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第六章 名を預ける道 ⑪ 名前を持つ手


 五つの灯りが消えた翌日、通路へ入る計画は作られなかった。


 最初に見直されたのは、灯りだった。


「置き方が悪かった可能性があります」


 ノエ・ハーラが言った。


「陶器の器は、すべて持ち帰っています。油も残っていました」


「風で消えた?」


 グラドが尋ねる。


「可能性はあります」


「四つが、奥から順に?」


「そう見えました」


「なら、流れが奥から入口へ移った?」


「通路内で感じた風の方向は一致していません」


 朔。


 右から。


 サナ。


 左側。


 ノエ。


 奥へ引かれるように。


 マレア。


 明確な風を感じず。


「では、灯りが消えた順番も確定できない?」


「通過した順では、分岐、板跡、曲がり角、手と火の印でした」


 セオが答える。


「ですが、それぞれが消えた正確な時刻は確認していません」


「見つけた順?」


「はい」


 消えた順とは書かない。


***


「次も灯りを置きますか」


 グラドが尋ねた。


「置きません」


 ノエが答える。


「危険だから?」


「帰路を示す物としては使いません」


「火そのものが危険?」


「分かりません」


「なら」


「消えた灯りを探し、点け直し、回収する行動が帰還を遅らせます」


 携帯する火は一つ。


 ノエが持つ。


 予備はマレアの袋に入れる。


 通路へ置かない。


 道の印は、既存の形を使う。


 二本の車輪溝。


 手と火。


 低い天井。


 黒い木片。


 最初の曲がり角。


 黒い記録板があった床。


 分岐。


「道そのものを覚える?」


 グラドが問う。


「覚えたつもりにならないため、順番を出発前に確認します」


 セオが答えた。


「通路が変わった場合は?」


「変わったと感じた者が言います」


「その人の感覚で進路を変える?」


「複数の形を確認します」


「時間がかかります」


「はい」


 速く戻るために、違う道へ入らない。


***


 次の目的は、右側の低い通路だった。


 分岐から続く二本の車輪溝。


 前回、奥に金属らしい反射が一つ見えた。


 ただし、金属を確認することは目的にしない。


 見出しは、


 旧搬入口分岐右側通路の、次の石枠までの床面および帰還可能経路の確認。


 となった。


「次の石枠は見えているんですか」


 グラドが尋ねた。


「分岐から、上部の横石だけ見えています」


 朔が答える。


「距離は?」


「十歩以上。正確には分かりません」


「石枠の先は?」


「見ません」


「枠まで行けば、見えるのでは?」


「枠の手前で止まります」


「何かが枠の向こうにいたら?」


「接触目的ではありません」


「話しかけられた場合」


「答えません」


「サクと呼ばれても?」


 朔は少し間を置いた。


「答えません」


***


 参加者は四人。


 黒川朔。


 ノエ・ハーラ。


 マレア・ソン。


 セオ・ラグナ。


 サナは右腕の治療を続ける。


 ジェンは、今回の目的に必要ではない。


 布。


 剣。


 板。


 六年前の道具。


 それらを確認する調査ではなかった。


 イサラは帰還時刻を持つ。


 エリオは倉外の道を空ける。


 ミエルとファナは、仮板を管理する。


 アナ。


 トエ。


 ネラ。


 リオ。


 帰還する場所に残る。


***


「黒い人影が現れた場合、すぐ戻りますか」


 イサラが尋ねた。


「はい」


 マレアが答える。


「人影が、石枠の先にいても?」


「確認した時点で戻ります」


「言葉を発したら?」


「聞こえたことは残します」


「返答は?」


「しません」


「人影が近づいてきたら」


「停止位置を保ちません。帰路へ向きます」


「誰かへ手を伸ばした場合」


「触れません」


 手。


 その言葉で、朔は服の内側を意識した。


 青い布。


 ミナトの短刀は、今日もリオが持っている。


 名前を書いた紙も。


 道へ持って入る物は、自分の身体と青い布だけだった。


***


「紙を持って入らないことは、条件にしますか」


 グラドが尋ねた。


「俺の紙ですか」


 朔が聞き返す。


「はい。白い表示と名前の関係を調べるなら」


「今回、調べません」


「紙が外にある状態で、何が起きるかは」


「既に何度も外にあります」


「待つ者との関係を」


 リオが机の端から言った。


「俺らを実験にすんな」


「そういう意味では」


「お前は、紙を俺が持っとる状態を条件に入れようとした」


「はい」


「なら、俺が紙を持つ行為も調査対象になる」


「関係がある可能性を」


「俺は、関係があるか確かめるために持っとるんやない」


 グラドは言葉を止めた。


「では、記録には」


「いつも通りや」


 リオは答えた。


「サクが渡した紙を、俺が持っとる。それだけ書け」


***


 朔の出発時記録。


 今日使用する呼び名。


 黒川朔。ツヅリ村ではサク。


 目的。


 分岐右側の車輪溝を辿り、次の石枠の手前まで、床と帰路を確認する。石枠の先へ入らない。


 怖いこと。


 道の奥に人影が現れた時、今日の目的を接触へ変えること。白い表示を答えとして扱うこと。リオの名前が出た場合、本人の意思より先に役目を決めること。


「最後は、もう予想しているんですか」


 グラドが尋ねた。


「何を?」


「リオという名前が表示される可能性を」


「していません」


「では、なぜ書いた?」


 朔は紙を見る。


 白い場所。


 K.K.


