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第九章 名前の先の道 ⑩ 名前を開く条件



 ダル・ケインは。


 封筒を。


 三つ。


 持ってきた。


***


 一つ。


 白。


***


 一つ。


 灰。


***


 一つ。


 赤。


***


 旧紙倉。


 朝。


***


 机。


 中央。


***


「当日受領担当者について」


 ダル。


「記録があります」


***


「名前」


 ガル・メナ。


***


「あります」


***


 部屋。


 静か。


***


「誰」


「今は。開示しません」


***


 ガル。


 一歩。


***


 止まる。


***


「何で」


「受領担当者本人が」


 ダル。


「保護制度の利用者でもあったためです」


***


「メルは」


「はい」


***


「消えた」


「はい」


***


「受け取るはずだった人は」


「生存しています」


***


「知ってる?」


「現在の所在を。制度側は把握しています」


***


「本人は」


 朔。


「今回の照会を知っていますか」


「まだ」


***


「では」


「本人の許可を得る前に。名前を出せません」


***


「名前を出さず」


 イサラ・ベルン。


「当日配置されていたかは答えられますか」


***


 ダル。


 白い封筒。


 開く。


***


 紙。


***


 北返二番倉受領待機


***


 日付。


***


 メル失踪当日。


***


 担当欄。


***


 北二・灰札


***


「人の名前では」


 ガル。


「ない」


***


「保護用の役務符号です」


***


「誰かは」


「割り当てられていました」


***


「いた?」


「割当記録があります」


***


「場所に」


「到着した記録は」


 ダル。


「灰の封筒です」


***


 灰。


***


 封。


***


 割れていない。


***


「なぜ」


 ネラ・ヴォス。


「未開封ですか」


***


「本人確認用の帰着報告は」


 ダル。


「担当終了後に、秘匿保管へ送られました」


***


「読まなかった?」


「私は。読めない権限でした」


***


「受領者を」


 ガル。


「置いた人やろ」


「配置を承認しました」


「でも」


「本人の過去と現在地を知る権限はありませんでした」


***


「また」


 ガル。


「分けた」


「はい」


***


「誰が読めた」


「保護審査官」


「名前」


***


 ダル。


 紙。


***


 リセ・ハーン


***


「現在」


「退職」


***


「どこ」


「確認中です」


***


「じゃあ」


 ガル。


「灰の封筒は。誰も読めん?」


「緊急開示手続きがあります」


***


「使う」


「条件が必要です」


***


「行方不明者」


「該当します」


***


「なら」


「受領担当者本人の安全も。確認します」


***


「メルと」


「どっちが大事」


***


 ダル。


 すぐには。


 答えない。


***


「比べません」


***


「でも」


 ガル。


「一人を守って。メルを探せん」


***


「一人を探すために」


 朔。


「別の人の保護を。本人へ聞かずに外しません」


***


「また待つ?」


「はい」


***


「どれくらい」


「本人へ。今日中に照会します」


***


「返事がなかったら」


「名前以外に開ける情報を分けます」


***


「誰が」


 イサラ。


「分ける」


***


 ダル。


「私だけでは決めません」


***


 机。


***


 新しい紙。


***


 緊急照会項目


***


 一。


***


 当日。


 受領待機の割当を。


 受けたか。


***


 二。


***


 北返二番倉周辺へ。


 到着したか。


***


 三。


***


 どこで。


 待機したか。


***


 四。


***


 誰かを。


 見たか。


***


 五。


***


 声。


 物音。


 呼鐘を。


 聞いたか。


***


 六。


***


 受領札を。


 使用したか。


***


 七。


***


 現在の名前を。


 非公開記録へ残すことを。


 許可するか。


***


 八。


***


 現在の名前を。


 関係者へ開示することを。


 許可するか。


***


 九。


***


 当時の役務符号のみで。


