第九章 名前の先の道 ⑧ 靴を返した者
オウ・レクは。
白い衣を。
着ていなかった。
***
灰色。
短い外套。
***
泥。
裾。
***
年齢。
三十代後半。
***
髪。
後ろ。
短く結ぶ。
***
旧紙倉。
入口。
***
「オウ・レクです」
***
自分で。
名乗る。
***
中央塔外務。
保護経路連絡。
***
現在。
一時停止中。
***
「停止」
ガル・メナ。
「何をした」
***
「北東門周辺の保護経路記録に」
オウ。
「不一致が確認されたためです」
***
「メルの」
「関係する記録を含みます」
***
「お前」
ガル。
立っている。
***
机。
間。
***
「白い衣を。着てたか」
***
オウ。
止まらない。
「はい」
***
部屋。
静か。
***
「メルを」
ガル。
「追ったか」
***
「はい」
***
イサラ・ベルン。
壁際。
***
剣。
鞘。
***
手。
触れない。
***
「理由」
ネラ・ヴォス。
***
「一時保護相談を提出した者が」
オウ。
「指定した面談場所へ来なかったためです」
***
「本人と」
朔。
「確認しましたか」
「いいえ」
***
「では」
「メル・メナさんと思われる人物を。追いました」
***
「誰が」
ガル。
「メルやと」
「相談記録の外見欄」
「顔」
「正面からは確認していません」
***
「服」
「青い外套」
***
「靴」
「見ていません」
***
「歩き方」
「左肩が。少し上がっていました」
***
ガル。
眉。
動く。
***
「メルは」
「はい」
「荷物を右で持つと。左肩が上がる」
***
「記録します」
ネラ。
***
「だからメル?」
「可能性が増えます」
朔。
「確認ではありません」
***
ガル。
朔を見ない。
***
「分かっとる」
***
オウ。
机。
紙。
***
古い。
写し。
***
一時保護相談
***
申請者。
メル・メナ
***
相談。
***
北東区画で、白い衣の者に追われている気がする。
***
希望。
***
窓口への出入りを見られたくない。
***
家族への通知は、次回相談後に決めたい。
***
制服を着た者による同行を望まない。
***
「制服」
ガル。
「白い衣」
***
「はい」
オウ。
***
「それを読んで」
「はい」
「白い衣で追った」
「はい」
***
「何で」
***
オウ。
息。
浅く。
吸う。
***
「当時」
彼。
「私は。白い外套を制服ではなく。外務連絡員の識別具と考えていました」
***
「同じやろ」
ガル。
「はい」
***
「本人には」
「同じに見えた可能性があります」
***
「可能性?」
***
オウ。
ガルを見る。
***
「私が。相談記録にある白い衣の者だった可能性があります」
***
「お前や」
「そうかもしれません」
「追った」
「はい」
「白い衣」
「はい」
「じゃあ」
***
「彼女が」
オウ。
「最初に誰を恐れていたかは。確認できません」
***
ガル。
拳。
閉じる。
***
「逃げるな」
「逃げません」
オウ。
***
「守るため?」
「そう考えていました」
「なら」
「その意図は。本人が追われたと感じた可能性を消しません」
***
拳。
開かない。
***
だが。
ガルは。
前へ出ない。
***
「外務の手順」
ネラ。
「説明してください」
***
オウ。
別の紙。
***
見出し。
***
未接触見守り
***
「何」
ユイ。
***
「保護を求めた者が」
オウ。
「直接の同行を望まない場合。距離を置いて安全を確認する手順です」
***
「本人に」
ユイ。
「追うって言う?」
「面談で説明します」
「メルさんは」
「次回面談へ来ていません」
***
「じゃあ」
「説明していません」
***
「でも」
「実施しました」
***
「本人が」
ユイ。
「望んだ?」
「直接同行を望まないとは書かれています」
***
「追ってほしいとは」
「書かれていません」
***
「なら」
「本人の希望を。安全確認の必要へ読み替えました」
***
「誰が」
「当時の担当判断です」
***
「名前」
ネラ。
***
紙。
下。
***
担当判断:オウ・レク
***
「私です」
***
「上司」
「承認者はいます」
