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第十一章 黒の向こう側 ③ 閉じた者の理由

閉鎖作業に参加した四人のうち、二人は死亡し、残る二人の現在の所在は分かっていなかった。

 だが、ルカが最初に訪ねたのは、その四人ではなかった。

 北返二番倉の古い修繕票を管理していた、記録主任の後任だった。

 現在は南地区で小さな製本所を営んでいるという。

 名は、オスロ・ケイン。

 六十を過ぎた男で、右手の薬指が曲がっていた。厚い紙を切る仕事を長く続け、刃を押さえる癖が残ったのだという。

 作業場には裁断前の紙束が積まれ、窓際では糊を塗った背表紙が乾かされていた。

「ネラ・ヴォスの名前なら覚えている」

 オスロは作業台から顔を上げた。

「よく働いた。字が丁寧でな。ほかの助手が読み飛ばすような数字でも、必ず元の票と突き合わせていた」

「第七帰還口の閉鎖記録について、お聞きしたいんです」

 ルカが修繕票の写しを出すと、オスロは眼鏡を掛けた。

 読み終えてから、表情を変えた。

「……この記録は、まだ残っていたのか」

「はい」

「それで、何を知りたい」

「閉鎖した理由です」

 オスロは写しを机へ戻した。

「閉じるべきだったからだ」

「何が起きたんですか」

「俺は現場にいなかった」

「記録室では」

「閉鎖を維持するよう指示が来た。それだけだ」

 ルカは次の質問を急がなかった。

 オスロはしばらく黙った後、自分から言った。

「先に聞いておく。開けるつもりなのか」

「今は、閉じた理由を調べています」

「なら、閉じたままにしておけ」

「理由を知らずに?」

「理由を知ったら、開けてもいいと思う者が出る」

 その言い方に、ルカは引っかかった。

「理由そのものを知られたくないんですか」

 オスロは答えなかった。

 代わりに、作業台の端へ置かれた紙束を揃えた。

「俺が持っている帳面を見たいんだろう」

「はい」

「だったら、まず、それをお前たちに見せていいのか確かめてくれ」

 ルカは頷いた。

 それ以上、オスロを問い詰めなかった。

***

 製本所の奥には、古い帳面が三冊残されていた。

 背表紙には年度と管理番号が書かれている。紙の角は傷んでいたが、綴じ糸は新しく、補修が途中まで進んでいることが分かった。

 オスロは退職する時、補修のために預かったのだという。

 翌日、中央記録室へ確認すると、正式な持出申請が残っていた。所有権は中央にあり、補修と保管のためオスロが預かっている。閲覧には記録室の許可が必要だった。

 ルカが結果を伝えると、オスロは頷いた。

「二十年以上も手元にあると、預かっていることを忘れそうになる」

「許可が取れました。原物はここで閲覧し、写しを持ち帰る形にします」

「分かった」

 ルカはネラとフェルを伴い、改めて製本所を訪ねた。

 オスロは三冊のうち、一冊を開いた。

 表紙には、短く数字が書かれていた。

 七

「これが第七帰還口の記録ですか」

「違う」

 オスロは即答した。

「七件目までを予定した試験の記録だ」

「第七帰還口の番号とは、別なんですね」

「そうだ。昔の記録は、その辺りが厄介でな」

 彼は隣の二冊を指した。

「閉鎖の申請、作業、確認、保管、異常報告。それぞれ別だ。この帳面は、試験で戻らなかった物を記録している」

「人ですか」

「物だ」

 オスロの答えは短かった。

「少なくとも、最初はそう呼んでいた」

 帳面の最初の頁には、表題があった。

 帰還経路試験 非帰還物記録

 その下に、試料番号と品名が並んでいる。

 一番、銅製の測定棒。

 二番、封印された木箱。

 三番、布片。

 四番、硝子板。

 五番、無記名紙。

 六番、対象名記載紙。

 試料七の欄は、空白だった。

「試料七は、戻らなかったんですか」

「いや。試料七は送っていない。試料六の後で試験が止まった」