 証言を公開することを。


 許可するか。


***


「名前を」


 ユイ。


「三つに分ける?」


***


「本人確認のための名前」


 ネラ。


「関係者へ伝える名前」


「公開する名前」


***


「同じじゃない?」


「本人が。同じにすることもできます」


***


「違うことも」


「はい」


***


「本当の名前」


 ガル。


「どれ」


***


 誰も。


 すぐに。


 答えない。


***


「本人が」


 朔。


「今。自分の名として使っているものがあります」


***


「昔」


「別の名を使っていた可能性」


***


「保護符号」


「名前ではありません」


***


「でも」


「制度が。その人を見つけるために使います」


***


「なら」


 ユイ。


「Y.I.みたい」


***


 部屋。


 止まる。


***


「はい」


 朔。


「似ています」


***


「本人の名に」


「しません」


***


 照会。


***


 持っていく者。


***


 ダル。


 ではない。


***


 オウ。


 でもない。


***


 保護制度と。


 現在の本人。


 両方へ。


 直接の関係を持たない者。


***


 ノエ・ハーラ。


***


「私?」


***


「理由」


 イサラ。


「経路と人数を確認する役目を担ってきました」


 ノエ。


「本人へ。制度の判断を代弁しない条件なら」


***


「行きたい?」


「はい」


「断りにくい理由」


「中央と現場の両方から。中立に見られること」


***


「実際に」


「完全な中立ではありません」


***


「では」


「私がこれまで。どの記録へ関わったかも伝えます」


***


 同行。


 もう一人。


***


 マレア・ソン。


***


「なぜ」


「本人の身体状態を確認する必要がある場合」


***


「名前の照会に」


「治療を混ぜません」


***


「では」


「本人が不安や負担を訴えた時だけ。対応します」


***


 二人。


***


 照会文。


***


 本人。


 読む。


***


 回答しない。


 一部だけ答える。


 全部答える。


***


 選べる。


***


「断ったら」


 ガル。


「どうする」


***


「名前を出しません」


 朔。


***


「何も」


「当日の配置記録。場所の構造。オウさんの行為。ダルさんの指示は。別に調べます」


***


「受領者が」


「いたことを。本人の証言なしに確定しません」


***


「割当は」


「確認できます」


***


「身体は」


「本人が答えるまで。配置されたことと。到着したことを分けます」


***


 ガル。


 拳。


 閉じない。


***


「分かった」


***


 昼。


***


 ノエ。


 マレア。


 戻る。


***


 同行。


 もう一人。


***


 顔。


 布。


 覆っていない。


***


 女。


***


 三十代。


***


 短い。


 赤茶の髪。


***


 右手。


 小指。


 曲がっている。


***


 服。


 普通。


***


 外務の印。


 ない。


***


 入口。


***


 止まる。


***


「中へ入る前に」


 彼女。


「誰がいるか。聞きます」


***


 ノエ。


 一人ずつ。


***


 朔。


***


 ガル。


***


 イサラ。


***


 ネラ。


***


 ユイ。


***


 オウ。


***


 ダル。


***


 ルカ。


***


 マレア。


***


「九人」


 彼女。


***


「私を入れて」


「十人です」


 ノエ。


***


「オウ・レク」


「います」


***


「ダル・ケイン」


「います」


***


「ガル・メナ」


「います」


***


「私は」


 ガル。


「メルの兄です」


***


「知っています」


***


「会った?」


***


「質問は」


 彼女。


「中へ入ってから。順にしてください」


***


「はい」


 ガル。


***


 彼女。


 中。


***


 椅子。


***


 出口。


 近い。


***


 自分で。


 選ぶ。


***


「名前」


 ネラ。


「どの範囲で記録しますか」


***


「今使っている名前を」


 彼女。


「この場の関係者と。非公開記録へ残します」


***


「公開」


「しません」


***


「役務符号」