 Y.I.


 PATH。


 NAME。


 HOLDER。


 これまで見えた文字。


「知っている人の名前が出たら、意味を作りたくなると思ったからです」


「誰でも?」


「はい」


 特に。


 名前の紙を持って待つ者なら。


***


「俺の名前が出ると思っとるんか」


 リオが尋ねた。


「分かりません」


「出たら」


「見えたことを言います」


「俺が何かの役にされたら」


「本人へ聞きます」


「向こうへか」


「リオさんへです」


 リオは胸元を押さえる。


「先に戻ってこい」


「はい」


「向こうが俺を何て呼んでも、俺はここにおる」


***


 出発前。


 リオは名前の紙を開いた。


 前回までは、出発の朝にも開かない日があった。


 今日は、机の上へ置く。


 黒川朔。


 ツヅリ村ではサク。


 文字に変化はない。


 新しい線も。


 黒い汚れも。


 白い光も。


 ただの紙だった。


「見ますか」


 リオが尋ねた。


 朔は紙を見る。


「はい」


「持つか」


「いいえ」


「何で」


「リオさんに渡したままにします」


「表示のためやないな」


「違います」


「帰った時に、話すためか」


「はい」


 リオは紙を折る。


 元の折り目。


 胸元へ入れる。


「俺は紙を持つ」


「はい」


「お前の名前を持つんやない」


「はい」


「お前は」


 リオが朔の右手を見る。


「何を持って行く」


 朔は手を開く。


「何も」


「布は」


「服の内側にあります」


「それを見せに行くんか」


「違います」


「なら、手は空けとけ」


***


 仮板が開かれる。


 三枚。


 二つの錠。


 確認孔。


 湿った石の空気。


 入口の黒い木片。


 声なし。


 人影なし。


 白い文字。


 朔には見えない。


 四人が入る。


***


 マレア。


 朔。


 ノエ。


 セオ。


 入口を越えた後、朔が前へ出る。


 携帯する火は、ノエの手元。


 光は足元と、前の者の背中だけを照らす。


 通路へ置く灯りはない。


「帰路の印」


 セオが言う。


「黒い木片」


 朔。


「次」


「手と火」


 ノエ。


「次」


「低い天井」


 マレア。


 順番を声にする。


 人の名前ではない。


***


 手と火の印。


 前回置いた灯りの跡はない。


 油。


 煤。


 黒い変色。


 確認できない。


「灯りが消えたことによる跡」


「ありません」


 ノエが言う。


「器は回収しています」


「はい」


「なら、ないのが当然では?」


「煤が残る可能性はありました」


「確認できない」


「はい」


 消えた火も。


 痕跡を残すとは限らない。


***


 低い天井。


 右壁の擦れ。


 半分埋まった鉄輪。


 最初の曲がり角。


 黒い金属の窪み。


 長い剣状物。


 四角い測定具らしき枠。


 大きな位置変化は、見える範囲ではない。


 声なし。


 金属音なし。


 誰も止まらない。


***


 黒い記録板があった位置。


 湿りは薄くなっている。


 黒い紐は残る。


「位置」


「石の突起へ掛かったままに見えます」


 朔が答える。


「前回と同じ?」


「図と近いです」


 同じとは言わない。


***


 分岐。


 左側。


 白灰色の布。


 青い縁。


 赤茶色の糸。


 前回と同じ金具へ掛かっているように見える。


「サナさんが確認した位置から、大きな変化なし」


 セオ。


「布の動き」


「空気で少し揺れています」


 ノエ。


「右へ」


 朔が言う。


 今日の道。


***


 右側の通路は、左より低かった。


 車輪溝に、水が溜まっている。


 天井からではない。


 右壁の下部から、細く流れ出ている。


「水の深さ」


 マレアが先に足を置く。


「靴底の半分より浅い」


「色」


「透明に近い」


「匂い」


「石」


 朔には、少し金属に近く感じた。


 ノエには、油。


 セオは、明確には感じない。


 同じ水でも。


 同じ匂いにはしない。


***


 車輪溝は、水の中でも続いている。


 二本。


 右側の溝だけが深い。


 壁には、低い位置へ金属の輪が三つ。


「荷を固定するため?」


 セオが尋ねる。


「可能性はあります」


 マレア。


「六年前の道具を置く場所?」


「ジェンさんの証言は、この位置までありません」


 朔。


 今見える物を、過去の用途へ入れない。


***


 分岐から四歩。


 床に、黒い小さな金属片。


 刃ではない。


 輪でも。


 薄い板。


 片側に穴。


