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117/150

第九章 名前の先の道 ⑦ 返された靴


 雨の翌朝。


 元の痕跡は。


 半分ほど。


 形を失っていた。


***


 細い先。


 ない。


***


 三本の斜め溝。


 一つ。


 残る。


***


 横傷。


 水の跡と。


 重なっている。


***


 白い型。


 箱。


***


 雨の前に。


 取った形。


***


 元の地面ではない。


***


 だが。


 今。


 元の地面より。


 多くを残している。


***


「残った」


 ガル・メナ。


「はい」


 ネラ・ヴォス。


***


「元は」


「変わりました」


***


「型が」


「代わり?」


***


「代わりにはしません」


 朔。


「では」


「接触した時点の形を。一部持つ記録です」


***


 ガル。


 白い型を見る。


***


「足跡が消えたら」


「型だけが残ります」


「なら」


「型を。元の足跡としては扱いません」


***


「面倒やな」


「はい」


***


「でも」


 ガル。


「前より分かる」


***


 同じ朝。


 仮靴を。


 以前履いた者が。


 旧紙倉へ来た。


***


 トエ・ラン。


***


 治療側の。


 帰還確認を担った女。


***


 右腕。


 籠。


***


 ナフ・オル。


***


 染め場の運搬人。


***


 背。


 高い。


***


 左肩。


 少し。


 下がっている。


***


 エダ・セルク。


***


 昨日から。


 続けている。


***


 靴直し。


 オダ・ヘン。


***


 貸出帳。


 返し箱帳。


 修理帳。


***


 三冊。


***


「まず」


 ネラ。


「同じ靴を履いた、と書かれている三人へ確認します」


***


「同じ靴?」


 トエ。


「帳面では」


「はい」


「実際に同じ一組?」


「まだ確認していません」


***


「私は」


 トエ。


「細い型の三号を借りました」


「三斜溝」


「はい」


「個体」


「見分けていません」


***


「三号は」


 朔。


「一つの靴を示しますか」


***


 オダ。


 帳面。


 見る。


***


「足の大きさ」


***


 部屋。


 静か。


***


「個体番号では」


 ネラ。


「ない?」


「違う」


 オダ。


「細型。底は斜め三本。大きさ三号」


***


「同じ表記の靴」


 ガル。


「何組」


***


 オダ。


 指。


 折る。


***


「当時」


「六か。七」


「どっち」


「一組。修理中やった」


***


「では」


 朔。


「貸出帳で同じ表記でも。同じ一組とは限らない」


「はい」


 ネラ。


***


 同じ名前。


 別の人。


***


 同じ型。


 別の靴。


***


 同じ帳面の文字。


 別の物。


***


「昨日」


 ガル。


「同じ靴を。複数の人が履いたって」


「はい」


 朔。


「今は」


「同じ表記の。別の靴だった可能性も増えました」


***


「減った?」


「同じ一組を共有したと確認できる範囲が。減りました」


***


「足跡」


「同じ型に近いことは変わりません」


***


「メル」


「失踪時に。同じ型の仮靴を借りた可能性が高いことも」


***


「でも」


「どの一組かを。帳面の三号だけでは分けられません」


***


 ガル。


 帳面を見る。


***


 細型・三斜溝・三号


***


 一つの名前に。


 見える。


***


 だが。


 六か。


 七。


***


「番号」


 ユイ。


 机の端。


「人の順番じゃなくても。物を一つにする?」


***


「今回は」


 ネラ。


「大きさの区分を。個体の番号と読んでいました」


「誰が」


「私たちです」


***


「帳面を書いた人」


「大きさとして使っていました」


***


「じゃあ」


「書いた側の意味と。読んだ側の意味が違いました」


***


 記録。


***


 貸出帳の「三号」は靴の大きさ区分であり、個体識別番号ではない。


***


 同表記の貸出記録のみでは、同一の一組が複数人へ渡ったことを確認できない。


***


「では」


 ネラ。


