第七章 眠っている名前 ⑫ 帰る者を選ばない
白い手が消えた翌日。
グラドは、新しい紙を持ってきた。
紙の上部。
太い線。
その下に。
帰還対象選定票
と書かれていた。
***
選択欄は。
三つ。
現在身体
白色成人身体様
判断保留
***
朔は。
どの欄にも触れなかった。
「これは」
グラドが言う。
「今すぐ選ばせるためのものではありません」
「では、何のためですか」
「次に白い手が現れた場合。あるいは、成人身体様の状態に変化が確認された場合に備えるためです」
「帰還対象を?」
「はい」
***
「二つの身体に」
グラドは続ける。
「同時に対応できるとは限りません」
「白い身体には、まだ触れてもいません」
マレア。
「だからです」
「何ができるか分からないうちに」
「選択条件だけでも決めておく」
「何を選ぶ条件ですか」
「どちらを本人の帰還先として優先するかです」
***
本人。
帰還先。
優先。
どれも。
意味のある言葉だった。
並べると。
まだ確認していない答えになる。
***
「現在身体を選んだ場合」
朔が尋ねる。
「白色成人身体様への不可逆な覚醒操作は行いません」
「不要と記録されますか」
「不要とは書きません」
「では」
「現在の朔さんの継続を優先する」
「成人の方は?」
「状態を観察します」
「助けない?」
「危険が確認されれば、別です」
***
「白色成人身体様を選んだ場合」
「接触または覚醒の機会が生じた時、成人側への移行を優先します」
「移行できると確認されていますか」
「いいえ」
「今の身体は?」
「維持できる限り維持します」
「できなくなれば?」
グラドは。
すぐに答えなかった。
「成人側へ本人が移行したと確認できるなら」
「確認方法は?」
「未定です」
***
「判断保留」
朔。
「一定期間ごとに意思を確認します」
「期間は?」
「管理局が設定します」
「解除条件」
「情報が増えること。危険が確認されること。朔さんの意思が変わること」
「管理局が、保留を続けられないと判断した場合は?」
「緊急対応へ移ります」
「誰が選ぶ?」
「その時の責任者です」
***
判断保留。
そう書けば。
朔の。
まだ決めない。
に近く見える。
だが。
紙の中では。
管理局が。
待つ期間と。
終わらせる条件を持っていた。
***
「俺の『まだ』とは違います」
朔が言った。
「判断していないという点は同じです」
グラド。
「違います」
「どこが」
「俺は。判断に必要な情報と時間を求めています」
「この欄も」
「いつまで待つかを、俺以外が決めます」
「緊急時には必要です」
「必要なのは、行動を決めることです」
「帰還先を決めなければ、行動できない場合があります」
***
「本当に?」
マレアが尋ねた。
「二つの身体の一方にしか処置できない場合」
「処置する身体を選ぶことと」
マレアは。
紙を指した。
「本人の帰還先を選ぶことは違います」
***
「結果として、一方を助けることになる」
「はい」
「なら」
「助けた身体が本人だったと、後から書き換えないでください」
「救命した側が」
「本体だったとは限りません」
「救命しなかった側は」
「偽物だったとも限りません」
***
グラドは黙る。
紙。
三つの欄。
どれも。
身体と本人を。
同じ線で繋いでいた。
***
「何も決めなければ」
グラドが言った。
「緊急時に。誰かが、その場で決めることになります」
「はい」
朔。
「準備のない判断は、より危険です」
「はい」
「では」
「準備する内容を変えてください」
***
イサラは。
紙を最後まで読んだ。
「選ばないことが」
彼女は言う。
「両方を失う結果になる場合があります」
「あります」
朔。
「一方へ動けば、もう一方へ動けない時も」
「あります」
「待っている間に、処置の機会がなくなることも」
「あります」
「それでも、選ばない?」
「帰還する本人を。今、二つに分けては選びません」
「身体への処置は」
「危険が確認できた方から」
***
「同時に危険なら」
「その時に確認できる危険。時間。戻せる処置か。使える手段で決めます」
「本人の希望は?」
「確認できれば使います」
「確認できなければ」
朔は止まる。
「俺が話せない時の条件を、今、作ります」
***
「結局」
グラドが言う。
「優先順位を作る」