***
名前。
***
ダル・ケイン
***
現在。
中央塔外務。
***
「二人」
ガル。
「はい」
***
「メルは」
「同意していません」
***
未接触。
***
見守り。
***
追尾。
***
同じ行為へ。
異なる名前。
***
「今」
朔。
「何と呼びますか」
***
オウ。
少し。
考える。
***
「本人へ説明せずに。距離を置いて追った行為です」
***
「見守り?」
「私の意図を記録する時には」
「はい」
「追尾?」
「本人から見た可能性を含める時には」
***
「どっち」
ユイ。
「両方です」
***
「同じ欄へ」
ネラ。
「書きます」
***
オウ・レクは、保護目的と判断し、本人への説明・同意確認なく、白色外務外套を着用して対象候補を追尾した。
***
当該行為は、対象候補から追跡または監視として知覚された可能性がある。
***
「対象候補」
ガル。
「メル」
***
「顔を確認していません」
オウ。
***
「俺は」
ガル。
「メルやと思う」
「はい」
「お前は」
「メルさんである可能性が高いと考えています」
「なぜ」
「外見。時間。北東門の通過。相談記録。左肩の動き」
***
「高い」
朔。
「はい」
***
「でも」
「本人確認はしていません」
***
時刻。
***
失踪の日。
夕方。
***
オウ。
北東門の内側。
***
青い外套の人物。
見る。
***
門。
外へ。
***
「声を」
ネラ。
「かけましたか」
「いいえ」
「なぜ」
「窓口への出入りや。外務との接触を見られたくないと書かれていたためです」
***
「距離」
「荷車二台分」
***
「相手は」
「二度。後ろを見ました」
***
「顔」
「一度目は。外套の端」
「二度目」
「横顔」
***
「メルさんと」
「似ていました」
***
「追われてるって」
ガル。
「分かった?」
***
「歩行が速くなりました」
「それでも」
「追いました」
***
「何で」
「北返二番倉まで。安全を確認する予定でした」
***
「北返」
ルカ・フェン。
古い帳面。
開く。
***
北返
***
青。
薄い。
***
「二番倉」
「現在は使用停止」
オウ。
「当時は」
「一時保護の引き渡し地点として。臨時使用されていました」
***
「誰へ」
朔。
「第二担当者」
「名前」
***
オウ。
止まる。
***
「私は。知りません」
***
「担当なのに」
ガル。
「情報分離です」
***
「何」
ユイ。
***
「一人が」
オウ。
「相談者の出発地点と。到着地点の両方を知らないようにする仕組みです」
***
「どうして」
「追う者に捕まった時。全てを話せないように」
***
「守るため」
「はい」
***
「誰が引き受けたか」
「記録に名前を残さない?」
「受領印のみです」
***
「印」
ネラ。
***
オウ。
紙。
***
三本。
横線。
***
上。
三角。
***
返し口。
試験木片。
***
三角の端。
三本の溝。
***
同じ。
とは。
決められない。
***
「古い返し記号に」
ルカ。
「近い」
***
「現在の保護経路で」
ネラ。
「使った理由」
「旧資材路の記号を。流用していました」
オウ。
***
「誰が」
「制度設計者」
「名前」
「確認します」
***
「受領印」
ガル。
「返ってきた?」
***
「いいえ」
***
部屋。
止まる。
***
「じゃあ」
「引き渡しは確認していません」
***
「メルを」
「はい」
***
「誰にも」
「私の記録では。引き渡していません」
***
「どこで」
「旧染料水路の手前で。見失いました」
***
「穴」
「当時」
「崩れていました」
***
「見た?」
「外から」
***
「入った?」
「いいえ」
***
「メルは」
「青い外套の人物は。水路脇の倉の裏へ曲がりました」
***
「追った?」
「荷車が道を塞ぎました」
***
「誰の」
「染料袋を積んだ荷車」
「運んでいた人」
「確認していません」
***
「どれくらい」
「半刻より短い」
「長い」
リオ。
「人一人が。別の道へ消えるには十分や」
***
「はい」
オウ。
***
「荷車が動いた後」
「倉の裏へ」
「人」
「いませんでした」
「呼んだ?」
