスなどありましたら、ご指摘お願いします。
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