025話『全員、逃げやがれ☆』
たびたび襲い来るアンデッド共をその都度弾き飛ばしながら、アイディアを伝えるハレッタ。
ルーラは真剣に聞いていたが、やがて瞼を閉じ、ブツブツと独り言を呟きだす。
「ルーラ、難しいですか? できれば、何体かまとめて処理できるくらいのものを組んで欲しいんですけど」
「内と外の法式を入れ替え……魔力量を限界まで引き上げて…………内側の耐久値と反射率が……」
ルーラの言葉には、ハレッタ用の返事は入っていない。。
(計算に集中するのはいいですけど……今、戦場の真っ只中ってこと、忘れてますよね?)
ハレッタは呆れながら周りを警戒していたが、突然ルーラは顔を上げ、手のひらをポンッと合わせた。
「私、やれます!!」
ルーラはひとこと声を上げると、やにわに走り出す。
その向かった先は、アンデッド軍が最も密集している最前線エリア。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ルーラ!? なに考えてんですか!!」
あわてて敵の排除を考えるが、ルーラ自身を巻き込む角度に躊躇するハレッタ。
しかし、当のルーラは死体共をものともせず、何なら防壁表面の浄霊効果でダメージを与えながら進んでいく。
「おい、僧侶の娘! 何してる? 危ないぞ!」
騎士たちがギョッとする中、ルーラはピタリと足を止めた。
そして、両手で握った杖を天に掲げ、法詞の詠唱を開始する。
「ケイト王国宮廷巫女、ルーラが理を示す!」
杖から金色の魔法陣が現れ、そこからまたひと回り大きな魔法陣が出現。
それを繰り返すことで、その面積はもう戦場全体が雨宿りできそうなほどになっていた。
「我が命力を素とし、天と地の間に残りし光の元素はひととき役目を変える。神の光で織り成す聖盾よ……ここに現れたまえ!」
巨大な魔法陣の盤上で、光の元素により巨大な半球状の防壁が生成されていく。
自分がポカンと口を開けて見入っていたことに気づき、ハレッタは頭を振った。
「『何体かまとめて』と言ったんですが……まさか『全軍まとめて』の規模感で提出されるとは。これ、違う問題発生ですよ?」
杖に手をかざし、予約詠唱していた魔法陣を高速起動。
流れるように、胸の魔法陣に当てた手を前方へ突き出した。
「嵐翼霊! ガードゥナ!!」
精霊ガードゥナが美しい翼を広げ現れる。
と、間髪を入れず、ハレッタは彼女に呼びかけた。
「あの巨大な光のお椀の下にいる人間を退避させます! 全員に伝わるように、ですよ」
「………はい、了解いたしました。では……」
ガードゥナは冷静沈着といった顔で頷き、天使が癒やしの光をもたらすかのように両手を広げた。
すると、緑風の魔力球が戦場のあちこちにポンポンと発生する。
「あー、あー、人間の皆様、聞こえておりますでしょうか」
ガードゥナが自分の目の前の球体に呼びかけると、現場すべてにその声が響き渡る。
何のことはない、ただの音響装置だった。
「お仕事中すみませんが、上空をご覧ください。こちら、光の牢獄となっておりまして、まもなく下降してまいります。つまり……」
無表情だったガードゥナが、初めてニコッと微笑んだ。
「そこにいたら命はありませんので……全員、逃げやがれ☆ です♪」
戦場に響く『優しい死神』のような言葉。
一時は呆気にとられていた騎士たちだったが、やがてドームの範囲外へと半信半疑で走り出した。
ハレッタはドーム中心の状況を確認しようとするが、敵兵士がそこへ殺到し、ルーラの姿はまったく見えない。
「ガードゥナ! ルーラに繋いで!」
ガードゥナは腕を振り、魔力球のひとつを中心に飛ばす。
と、ハレッタはガードゥナのマイクを奪い取り、叫んだ。
「ルーラ! あなたも早く出なさい!」
少し間があり、ルーラの声が返ってくる。
『私は……大丈夫です。敵がなぜか私に集中してるうちに……閉じます!』
「バカなこと言わないの! いいから戻って!」
『ハレッタ様……私を信じて!!』
「ッ………バカ! バカ! バ――カ!!」
ハレッタの叫びを合図に光のドームが一気に下降し、ズズンと轟音を響かせる。
転送魔法陣を含むアンデッド軍の大半がその中にまとめられ、戦場が少し静かになる。
人間たちは、限界を超えて動かしていた四肢をようやく地に着けた。
(2026-0615記)
すみません、この回の次の026話、今日(6/15)の更新を目指して制作していたのですが
明日16(火)に更新したいと思います。
せっかく1週間、毎日更新を続けてきたのに、早速失敗してすみません。
土日、伸びない時に頑張ったのに、月曜日休みたくなかった……。
今後とも、エルフ王をよろしくお願いします……!