「公開記録では使ってください」


***


「名前」


「セラ・ノーン」


***


 ネラ。


 書く。


***


 本人確認名:セラ・ノーン


***


 開示範囲:本照会関係者および封印記録


***


 一般公開:不同意


***


 公開証言上の表記:北二・灰札


***


「本当の名前?」


 ユイ。


***


 セラ。


 ユイを見る。


***


「今。私が使っている名前です」


***


「前」


「別の名前がありました」


「言う?」


「言いません」


***


「じゃあ」


「今の私を確認するには。セラ・ノーンで確認してください」


***


「うん」


***


「当日」


 ネラ。


「北返二番倉の受領待機を。割り当てられましたか」


***


「はい」


***


「到着しましたか」


「はい」


***


 ガル。


 息。


 止まる。


***


「どこ」


 ネラ。


***


「倉の裏」


***


 部屋。


 静か。


***


「中では」


「待っていません」


***


「理由」


「私の指示書には。裏待機とありました」


***


 紙。


***


 セラ。


 持参。


***


 古い。


***


 北返二番倉


***


 裏待機


***


 正面呼鐘一回で裏口接近


***


 白衣連絡員と直接接触せず


***


「白衣」


 ガル。


***


「外務連絡員のことです」


***


「オウ」


「名前は知りませんでした」


***


「何で直接会わない」


「情報分離」


***


「守るため」


「はい」


***


「当日」


「倉裏へ。夕刻前に着きました」


***


「中へ」


「入りません」


***


「鐘」


「聞いていません」


***


 呼鐘縄。


 切れていた。


***


「オウさんは」


 朔。


「正面で鐘を引いたと申告しています」


「私は。聞いていません」


***


「待った時間」


「一刻より。少し長く」


***


「オウさんも」


「一刻」


***


「同じ時間?」


「時刻記録を比べてください」


***


 ネラ。


 二つ。


***


 オウ。


 到着。


***


 夕刻鐘。


 少し前。


***


 セラ。


 裏待機開始。


***


 夕刻鐘。


 四分の一刻前。


***


 オウ。


 退出。


***


 夕刻鐘。


 四分の三刻後。


***


 セラ。


 退出。


***


 夕刻鐘。


 一刻後。


***


「重なってる」


 ガル。


***


「はい」


 ネラ。


「少なくとも。記録上は」


***


「同じ倉」


「正面と裏」


***


「受け取る者」


 ガル。


「いた」


***


 朔。


「セラさんは。裏で待っていたと証言しています」


***


「はい」


 セラ。


***


「オウさんは」


「正面で待っていました」


***


「同時に」


「記録上。重なる時間があります」


***


「でも」


「互いを確認していません」


***


「受領者が」


 オウ。


 声。


 低い。


「いた」


***


「裏に」


 セラ。


「いました」


***


「私は」


「知りませんでした」


***


「私も」


 セラ。


「正面に。あなたがいたことを知りませんでした」


***


「外に」


「白い衣を見ました」


***


 オウ。


 止まる。


***


「どこから」


「裏の石道。倉の角」


***


「私」


「顔は見ていません」


***


「白い衣が」


「正面側から。倉の横へ一度回りました」


***


「オウさん」


 ネラ。


「裏へ回りましたか」


***


「倉の左側面まで」


「はい」


「裏口」


「見ていません」


***


「なら」


 セラ。


「あなたかもしれません」


***


「別の白い衣」


「可能性もあります」


***


「当時」


 セラ。


「白い衣が見えたため。裏口へ近づきませんでした」


***


「指示」


「直接接触せず」


***


「はい」


***


「鐘が」


「鳴りませんでした」


***


「だから」


「対象候補は。到着していないと考えました」


***


「対象候補」


 ガル。


「メル」


***


「名前は」


 セラ。


「知りませんでした」


***


「外見」


「知りませんでした」


***


「何を」


「受領札を持つ者」


***


「顔も」


「知らない」


***


「名前も」


「知らない」