「個別に分けられる特徴を確認します」


***


 オダ。


 紙。


***


「メルさんへ渡した靴」


「踵」


「はい」


***


 内側。


 半月形。


 革。


***


 左。


 厚い。


***


 右。


 薄い。


***


「両方?」


「左だけ補強」


***


「前は」


 ガル。


「踵の内側って」


「左の靴」


***


「理由」


「中の革が剥がれとった」


***


「外から」


「見えにくい」


「足跡」


「踵が残れば。底の釘が少し出るかもしれん」


***


「今回」


 白い型。


***


 踵。


 ない。


***


「比べられません」


 ネラ。


***


「ほか」


「紐」


 オダ。


「片方。違う色」


「何色」


「灰と。薄茶」


***


「布の外から」


「見える」


***


「貸した時」


「はい」


***


「返した時」


 ガル。


「見た?」


***


 オダ。


 止まる。


***


「返した時は」


「はい」


「俺が受け取ってへん」


***


「返却欄」


 ネラ。


***


 空白。


***


「戻っていない?」


 ガル。


「まだ」


 朔。


***


「返し箱」


 トエ・ランが言う。


***


「何」


「夜に靴直しが閉まっていたら。工房の返し箱へ入れます」


***


「帳面」


「朝。箱を運ぶ人が数える」


***


「誰が返したか」


「書かない日もあります」


***


「私は」


 トエ。


「直接返した記憶がありません」


「では」


「箱へ入れたと思います」


「思う」


「はい」


「いつ」


「治療所へ戻る前」


***


「返却欄」


「後で工房の人が書いたはず」


***


「誰が」


「分かりません」


***


「署名」


「していません」


***


「では」


 ユイ。


「返した人が書いてないのに。返したことになる?」


***


「箱に」


 トエ。


「靴があれば」


***


「誰の靴」


「型と数で」


***


「誰が返したか」


「分からない」


***


「誰が借りてたか」


「貸出帳」


***


「つなぐ?」


「朝の数が合えば」


***


 数。


 同じ。


***


 靴。


 同じとは。


 限らない。


***


「返却欄の空白は」


 ネラ。


「本人が返していないことを示しますか」


「示しません」


 トエ。


***


「返し箱から戻ったが。貸出記録へ結び付けられなかった可能性」


「あります」


***


「では」


 ガル。


「メルが返した可能性も」


「あります」


 朔。


***


「誰かが。代わりに返した」


「あります」


「返してない」


「あります」


***


「靴だけ戻った」


「あります」


***


 ガル。


 最後の言葉を。


 見るように。


 止まる。


***


「靴だけ」


***


「はい」


***


「人が戻らず」


「はい」


***


 古い帳面。


***


 欠けた文。


***


 人の帰還と……を同じにせず。


***


 空白。


***


 靴。


 とは。


 書かれていない。


***


 それでも。


 今。


 近くに。


 置ける意味がある。


***


「埋める?」


 ユイ。


「何を」


「欠けたところに。荷とか。靴って」


***


「埋めません」


 朔。


「でも」


「今の出来事を。隣へ書きます」


***


 古い文は。


 古い文のまま。


***


 新しい紙。


***


 仮靴の返却と、借用者本人の帰還を同じにしない。


***


「メルさんのこと?」


 ユイ。


「今回の調査で使う原則です」


***


「古い人が」


「同じことを書いたとは決めません」


***


 返し箱帳。


 開く。


***


 失踪の日。


***


 夕方。


***


 返却。


***


 細型三号。


 二組。


***


 翌朝。


***


 細型三号。


 一組。


***


「一組」


 ガル。


***


「はい」


 ネラ。


***


「メルが借りた靴?」


「個体を分けていません」


***


「ほかに」


「同日。細型三号を借りていた者」


***


 帳面。


***


 三人。


***


 メル・メナ。


***


 ナフ・オル。


