017話『太ってない、とは言いきれない』
ハレッタのストレスを察し、ザクトもおっかなびっくり口を挟む。
「あの……ユーティカさん、でしたっけ。僕たち、食事のために来たので……」
「あ、ごめんごめん! え、もしかして君がザック? 大変な境遇からエルフに救われたっていう……ううっ、強く生きてね!」
「あっ、はい……あはは」
「アタシ、ザック君の話を聞いて、あらためて『エルフを知りたい』と思ったの。ね、ハレッタ! そっちのお姉さんも! アタシと友達になって?」
「はああ!? あなた、何を言って……」
怒濤のコミュ力に押し流されそうになっていると、食堂の奥の方から、毒気を抜かれる癒しボイスが戻ってくる。
「みなさ~ん! 全員分シチュー注文できましたよ~……って、何かありました?」
「ルーラ、遅いですわ! 早く連れてって!」
「まあ……ハレッタ様ったら、そんなに楽しみだったんですね。シチューは逃げないですよ、ふふふっ」
「ちょっと! 食い意地の張った卑しい女扱いしないで!? バカバカ!」
なんとかこの場から離れようと、ハレッタはルーラにくっつきながら歩き去る。
ターゲットに逃げられ、ユーティカは残念そうに肩を落とした。
「ユーティカさん、本当にエルフと友達になりたいの?」
『関わると長くなるかも』
そう思いながら、エルフに対して友好的な人物(ふたり目)が、ザクトは気になった。
「うん。いつか会えたら、機会を逃さないように言いたいこと言わなきゃって思ってたの。でも、グイグイ行き過ぎちゃったなぁ……」
「……本気で本気なら、また挑戦して欲しいな。ハレッタお姉ちゃんも……本当にイヤだったわけじゃないと思うしね」
ザクトのその言葉に、ユーティカは少し考える顔をしたあと、ひとつ大きく頷く。
「そっか、ありがと! じゃ、また話しかけてみるね」
思いきり背伸びして、リセットしたように満面の笑みを見せた。
「明日の朝、エルフの人たちは北門だよね。アタシは正門だけど、お互いがんばろ!」
「うん、お姉さんも気をつけて」
足取りも軽く食堂を後にするユーティカ。
それを見送るザクトに、シャノンが近づき耳打ちする。
「ザクト様、簡単に人間を信用しないように願います。エルフの命運を握る王であること、お忘れなく」
「あー……うん、わかってる」
(見たまんま友好的な人間をひとりずつ増やしていくだけならいいんだけど。そんな単純じゃないんだよなぁ)
* *
「スパイスの効いた濃厚なバターの風味……長時間お肉を煮込んで出る旨味……甘くならず、均衡のとれた塩味……味が染みつつ形崩れしない、絶妙な火加減の具材。確かに、これはおいしいですわ!」
ホワイトシチューに素直な絶賛を送ってしまうハレッタ。
ザクトもそれに応えるように大きく頷く。
「ほんと、おいしいね! やっぱエルフの里とはまったく違う文化、感じるな」
「気に入っていただけて嬉しいです。って……私が作ったわけじゃないですけど」
ルーラは自分のお気に入りを褒められ、照れ隠しのように忙しなくスプーンを口に運ぶ。
食事の幸せというものは種族が違っても大きく違わないもので、それぞれ満足そうに舌鼓を打つ。
「ところで……人間って、そんなにたくさん食べるんですの?」
なんとなくみんなが見て見ぬ振りをしていたことを、ハレッタはズバッと口にした。
「す、すみません……私が特別みたいです」
積み重ねるのが恥ずかしいのか、ルーラの前にはすでに5枚の空の器がひしめいていた。
「えっと……ほかの人と比べて『おかしいかな?』とは思ってはいたんです。が、一般的な量を試してみたら、すぐ燃料切れになってしまって。お陰様で、お給料がだいぶ消えます……」
「あはは……切実な問題だね。まぁ別に太ってるわけじゃないし、いいんじゃないの?」
ザクトがそう言うと、ルーラの耳がカアッと赤くなっていく。
「ふ、太ってない……とは言いきれない……と言いますか……」
「え、大丈夫でしょ。エルフはみんな細いけど、ルーラくらいの体型なら健康的でむしろ可愛いと……」
「兄様? わたくしから始めた話題ですが……それ以上はやめた方がいいと思いますわ、ええ」
恥ずかしい上に『可愛い』とも言われ、どうしていいかわからず、ルーラは真っ赤になってプルプルしていた。
「あれ? ごめんごめん。でも、『可愛い』はほんとだよ? 取りつくろうために言ったわけじゃ……」
「ひぃ~ん! わ、わかりましたから~!」
天然セクハラなザクトの顔と、ルーラのおっぱいを、ハレッタは交互に睨んでいた。
そして、ゆっくりと自分の体に視線を落とす。
(兄様って……エルフの細い身体あまり好きじゃなさそうだし、ルーラのあの丸みがいいのかしら? エルフ男子のくせに……人間で言うところの『変態』? 変態は剣関係だけにして欲しいですね……)
「まぁ……兄様も、エルフにしてはほっぺが『むにっ』としてて可愛いんですけど」
「ん、ハレちゃん呼んだ?」
「呼んでません。独り言ですわ」
ずっと気を張っていたが、ようやく少しリラックスできたのか、ハレッタは大きく腕を上げ、伸びをした。
「ねぇ、ルーラ。ところで、お風呂は入れますよね?」
「あ、はい! このあと、案内しますね」
打ち解けてきたようで嬉しく思い、ルーラは残ったパンをルンルン笑顔で頬張った。
が、相変わらず笑顔はないハレッタ、ルーラの胸をジットリ睨むように見つめる。
「一緒に入りましょう。あなたの体、じっくり観察させてもらいます」
「え…………ほええ~~~っ!?」