***


「人を」


「札で確認する手順でした」


***


「荷みたいに」


 ガル。


***


「はい」


 セラ。


***


 言い訳。


 しない。


***


「当時」


 彼女。


「それを。安全な方法だと考えていました」


***


「今は」


「人を。札だけで受け取る手順だったと考えています」


***


「受領札」


 ネラ。


「使いましたか」


***


「一枚。取りました」


***


 セラ。


 袋。


***


 小さな木札。


***


 三角。


 三線。


***


 裏。


***


 浅い傷。


 一つ。


***


「欠けた二枚」


 ガル。


***


「一枚は」


 ルカ。


「これで所在を確認できます」


***


「なぜ持っていた」


 ネラ。


***


「待機した証明として」


 セラ。


「帰着報告へ添えるはずでした」


***


「添えた?」


「添えませんでした」


***


「なぜ」


「自分の元へ残しました」


***


「規則」


「違反です」


***


「理由」


 セラ。


 札。


 見る。


***


「誰も来なかったことを。私が待たなかったことにされたくなかった」


***


 部屋。


 静か。


***


「帰着報告」


 灰の封筒。


***


「何と書いた」


 ネラ。


***


「受領対象確認できず」


***


「白衣連絡員」


「接触なし」


***


「呼鐘」


「なし」


***


「裏待機」


「実施」


***


「札」


「持出」


***


「持出」


 ダル。


「記録に」


***


「灰封筒へ書きました」


***


「読まれていない」


「はい」


***


「審査官へ届いた?」


「返却箱へ入れました」


***


「どの返却箱」


「南保護所」


***


「灰の封筒」


 ダル。


 机。


***


「これ」


「可能性が高いです」


***


「開ける?」


 ガル。


***


「本人」


 朔。


「セラさん」


***


「はい」


 セラ。


「開封に同意します」


***


「範囲」


「この場」


***


「公開」


「内容のうち。当日の行動と設備不通は公開してよいです」


***


「過去の名前」


「出さないでください」


***


「現在地」


「出さないでください」


***


「保護理由」


「出さないでください」


***


「今の名前」


「公開しません」


***


「役務符号」


「使ってください」


***


 灰。


***


 封。


***


 セラ。


 自分で。


 割る。


***


 紙。


***


 北二・灰札 帰着報告


***


 裏待機開始:夕刻鐘前


***


 呼鐘:確認せず


***


 白衣連絡員:側面に一度視認。接触せず


***


 受領対象:確認せず


***


 受領札一枚持出。裏待機実施の証明として本人保管を希望


***


 最後。


***


 正面側の手順不成立または設備不通の可能性。再確認を要する。


***


「再確認」


 ガル。


「書いてた」


***


「はい」


 セラ。


***


「誰も」


「読まなかった?」


***


「審査官が」


 ダル。


「読んだ可能性があります」


「でも」


「外務運用側へ。再確認要求は届いていません」


***


「なぜ」


 ネラ。


「封筒の移動記録を」


***


 赤い封筒。


***


「これが」


 ダル。


「審査処理記録です」


***


「開ける」


 セラ。


「私の報告に関係するなら」


***


「本人同意」


 ネラ。


「はい」


***


 赤。


***


 封。


***


 ダル。


 割る。


***


 紙。


***


 秘匿対象本人の安全に直接関係する情報なし。


***


 設備不通および連絡不成立は運用側案件。


***


 外務へ要約転送。


***


「要約」


 ネラ。


***


 次。


***


 受領対象なし。灰札帰着。


***


 それだけ。


***


「また」


 ガル。


***


「短く」


 朔。


***


「設備」


「消えた」


 セラ。


***


「白い衣」


「消えた」


***


「鐘」


「消えた」


***


「再確認」


「消えた」


***


「札」


「消えた」


***


「残った」


 ユイ。


「受領対象なし」


***


「それを」


 ダル。


「私は受け取りました」