「触れずに通れますか」


「左へ寄れば」


 マレアが答える。


 四人が順に通る。


 金属片は動かない。


***


 七歩。


 天井が少し高くなる。


 横石。


 左右の柱。


 次の石枠。


 朔が分岐から見たものだった。


 その手前、床に細い線がある。


 黒ではない。


 白い石粉のような線。


「停止」


 マレアが言う。


 予定した位置。


 石枠の手前。


 白い木片を床へ置く。


 これより先へ入らない。


***


 石枠の表面には、文字がなかった。


 手と火の印も。


 左柱に、浅い縦溝。


 右柱に、手の形に近い窪み。


「手形ですか」


 ノエが尋ねる。


「指に見える線が五つあります」


 朔が答える。


「人の手より大きい」


 マレア。


「欠損で、そう見える可能性」


 セオ。


 窪みは、掌を当てる位置にある。


 だが、誰も手を近づけない。


***


「石枠の先」


 ノエが言う。


 暗い。


 通路は続いている。


 二本の車輪溝は、枠の先で見えなくなる。


 黒い線があるわけではない。


 床そのものが、光を返さない。


「光を向けますか」


 セオが尋ねる。


「入口の床を確認する範囲で」


 朔。


 ノエが携帯火を少し上げる。


 光が石枠を越える。


 床へ届く。


 だが、奥は暗いまま。


***


「目的は?」


 マレアが確認する。


 分岐右側通路。


 次の石枠まで。


 床。


 帰路。


 確認した。


「終わっています」


 朔が答える。


「周囲の知覚だけ確認して戻ります」


***


 朔は、石枠の先を見た。


 リオなら、何と言うか。


 見えたものだけ言え。


 分からないなら、分からないまま戻れ。


 紙を持っていることと、名前を持っていることを一緒にするな。


 その声は、通路から聞こえたものではない。


 朔が覚えているリオの言葉だった。


***


 白い線が、視界の中央へ現れた。


 石枠の上ではない。


 空中でも。


 暗い通路の奥へ重なる。


 文字。


 白い部屋で見たものと同じように。


 細く。


 冷たい。


 意味だけが先に届く形。


 NAME HOLDER : RIO


 その下。


 STATUS : WAITING


***


 朔の呼吸が止まった。


「サクさん」


 ノエが呼ぶ。


「古い搬入口。右側通路。石枠の手前です」


 朔は目を閉じない。


「白い表示」


「内容」


「NAME HOLDER。RIO」


「ほかには」


「STATUS。WAITING」


「私は見えません」


 ノエ。


「私も」


 マレア。


「確認できません」


 セオ。


 朔一人。


***


「身体」


 マレアが尋ねる。


「呼吸が止まりました」


「今は」


「できます」


「痛み」


「なし」


「文字は」


「まだ見えます」


「動き」


「ありません」


「リオさんの姿は?」


「見えません」


「紙は?」


「外にあります」


「表示が、紙を示していると?」


 朔は答えそうになった。


「分かりません」


***


 NAME HOLDER。


 名を持つ者。


 同じ言葉ではない。


 英字の意味を、朔の記憶がそう読んでいるだけかもしれない。


 HOLDER。


 持つ者。


 保持する者。


 容器。


 場所。


 別の意味かもしれない。


 RIO。


 リオ。


 ほかの名か。


 朔の記憶が、知っている名前へ変えているのか。


 STATUS。


 状態。


 役目。


 今。


 WAITING。


 待っている。


 待機。


 停止。


 何を待つかは、表示されていない。


***


「戻ります」


 マレアが言った。


 目的は終わっている。


 予定していない表示。


 朔の身体変化。


 戻る理由は揃っていた。


 セオが記録板を閉じる。


 ノエが火を持ち直す。


 朔が白い木片へ手を伸ばす。


 その前。


 石枠の先で、暗闇が人の形になった。


***


 黒い人影。


 床の暗さから立ち上がったのか。


 奥から歩いてきたのか。


 分からない。


 白い表示の向こう。


 石枠の先。


 黒い線は見えない。


 それでも、人影は停止位置へ近づかない。


 枠の向こうに立つ。


「人影」


 朔が言う。


「確認」


 ノエ。


「確認」


 マレア。


 セオも、黒い人の形を見ている。


「戻る」


 マレアが言った。


***


 人影が、朔の方を向く。


 顔は見えない。


 目も。


 口も。


 それでも、見られていると感じた。


「サク」


 声。