「使っていた経路は?」

「第六経路だ」

「第七帰還口ではなく?」

「投入には使っていない」

 オスロは頁をめくった。

「第七帰還口は、試験の後始末で問題になった場所だ」

 ルカは小さな紙を取り出し、三つの区分を書いた。

 試料番号は、何番目に試した物か。

 経路標識番号は、どこへ投入したか。

 帰還口番号は、どこから戻る予定だったか、あるいはどこで異常を確認したか。

 その下へ、問題となった二件を書き加えた。

 試料五・無記名紙

 投入経路:第六経路

 異常の確認場所:旧観測室付属記録室

 試料六・レアの名を記した紙

 投入経路:第六経路

 異常の確認場所:第七帰還口側

「これなら、数字が重なっても間違えにくいですね」

 ルカが言った。

「当時も、そうしていればよかった」

 オスロは苦笑した。

「少なくとも、俺が後から説明する手間は減っただろうな」

***

 試料五には、名前を書いていない紙が使われた。

 記録には、次のようにある。

 試料番号:五

 投入物:無記名紙一枚

 投入経路標識:六

 投入時刻:第三鐘後

 通常返路での回収:なし

 その下に、別の筆跡で追記があった。

 翌日、旧観測室付属記録室に同型の紙一枚を確認。投入物との同一性は未判定。

「付属記録室?」

 ネラが顔を上げた。

「旧観測室の隣だ。試験の帳面を置いていた小部屋だよ」

 オスロが答えた。

「十二年前に、私がK.K.の文字を見た場所です」

「記録室で?」

「はい。今は壁を隔てて閉じられていますが、当時は旧観測室の一部として使われていました」

 ルカは頁の余白に、施設図面との照合が必要なことを書き込んだ。

 紙の検査結果は、その次にあった。

 大きさは一致。

 繊維の種類も一致。

 だが、投入前に付けた小さな切れ込みが、発見された紙にはなかった。

 代わりに、右端へ二本の黒い線が引かれていた。

 一本はまっすぐで、もう一本は途中からわずかに曲がっている。

「これは何で書かれたんですか」

 ルカが尋ねた。

「調べた記録はある。インクと判定した者もいたし、炭に近いと書いた者もいる」

 オスロは検査票を示した。

「当時も、材質の判断が揃わなかった」

 フェルは紙の発見場所を確認した。

「旧観測室付属記録室には、普段から紙が置かれていたんですか」

「記録用の紙はあった。だから、発見された紙が試験で送った物だとは断定できん」

「それでも調査した」

「ああ」

 オスロは頁をめくった。

「送り込んだ物と似た物が、返るはずのない場所へ現れた。気にはなる。だが、それだけで試験を止める理由にはならなかった」

 次に、試料六の記録が現れた。

 今度は、名前を書いた紙だった。

 試料番号:六

 投入物:対象名記載紙一枚

 記載名:レア・ソルン

 投入経路標識:六

 投入時刻:第一鐘後

 通常返路での回収:なし

 赤い筆跡の追記があった。

 同日、対象名レア・ソルンの登録札が、第七帰還口側で確認された。

 本人所在:確認済。

 本人の登録札:本人携行中。

 ルカは頁を読み直した。

「試料六を投入したのは、第六経路ですよね」

「そうだ」

「なのに、登録札が現れたのは第七帰還口側?」

「記録ではそうなっている」

「なぜ、そこに」

「分からなかった」

 オスロは眼鏡を外した。

「第六経路は、物を送った経路だった。第七帰還口は、誰も送っていないものが現れた場所だった」

「それで、第七帰還口を閉じたんですか」

「理由の一つだ。正確には、そこを使わず、閉鎖状態を維持するよう決めた」

「第六経路は?」

「試験を止め、使用を制限した。後に別の点検を受けたと記録されている。ただ、第七帰還口とは扱いが違った」

「なぜですか」

「第六経路では、少なくとも投入操作をしていた。第七帰還口では、誰も投入を命じていない」