***


 セト・バン


***


「俺」


 ナフ。


***


「返した?」


「覚えてる」


「いつ」


「翌朝」


「返し箱?」


「直接」


***


「誰へ」


「オダさんの弟子」


***


「名前」


「もうおらん」


***


「記録」


 返却欄。


***


 ナフ・オル。


***


 返


***


「では」


 ネラ。


「翌朝の返し箱一組は。ナフさんの物ではない可能性が高い」


「はい」


***


「セト・バン」


 返却欄。


***


 返し箱


***


「本人へ」


「確認します」


***


「なら」


 ガル。


「残り」


***


「メルさんの仮靴である可能性があります」


 朔。


***


「高い?」


***


 同日。


 三人。


***


 一人。


 直接返却記録。


***


 一人。


 返し箱記録。


***


 一人。


 空白。


***


 翌朝。


 返し箱。


 一組。


***


「数だけなら」


 ネラ。


「メルさんの仮靴と対応させられます」


***


「でも」


「個体を確認していません」


「誰が入れたか」


「未確認」


「いつ」


「夜から翌朝まで」


「メルが」


「返した可能性」


「ほかの人が」


「返した可能性」


「別の細型三号」


「数え間違い、別の貸出、記録漏れの可能性」


***


「増える」


 ガル。


***


「はい」


***


「でも」


「翌朝。同じ型の一組が返し箱から回収されたことは確認できます」


***


「靴の紐」


 ナフ。


「違う色やった」


***


 全員。


 ナフを見る。


***


「何を」


 ガル。


「翌朝の箱」


***


「見た?」


「俺が運んだ」


***


「返し箱を」


「染め場から。靴直しへ」


***


「中」


「細型。大きいの。子ども用。いくつか」


***


「違う紐」


「一足。灰と薄茶」


***


 オダ。


 顔を上げる。


***


「半月の補強」


「中までは見てへん」


「靴」


「泥。青い粉」


***


「青」


 ガル。


***


「はい」


***


「木片の」


「同じかは分からん」


***


「どこに」


「靴の外側。踵と。紐」


***


「濡れていた?」


「湿っとった」


「雨」


「前の夜は降ってへん」


***


「水路」


 ガル。


「可能性」


 朔。


***


「染め場の床」


 エダ。


「それでも付く」


***


「返し箱」


 ネラ。


「どこに置かれていましたか」


「いつもの場所」


 ナフ。


「どこ」


「工房裏。旧水路の手前」


***


「誰でも」


「入れられる」


***


「門」


「なし」


***


「箱の蓋」


「閉まってた」


「鍵」


「ない」


***


「靴を見た時」


 ナフ。


「メルさんを知っていましたか」


「名前は」


「失踪を」


「その朝。聞いた」


***


「靴を」


「メルさんの物だと思った?」


「後で」


***


「その時は」


「返された靴」


***


「今」


 ネラ。


「記憶が。失踪の話に影響されている可能性」


「あります」


 ナフ。


***


「紐の色」


「後からオダさんに。メルへ貸した靴は紐が違うと聞いた」


「いつ」


「何日か後」


***


「では」


「見た時から覚えていたのか。後の話でそう思ったのか。分けられません」


***


「青い粉」


「染め場の靴には。よく付く」


***


「湿り」


「朝露。水路。洗い場。どれもある」


***


 有力。


 に見えた。


***


 すぐ。


 複数へ。


 戻る。


***


「それでも」


 ガル。


「ナフは。一組を見た」


「はい」


「違う色の紐かもしれない」


「はい」


「青い粉」


「はい」


「翌朝」


「はい」


***


「それだけ」


「はい」


***


 ナフ。


 左肩。


 下がる。


***


「俺」


 彼。


「その靴を。後で履いたかもしれん」


***


「何」


 ガル。


***


「一月くらい後」


「はい」


「自分の靴が。染液で駄目になった」


「貸出」


***


 帳面。


***


 ナフ・オル。


***


 同じ型。


***


 細型。


 三斜溝。


 三号。


***


「違う紐」


「覚えてる」