「呼びませんでした」
「なぜ」
「追跡者に位置を知らせる可能性を考えました」
***
「お前が」
ガル。
「追跡者やったかもしれん」
***
「はい」
***
「穴」
「外から確認しました」
「足跡」
「複数ありました」
***
「細い靴」
「覚えていません」
***
「布」
「青い布が。石にかかっていたように見えました」
***
全員。
オウを見る。
***
「取った?」
「いいえ」
「なぜ」
「本人の物か。染め場の端布か分からなかったため」
***
「記録」
「していません」
***
「今になって」
ガル。
「思い出した?」
「今回の青色布片記録を読み」
***
「記憶が」
ネラ。
「現在の情報に影響された可能性」
「あります」
オウ。
***
「当時」
「青い何かを見た記憶はあります」
「布」
「そう思っていました」
「メルの」
「思っていませんでした」
***
「今は」
「関係する可能性を考えています」
***
記録。
***
オウ・レクは、失踪当日、旧染料水路脇崩落部付近に青色の布様物を見たと現在申告。
***
当時記録なし。今回発見された布片の情報が、現在の記憶へ影響した可能性あり。
***
「その後」
ネラ。
***
「北返二番倉へ」
オウ。
「行きました」
「メル」
「いませんでした」
「第二担当者」
「いませんでした」
「受領印」
「なし」
***
「待った」
「一刻」
***
「探した」
「倉の周囲のみ」
「水路」
「戻りませんでした」
***
「なぜ」
「私がいることで。本人が近づけない可能性を考えました」
***
「お前が帰れば」
ガル。
「来ると思った?」
「はい」
***
「来たか」
「確認していません」
***
「何で」
「翌朝。受領記録を確認する予定でした」
***
「受領は」
「ありませんでした」
***
「なら」
「はい」
***
「探した?」
***
オウ。
黙る。
***
「探していません」
***
ガル。
一歩。
***
イサラ。
動かない。
***
ガル。
止まる。
***
「なぜ」
***
「返し箱に」
オウ。
「仮作業靴と見られる一組がありました」
***
「靴」
「はい」
***
「メルの」
「その時は。相談者へ貸し出された物と考えました」
***
「誰が入れた」
「確認していません」
「なのに」
「本人が保護相談を中止し、貸与品を返した可能性が高いと考えました」
***
「帰ったって」
「帰ったとは。考えていません」
***
「じゃあ」
「自分で別の場所へ移動したと」
***
「安全?」
「確認していません」
***
「なのに」
「私の担当を終了しました」
***
「靴が」
「戻ったからです」
***
部屋。
静か。
***
古い帳面。
***
人の帰還と……を同じにせず。
***
欠けた場所。
***
靴。
と。
埋めない。
***
だが。
同じ失敗が。
今。
名前を持って。
座っている。
***
「返し箱から」
朔。
「靴を出したのは」
「私です」
***
「箱へ入れた者」
「分かりません」
***
「靴直しへ運んだ」
「私です」
***
「返却帳へ」
「記入しました」
***
「何と」
ネラ。
***
オウ。
古い紙。
***
原記録。
***
返し箱内、細型・三斜溝・三号靴一組。左右紐色相違。青灰付着。投入者未確認。借用者との対応未確認。
***
「これ」
ガル。
「残ってた?」
「外務の個人控えです」
***
「公的記録」
***
翌朝まとめ。
***
細型三号一組返却
***
次。
保護相談索引。
***
貸与品返却確認
***
さらに。
三日後。
***
相談終了
***
「終了」
ガル。
***
「誰が」
ネラ。
***
担当。
***
ダル・ケイン
***
承認。
***
オウ・レク
***
「お前」
「はい」
***
「終わらせた」
「はい」
***
「メルが」
「本人の安全を確認せずに。相談記録を終了しました」
***
「なぜ」
「相談終了を。保護成立ではなく、外務対応の終了と考えていました」
***
「書いた人は」
「本人が相談を撤回したと読んだ可能性があります」
***
「確認」
「していません」
***
「見た?」
朔。
「この索引を」
「三日後に」
***
「訂正」
