010話『ピンチなルーラ』
「お着替え、完了しました」
小屋のドアが開き、シャノンとザクトがあらためて登場する。
「ふむ……まぁいいでしょう。ほら兄様、背筋を伸ばして!」
「も~……ハレちゃん厳しいなぁ」
ザクトの衣装は袖の広い着物風、下はキュロットスカートのような短パン状のもの。
その上から、腰の刀を隠すように片側だけ長めのマントを羽織っていた。
ハレッタの予備の服を突貫で仕立て直したもので、彼の好きな和テイストも加味しながら王の高貴さも感じられる着こなし。
あらためて、エルフ3名を並べてみると、ハレッタは洋風、シャノンは和風、ザクトがその中間といった感じ。
良くも悪くもエルフの里の文化の異端さが感じられ、ルーラはその異国感に尊さを感じていた。
「ザクト様、とってもかっこいいです! やっぱり王様なんですね」
「はは……僕は引退したいんだけどね」
* *
「よし、結界有効範囲を出るよ。大丈夫? ハレちゃん」
「だ……大丈夫ですわ。もう病人ではないのですから、過保護しないでください!」
獣道を1時間ほど歩いた一行は、ようやく道と言えそうな地面がある場所へ辿り着く。
ザクト・シャノンだけならもっと早く進めただろうが、特にハレッタの体力は人並み以下だった。
「ハレッタ様、やはり私の背に。意地を張らずとも、十分がんばったでしょう」
抑揚のない声でシャノンが意見具申。
ハレッタは顔を真っ赤にしながらも、その提案を突っぱねる。
「意地なんて張ってません! ルーラが歩いているのに、わたくしだけ負ぶわれるなんて……そんなみっともない姿、見せられないでしょう?」
(それを『意地』と言うんだよ、ハレちゃん)
そんな中、ルーラは大きく深呼吸して、申し訳なさそうに口を開く。
「いえ……すみません、私の方が疲れちゃいました。ザクト様、少し休憩をいただけないでしょうか?」
「そうだね、ちょっと休もうか」
ちょうどいい切り株に安産型の尻を下ろし、ルーラはまた深呼吸。
それを見て、ハレッタはなんとか息を整え、まっすぐ背筋を伸ばす。
「ルーラがそう言うのなら、しょうがないですね! では、10分ほど休憩ということで……」
そんなふたりを、ザクトは微笑ましく見ていた。
(ルーラは気を遣って演技してくれたっぽいな。なんだか、オカンと思春期の娘を見てる気分)
「ハレッタ様、紅茶はいかがですか? あったかくはないですけど」
「紅茶? わたくしの好物だと、兄様に聞いたのですか?」
「え、お好きなんですか? それなら、ぜひぜひ! ケイトの名産品なんです」
ルーラはいそいそとカバンの中の水筒を取り出そうとする。
ハレッタは『そんなつもりで言ったわけではない』と言いかけ、嬉しそうなルーラに気が削がれてしまう。
(ルーラの微妙に空気読めない感じ……気にしぃなハレちゃんには、あえて、こういうタイプの友達がいいのかもな)
ザクトはクスッと笑いながら、ハレッタの方へ歩み寄る。
その瞬間。
ズドンと地が鳴り、地震でも起こったかと全員が身構えた。
「ひゃあああああッ!?」
悲鳴に振り向くと、彼女は赤い肌のオークに両手首を掴まれ、吊り上げられていた。
「赤い肌のオーク……こいつが!?」
「例の突然変異ですね。普通のオークより小柄ですが、知能や体術は上です」
シャノンはハレッタを庇うように構え、淡々と情報を伝える。
オークの中では確かに小さい個体だが、人間基準なら大男。
奴は木の上に潜み、隙を突いて飛び降りてきたのだった。
「ルーラを諦めてなかったってことか……」
ザクトが腰の刀に手をかけたその時、赤オークは掴んだルーラを前に出し、口を開いた。
「おまえら……エルフだな。なぜ人間と共にいる?」
「なぜって……別に理由なんて無くてもいいでしょ?」
ザクトはそう言いつつ、背後のシャノン&ハレッタに後ろ手で何かのジェスチャーを送る。
シャノンたちは目線を一切動かさず、ジリジリと後ろへ下がっていく。
「エルフのくせに……人間を助ける気か? それならそれで『盾として効く』ということか?」
「痛ッ! イ、イヤアッ!」
ルーラを盾に距離を測る赤オーク。
彼女の安全を優先し、ザクトはゆっくりと刀の柄から手を離した。
009話あとがきでも話題にしていた、
平行して書いているラブコメですが……
『バズり女王なのに俺の○○にだけフニャるひよの先輩』
というタイトルに変更しました(活動報告でも書きました)
(旧:スーパー美人インフルエンサーなのに、冴えない俺の声にだけフニャるひよの先輩)
こちらも何とか更新していこうと思っておりますので、
両タイトルとも、よろしくお願いします!




