013話『人間ならではの良さ』
「宮廷巫女のルーラです。王様の許可をいただき、特別臨時兵士候補の方をお連れしました。これ、証書です」
入国管理官の男は書類と4人の顔を何度も確認し、訝しげな顔で口を開く。
「エルフの……傭兵だって? そんな例は前代未聞だ」
「こ、この方々が国を救ってくださると、神託で示されたんです」
「確かに、エルフが協力するなら大きな戦力だろうが……信用できるのか?」
ハッキリと疑念を示す。
それは、国を守る責任からの厳しい言葉だった。
「わたくし達エルフは、ルーラの受けた神託に従ったまでですわ。神を疑って、もし国が危機に陥ったら……あなたのせいで国が滅ぶかもしれませんよ?」
「なッ……」
ハレッタの挑発的な物言いに、場の空気がピリつく。
頭が真っ白になったルーラの代わりに、ザクトが遠慮がちな笑顔で前に出た。
「あの……このエルフ姉さんは少し圧強いけど、本当はいい人ですよ。エルフの中でも優秀な魔法使いだし、きっと人間のために動いてくれます」
「君は? えーと……」
「僕、ザ……ザックといいます。人間なんですが、エルフのお世話係やってて……」
「人間の子供が……エルフの世話係? 一体どういうことなんだね」
ザクトは少しうつむき、子供らしさを忘れないよう寂しげな頬笑みを浮かべ、それに答えた。
「僕、魔物に両親を殺されて……その時、エルフのお姉さん達に助けてもらったんです。それからエルフの里で引き取られて……今日まで生きてきました」
口から出任せでフォローするザクト。
嘘のつけないルーラは、ただただ黙ってグルグル目で堪える。
入国管理官が顔をしかめるのを見て、ハレッタたちも『無理があるのでは?』と思ったが――
「それは……大変だったな。我が国でも、孤児を手厚く保護する用意はある。もし希望があれば言いなさい」
涙を浮かべ、肩を震わせる。
すっかりザクトの言うことを信じているようだった。
「大丈夫です! エルフのみんなは良くしてくれます。でも、いつか人間の方へ帰りたくなったら、その時はよろしくお願いします!」
「うむ、強く生きるんだぞ、少年!」
(入国管理官がこんな簡単に騙されちゃマズいんじゃないかなぁ……。『防衛意識が低くなってる』って話だったけど、けっこう深刻なお花畑状態なのかも?)
* *
トントンと話は通り、ザクトたちは謁見の間に並んでいた。
さすがに、ものものしい兵士たちが並ぶ。
――ゴゥン
そのさらに奥の扉が開き、ケイト王が現れた。
ハレッタ達も人間の常識に合わせ、膝をついて頭を下げる。
「み、巫女のルーラです。私が単独で受けた神託の件で、救国の勇者をお連れしました」
「うむ、資料は見せてもらった。まさかエルフの者を連れてくるとは……」
50歳台くらいだろうか、ザクト達のイメージよりかなり若いケイト王は、あごひげを触りながら鋭い眼差しでエルフの女たちを見下ろす。
「ルーラよ、議会では賛否分かれたが、魔族の襲撃そのものは可能性を否定せず準備している。そして、ひとりでエルフに辿り着いた今回の結果を見るに、お前の巫女としての能力は無視できぬものとなった」
「は、はい、ありがとうございます!」
「しかし、エルフが人間を守る……か。にわかには信じがたい」
予想していた反応だったが、ルーラは王の威圧感に思わず息を呑む。
「わ、私も初めて彼女たちと話しましたが、エルフの中には友好的な関係を目指す方もいらっしゃいます」
「お前が騙されている可能性は当然ある。騙す者こそ、友好的と見せるものだ」
王は詰め続ける。
ルーラは泣きそうになりながらも深呼吸して口を開く。
「私が騙されているなら……国を救うどころか、危機を呼び込んでいるのかもしれません。でも、私は、この方々を信用できると感じました」
「この国すべての民を懸け、その言葉を発しておるのか?」
「は、はいっ! ケイト王国を救うのは……この方々です!」
ルーラなりに精いっぱい声を張る。
ジッと睨み続けていた王は短く息を吐き、少し楽な姿勢をとった。
「わかった、信じよう。本気で我が国を案じていなければ、その言葉は出るまい」
「あ……ありがとうございます!」
なんとか穏便に済みそうで、ザクトはホッとする。
が、王はあらためて厳しい眼差しをハレッタ達に向けた。
「エルフの能力が我々人間をはるかに凌駕することは理解している。が、それでも人間が種族として劣っているとは思わん」
王の言葉に、ハレッタが顔を上げた。
「ケイト王よ、あなたも『エルフは人間を見下している』とお思いですか?」
「そうではない。が、『人間ならではの良さがある』と意地を張るのは大切なことだと思っている」
「確かに……見下しているつもりはないですが『人間ならではの良さ』、わたくしはまだ知らないかもしれませんわ。この機会に、知ることができればよいですが」
まったく物怖じすることなく、ハレッタはケイト王の目を見る。
そのまっすぐさに、王は少しだけ口角を上げた。