「しませんでした」
「なぜ」
「貸与品が返り、受領印がなく、本人も再来しなかったため。本人が外務を避ける選択をしたと考えました」
***
「考えた」
「はい」
「本人へ」
「確認していません」
***
「家族」
ガル。
「知らせなかった」
「家族通知は次回相談後に決めたいとありました」
***
「次回」
「ありませんでした」
***
「だから」
「通知しませんでした」
***
「失踪」
「北東門外へ出た記録は。門側にありました」
***
「繋げなかった」
「はい」
***
「何で」
「保護相談は秘匿区分でした」
***
「守るため」
「はい」
***
「探せなくした」
「はい」
***
情報分離。
***
家族通知保留。
***
未接触見守り。
***
返却物確認。
***
相談終了。
***
一つずつ。
守る理由がある。
***
重なる。
***
一人が。
消える。
***
「秘密にしたことが」
ユイ。
「悪い?」
***
「一つでは」
オウ。
「ありません」
***
「では」
「秘密にした情報を。危険が生じた時に誰が繋ぐかを決めていませんでした」
***
「誰も」
「全体を知らないようにした」
***
「はい」
「誰も」
「全体を探せませんでした」
***
「はい」
***
ガル。
座らない。
***
「お前が」
「はい」
「返した者?」
***
オウ。
靴の記録を見る。
***
「私は」
彼。
「返し箱から靴を取り出し。靴直しへ運びました」
***
「箱へ返した者」
「違います」
「メルを返した者」
「違います」
「メルを帰した者」
「違います」
***
「なら」
「返された靴を。次の場所へ運んだ者です」
***
「長い」
ユイ。
***
「はい」
***
「短くすると」
「靴を返した者になります」
***
「違う?」
「私が箱へ入れたように見えます」
***
「じゃあ」
ユイ。
「短くしない」
***
「はい」
***
記録。
***
返し箱への投入者:未確認。
***
返し箱からの回収者:オウ・レク。
***
返し箱から靴直しへの運搬者:オウ・レク。
***
借用者本人への返却:該当せず。
***
借用者本人の帰還・安全:未確認。
***
「名前」
ガル。
「一個。埋まった」
***
「はい」
朔。
「返し箱から出した者」
「オウ」
「箱へ入れた者」
「空白」
「メルを見失った者」
「オウ」
***
「追った者」
「オウさん本人が。自分の行為として認めました」
***
「助けようとした者」
「オウさんの意図として記録します」
***
「怖がらせた者」
「メルさん本人には確認できていません」
***
「可能性」
「はい」
***
「全部」
「同じ人にあります」
***
ガル。
オウを見る。
***
「謝る?」
オウ。
すぐに。
「はい」
***
「何に」
***
「本人への説明なく追ったこと」
***
「はい」
***
「白い衣を着たまま。恐れを増やした可能性」
***
「はい」
***
「見失った後。受領確認がないまま、靴の返却を本人の選択へ結び付けたこと」
***
「はい」
***
「相談終了の索引へ異議を出さなかったこと」
***
「はい」
***
「メルさんが」
オウ。
「今。どこにいるかを知らないこと」
***
「それは」
ガル。
「謝ること?」
***
オウ。
止まる。
***
「知ろうとしなかったことを」
***
ガル。
拳。
見る。
***
開く。
***
「俺に」
彼。
「謝っても。メルには届かん」
***
「はい」
***
「でも」
「はい」
***
「聞いた」
***
許した。
とは。
言わない。
***
許さない。
とも。
まだ。
言わない。
***
「次」
イサラ。
「北返二番倉を確認します」
***
「中央の許可」
グラド。
「現行の地上道から。外観と記録を確認します」
***
「旧経路」
「入りません」
***
「オウさん」
朔。
「案内できますか」
「はい」
***
「白い外套」
ガル。
「着る?」
***
オウ。
「当時の条件を再現するなら」
「着ません」
朔。
***
「なぜ」
「人を。追われる側へ置く試験にしません」
***
「誰かを」
「メルさんに見立てません」
***
「オウさんの服装が」
