002話『エルフ王様、ですね?』
* *
鍛冶小屋に戻ったザクトは、腕の中の少女をベッドに寝かせ、ひとつ溜息をついた。
(落ち着いて、一旦整理しよう)
腕組みで目を閉じ、自分の置かれた身の上を確認する。
(エルフの男性が消えたこの世界で、僕は20年前、唯一のエルフ男子として産まれた)
彼は、現実世界で【朝香唯逸】としての人生を31歳で終え、エルフとして第二の人生をスタートさせた。
ちょっと歴史や刀剣が好きで、健康のため剣道を続けていたりはしたが、それ以外はごく普通の会社員だった。
(エルフ男子が生まれたことは、人間や他種族に知られてはいけない極秘事項。だから、エルフの里を出てからも、ここに隠れ住んでいるわけで……)
ふと、壁に飾られた刀たちを眺める。
5年間没頭してきただけあり、長短大小、デザインもカラーも様々。
そのすべてに視線を送ると、にへっと相好を崩す。
「みんな、僕の可愛い子ら。生まれてきてくれてありがとう」
どこまでも、自分の打った刀に対し、親バカすぎた。
(ここで刀を打ち始めて、もう5年。5年目にして、まさか人間が訪れるとは)
現実逃避気味になっていた思考を元に戻し、ベッドの少女に目を落とす。
(たまたま迷い込んだのか……それとも……。何にせよ、自分のことを知られるわけにはいかない)
「でも……本当に、久しぶりの人間だなぁ。日本人とは違うけど……」
少し間近で、少女の顔を覗き込む。
(20年エルフやってても、まだ人間時代の方が長いし。なんかドキドキする……)
「んっ……? きゃっ!?」
「わわ! ちょ、待っ……」
タイミング良く(?)少女の瞼が開き、ふたりの目が合った。
少女も驚いたが、ザクトはもっと驚き、慌てて頭に手ぬぐいを巻いてエルフ耳を隠した。
(曲がりなりにも結界を越えてきた人間……幻覚魔法だと見破られるかもしれないし)
できる限り自然に、ザクトは子供らしい笑顔を作る。
「気がついた? お姉ちゃん、迷子?」
「あ……い、いえ、私はあなたに会うため、ここまで来ました」
「えっと……誰かと勘違いしてる? 僕は……」
脳内の『???』を悟られないよう、偽りの自己紹介を捻り出そうとする。
が、その続きを少女が補完した。
「あなたは……エルフ王様、ですね?」
「!?」
ザクトは完全にパニクり、笑顔のまま固まってしまう。
(ど、どういうこと? 村の中に、人間と通じる者がいる? そんなはずは……)
少女はベッドに腰掛ける姿勢になり、ペコッと頭を下げた。
「助けていただいて、ありがとうございます。私、辿り着いた矢先に死んじゃったかと……」
心からの感謝。
そもそも、その危機(倒木)の原因はザクトなのだが。
「私、ルーラと申します。ケイト王国から参りました」
(ケイト王国……ここから一番近い国だけど……)
「王宮で巫女を務めております。と言っても……試験にギリギリ受かったばかりの末席なんですけどね」
「巫女? ってことは……」
ザクトのハッとした顔に、ルーラはコクリと頷いた。
「神託により、あなたのことを知りました。この地に、エルフの王様がおられると」
(話には聞いてたけど……神と通じてるなんてチートじゃない? 知力、身体能力、魔法、すべてにおいてエルフが優れてるとしても、人間側にそんな反則を使われちゃ……)
元は人間なザクトだが、この世界では常識も違う。
自然と『人間側ずるい』という発想が出る。
「結界に惑わされず、君がここへ来れたのも……神様の力ってこと?」
ザクトの問いかけに、ルーラはキョトンとする。
「えっ? 結界があるんですか?」
「……本気で言ってる?」
「私、嘘は言いません」
ルーラがそう言っても、ザクトにはどうしても信じられなかった。
「ここの結界は、人の邪心を映し増幅する幻覚魔法なんだ。多かれ少なかれ、みんな悪い心があるでしょ? それを利用して魔物を作り出したり、道に迷わせたりする」
「はあ……そうなんですね? 道には迷いませんでしたが、魔物には何度か襲われました」
「それそれ、それだよ。見破られないために実体ある自立思考モンスターを作り出すんだ。ケガはさせないように命令を仕込んでるけど……」
(あれ? でも、そういえば、魔法作動時の反応……なかったな?)
疑問が尽きないザクトの表情と対照的に、ルーラはスッキリ納得したような顔で頷いた。
「そっか……あの赤い肌のオークさん、魔法による門番役だったんですね。確かに、あんな強そうな魔物に襲われたら、みんな逃げますよね」
「そうそう逃げちゃう……ん? 赤いオーク?」
(それって……隠密の報告にあった『最近、姿を見られないように人を襲うタチの悪い個体が出現してる』ってやつ?)
「あの……で、なんで君は無事ここまで来れたの?」
「魔法防壁に籠もって……諦めてくれるのを待ってました」
「そんなわけないじゃん!」
「ふえっ?」
ザクトはつい大声でツッコんでしまう。
が、笑顔だった。
自分の魔法結界に自信はあるし、エルフ族として絶対に攻略されてはいけない。
のだが、『本当にクリアする者がいるなら会ってみたい』という好奇心にあらがえないようで。
「あ、いや……自立思考型とはいえ、ひとり分の魔法防壁くらい破る能力のはずなんだけどな~」
「何度も攻撃されましたが……しばらく神様に祈っていたら去ってくれましたよ。私、防御魔法だけは得意でして」
(この子……とぼけてるだけで、マジで相当なやり手? 謎すぎてキレそう!)
『キレそう』が口グセのザクトだが、これまで実際にキレることはまずなかった。
2話まで読んでくださって、ありがとうございます!
【唯一のエルフ男子】で【エルフ王】なザクト君。
大好きな我が子(刀)を手放してしまったのには理由がございます。
ゆるゆるルーラに続く、次のヒロインも控えておりますので、
ぜひぜひブックマーク&【★】評価よろしくお願いします!
私の相方【亜方逸樹】が挿絵でお世話になっていて、
ご本人にもとてもよくしていただいてる
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