003話『エルフ王なんていなかった』
「……こうなったら仕方ないな」
溜息とともにそう言うと、ザクトは頭の手ぬぐいをとり、尖った耳をあらわにした。
「確かに……僕はエルフ王。唯一のエルフ男子、ザクト・レインシスだ」
可愛らしい男の子の顔を精いっぱいシリアスにして名乗る。
それに対し、ルーラはぽかーんと呆気にとられた顔で、遅れて反応した。
「えっ?」
「えっ?」
お互いに聞き返す。
「唯一のエルフ男子……? エルフって、神の怒りで男性すべてを消されてしまった種族……のはずですよね?」
「うん、その通り…………あれっ?」
どうにも噛み合っていなかった。
「えっと……ルーラ、だっけ? 君は『エルフ王がいる』と神託を受け、ここに来たんだよね?」
「は、はい。ですので『女王様なんだな』と……」
「…………」
「男子……なんですか? エルフに男性が生まれていた!? 信じられない……!」
「…………まいったな」
自分から『トップシークレット』をバラしてしまい、ザクトは頭を掻く。
「あ~……ルーラ君?」
「は、はいっ!」
「僕たちエルフは、できるだけ他種族と関わらないように生きてる。エルフの力を悪用しようって奴がいるからね」
「は、はい。それは……」
「で、そんなエルフの中でも特別な僕を捕らえようと……ケイト王国は君を送り込んできたわけだ」
ザクトはそう言いながら、空中に文字を書くように指ジェスチャーして魔法を発動させる。
キィンと澄んだ音がして、ザクトの体が金色の光に包まれる。
「い、いえ、あのですね? 捕らえるだなんて……」
「ひとりで来たってことは『結界を越えられるのが今のところ君だけ』と見ていいかな」
光が収束し、ザクトの手に黒と金の魔力が融合したような色合いの巨大ハンマーが出現する。
それはまるでギャグ漫画のサイズ感で、打突面には白く光る魔法陣が貼り付いていた。
「君の記憶を消し、書き換える。待機してる部隊には『エルフ王なんていなかった』と報告してもらうよ」
「まままま待ってください! 話を……」
「大丈夫、痛くないよ。位置がずれると、消し過ぎちゃうかもだから……動かないで?」
ザクトは大きく振りかぶり、ルーラの頭にデカハンマーを振り下ろす。
「ひゃああッ!!」
ルーラは悲鳴を上げながら、ペタンとしゃがみ込む。
その瞬間――
グォン!
強いエネルギーがぶつかり合うような音が響き、魔法のハンマーが撥ね返される。
床にへたり込み頭を抱えるルーラは、いつのまにか亀の甲羅のような金色のバリアに守られていた。
(対魔法のシールドを、この速度&硬度で展開できるって!? いや待て、この感触は……)
最新作の刀を手に取り、ザクトは再びバリアに振り下ろす。
ギィン!
音は違えど、またも簡単に撥ね返されてしまう。
(ウソでしょ……対物理・対魔法の両用でこの完成度? 『防御魔法が得意』とは言ってたけど……)
シンプルながら鉄壁の守りに感心するザクト。
「まぁ、それでも……やりようはあるんだけどね」
法詞を詠唱し、ザクトは再び刀に魔法を宿す。
先程とは違う魔法なのだろう、透明度の高い流水のような魔力が刀身を覆う。
「…………ふっ!!」
やわらかな構えから、まばたきの速さで刀を振り下ろす。
魔法と物理、それぞれの破壊音が混ざり、表現できない音が一瞬鳴り響いた。
「あわ……ッ!?」
甲羅バリアが真っ二つに割れ、性質を維持できなくなった魔力がパキンと音を立てて飛び散った。
ルーラの胸元が少し裂けていて少々セクシー状態になってしまったのは意図したものではなく、ザクトは焦って顔を背ける。
(防壁のレベルが高くて、勢いあまっちゃった! そんなエチいことするつもりじゃなかったんだよ!?)
慌てて心の中で言い訳するが、ふと、違和感を覚える。
(ん……アレって……?)
豊満な胸の谷間より、そこにあった黒い稲妻のようなアザが気になってしまった。
(古傷……かな? なんか良くない魔力の残り火っぽいものを感じたような……)
「い、いや、僕には関係無い」
(この子は人間。僕は……エルフなんだ)
そう自分に言い聞かせ刀を置くと、あらためて魔法のデカハンマーを手に出現させた。
「さーて、と。あらためて、僕のことは忘れてもらうよ。【唯一のエルフ男子】が存在すること……絶対に知られてはいけないんだ」
「ま、ま、ま、ま、待ってください! 誤解が! あるようなのですが!」
胸の谷間が見えていることも気にせず、ルーラは半泣きで祈るような顔。
胸は痛むが、ザクトは『エルフ族のため』と心を鬼にする。
「防御魔法の才能、巫女としての潜在能力、君はかなり優秀な人間だ」
「え……?」
「君自身に証言させれば、まだ人間たちへの情報統制は可能なはず…………ん?」
ザクトの言葉に、ルーラはボロボロと涙をあふれさせていた。
「ちょ、ちょ、ちょ! 泣いたってダメだからね!」
「す、すみません。私……こんなに褒められることなかったので……嬉しくて……ううう」
(いや、褒めるっていうか『エルフ側からしたら危険人物』って言ってるんだけどね? やりにくいな、もう!)
3話、読んでくださってありがとうございます!
ザクト、ルーラ、気に入ってもらえるキャラになればいいな……!
ブックマーク&★評価はもちろんですが、感想もお待ちしてます。
ひとことでも、反応もらえたら嬉しいです!