***


「お前」


 ガル。


「受領対象なしって見た?」


「はい」


***


「設備不通」


「見ていません」


***


「何で」


「要約のみが外務へ届いたからです」


***


「誰が要約した」


***


 審査。


***


 リセ・ハーン


***


「本人」


「退職」


***


「でも」


 ガル。


「紙はある」


「はい」


***


「リセが悪い?」


***


 朔。


 すぐには答えない。


***


「要約で何を残し」


「はい」


「何を外したかは確認できます」


***


「理由」


「本人へ聞ける可能性があります」


***


「責任」


「リセさんだけにはしません」


***


「なぜ」


「詳細報告が別系統へ分かれ。要約だけで運用終了できる仕組みを。ダルさんたちが使っていました」


***


 ダル。


「はい」


***


「でも」


「要約した者の判断も。別に確認します」


***


 セラ。


 札。


 机。


***


「一枚」


 彼女。


「返します」


***


「どこへ」


 ルカ。


***


「保管記録へ」


***


「倉へ」


「戻しません」


***


「なぜ」


「当日。私が待っていたことを確認する物として。今の記録へ預けます」


***


「所有」


「私の物ではありません」


***


「制度の」


「備品です」


***


「では」


「本人保管から。共同記録保管へ移します」


***


「名前」


 ガル。


「付ける?」


***


「北二・灰札使用分」


 セラ。


***


「セラの札」


「違います」


***


「待ってた人の」


「私が使った札です」


***


「同じ?」


「違います」


***


 記録。


***


 受領札十二枚のうち、欠損二枚とされていた一枚を確認。


***


 使用者:北二・灰札。本人確認名は非公開。


***


 使用時刻:失踪当日、裏待機中。


***


 当該札は受領対象の到着、引き渡し、本人性を示さない。


***


「残り」


 ガル。


「一枚」


***


「未確認」


 ルカ。


***


「メルが」


 ガル。


 止まる。


***


「持った可能性」


***


「あります」


 朔。


***


「別の人」


「あります」


***


「紛失」


「あります」


***


「壊れた」


「あります」


***


「でも」


「一枚は。まだ空いています」


***


 ガル。


 頷く。


***


「セラさん」


 ネラ。


「当日。人を見ましたか」


***


「裏道で」


 セラ。


「一人」


***


 ガル。


 息。


***


「誰」


「確認していません」


***


「外見」


「暗い外套」


***


「青?」


「暗く。色は分かりませんでした」


***


「大きさ」


「私より。少し低い」


***


「髪」


「見ていません」


***


「靴」


「音だけ」


***


「方向」


「旧染料水路から。倉の裏へ」


***


「来た?」


「途中で。止まりました」


***


「距離」


「石道二十歩ほど」


***


「声」


「かけませんでした」


***


「なぜ」


「受領札を持つ者だけが。近づく手順だったからです」


***


「札」


「見えませんでした」


***


「その人」


「私を見たか。分かりません」


***


「戻った?」


「水路側へ。離れたように見えました」


***


「オウの白い衣」


「その直前に。倉の側面で見ました」


***


「だから」


 ガル。


「その人は」


***


「白い衣を見て。止まった可能性」


 朔。


「あります」


***


「メル」


「可能性があります」


***


「でも」


「本人確認はしていません」


***


「時刻」


 ネラ。


***


 セラ。


 記録。


***


 夕刻鐘。


 半刻ほど後。


***


「オウさん」


「倉で待機中です」


***


「青い外套の人物を」


 オウ。


「見失った後」


***


 時刻。


 近い。


***


「同じ人」


 ガル。


***


「可能性」


 朔。


***


「高い?」


***


 時間。


 場所。


 身長。


***


 オウが追った人物。


 青い外套。


 メルに似た横顔。


***


 セラが見た人物。


 色不明。


 少し低い。


 水路から倉裏へ。


***


「同一人物である可能性は」


 ネラ。


「具体的に検討できます」


