001話『可愛すぎてキレそう!』
日本刀を偏愛する朝香唯逸は異世界転生し、
【世界で唯一のエルフ男子】ザクト・レインシスとして生まれた。
【エルフ王】として大事に育てられてきたが、
そんな重い責任は負いたくないザクト。
現代の知識を元にエルフの里を大発展させ、
15歳の頃には「十分に王の責任を果たした」と隠居して、
山中の鍛冶小屋に引き籠もってしまう。
が……趣味で刀鍛冶に打ち込んでいたら、
いつのまにか世間で【創剣神】と呼ばれるようになっていた!?
ザクトの作った刀剣たちが、国同士のパワーバランスを左右する
【七神剣】として扱われ、魔族をも巻き込んだ混乱を引き起こす!
他のエルフより成長が遅い少年の姿ながらスペックは最強なので、
人助けもしつつ、我が子同然の愛する刀たちを迎えに行く……!
という感じのお話です!【画:亜方逸樹】
応援よろしくお願いします!
*基本ほっこりハッピー方向になるので、極端なストレス展開はないです。
*ラブコメ好きなので、そういう展開もあるかもですが、
主人公ザクトは少年なこともあり積極的ではないです。
*初日の2話分更新から、しばらくは毎日1話更新の予定です。
キィン! キィン! キィン!
山深い森の中、一軒の鍛冶小屋から、鉄を打つ音が響く。
と言っても、熱した鉄を打ち延ばす工程ではなく、すでに仕上がった刀身に銘を入れているのだった。
「なんて愛い刀……可愛すぎてキレそう!」
煤だらけの顔で刀の腹にほおずり、赤子に話しかけるようにエルフの少年は言う。
尖った耳。アーモンド型の目。スレンダーな体躯。
瞳の色はルビーのように鮮やかな紅。
透き通るような金髪はポニーテールにまとめているが、その美しい黄金色もすっかり煤けている。
「今までで一番『刀』らしくなったかもなぁ。5年も打ち込んで……やっぱこの道、奥が深いよ」
その世界では見慣れない、反りのある片刃の剣。
そう、エルフが【刀】を打っているのだ。
「ザクト! 肝心な最後の仕上げなんだから、集中集中!」
『ザクト』と、鍛冶を補助する者が呼んだ。
それがエルフ男子の名。
「わかってるってば」
机の上に並んだ道具の中から、青白い光を宿した小刀を手に取る。
それを右手に構え、完成したばかりの刀身に左手をかざす。
と、コバルトブルーに輝く魔法陣が刃の上に浮かび上がる。
「ザクト・レインシスが理を示す! 水の素は指し示す術式の通り役割を変え、この刃に宿るものとする!」
法詞を詠唱すると、さらに魔法陣の光が強まる。
もっとも輝いた瞬間、目にも止まらぬ早業でザクトの小刀が銘を切った。
その文字から魔力が染み込んでいき、刀身は激しく白い光を放つ。
「君の名前は雪音! 【朝香雪音】だ。生まれてくれてありがとう!」
輝きが落ち着いたその刀身は、名の通り、雪のような白い金属色になっていた。
「ディアム、どう? かなりいいんじゃない?」
「ああ、問題無い。鉄も喜んでる」
ディアムは刀身を確認し、用意してあった柄を装着した。
犬のような耳とシッポがついた小人の姿。
小柄なザクトよりさらに小さな体でありながら、師匠のような物言い。
彼は地の精霊であり、ザクトのパートナーのような存在だった。
「もう我慢できない! 試してくる!」
「あ、おい、ザクト!」
作務衣のまま、小屋から飛び出していくザクト。
ディアムは『ま、いつものことだが』と呟くと、壁に掛けられたペンダントの石の中へ、あくびとともに帰って行った。
* *
小屋から少し離れた森の中。
腕を回して抱えても指が届かないほど太い大木を前に、ザクトは刀を中段に構える。
「森の精霊さん……また少し分けてもらいます」
ザクトは瞼を閉じ、刀身に右手をかざす。
無詠唱で水属性の魔力を送ると、白銀の刃からキーンと高音が鳴り響き、まるで吹雪が噴き出すように白い煙が立ちのぼる。
無心で柔らかな構え。ゆっくり深呼吸し精神統一するそんなザクトを、遠目に見る者がいた。
「あの人が……救世主様? あんな可愛らしい方が……」
僧侶風の衣装と杖を身につけた黒髪の少女。
漂ってくる冷気に少し身震いしつつ、茂みの中から様子を窺う。
「でも確かに、エルフな方だ。それに……近寄りがたい魔力を感じる」
魔力に圧倒されながらも、彼女はザクトに見とれていた。
「すぅ…………ふッ!!」
瞬間、ザクトが横薙ぎに刀を振った。
激しい風の音と、ノコギリが高速で木材を通過したような爆音が一瞬鳴り響いた。
「うーん……会心のひと振りになってくれたよ。魔法の乗りがメチャクチャいい感じ……!」
(最近は、良くも悪くもバランスのいい刀になってきたな。1年目に打った刀たちは、最初だからこその荒さもあるピュアさがあったけど)
ザクトは心の中で呟き、切なげな顔で溜息をつく。
(あの刀たちを手放したこと、後悔はない。けど……元気にしてるかなぁ)
目の前の大樹の幹を、刀の柄で角度をつけトンと押す。
と、まっすぐ立っていた大木がバランスを失い、ゆっくりと倒れていく。
「…………えっ?」
ザクトに見とれていた黒髪の少女は、ハッと我に返る。
目の前、自分の方へ、大木が倒れてくることにやっと気付いた。
「ひやあッ!?」
「え?」
少女の悲鳴を聞き、ザクトは驚きながらも、刀に魔力を再注入。
「んんんんん……だぁッ!!」
先ほどの静かなヨコ一文字とは違い、下段から豪快に斬り上げるタテ一閃。
倒れ行く大木を衝撃波が駆け抜け、文字にならない轟音が鳴る。
それは真っ二つに割けた。
ズドーン!
地響きを立て、少女の両脇に超大型サイズの木材が沈む。
「はにゃ……わ……」
ゆったり気味だった瞼がパチクリと大きく開かれ、そして、閉じた。
草の絨毯の上、パッタリと倒れた少女はおだやかな笑顔で失神していた。
「この子……人間? なんでここまで入って来れたんだ?」
慌てて駆け寄ったザクトは、あまりのイレギュラーに混乱していた。
(結界は3日前に張り直したばかり。僕の魔法を抜けてくるほどの大魔法使いにも見えない)
「とすると……邪心が無い人間? そんなの、存在するの?」
訝しげに、まじまじと少女の顔を確認する。
まだあどけなさの残る、いかにも聖職者といった気品ある顔立ち。
「しかも……かわいい、な?」
(エルフに転生して20年。人間の女子なんて……もう緊張するよ)
見た目は10歳くらいの細身の美少年エルフだが、肉体的な成長スピードが遅く、それはザクトのコンプレックスでもあった。
その特徴は【ハイエルフ】のものらしいとする言い伝えもあるが、前例が少なすぎるためエルフの中でも確証はない。
「ほっとくわけにもいかないし……よっ、と」
小柄な少年が、肉感的な体型の女性を、お姫様だっこで持ち上げる。
それだけでもザクトの特別さが感じられるが、見ているのは森の動物たちだけだった。