「今回は」


「履いたから」


***


「左」


「薄茶」


「右」


「灰」


***


 オダ。


「俺が直した可能性がある」


***


「踵」


 ナフ。


「左だけ。中が硬かった」


***


 半月補強。


***


「同じ一組」


 ガル。


***


 止まる。


***


「メルに貸した靴と。同じ特徴がある一組を。ナフが後で履いた」


***


「はい」


 ネラ。


「個体が同じである可能性は高まりました」


***


「返ってた」


***


「靴は」


 朔。


「はい」


***


「メルは」


「それでは分かりません」


***


 ガル。


 目。


 閉じる。


***


「靴だけ」


「はい」


***


「戻った」


「返し箱へ戻った可能性が高い」


***


「誰が」


「分かりません」


***


「メルが履いて」


「失踪の二日前に借りた記録があります」


***


「翌朝」


「特徴の近い靴が返し箱にあり」


***


「一月後」


「ナフさんが特徴の近い一組を借りた」


***


「ナフ」


 ガル。


「どこへ行った」


***


「染料水路」


 ナフ。


***


 部屋。


 止まる。


***


「どの」


「北東門外。古い槽の方」


***


「穴」


「崩れた壁の近くまで」


***


「いつ」


「借りた翌日」


***


「何を」


「藍灰の袋を。古い倉へ運んだ」


***


「足跡」


 ガル。


「俺かもしれん」


 ナフ。


***


「靴は」


「同じ一組の可能性」


***


「場所」


「近い」


***


「時期」


「メルさん失踪の。一月後」


***


「痕跡が」


 ガド。


「一月後の物でも。屋根下なら残る可能性はある」


***


「ナフさん」


 朔。


「穴へ向かって立ちましたか」


「はい」


「入りましたか」


「入ってへん」


「足を」


「右足を前へ」


***


「痕跡」


 片足。


***


 方向。


 穴側に。


 見える。


***


「荷物」


「右肩」


「地面」


「濡れてた」


「滑った?」


「少し」


***


「左側の沈み」


「分からん」


***


 ナフ。


 自分の歩き方。


 思い出す。


***


「右足を前に出して。袋を下ろした」


***


「痕跡は」


 朔。


「右か左か確認できていますか」


***


 白い型。


***


 先。


 細い。


***


 左右。


 判断。


 できない。


***


「三斜溝」


 どちらも。


 同じ。


***


「では」


 ネラ。


「ナフさんの足跡である可能性」


「あります」


***


「高い?」


 ガル。


***


 場所。


 靴。


 時期。


 行為。


***


「以前より」


 朔。


「具体的な可能性です」


***


「メルより」


***


 朔。


 すぐには答えない。


***


「メルさんは。同じ型の仮靴を失踪時に使用していた可能性」


「はい」


「ナフさんは。特徴が近い靴を履き、後日その場所へ行った申告」


「はい」


「ナフさんの方が」


「現地へ行ったことについて。本人の申告があります」


***


「足跡が」


「ナフさんの物である可能性は。具体的に確認できます」


***


「メルの可能性」


「消えません」


***


「でも」


「足跡だけを。メルさんへ結び付ける根拠は弱くなりました」


***


 ガル。


 白い型を見る。


***


 昨日まで。


 姉が。


 穴へ入ったかもしれない形。


***


 今日。


 荷物を運んだ男が。


 一月後に立ったかもしれない形。


***


 同じ形。


***


 名前が。


 替わる。


***


 どちらも。


 まだ。


 入らない。


***


「嫌やな」


 ガル。


***


「はい」


 朔。


***


「でも」


 ガル。


 止まる。


***


「ナフが。ここへ来たことを。消したらあかん」


***


「はい」


***


「メルだけを。置くために」


「はい」


***


「ナフ」


 ガル。


「足跡。お前のって書いていい?」


***


「俺のかもしれん」


 ナフ。


「俺のとは。書かんといて」


***


「どうして」


「覚えてるだけや」


「でも来た」


「はい」


「同じ靴」


「可能性」