「当時の記録として必要なら。外套そのものを確認します」
***
「現物」
「中央保管にあります」
***
「持っていく?」
ガル。
***
「今の地上道確認には」
イサラ。
「必要ありません」
***
「でも」
「白い衣が現地の痕跡と関係する可能性を調べる場合は。別に目的と条件を決めます」
***
「今日は」
「北返二番倉の位置、地上経路、受領印の痕跡、当日の記録を確認します」
***
「メルを」
「呼びません」
***
「人がいたら」
「身体危険の確認として呼びかけます」
***
「オウ」
ガル。
「行く?」
「はい」
「理由」
「自分が見失った後の道を。今度は記録を残して確認するためです」
***
「ほか」
「責任を。案内役という新しい役目で消さないため」
***
「どうする」
「追尾記録と。終了承認を。同行記録にも付けます」
***
オウ・レク。
***
案内者。
***
同時に。
当時。
本人へ説明なく。
白い衣で。
対象候補を追った者。
***
どちらも。
同じ紙。
***
夕方。
相談終了。
取り消し。
***
削除。
しない。
***
線。
一つ。
***
読めるまま。
***
横。
***
本人の相談撤回・安全・保護成立を確認せずに終了処理。
***
次。
***
行方不明記録との照合を再開。
***
次。
***
北返二番倉への引き渡し未確認。受領者未確認。
***
承認。
***
オウ・レク。
***
ダル・ケイン。
中央へ。
訂正要求。
***
「終わってない」
ユイ。
「はい」
ネラ。
***
「前は」
「終了と書かれました」
「今」
「終了処理が誤っていたと書きました」
***
「相談は」
「本人が。続けたいか確認できません」
***
「じゃあ」
「終了とも。継続とも。本人の希望としては決めません」
***
「記録は」
「再開します」
***
「人は」
「まだ見つかっていません」
***
ガル。
自分の紙。
***
新しい行。
***
オウ・レクは、失踪当日、メルと思われる青い外套の者を、本人への説明なく白い外套で追った。本人確認はしていない。
***
次。
***
旧染料水路付近で見失い、北返二番倉への引き渡しを確認していない。
***
次。
***
失踪翌朝、返し箱から特徴の近い仮靴一組を回収し、靴直しへ運んだ。箱へ入れた者は分からない。
***
次。
***
靴が返ったことを理由の一つとして、本人の安全を確認せず、相談終了を承認した。
***
ガル。
止まる。
***
最後。
***
オウが靴を運んだことを、オウがメルを帰したことにはしない。
***
その下。
***
メルが靴を返したことにも、まだしない。
***
署名。
ガル・メナ
***
夜。
朔。
原記録。
短い索引。
終了札。
並べる。
***
投入者未確認。
***
借用者との対応未確認。
***
細型三号一組返却。
***
貸与品返却確認。
***
相談終了。
***
言葉が。
短くなるたび。
空白が。
消えた。
***
最後。
人まで。
記録から。
消えた。
***
オウの名前が。
空白へ。
一つ。
入った。
***
返し箱から。
靴を出した者。
***
靴直しへ。
運んだ者。
***
相談終了へ。
異議を出さなかった者。
***
だが。
箱へ入れた者の名は。
まだ。
空いている。
***
北返二番倉で。
受け取るはずだった者の名も。
空いている。
***
青い外套の人物が。
本当にメルだったかも。
まだ。
空いている。
***
名前が。
一つ分かったから。
全てが。
その人の行為にはならない。
***
オウは。
追った。
***
見失った。
***
靴を運んだ。
***
記録を終わらせた。
***
その一つずつへ。
自分の名前を。
置いた。
***
だから。
彼の名を。
靴を箱へ入れた者にまでは。
広げなかった。
***
翌朝。
北返二番倉へ。
地上の道を。
歩く。
***
メルを。
追った時と。
同じではない。
***
今度は。
誰を追うか。
隠さない。
***
何を確認するか。
先に書く。
***
行く者の。
名前を。
本人が。
答える。
***
返した者の名が。
一つ。
分かった。
***
それでも。
返された人の名は。
まだ。
書けなかった。