 四人とも聞いた。


「応答しません」


 朔は同行者へ言った。


 人影へではない。


***


 白い表示が揺れる。


 RIOの文字が、一度だけ薄くなる。


 消えない。


 STATUS : WAITING。


 そのまま。


 人影の右腕が上がる。


 黒い手。


 掌が上を向いているように見える。


 指は、完全には開いていない。


「手を確認」


 朔。


「右腕」


 ノエ。


「掌の向きは判断できません」


 マレア。


「五本の指状部」


 セオ。


 同じ手を。


 同じ形には見ていない。


***


 人影が言った。


「持っている」


 短い。


 問いなのか。


 断定なのか。


 命令なのか。


 語尾は変わらない。


「聞こえましたか」


 朔が尋ねる。


「持っている」


 ノエ。


「持って、いる」


 マレア。


「『持っている』に近い音声」


 セオ。


 四人に、近い言葉として届いた。


 何を。


 誰が。


 誰へ。


 言わない。


***


 朔の右手が、服の胸元へ上がりかけた。


 青い布。


 自分の名前の紙ではない。


 ミナトの短刀でも。


 それでも、身体は持っている物を探した。


「サクさん」


 ノエが言う。


「右手」


 朔は止める。


「胸元へ向かいました」


「何を出そうとしましたか」


 マレア。


「分かりません」


「布を?」


「可能性があります」


「紙は?」


「外です」


「名前を?」


 朔は答えられなかった。


***


 白い表示。


 NAME HOLDER : RIO。


 人影の手。


 持っている。


 繋げれば。


 リオが、名前を持って待っている。


 その名前を、人影が求めている。


 あるいは。


 朔が、何かを持っている。


 青い布。


 記憶。


 名前。


 人影が、何かを持っている。


 誰かの名。


 帰らなかった者。


 ヴァルハ。


 どれも、今の事実ではない。


***


「手を下ろします」


 朔が言った。


 自分の右手を、身体の横へ戻す。


「何も渡しません」


 その言葉は、同行者へ向けた確認だった。


 人影が聞いたかは分からない。


 掌のような黒い形は、そのまま。


***


「帰路へ」


 マレア。


 朔は白い木片を拾う。


 境界を残さない。


 四人が身体を石枠から離す。


 後ろ向きには歩かない。


 人影を見続けるために、帰路を遅らせない。


 向きを変える。


***


 その時。


 人影の声が、もう一度聞こえた。


 朔には、


「持っている」


 ノエには、


「持つ者」


 マレアには、


「待っている」


 セオには、


「持って、いる」


 同じ声か。


 最初と同じ言葉か。


 分からない。


「音声を確認」


 セオが言う。


「内容は帰還後」


 ノエ。


「戻る」


 マレア。


***


 白い表示は、朔の視界に残った。


 石枠から一歩。


 NAME HOLDER : RIO。


 二歩。


 STATUS : WAITING。


 三歩。


 文字が、暗い空間へ置き去りにならない。


 朔の視界についてくる。


「表示は?」


 ノエが尋ねる。


「まだあります」


「位置」


「視界の中央」


「石枠ではなく?」


「はい」


「閉じても?」


 朔は一度、目を閉じる。


 白い文字。


 暗いまぶたの裏にもある。


 開く。


 同じ。


「身体内の知覚である可能性」


 マレア。


「あります」


 外の表示であるとは決めない。


***


 分岐へ戻る。


 左側の布。


 見ない。


 右側から出る。


 白い文字は薄くなる。


 WAITINGの最後の文字が欠ける。


「変化」


「薄くなっています」


「ほかの人は?」


 誰も見えない。


***


 黒い記録板があった位置。


 RIOだけが残る。


 その下の行は消えている。


「表示」


「RIOのみ」


 朔が答える。


「NAME HOLDERは?」


「消えました」


「リオさんの名前だけ?」


「そう見えます」


 朔は歩みを止めない。


 名前を消さないために、表示を見続けない。


***


 黒い金属の窪み。


 長い剣状物。


 金属音なし。


 人影なし。


 表示のRIOが、一度だけ揺れる。


 朔には、RがKに近く見えた。


 次の瞬間には、何もない。


「表示、消失」


 朔が言った。


「位置」


「最初の曲がり角手前」


 セオは記録板を開かない。


 帰還後に書く。


***


 手と火の印。


 低い天井。


 黒い木片。


 入口。