***


「メル」


「オウさんが追った対象候補がメルさんである可能性と。別です」


***


「二つ」


「はい」


***


「同じ人か」


「未確認」


***


「その人がメルか」


「未確認」


***


「でも」


「北返二番倉の裏道へ。人が近づいた可能性があります」


***


「受け取る人」


 ガル。


「おった」


***


「はい」


 セラ。


「私はいました」


***


「受け取られた人」


***


 セラ。


 首。


 横。


***


「いません」


***


「確認した?」


 朔。


***


「私の位置まで来た人は。いませんでした」


***


「近づいた人」


「一人」


***


「本人が」


「受領対象かは分かりません」


***


「札」


「見ていません」


***


「名前」


「知りません」


***


 受け取る者。


 いた。


***


 受け取られる者。


 確認されていない。


***


 同じ場所。


 同じ時刻。


***


 正面。


 オウ。


***


 裏。


 セラ。


***


 水路。


 誰か。


***


 鐘。


 切れている。


***


 白い衣。


 見える。


***


 情報。


 分かれている。


***


 誰も。


 全体を。


 知らない。


***


「ダルさん」


 イサラ。


「受領準備済と。何を確認して書きましたか」


***


 ダル。


 指示書。


 見る。


***


「役務割当」


***


「本人の到着」


「確認していません」


***


「倉の設備」


「確認していません」


***


「鐘」


「確認していません」


***


「裏待機指示」


「受領担当側の文書にあることは。今知りました」


***


「オウさんの指示」


「正面呼鐘」


***


「セラさんの指示」


「裏待機。呼鐘一回で接近」


***


「同じ鐘」


「はい」


***


「切れていた」


「はい」


***


「では」


 ダル。


「私が受領準備済と書いた時。人の割当だけを確認し、人が到着したこと、互いの指示が接続すること、設備が動くことを確認していませんでした」


***


「何が準備済」


 ガル。


***


「紙の上で。役目が割り当て済みでした」


***


「場所」


「使用可能と記録されていました」


***


「実際」


「鐘は不通」


***


「人」


「裏に到着していました」


***


「でも」


「正面側は。知りませんでした」


***


「準備済」


「ではありませんでした」


***


 ダル。


 自分の紙。


***


 受領準備済


***


 線。


***


 読める。


***


 横。


***


 役務割当のみ確認。担当者到着、正面・裏面指示の接続、呼鐘設備、相互連絡を未確認。


***


 次。


***


 結果として、正面連絡員と裏待機者が同時刻に同じ倉へ存在しながら、互いを確認できなかった。


***


「同時刻」


 ネラ。


「記録上の重なりです」


***


 書き直す。


***


 記録上、重なる時間帯に同一倉の正面・裏へ存在した可能性が高い。


***


「長い」


 ダル。


***


「はい」


 ガル。


***


「短くしない」


「はい」


***


 公開記録。


***


 セラの名前。


 出さない。


***


 北二・灰札本人の同意を得て、当日証言の一部を公開。


***


 受領待機者は倉裏へ到着し、一刻以上待機したと証言。


***


 正面呼鐘を確認せず、対象候補を受領していない。


***


 正面側連絡員オウ・レクも同時間帯に倉内で待機したが、双方は互いの存在を確認していない。


***


 呼鐘縄は事前に摩耗報告があり、修理記録なし。


***


 当日、倉裏道へ人物一名が近づいたとの証言あり。人物の身元、受領対象該当性、メル・メナとの関係は未確認。


***


「受領者」


 グラド。


「いたと書けます」


***


「はい」


 朔。


***


「前話の記録」


「当日の受領待機者配置記録を確認できず、でした」


***


「訂正」


「追加します」


***


 前の記録。


***


 消さない。


***


 横。


***


 後日、本人の同意を得た秘匿記録開示および本人証言により、受領待機者一名が倉裏へ到着していた可能性が高いと確認。


***


「可能性」


 セラ。


「私は。いました」


***


 全員。


 彼女を見る。


***


「本人証言として」


 ネラ。


「到着を確認、と書きますか」