***


「じゃあ」


 ガル。


「ナフが。同じ特徴の靴で。穴の近くに立ったと書く」


***


「はい」


 ナフ。


***


「足跡は」


「誰のか未確認」


***


「はい」


***


 記録。


***


 ナフ・オルは、メル・メナ失踪の約一月後、左踵内側補強および左右で異なる色の紐を持つ細型・三斜溝・三号靴を借用したと申告。


***


 当該特徴は、オダ・ヘンがメル・メナへ貸し出したと記憶する仮靴の特徴と近い。


***


 ナフ・オルは借用翌日、北東門外旧染料水路脇へ藍灰袋を運び、崩落部付近で一方の足を穴側へ置いたと申告。


***


 発見靴底様痕跡をナフ・オルのものと確認していない。


***


「メル」


 ガル。


「同じ紙?」


***


「同じ痕跡へ関係する情報として」


 ネラ。


「はい」


***


 メル・メナは失踪の二日前、同型の仮靴一組を借用した記録がある。失踪翌朝、同型で特徴の近い一組が返し箱にあった可能性が高い。返却者は未確認。


***


 発見痕跡の形成時期は未確認であり、メル・メナ失踪前後、ナフ・オル訪問時、その他の時期のいずれとも確定していない。


***


「同じ紙」


 ガル。


「はい」


***


「一つの足跡に」


「複数の可能性」


***


「どっちかを消さん」


「はい」


***


 返し箱。


 現物。


***


 染料工房裏。


***


 古い。


 木。


***


 蓋。


 重い。


***


 鍵。


 ない。


***


 底。


 青。


***


「当時と」


 ナフ。


「同じ箱」


***


「位置」


「少し動いた」


「どこから」


「壁際から。今は水路側」


***


「誰が」


「分からん」


***


「箱の下」


 ガド。


***


 石。


***


 細い溝。


***


 返し口記号に。


 近い印。


***


「また」


 ガル。


「返し」


***


「はい」


 朔。


***


 箱。


 底。


***


 板。


 一枚。


 新しい。


***


「修理」


 エダ。


「いつ」


「去年」


***


「その前」


「底に。穴があった」


***


「穴」


「小さい。靴は落ちへん」


「何が」


「水。粉」


***


「下」


 ガド。


 箱。


 動かさない。


***


 鏡。


 差し入れる。


***


 石溝。


***


 旧水路方向。


***


「靴を」


 ガル。


「ここへ入れたら」


「箱に残る」


 エダ。


「底穴からは通らん」


***


「でも」


「粉と水は。溝へ落ちる」


***


「青い粉」


「靴に付いたものが。箱へ。箱から溝へ」


***


「返路の木片」


「返し口へ青を持ってきた」


***


 線。


 また。


 引ける。


***


 返し箱。


 青い粉。


 溝。


 返し口。


 返路。


***


「木片の青は」


 ガル。


「この箱から?」


***


「可能性」


 朔。


***


「メルの工房ではなく」


「箱の底に残った。複数の靴や染め場の粉かもしれません」


***


「どっちも」


「あります」


***


「増える」


「はい」


***


 ガル。


 笑わない。


***


 怒らない。


***


 箱を見る。


***


「靴が戻って」


「はい」


「粉が落ちて」


「はい」


「道を通って」


「それは未確認です」


***


「木片へ付いた」


「可能性」


***


「メルが」


 ガル。


 止まる。


***


「いなくても。青は戻る」


***


「はい」


***


 青。


 メルの色。


 ではない。


***


 染め場で。


 複数の手。


 複数の布。


 複数の靴に。


 付く。


***


 同じ青。


 別の物。


***


 同じ靴。


 別の足。


***


 同じ返し箱。


 別の返却者。


***


「じゃあ」


 ガル。


「メルの道が。消えた?」


***


「消えていません」


 朔。


「どこに」


***


 貸出記録。


***


 一時保護相談。


***


 北東門。


***


 薬草採取。


***


 返却者不明の靴。


***


 青い外套という。


 レムの記憶。


***


「足跡と。青い粉だけが」


 朔。


「メルさん一人のものではなくなりました」