 ノエの火は消えない。


 外の光が見える。


 エリオの声はない。


 今日は、予定時刻内。


 帰還側が声を出す条件には達していない。


***


 仮板の外。


 マレア。


 朔。


 ノエ。


 セオ。


 四人。


「人数」


 ミエル。


 四人。


「持ち込んだ物」


 携帯火。


 予備火。


 治療袋。


 封をした木箱。


 記録板。


 炭筆。


 青い布。


 すべてある。


「向こうから持ち出した物」


「ありません」


 朔。


「向こうへ残した物」


「ありません」


 ノエ。


***


「人影」


 イサラが尋ねる。


「確認しました」


「場所」


「右側通路、次の石枠の先」


「黒い線」


「確認できません」


「接近」


「石枠の先に留まりました」


「発言」


 朔は答える。


「サク。持っている」


「全員、同じ?」


「帰還後に分けます」


「接触」


「なし」


「物品提示」


「なし」


「応答」


「同行者間の確認のみ。人影へ返答したとは判断していません」


***


 仮板が閉じられる。


 三枚。


 二つの錠。


 確認孔。


 人影は、倉の外からは見えなかった。


 声も届いていない。


***


 身体確認。


 トエが四人を見る。


 朔。


 呼吸が速い。


 右手に軽い震え。


 胸元へ触れた跡。


 青い布の結び目は、出発前と同じ位置。


「布を出しましたか」


「いいえ」


「手で触れましたか」


「服の上から、触れる前に止めました」


「白い表示は」


「今はありません」


「頭痛」


「少し」


「文字を思い出せますか」


「はい」


「同じ形で?」


「そう思います」


「紙へ書きますか」


「身体確認が終わってから」


 表示より。


 今いる身体を先に見る。


***


 アナがノエへ尋ねる。


「誰を見ていましたか」


「サクさん」


「いつ?」


「表示を話した時。人影が手を上げた時。サクさんの右手が胸へ動いた時」


「火は?」


「持っていました」


「人影の言葉」


「最初は『持っている』。帰路では『持つ者』に聞こえました」


「同じ声?」


「近いです」


「今、名前を聞いていい?」


「はい」


「何と呼ばれたい?」


「ノエ・ハーラです」


***


 トエはマレアへ尋ねる。


「誰を処置しましたか」


「通路内では誰も」


「朔さんの呼吸が止まった時」


「言葉で確認しました」


「身体を支えた?」


「いいえ」


「人影が出た後、観察を続けた?」


「帰路へ向きました」


「声は」


「一度目は『持って、いる』。二度目は『待っている』に聞こえました」


「どちらが正しい?」


「決めません」


「名前は?」


「マレア・ソンです」


***


 ネラはセオの記録板を見る。


「帰路で開きましたか」


「いいえ」


「人影の発言」


「一度目は『持っている』に近い。二度目も同じに聞こえました」


「手」


「右腕を上げ、五本の指状部を確認。掌の向きは、朔さんとノエさんの知覚に依存します」


「白い表示」


「私は確認していません」


「サクさんの報告時刻」


「記憶から先に記します」


「名前は?」


「セオ・ラグナです」


 記録板が開かれる。


***


 リオは、帰還側の机から動かなかった。


 朔の名前の紙は、胸元にある。


「どこまで」


「右側通路の石枠手前」


「越えたか」


「越えていません」


「何が出た」


「白い表示。黒い人影」


「表示は」


 朔は、リオを見る。


「NAME HOLDER。RIO」


 リオの顔から表情が消える。


「ほかは」


「STATUS。WAITING」


「俺の名前か」


「そう読めました」


「誰が見た」


「俺だけです」


「向こうが出したんか」


「分かりません」


「お前の頭に出たんか」


「分かりません」


***


「俺が待っとることは、お前も知っとったな」


「はい」


「紙を持っとることも」


「はい」


「なら、お前が作った可能性もある」


「あります」


「向こうが知っとる可能性も」


「あります」


「どっちや」


「分かりません」


 リオは胸元から紙を出さない。


「人影は」


「サク、と。持っている、と」


「何を」


「言いませんでした」


「手を出したか」


「右手を上げました」


「お前は」


「胸元へ手が動きました」


「布か」


「分かりません」


「紙はこっちや」


「はい」


「名前も、こっちにあると思ったか」


 朔は答えられなかった。


***


「紙を見せてください」


 朔が言った。


「何のためや」


「変化がないか」


「白い字が付いたか」