「救命処置の」
マレア。
「帰還先の優先順位ではありません」
「結果は同じになる可能性がある」
「結果が同じでも、理由が違います」
***
人を助けた。
だから。
その人が本物だった。
そういう順番にはしない。
危険だった。
助けられる手段があった。
だから。
その身体へ処置した。
そこまでを。
その場の判断として残す。
***
セオが。
選定票を裏返した。
「管理局が決められるのは」
彼は言った。
「管理局が、何をするかです」
「はい」
マレア。
「朔さんが誰で。どこへ帰るかではありません」
***
「何もしないことも」
グラド。
「管理局の行動です」
「はい」
「なら、何もしない条件も必要です」
「必要です」
「接触しない。覚醒させない。現在身体だけを治療する」
「それぞれ、理由を残します」
「本人の選択とは」
「分けます」
***
ネラは。
三つの選択欄を見る。
「この紙は」
彼女が言う。
「後で、非常に短くなります」
「索引で?」
「はい」
現在身体。
選択。
あるいは。
成人身体。
選択。
判断保留。
期限切れ。
***
「本人が」
ネラは続ける。
「どちらかを捨てた紙に見えるでしょう」
「注記を付けます」
「注記より先に、選択欄が読まれます」
K.K.。
呼名未実施。
応答なし。
短い欄が。
長い経緯を。
別の意味へ変えた。
***
「使わない方がいいと思います」
ネラ。
「代わりは」
「身体ごとの状態と。管理側が行う処置を記録する」
「本人は」
「本人の意思を、別の紙で残す」
「一枚にまとめない?」
「まとめれば。処置と身份が繋がります」
***
身份。
誰であるか。
身体。
どこにあるか。
帰還。
どこへ向かうか。
処置。
何をするか。
同じ紙に。
置けば便利だった。
便利だから。
混ざる。
***
新しい見出し。
マレアが書く。
二身体様現象発生時の緊急対応条件
「二身体」
グラド。
「二つあると確定した?」
「二身体様」
「成人側は手しか」
「確認していません」
「なら」
セオが書き直す。
現在身体および白色成人身体様現象に関する緊急対応条件
「長い」
「はい」
***
最初の項目。
現在確認できる朔の身体に、生命または機能上の危険が確認された場合、通常の治療対象として処置する。
「通常?」
朔。
「現在の身体を」
マレア。
「特殊な仮身体として扱わないためです」
「はい」
***
次。
白色成人身体様形状について、危険を示す可能性のある変化を知覚した場合、知覚者ごとの報告を分け、実施可能な範囲で可逆的な確認を行う。
「危険を示す変化」
グラド。
「呼吸停止表示。色の変化。損傷。警告様文字」
「どれも、危険と確定していない」
「可能性です」
「確認手段」
「今は、観察。現在身体の確認。現象の持続時間。複数者の知覚」
「接触」
「別項目です」
***
白色成人身体様形状への接触、覚醒様操作、その他不可逆性を判断できない行為は、朔のその時点での明示的な同意なしに行わない。
「その時点」
イサラ。
「事前の同意は?」
「条件付きで作れます」
マレア。
「ですが、現象が変わっていれば」
「聞き直す?」
「可能なら」
「聞けなければ」
「事前に合意した緊急条件の範囲だけ」
***
「朔さんが話せない場合」
グラド。
「誰が代わりに決める?」
リオが。
壁際から答えた。
「俺にはさせんな」
***
全員が。
リオを見る。
「名前の紙を持っています」
グラド。
「はい」
「朔さんの希望を、最も多く聞いている」
「聞いとる」
「なら」
「俺が持っとるんは。あいつが言うたことや」
「代理判断では」
「ない」
***
「俺に」
リオは言う。
「どっちの身体へ帰すか決めさせたら。後でサクが戻ってきても。俺の答えになる」
「緊急時です」
「分かっとる」
「何もしなければ」
「危険を見て。今できることは決める」
「同じでは?」
「帰る奴は決めん」
***
「私は」
ユイが言った。
「決める人にしないで」
窓辺。
小さな声。
だが。
全員に聞こえた。
「ユイさんには求めていません」
グラド。
「後で求めるかもしれない」
「なぜ」
「Y.I.を見たから。白い手も見たから。サクと話してるから」
誰も。
すぐには否定できない。
***
「私が」
ユイは続ける。