***


「はい」


***


「ほかの資料」


「帰着報告と。受領札があります」


***


「では」


***


 受領待機者本人の証言、当日帰着報告、使用受領札により、北二・灰札が倉裏へ到着し待機したことを確認。


***


「名前」


 一般公開には。


 ない。


***


 だが。


 人が。


 いたことは。


 消さない。


***


「秘密を」


 ユイ。


「守ったまま。人がいたって書ける?」


***


「はい」


 朔。


「どうして前は」


「名前を出すか。全部隠すかの二つにしていました」


***


「今は」


「本人の名を隠したまま。本人が許した行為を記録します」


***


「本物?」


 ガル。


「名前を知らん人が。読んだら」


***


「本人確認は」


 ネラ。


「私とノエさんとマレアさんが。別々に行いました」


***


「中央」


「封印記録で照合」


***


「公開する人」


「確認方法と。開示範囲を記録します」


***


「信じろ?」


「いいえ」


***


「では」


「名前を公開しないことで。確認できない部分が残ることも書きます」


***


 公開記録。


***


 本人の現在名および所在は、本人の不同意により非公開。


***


 本人性は、封印記録、帰着報告、受領札、複数確認者によって照合。一般閲覧者が本人へ直接照会することはできない。


***


「弱い」


 ガル。


「公開する証拠としては」


 朔。


「はい」


***


「でも」


「本人の安全を使って。強くしません」


***


「メルを探すためでも」


「はい」


***


 ガル。


 セラを見る。


***


「俺は」


「はい」


 セラ。


***


「名前を知った」


「この場では」


***


「誰かに」


「言わないでください」


***


「分かった」


***


「理由」


「聞かないでください」


***


 ガル。


 止まる。


***


「分かった」


***


 それだけ。


***


「メルを」


 彼。


「見たか」


***


「分かりません」


***


「でも」


「一人。見ました」


***


「また聞いていい?」


「記録した範囲なら」


***


「ありがとう」


***


 許し。


 ではない。


***


 借り。


 でもない。


***


 情報を。


 本人が決めた範囲で。


 受け取る。


***


「残りの札」


 ガル。


「一枚」


***


 机。


***


 十二。


***


 現存。


 十。


***


 セラの一枚。


 確認。


***


 まだ。


 一。


***


「倉裏へ来た人物が」


 ガル。


「持っていた可能性」


「あります」


 朔。


***


「落とした」


「あります」


***


「別の日」


「あります」


***


「数え間違い」


「あります」


***


「でも」


「探します」


***


「どこ」


「倉裏道。旧水路。受領札の廃棄記録。過去の利用者」


***


「ダル」


 ガル。


「誰を受け取るか。受領者は知らんかった」


「はい」


***


「オウは。誰が受け取るか知らんかった」


「はい」


***


「セラは。誰を受け取るか知らんかった」


「はい」


***


「メルは」


「制度を使う途中だった可能性」


***


「でも」


「誰へ会うか。知らされていなかった可能性があります」


***


「全員」


 ガル。


「知らんかった」


***


「必要以上に」


 ダル。


「情報を分けました」


***


「必要」


「追跡者から保護するため」


***


「以上」


「設備不通や未接触が起きた時に。誰も全体を照合できない程度まで」


***


「次」


 イサラ。


「秘匿をなくす?」


***


「いいえ」


 セラ。


***


 全員。


 彼女を見る。


***


「なくさないでください」


***


「なぜ」


 ガル。


「必要な人がいます」


***


「あなたも」


「はい」


***


「でも」


「秘密を守ることと。手順が成立しなかったことを隠すことは違います」


***


「どうする」


 朔。


***


 セラ。


 紙。


***


 一。


***


 受領者の名前。


 非公開。


***


 二。


***


 受領者が配置を受けたか。


 監査可能。


***


 三。


***


 現地へ到着したか。


 本人確認を分離して記録。


***


 四。


***


 設備が機能したか。


 公開可能。