「はい」


「紙に何もなかったら、表示と関係ないと決めるんか」


「決めません」


「何かあったら」


「関係があると決めません」


「なら見るか」


「はい」


 リオは紙を出した。


 自分の手で広げる。


 朔へ渡さない。


***


 黒川朔。


 ツヅリ村ではサク。


 出発前と同じ文字。


 新しい線なし。


 黒い変色なし。


 白い光なし。


 折り目も。


 汚れも。


 大きな変化はない。


「同じです」


 朔が言う。


「紙はな」


「はい」


「俺は?」


 リオが尋ねる。


「待っていましたか」


「待っとった」


「どこで?」


「この机」


「紙は?」


「胸元」


「手に持っていた時は?」


「一回ある」


「いつ?」


「予定停止時刻を過ぎる少し前」


「表示が出た時刻と?」


 イサラが時刻板を見る。


 通路内の正確な時刻は、セオの記憶と歩行時間からしか分からない。


「誤差内で近い可能性はあります」


「一致?」


「確認できません」


***


「なぜ紙を手に?」


 朔が尋ねた。


「呼びたくなったからや」


「名前を?」


「サクって」


「呼ばなかった」


「決めたからな」


「紙を出した?」


「胸元から半分だけ」


「開いた?」


「開いてへん」


「何をしましたか」


「握った」


 リオは紙を持つ右手を見る。


「呼ばん代わりやない」


「では」


「何もできんかったから、触った」


「それが表示に?」


「分からん」


「はい」


***


「でも」


 リオは紙を机へ置く。


「向こうが俺をNAME HOLDER言うたとしても、俺はちゃうぞ」


「はい」


「俺が持っとるのは、この紙や」


「はい」


「お前の名前やない」


「はい」


「WAITINGは」


「待っていたことと一致します」


「俺が選んで待っとった」


「はい」


「向こうが待機させたんやない」


「はい」


「役目にすんな」


「しません」


 白い表示を。


 王都の新しい欄にはしない。


***


 記録会議では、最初に見出しが問題になった。


 グラドの案。


 名保持者表示事案。


「使いません」


 朔が言った。


「表示にNAME HOLDERと」


「朔さん一人の知覚です」


 ネラが答える。


「では、朔知覚・名保持者表示」


「日本語の意味を確定させています」


「英字をそのまま?」


 最終的な見出し。


 旧搬入口右側通路における黒川朔の白色文字様知覚。


 その下に、見えた通り。


 NAME HOLDER : RIO


 STATUS : WAITING


 訳は別欄。


 朔は「名前を保持する者:リオ」「状態:待機中」に近い意味として受け取った。英字自体の意味、表示主体、対象、現実の人物リオとの関係は未確認。


***


「RIOが、リオさんを示す可能性は高いのでは」


 グラドが尋ねた。


「朔さんは、リオさんが外で待ち、紙を持っていることを知っていました」


 マレアが答える。


「朔の知識が表示になった可能性」


「あります」


「道または人影が、外の状態を知った可能性」


「あります」


「白い表示を出したものは?」


「未確認」


「人影と同時に出た」


「表示が先です」


 セオが言う。


「人影出現との時間差あり」


「関係は?」


「未確認」


***


「NAME HOLDERを、『名を持つ者』と同じ言葉にしますか」


 グラドが尋ねた。


「しません」


 朔が答える。


「意味は近い」


「近く感じます」


「黒い人影は以前、『名を持つ者だけ来い』と」


「はい」


「今回は、名前を持つ者を特定した?」


「分かりません」


「RIOは通路の外にいた」


「はい」


「なら、来る者ではなく待つ者が名を持つ?」


 朔は、黒い板の断片を思い出す。


 名を持つ者。


 待つ者。


 返すのは道ではない。


 外に。


「繋げないでください」


「ですが」


「全部、同じ答えへ向いているように見えます」


「はい」


「それでも?」


「今繋げれば、俺たちの文になります」


***


 リオは会議へ呼ばれた。


「白い表示に名前が出た本人として」


 グラドが言う。


「本人か決まってへんやろ」


「RIOは」


「俺と同じ音や」


「外で紙を持って待っていた事実も」


「ある」


「では、あなたを今後のNAME HOLDERとして」


「せん」


 リオは即座に答えた。


「今後の調査でも、紙を」


「持つかどうかは、サクと俺が決める」


「帰還条件に有効な可能性」


「あるかもしれん」


「なら」


「有効かもしれんからって、俺を道具にすんな」


***


「ほかの参加者にも、同じ者を置けば比較できます」