「サクはこっちがいいって言ったら。サクがそう言ったことになる?」
「なりません」
セオ。
「じゃあ、書いて」
***
追記。
リオ、ユイその他の関係者を、朔本人に代わって帰還身体または本人同一性を選択する者に指定しない。
関係者は、朔が過去に述べた意思、身体状態、直前の行動その他の事実を報告できる。報告は代理同意としない。
***
「過去の意思は」
グラド。
「使えない?」
「使います」
朔。
「では」
「俺が、いつ、何を言ったかとして」
「判断材料」
「はい」
「拘束は」
「させません」
***
「昨日の朔さんと」
エリオが言う。
「今日の朔さんが違う場合」
「新しい意思を優先します」
マレア。
「昨日の記録は」
「消しません」
「矛盾していれば」
「両方残す」
「どちらが本当?」
ユイ。
「その時には、どちらも本人が言ったことです」
***
未来の朔は。
過去の朔の敵ではない。
だが。
過去の朔が。
未来の朔を。
永久に拘束する者にもならない。
***
更新の欄。
定期。
ではなく。
再確認時点
とする。
「期間を決めない?」
グラド。
「確認の間隔は必要です」
セオ。
「管理上の確認日として決めます」
「保留期限には」
「しません」
「いつまでも決めない可能性」
「あります」
「危険なら」
「危険に対する対応を更新します」
「帰還先は」
「別です」
***
グラドは。
紙の余白へ。
小さく線を引いた。
「現場では」
彼が言う。
「これほど長い紙を読む時間はありません」
「はい」
マレア。
「短い手順が必要です」
「作ります」
***
緊急時手順。
一。
現在確認できる身体の呼吸、脈、出血、意識、運動を確認する。
二。
白色成人身体様現象がある場合、誰に何が見えるかを短く分ける。
三。
直ちに戻せる処置を優先する。
四。
本人が話せる場合、行為ごとに同意を確認する。
五。
本人が話せない場合、直前の明示的意思および身体危険に基づき、生命維持上必要な範囲を行う。
六。
処置を、帰還先または本人同一性の選択として記録しない。
***
「直ちに戻せる処置」
イサラ。
「何を含む?」
「気道確保。圧迫止血。身体を危険位置から動かす。冷えへの対応」
マレア。
「白い手への接触は?」
「戻せるか未確認です」
「では含まない」
「はい」
「白い表示へ返答すること」
「影響が不明です」
「含まない」
***
「両方の身体が」
イサラは言う。
「同時に危険だと見えた場合」
部屋が静かになる。
「現在身体は」
マレア。
「直接確認できます」
「成人側は」
「知覚と表示しかない可能性があります」
「それでも、成人側の危険がより切迫して見えれば」
「使える手段があるかを確認します」
「一つの行為しかできない時」
朔が答えた。
「危険が確認できた身体から。助けてください」
***
「どちらでも?」
グラド。
「はい」
「成人側を先に助けることも」
「確認できた危険と。使える手段があれば」
「現在身体より?」
「今の身体の危険が低く。成人側の危険が高いと確認できるなら」
「それを」
「俺が帰る身体を選んだことにはしないでください」
***
リオが。
短く言った。
「助ける順番と。帰る場所の順番を一緒にすんな」
***
グラドは。
その言葉を聞く。
「しかし」
「助けた身体へ帰るとは限らん」
「助けなかった身体へも」
「帰れんようになるかもしれん」
「なら」
「その場で助けられる命を見ろ」
***
朔は。
ミナトを思い出す。
数字ではなく。
今。
誰が。
どこで。
どれほど危ないか。
全員を救えると言わない。
救えなかった者を。
不要だった者にしない。
***
「二つとも助けられなければ」
グラドが尋ねた。
朔は。
すぐに答えられなかった。
「その時に」
イサラ。
「確認できる事実で決めるしかない」
「はい」
朔。
「後から、選ばなかった方を」
「偽物だったことにはしない」
「助けた方を」
「本物だったことにも」
***
「結果として」
イサラは。
朔を見る。
「一方しか残らない可能性があります」
「あります」
「その時にも」
「残ったから本人だ、とだけは決めません」
「では、本人は」
「残った者へ聞きます」
***
「答えられなければ」
ネラが言った。
「答えられないことを残します」
朔。
「名前が違えば」
「違う名前を言ったことを残します」