 オスロは古い図面を広げた。

 第六経路には、投入側と通常返路が描かれている。

 第七帰還口には、閉じた隔壁と、点検用の短い通路しかなかった。

「閉じていたはずの場所へ、物が現れた。そこから先へ出る可能性があるなら、まず隔壁を維持するしかなかった」

「誰かが札を置いた可能性は調べましたか」

「調べた。出入口の封印も点検した」

「結果は」

「封印は破れていなかった。だが、封印があるだけで、人の出入りを完全に否定できるわけじゃない」

 オスロは次の頁を示した。

 現れた登録札は、本人が持っていたものと材質も刻印も一致していた。

 ただし、第七帰還口側の札には、本人の札にはない傷があった。

 製造時のものか、発見後に付いたものかは分からない。

「当時の管理者は、本人が持っている方を本物と判断した」

「理由は」

「本人が持っていたからだ」

 オスロは小さく笑った。

「今なら、それだけでは札の来歴は決められんと分かる」

***

 それから二日後、旧観測室の廊下で、一人の職員が倒れているところを発見された。

 レア・ソルン。

 名前を書かれた紙に使われた、本人だった。

 呼吸はあり、脈もあった。大きな外傷は見つかっていない。

 目を覚ましたレアは、質問に答えた。

 年齢。

 仕事。

 同僚の名前。

 住んでいる場所。

 朝に食べた物。

 それらには、普段と変わらない返答をした。

 だが、自分の名前を尋ねられると、口を閉じた。

 同僚が「レア」と呼ぶと、振り向いた。

 名前が分からなくなったのかと思い、何度か質問を変えた。

 しかし、結果は同じだった。

「書いてもらったらどうかと言う者もいた」

 オスロが言った。

「本人は、筆を持たなかったそうだ」

「持てなかった?」

 ネラが尋ねた。

「持たなかった。ほかの言葉なら書けた」

 レアは自分の職業を書いた。

 勤め先の名前も書いた。

 住所も書いた。

 だが、署名欄だけは空白のままだった。

 その後、治療室へ移される前に、レアは廊下の壁を指した。

 「あそこにも、私がいる」

 その場には三人の職員がいた。

 二人は、何も見なかった。

 一人は、薄い人影のようなものを見たと報告している。

 その人影は、レアと同じ服を着ていたという。

「その人影は」

 フェルが尋ねた。

「記録された時には消えていた」

「追跡は?」

「廊下を閉鎖し、周囲を調べた。別の人物は見つかっていない」

 オスロは頁をめくった。

「それで終わりなら、まだよかった」

 その夜、レアの登録札がもう一枚見つかった。

 治療室の寝台の下だった。

 一枚は本人が携行。

 一枚は第七帰還口側で発見。

 そして、さらに一枚。

 同じ名前の札が、三か所に存在した。

「誰かが作った可能性は」

 ルカが尋ねた。

「ある」

「調べたんですか」

「調べた。だが、この札を作ったと名乗る職人はいなかった。倉庫の在庫記録にも増減はない」

 オスロは少し間を置いた。

「ただ、登録札を偽造するのは不可能ではない」

 ルカは頷き、次の頁をめくった。

「レア本人は、その後どうなったんですか」

「治療室を出た後、配置転換になった」

「回復した?」

「自分の名前を答えるようになったかどうかは、ここには書かれていない」

「死亡記録は」

「ない」

「行方は」

「知らない」

 オスロは帳面の最後の頁を開いた。

 対象名と経路標識を結合した試験を停止。

 第六経路の使用を制限。

 第七帰還口、閉鎖状態維持。

 以後、帰還対象への名呼びを禁止。

「第七帰還口を閉じた理由は、これですか」

 ルカが尋ねた。

「これが記録に残された理由だ」

「ほかにも?」

「閉鎖を命じた者は、もっと知っていたかもしれん」

「あなたは」

「知らされなかった」

 オスロは帳面を閉じた。