 グラドが言う。


「誰かに紙を渡させる?」


 ノエが尋ねた。


「本人が希望すれば」


「表示が出るかを確かめるために?」


「はい」


「それは、個人的に知る者を選ぶことと違います」


「では、希望者だけ」


「希望を、実験への同意に変えないでください」


 アナが言った。


「私はノエさんから、帰還時に話してよいことを預かっています。白い表示を出すためではありません」


***


「リオさんの紙を、次回は別の人へ渡す案は?」


 グラドが尋ねた。


「しません」


 朔が答える。


「表示が変わるか確認できる」


「名前の紙は、表示を比較する札ではありません」


「では、関係を確かめられない」


「はい」


「重要な情報なのに?」


「重要だから、関係を壊して確かめません」


***


 黒い人影の発言も、別の紙へ記録された。


 一度目。


 四名とも、「持っている」に近い音声を確認。


 朔、ノエは「持っている」と認識。


 マレアは語の間に区切りを感じた。


 セオは同じ語に近いが、断定の調子か問いの調子か判断せず。


 二度目。


 朔、セオは「持っている」に近い。


 ノエは「持つ者」。


 マレアは「待っている」。


 誰が。


 何を。


 誰へ。


 未確認。


***


「人影の手は、何かを求めていましたか」


 グラドが尋ねる。


 朔。


「掌が上に見えました」


 ノエ。


「開いた手に近く見えました」


 マレア。


「掌の向きは判断できません」


 セオ。


「腕を上げ、指状部を確認」


「差し出す手?」


「そう見えた者がいます」


「受け取るため?」


「分かりません」


「指すため?」


「可能性があります」


「待て、の動作?」


「あります」


 手も。


 一つの動詞にはしない。


***


「朔さんが胸元へ手を動かした理由は?」


 イサラが尋ねた。


「持っている物を探しました」


「何を?」


「青い布だと思います」


「名前の紙は外にあると知っていた」


「はい」


「それでも、名前を探した可能性」


「あります」


「胸に名前がある、と?」


「そう考えたかもしれません」


「人影へ渡そうとした?」


「そこまでは分かりません」


「止めたのは」


「ノエさんの声。マレアさんの確認。自分でも、目的を思い出しました」


「一人で止まった?」


「違います」


***


 エリオは記録を読んだ。


「人影は、勇者候補がいなくても現れた」


「はい」


 朔が答える。


「『勇者は来るな』とは?」


「言いませんでした」


「私たちがいなかったから?」


「可能性はあります」


「NAME HOLDERはリオさん」


「そう見えました」


「なら、役目ではなく、個人を認識している?」


「分かりません」


「リオさんは、人影と会ったことがない」


「はい」


「道が記録を読んだ?」


「可能性はあります」


「朔さんの記憶を読んだ?」


「あります」


「どちらが怖いですか」


 朔は少し考えた。


「どちらも」


「では、次は」


「まだ決めません」


***


 イサラは、人影が石枠の先に現れた位置を図で確認する。


「黒い線がない」


「見えませんでした」


「以前は、黒い線の向こう」


「はい」


「別の場所?」


「旧搬入口の右側通路です」


「同じ人影?」


「形と声は近いです」


「同一?」


「確認できません」


「サクと呼んだ」


「はい」


「持っている、と」


「はい」


 同じ呼び方。


 近い形。


 それでも、同一と確定しない。


***


「次に、何を尋ねますか」


 グラドが言った。


「何も」


 マレアが答える。


「接触が進んだのに?」


「今回の目的は、石枠までの経路確認でした」


「答えに近づいている」


「問いを決めていません」


「では、次回」


 朔は、黒い人影の手を思い出す。


 青い布。


 ハルの名前。


 人影を、まだハルとは呼ばない。


 その言葉を。


 いつか、直接伝える可能性。


 だが、今ここで次の質問にはしない。


「次の目的は、今回の記録を分けてから決めます」


***


 公示には、白い表示の全文は載せなかった。


「なぜですか」


 ベドが尋ねた。


「リオさん本人の名前が含まれます」


 朔が答える。


「既に街では知られている」


「調査表示として公表することに、本人は同意していません」


「でも、噂は出ます」


「本人名を公示の見出しにはしません」


 リオが許可した範囲。


 黒川朔一名が、通路内で、外にいた特定人物の名に近い白色文字様表示を知覚しました。ほかの参加者三名は確認していません。表示主体、意味、外の人物との関係は未確認です。