***


 五。


***


 引き渡しが成立したか。


 名前なしでも確認。


***


 六。


***


 不成立時。


 秘匿情報を開かずに。


 再確認を要求できる。


***


 七。


***


 行方不明。


 身体危険。


 設備不通。


***


 その時だけ。


 本人へ。


 開示範囲を。


 改めて問う。


***


「あなたが」


 ダル。


「制度を」


***


「作り直す?」


 セラ。


***


 首。


 横。


***


「私は」


「はい」


「使った者として。必要なことを書きます」


***


「決める者」


「別です」


***


「でも」


「決める場へ。私の記録を出すことは許可します」


***


「名前」


「出しません」


***


「役務符号」


「はい」


***


 北二・灰札。


***


 人の名前ではない。


***


 だが。


 その符号の後ろへ。


 誰かの身体を。


 勝手に作らない。


***


 本人。


 いる。


***


 本人が。


 自分の名を。


 この場では。


 答えた。


***


 公開では。


 答えないと。


 選んだ。


***


 夕方。


 ガル。


 自分の紙。


***


 北返二番倉の受領待機者は、当日、倉裏へ到着していた。


***


 次。


***


 本人が証言し、当日帰着報告と受領札が確認された。


***


 次。


***


 本人の現在名と所在は、本人の希望により公開しない。


***


 次。


***


 受領待機者は正面呼鐘を聞かず、受領対象を確認していない。


***


 次。


***


 倉裏道へ一人が近づいたのを見たが、誰かは確認していない。


***


 止まる。


***


 最後。


***


 受け取る人は、いた。


***


 その下。


***


 受け取られた人は、まだ分からない。


***


 署名。


 ガル・メナ


***


 朔。


 隣。


***


 自分の記録。


***


 秘匿されていた受領待機者本人の同意を得て、当日の行動を確認した。


***


 本人名を公開しないため、一般閲覧者が本人へ直接照会できない限界がある。


***


 その限界を理由に、本人の安全を損なう開示は行わない。


***


 次。


***


 受領者の存在を秘匿したこと自体ではなく、不成立を名前なしで共有する手順がなかったことが、再確認を止めた。


***


 次。


***


 正面の連絡員と裏の受領待機者は、同じ場所にいた可能性が高い。


***


 切れた呼鐘、異なる指示書、直接接触禁止によって、互いを確認しなかった。


***


 次。


***


 倉裏へ近づいた人物が受領対象であったか、メル・メナさんであったかは未確認。


***


 最後。


***


 一枚の受領札の使用者が確認された。


***


 その札は、受領された人の名前を示さない。


***


 筆。


 止まる。


***


 秘密を。


 開けば。


 人が。


 見つかる。


***


 そう。


 思いやすい。


***


 だが。


 開いた先にいた人も。


 守られる必要がある。


***


 メルを。


 探すために。


 セラの過去を。


 道へ撒かない。


***


 名前を。


 閉じたまま。


***


 待っていた行為を。


 開く。


***


 名前を。


 閉じたまま。


***


 鐘が鳴らなかったことを。


 開く。


***


 名前を。


 閉じたまま。


***


 誰も受け取らなかったことを。


 開く。


***


 秘密は。


 全てを。


 隠すための蓋ではない。


***


 本人が。


 何を閉じ。


 何を開くか。


 選ぶための境界にもなる。


***


 一枚。


 受領札が。


 戻った。


***


 だが。


 札を持っていた者の。


 名前は。


 公開されなかった。


***


 それでも。


 待っていた身体が。


 一つ。


 あったことは。


 記録へ。


 戻った。


***


 残る札。


 一枚。


***


 倉裏へ。


 近づいた誰か。


 一人。


***


 同じ一。


***


 とは。


 まだ。


 しない。


***


 だが。


 名前を開かなければ。


 何も探せない。


 わけではなかった。


***


 閉じた名前の外で。


 確認できる行為を。


 一つずつ。


 道へ。


 戻した。

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