「俺が知っていたのは、名前を書いた紙を送った後、本人が自分の名を答えなくなったこと。そして、誰も開けていないはずの第七帰還口側に、札が現れたことだけだ」

 製本所の奥で、乾かしていた紙が小さく鳴った。

 オスロは窓を閉めた。

「だから、開けるなと言った」

***

 帰り道、ネラはしばらく何も話さなかった。

 旧観測室でK.K.を見た時のことを思い出していた。

 誰もいない部屋。

 壁に現れた文字。

 別の職員は、光が揺れたとしか記録していない。

 それでも、ネラには確かにK.K.と見えた。

「今日の記録を読むまで、私は一つ思い違いをしていました」

 ネラが言った。

 フェルは隣を歩きながら顔を向けた。

「どんなことですか」

「閉鎖そのものは、設備の問題だと思っていたんです」

「設備の問題?」

「はい。昔、主任に『名前を呼ぶと、戻るものが間違う』と言われました。でも私は、それを経路の誤作動のことだと考えていました」

「名呼びの禁止は、設備を扱う時の注意だと?」

「そうです。人の名前が、本人の状態に関わるなんて考えもしなかった」

 ネラは足を止めた。

「試験記録を読んでいれば、違ったかもしれません」

 ルカは答えなかった。

 ネラは少し歩いてから続けた。

「私は閉鎖の完了票を清書しました。でも、試験でレアさんに何が起きたかは知らなかった。閉鎖と名呼びの禁止が、同じ出来事から来ていることも」

 ルカは地図を広げた。

 記録にあった付属記録室は、現在の施設図面にも残っていた。

 ただし、今は壁を設けられ、立ち入りが制限されている。

 試料五の紙と似た物が発見された場所。

 十二年前にネラがK.K.を見た場所。

 その二つは、図面上では同じ小部屋だった。

 ルカは位置を印した。

「この部屋の記録も調べます」

「私も協力します」

 ネラが言った。

「ただ、一つお願いがあります」

「何ですか」

「十二年前の私の証言を、今日聞いた話で書き直さないでください」

 フェルが頷いた。

「最初の記録は、そのまま残っています」

「それならよかった」

 ネラは地図を畳んだ。

「今日分かったことは、今日の記録に残します」

***

 旧紙倉では、調査結果が共有された。

 朔、ユイ、リオ、ネラ、ルカ、フェル、グラドが集まっていた。

 オスロの帳面は原物を製本所へ残し、閲覧許可の範囲で作成した写しだけが机に置かれている。

 ルカは試料番号と経路番号の対応をまとめた紙を、机の中央へ置いた。

「間違えやすいので、先に整理します」

 試料五の無記名紙。

 試料六のレア・ソルンの名を記した紙。

 投入経路はいずれも第六経路。

 そして、レアの登録札が現れたのは、試験に使用していない第七帰還口側。

「送った側じゃなく、送ってない側を閉じたわけか」

 リオが言った。

「そうです」

「それなら、閉鎖が必要だと思ったのも分かる」

 ガドも同席していた。

「現場からしたら、触ってへん場所に物が出たんやろ。気味が悪い以前に、管理できん」

「だからって、ずっと閉じておけばいいんですか」

 ユイが尋ねた。

 ガドは彼女を見た。

「今は開けん」

「今は?」

「危ない理由があると分かった。それを無視して開けるのは違う」

「じゃあ、危ない理由が分かって、それを防げたら?」

「その時に考える」

 ユイは頷いた。

「分かった」

 ネラはレア・ソルンの記録を読み返していた。

「名前を呼ばれたら振り向いたのに、自分では答えなかった」

 ユイが言った。

「怖い」

 誰も、その感想を訂正しなかった。

「私だったら、Y.I.って書いた紙を第七帰還口へ入れられたら嫌だ」

 グラドが顔を上げた。

「その危険を減らすため、差入口の管理を変える必要があります」

「でも、グラドさんは前に、勝手に質問票を入れた」

「はい」

「鍵を増やしても、入れる人はいるかもしれない」

「います」

 グラドは短く答えた。