「記憶がなければ」
「ないことを残します」
「以前の朔ではない?」
「それを、先に決めません」
***
グラドは。
帰還対象選定票を見る。
三つの欄。
鉛筆。
消しゴム。
「この紙を」
彼は言った。
「破棄しますか」
「原案として残してください」
朔。
「なぜ」
「こういう選び方が作られたことを、消したくありません」
***
「使用しない、と?」
「はい」
「後で必要になる可能性」
「あります」
「なら」
「必要になった時。なぜ一度使わなかったかも読めるようにしてください」
***
原案。
上部。
赤い線。
不使用
理由。
身体への緊急処置と、本人の帰還先・同一性の選択を同一書式で扱うため。
判断保留欄が、本人の意思による時間要求と、管理側の期限付き状態を混同するため。
***
グラドは。
自分の名前を書く。
原案作成者。
使用停止に同意。
「私は」
彼が言った。
「必要だと思って作りました」
「はい」
「今も、選択が必要となる場面はあると思っています」
「はい」
「ですが」
彼は。
新しい緊急対応条件を見る。
「選ぶ対象を。間違えていた可能性があります」
***
「管理局が選ぶのは」
セオ。
「行為です」
「何もしないことも」
「含みます」
「本人は」
「本人が、話せる範囲で決めます」
「話せなければ」
「本人の過去の言葉を材料に。今の危険へ対応します」
「誰であるかは」
「処置の後に。戻った者へ問います」
***
市場へ戻る途中。
ミウが。
二つの箱を荷車へ積んでいた。
一つ。
紙。
一つ。
染料。
「どっち先に運ぶ?」
ロウが尋ねる。
「雨が来そうなら紙」
ミウ。
「染料は?」
「蓋がある」
「紙の方が大事?」
「濡れやすい」
「高いのは」
「染料」
「じゃあ」
「値段と。今濡れるかは別」
***
朔は。
足を止める。
ミウは。
紙箱を先に倉へ運ぶ。
染料を。
捨てたわけではない。
価値が低いと。
決めたわけでも。
今。
雨に弱い方を。
先に動かした。
***
「助ける順番」
ユイが言った。
「帰る順番じゃない」
「はい」
朔。
「紙が先に倉へ帰った」
「運んだ順番は」
「でも、染料も帰る」
「はい」
「染料が途中で壊れたら?」
朔は。
答える前に。
雨の匂いを吸う。
「紙を先に運んだことが。染料は壊れてよかった、という意味にはなりません」
***
「二つの身体も?」
「似ているところはあります」
「違うところは?」
「箱ではありません」
「うん」
「どちらにも。俺が関係している可能性があります」
「二人?」
「分かりません」
「一人?」
「分かりません」
「でも、二つ助ける?」
「助ける対象は。二つになり得ます」
***
ユイは。
少し考える。
「帰る人は?」
「外から、二つに分けて選びません」
「一つだったら?」
「一つだと。本人が言えるかもしれません」
「二つだったら?」
「二人とも、話せるかもしれません」
「何も話せなかったら?」
「話せない者として。先に守ります」
***
夜。
朔は。
自分の紙を書く。
見出し。
話せない時のための、現在の希望
***
現在の身体に危険がある場合、通常の身体として治療してほしい。
白色成人身体様形状に危険が確認され、実施可能な処置がある場合、成人側を不要と判断せず、危険への対応を検討してほしい。
***
どちらを先に処置したかを、俺が帰る身体の選択として扱わないでほしい。
話せないことを、成人身体への同意、現在身体の放棄、またはその逆に変えないでほしい。
***
リオ、ユイ、その他の者に、俺の代わりに本人を選ばせないでほしい。
彼らが知っている俺の言葉は、いつ、何を言ったかとして聞いてほしい。
***
次。
この紙は、今の俺の希望である。
今後、俺が話せる場合は、その時の俺へ改めて聞いてほしい。
***
最後。
危険が確認できた身体から助けてほしい。
ただし、それを、俺が帰る身体を選んだことにはしないでほしい。
***
リオが読む。
「俺に選ばせへん」
「はい」
「腹立つな」
朔が顔を上げる。
「選びたいですか」
「選びたない」
「では」
「でも。お前が喋れん時に。紙だけ読んで。何もせん奴がおったら腹立つ」
「はい」
「俺は何する」
「今の身体を見てください」
「白い手は」
「見えなければ。見えないと言ってください」
「紙」