「特定人物って、怪しくなるだけやな」


 リオが言った。


「名前を出しますか」


「出さんでええ」


「隠していると言われます」


「言わせとけ」


「いいんですか」


「向こうに勝手に出された名前を、こっちまで勝手に広げんな」


***


 それでも、街には広がった。


 殻の子の名前を持つ商人。


 道の外で待つ者。


 名前を預かれば、黒い道がその人を選ぶ。


 紙を持つ者が、帰還者を引き戻す。


 リオは、ヴァルハに認められた名守り。


「名守りやて」


 ミエルが店先で言った。


「新しい商売にする?」


「せえへん」


 リオが答える。


「名前預かります、一枚いくら」


「紙袋でも売っとけ」


「もう売ってるよ」


 ミエルは笑う。


 リオは笑わなかった。


***


「名前の紙を持ってもらったら、帰れるの?」


 ロウが尋ねた。


「確認されていません」


 朔が答える。


「でも、リオって出た」


「俺にだけ、そう見えました」


「リオは待ってた」


「はい」


「紙も持ってた」


「はい」


「じゃあ」


「三つが同じ時刻にあったことは事実です」


「意味は?」


「分かりません」


「また?」


「はい」


「でも、前より近い?」


 朔は答えるまでに時間を置いた。


「答えに近いように感じます」


「本当に?」


「感じることと、近づいたことは同じではありません」


 ロウは不満そうに地面へ書く。


 リオ。


 その下。


 待つ。


 横。


 紙。


 三つを線で繋ごうとして。


 止めた。


「繋げたら、俺の文?」


「はい」


「でも、繋げたい」


「俺もです」


***


 ユイには、表示の全文を伝えた。


 本人の治療記録とは関係のない話。


 それでも、名前について考えてきた一人として。


「NAME HOLDER」


 ユイがゆっくり読む。


「リオ」


「はい」


「待ってる」


「そう見えました」


「リオは、サクの名前を持ってる?」


「紙を持っています」


「名前は?」


「俺が使っています」


「じゃあ、リオは何を持ってるの」


「俺が名前を書いた紙。俺が話したこと。俺が帰った時に聞いてほしいこと」


「サクは?」


「道の中にいました」


「何を持ってた?」


 朔は自分の右手を見る。


「青い布」


「ほかは?」


「覚えている名前」


「黒い人は?」


「分かりません」


「手を出した?」


「はい」


「何か持ってた?」


「何も見えませんでした」


 ユイは少し考える。


「空の手?」


「そう見えました」


「でも、『持っている』って言った」


「はい」


「誰が?」


「分かりません」


***


「リオの手は?」


 ユイが尋ねた。


「紙を持っていました」


「黒い人の手は?」


「何も持っていないように見えました」


「サクの手は?」


「胸元へ動きました。何も出しませんでした」


「三つの手」


「はい」


「どれが、名前を持つ手?」


 朔は答えられなかった。


「まだ分かりません」


「じゃあ、決めない?」


「はい」


「でも、リオは紙を持つ?」


「本人が持つと決める間は」


***


 夜。


 リオは、名前の紙を新しい布袋へ入れなかった。


「傷まないようにした方が」


 朔が言う。


「何で急に」


「表示が出たから」


「それと紙の傷みは別や」


「でも」


「怖なったんやろ」


「はい」


「また、同じ字を重ねるんか」


 リオは紙を出す。


 端。


 折り目。


 薄い汚れ。


 何も増えていない。


「今、読める」


「はい」


「破れたら、その時考える」


「なくしたら?」


「探す」


「見つからなかったら?」


「お前に言う」


「書き直しますか」


「その時のお前が、書くか決める」


 未来の紙まで。


 今の不安で作らない。


***


「返してほしいですか」


 リオが尋ねた。


 朔は紙を見る。


 白い表示。


 NAME HOLDER : RIO。


 それを否定するために取り戻すこともできる。


 表示の通りにならないために。


「いいえ」


「向こうに、俺が持っとると見られるかもしれんぞ」


「はい」


「怖くないか」


「怖いです」


「それでも?」


「表示に決められて返してもらいたくありません」


「何で俺に渡した」


「帰った時に、話すためです」


「今も?」


「はい」


 リオは紙を折る。


 胸元へ戻す。


「なら、持っとく」


***


 人影の手は、黒かった。


 掌が開いていたのか。


 何かを指していたのか。


 止まれと言ったのか。


 渡せと言ったのか。


 何も分からない。


 持っている。


 その言葉の主語も。


 目的語も。


 欠けていた。


***


 リオの手には、紙があった。


 黒川朔。


 ツヅリ村ではサク。


 だからといって。


 リオが朔の名前を所有しているわけではない。


 待っていたから。


 帰還させたとも決められない。


 ただ、呼びたくなった時に呼ばず。


 紙を握り。


 外で待っていた。


***


 朔の手は、途中まで胸へ上がった。


 青い布。


 記憶。


 名前。


 何を差し出そうとしたのか。


 本人にも分からない。


 それでも、何も渡さなかった。


 空の手で。


 帰路へ向いた。


***


 白い表示には、リオの名前があった。


 黒い人影は、持っていると言った。


 その二つを繋げれば、答えに見える。


 外にいるリオが。


 朔の名を持ち。


 待っている。


 だから朔は戻れる。


 だが、それはまだ朔たちが作った文だった。


***


 確かに残ったのは。


 表示を見た者が、朔一人だったこと。


 リオが外で待っていたこと。


 紙を持っていたこと。


 一度、名前を呼びたくなり。


 呼ばなかったこと。


 人影が手を上げたこと。


 四人が「持っている」に近い声を聞いたこと。


 朔が何も手渡さず、三人とともに戻ったこと。


***


 名前を持つ手が、誰の手なのか。


 まだ分からない。


 紙を握る手か。


 差し出された黒い手か。


 胸元へ動き、止まった手か。


 あるいは。


 名前を口にせず。


 それでも忘れずに待つ者たちの、目には見えない手なのか。


 朔は、どれにも決めなかった。


 リオも、自分を名守りとは呼ばなかった。


 紙は、返されなかった。


 奪われもしなかった。


 ただ、出発前と同じ胸元に。


 リオ自身の手で戻された。


 次に朔が帰った時。


 その時の朔と、もう一度話すために。

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