「だから、市場側と経路管理側で鍵を分けました。単独では開けられません。壊せば、その痕跡が残ります」

「絶対ではないんですね」

「絶対ではありません」

 ユイは記録を閉じた。

「なら、誰かが壊そうとした時に止められる人も必要です」

 ガドが頷いた。

「現場の見回りは俺らで組む。市場の人間へ全部任せる気はない」

 市場側の負担については、ミエルたちと改めて相談する必要があった。

 朔は自分の手元へ目を落とした。

 写しには、レアの名前が何度も出てくる。

 本人が持っていた札。

 第七帰還口側の札。

 寝台の下の札。

 そして、自分の名を答えなかったという記録。

 白い部屋の表示が、頭の奥をかすめた。

 SUBJECT:K.K.

 NAME:KUROKAWA SAKU

 STATUS:SLEEP

 朔は頁を裏返した。

 今は、それを口にしなかった。

「レアさんは、今も生きてるかもしれない?」

 ユイが尋ねた。

「死亡したという記録は見つかっていません」

 ルカが答えた。

「なら、探せる?」

「配置転換先から調べられます」

「会えたら、話を聞く?」

「本人が望めば」

「望まなかったら」

「帰ります」

 ユイは頷いた。

 それから、少し考えた。

「でも、最初から話せない人だって決めないでほしい」

「そうですね」

 朔が答えた。

「本人の意思を確かめるところから始めます」

 ルカは新しい調査票へ記入した。

 レア・ソルンの所在確認。

 目的:第七帰還口の閉鎖に至った事実関係の確認。

 接触時は本人の意思を優先し、応答を強制しない。

 所在確認を、第七帰還口の開放許可とは扱わない。

 調査担当として、ルカとネラが署名した。

 朔は別の紙へ、自分が記録を読んだ日時を書いた。

 レアと自分を重ねて解釈し始めていることも、短く残した。

 その時だった。

 扉が叩かれた。

 ノエが入ってきた。

「北東水路から連絡です」

 部屋の空気が変わった。

「黒色変化ですか」

 ルカが尋ねた。

「まだ確認されていません。ただ、水門の下流で、流れが逆になっています」

 ガドが立ち上がった。

「逆?」

「水門は閉じたままです。上流からの通水も止めています。それなのに、下流側の水が北返二番倉の方向へ戻り始めたそうです」

「水位は」

「今のところ大きな上昇はありません」

 ノエは手元の紙を見た。

「サロさんから、もう一つ伝言があります」

「何ですか」

「旧染料水路の近くで、井戸の水が濁り始めています。まだ飲用には使っていませんが、住民の生活用水に影響が出ています」

 ガドは机から工具袋を取った。

「現場へ行く」

「私も」

 ルカが続いた。

 朔も椅子から腰を上げたが、右膝に鋭い痛みが走った。

 あの道行きで悪化させた膝は、まだ不安定だった。歩ける距離は増えていたが、急に踏ん張る動きには耐えられない。

 リオが腕を支えた。

「待て。お前が今倒れたら、運ぶ人間が増える」

「でも」

「現場はガドたちが行ける。お前が行く必要はない」

 朔は唇を結んだ。

 それから椅子へ座り直した。

「……分かりました」

 ガドは扉のところで振り向いた。

「朔。今回は俺らに任せろ」

「お願いします」

「水が逆に流れてるなら、まずどこから来てるか調べる。壁は勝手に開けん」

 ガドはそう言って出ていった。

 ルカとノエも続いた。

 扉が閉まる。

 朔は机の上の記録を見た。

 過去には、誰も使っていないはずの第七帰還口側へ、登録札が現れた。

 現在は、閉じた水門の下流で、水が逆向きに動き始めている。

 朔は窓の外を見た。

 北東の空には、低い雲がかかっていた。

 レア・ソルンの所在を探す調査票は、まだ机の上にある。

 その隣へ、新しい現場報告が置かれた。

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