「俺が書いた時と。今が同じとは決めないでください」
「ほな、使いにくいな」
「はい」
***
「でも」
リオは。
胸元を押さえる。
「使いにくいまま持っとく」
「お願いします」
「お前の代わりには決めん」
「はい」
「お前が言うたことは」
「言ったこととして」
「持っとく」
***
朔は。
帰る場所の紙。
起こすことの紙。
接触の紙。
話せない時の紙。
四枚を。
一つに綴じなかった。
***
帰る場所。
覚醒。
接触。
緊急処置。
関係している。
だが。
同じ問いではない。
***
短い索引だけ。
作る。
朔・現在意思記録群
日付。
題。
保管者。
原本の所在。
内容は。
それぞれの紙を読む。
***
「一つの意思?」
グラドが尋ねる。
「記録群です」
ネラ。
「矛盾していても」
「はい」
「最新だけを使う?」
「最新を確認します」
「過去は」
「消しません」
***
翌朝。
緊急手順の確認を。
実際に行った。
白い手は。
出ない。
新しい現象も。
起こさない。
***
朔が。
治療室の寝台へ横になる。
意識がない役。
それを。
死亡。
とは呼ばない。
眠っているとも。
決めない。
応答できない状態。
***
マレア。
呼吸。
脈。
出血。
身体位置。
確認。
トエ。
時間。
ノエ。
現象知覚の有無。
リオ。
直前の言葉を報告。
***
「呼び名」
マレア。
「先に使いますか」
朔は。
役を止めて答える。
「危険な時は。身体へ声をかけるために使ってください」
「サク?」
「今の希望では」
「名前で起こしたことを、帰還証明には」
「しないでください」
***
もう一度。
朔。
応答しない。
「サクさん」
マレアが呼ぶ。
肩へ。
触れる前に。
「触れます」
声。
肩へ触れる。
反応。
なし。
「呼吸あり。脈あり。出血なし」
***
「白い手」
ノエ。
「確認できません」
「表示」
「ありません」
「成人身体」
「確認できません」
「では」
「現在身体の状態に対応します」
***
リオ。
「昨日、危険が確認できた身体から助けてほしいと言った」
「代理同意では」
「ない」
「報告」
「や」
***
練習を止める。
朔は起き上がる。
「今の俺は」
自分で言う。
「サクです」
「戻った?」
グラドが尋ねる。
「役を終えました」
「本人確認」
「練習前と同じ人だと、自分では感じます」
「証明」
「していません」
***
誰も笑わない。
練習でも。
言葉を。
実際より強くしない。
***
「これで」
グラドが言う。
「緊急時に動ける」
「少しは」
マレア。
「足りない?」
「実際の危険は、練習と違います」
「それでも」
「選ぶ対象を。帰還者から処置へ変えられました」
***
帰還対象選定票。
不使用。
緊急対応条件。
使用。
朔の意思記録。
別紙。
関係者の報告。
代理同意ではない。
***
紙が増えた。
便利には。
なっていない。
だが。
一つの欄で。
本人を分けることは。
止めた。
***
どちらの身体を。
助けるか。
その問いは。
消えない。
同時に危険なら。
選ばなければならないことも。
あるかもしれない。
***
しかし。
選ぶのは。
その時に行える処置だった。
誰が本物かではない。
***
現在の身体へ。
治療をしたから。
成人身体は偽物。
とはしない。
***
成人の手へ。
何かを行ったから。
現在の身体は仮の殻。
とも。
しない。
***
助けられなかった身体が。
不要だったことにも。
ならない。
残った身体が。
初めから唯一だったことにも。
ならない。
***
朔は。
二つの身体のどちらも。
帰還対象として選ばなかった。
***
だが。
どちらも。
助けなくてよいとは。
言わなかった。
***
助ける対象は。
二つになり得る。
帰る者を。
外から二つに分けて。
選ばない。
***
帰る者を選ばないとは。
何もしないことではなかった。
決めるべき時に。
目を閉じることでも。
***
危険を見た。
身体へ手を伸ばす。
その行為を。
本人の正体へ。
変えないことだった。
***
どちらの身体を助けたかで。
誰が本人だったかを。
後から決めない。
***
帰る者を選ばないとは。
誰も帰さないことではなかった。
***
帰ってきた者より先に。
その者が誰かを。
決めないことだった。