***


「前から」


「はい」


「俺が」


「一人へ近づけていました」


***


 ガル。


 頷く。


***


「嫌や」


「はい」


***


「でも」


「はい」


***


「消えたんやなく」


「分けられました」


***


 昼。


 セト・バン。


 来る。


***


 細い男。


 片目。


 赤い。


***


「返し箱」


 ネラ。


「失踪翌朝の前夜。同型靴を返した記録があります」


「はい」


***


「自分で」


「箱へ」


「時刻」


「夜。鐘の後」


「靴」


「紐」


「同じ色」


***


「左踵」


「覚えてへん」


***


「では」


「翌朝の特徴の近い靴が。セトさんの物である可能性」


「ある」


***


「返却欄」


「返し箱」


「はい」


***


「メルさん」


「会ってへん」


「白い外套」


「見てへん」


「箱」


「蓋を開けた」


「中」


「ほかの靴はなかったと思う」


***


「思う」


「暗かった」


***


「靴を入れた後」


「蓋を閉めた」


***


「朝」


 ナフ。


「複数入ってた」


***


「なら」


 ガル。


「夜の後。誰かが入れた」


「可能性」


 朔。


***


「セトが見落とした」


「可能性」


「夜より前に。底へ重なってた」


「可能性」


「帳面の数え間違い」


「可能性」


***


「また」


「はい」


***


「でも」


「夜から朝までに。返し箱の中身が増えた可能性があります」


***


「誰か」


「未確認」


***


 返した者。


***


 靴を。


 箱へ。


 入れた者。


***


 本人か。


 家族か。


 工房の者か。


 知らない者か。


***


「箱を」


 イサラ。


「夜間に見た人」


***


 染め場。


 夜番。


***


 帳面。


***


 オウ・レク


***


 ガル。


 紙。


 見る。


***


 北東門。


 メルの失踪と。


 同じ時間帯。


***


 所属不明。


 中央塔外務の。


 一時通行札。


***


「夜番?」


 ネラ。


「作業員としてではありません」


***


「何」


 エダ。


「外務立会」


***


「誰の」


 帳面。


***


 返却物確認


***


「返却物」


 ガル。


「何を」


***


 その欄。


 空白。


***


「オウ・レク」


「はい」


 ネラ。


「現在地」


「中央塔へ照会中」


***


「同じ男」


「北東門を。メルさんと近い時間帯に通った記録があります」


***


「追ってた」


「確認されていません」


***


「返し箱を」


「見た可能性」


***


「靴を」


「入れた可能性も。見ただけの可能性もあります」


***


「メルの」


「まだ」


***


 ガル。


 息。


***


「分かっとる」


***


 今度。


 止められる前に。


 自分で。


***


「オウ・レクに聞く」


「はい」


***


「靴を見たか」


「はい」


「誰が入れたか」


「はい」


「メルを見たか」


「はい」


「白い外套」


「本人の服装も」


***


「追ってたか」


「その問いも」


***


「答え」


「記録します」


***


 ガル。


 自分の紙。


***


 新しい行。


***


 失踪翌朝、メルへ貸し出した仮靴と特徴の近い一組が、返し箱にあった可能性が高い。


***


 次。


***


 同型靴は複数組あり、同夜にセト・バンが一組を返し箱へ入れた。


***


 次。


***


 セトが入れた時点では、ほかの靴がなかったと本人は記憶している。ただし暗く、確認は十分ではない。翌朝は複数の靴があった。


***


 次。


***


 同夜、オウ・レクが返却物確認の立会者として染め場にいた記録がある。


***


 止まる。


***


 その下。


***


 靴が返されたことを、メルが返したことにはしない。


***


 次。


***


 靴が返されたことを、メルが帰ったことにはしない。


***


 署名。


 ガル・メナ


***


「二つ」


 ユイ。


「何が違う?」


***


「返した」


 ガル。


「行為」


「帰った」


「人」


***


「誰かが」


「靴を返した」


***


「メルが」


「帰ったとは分からん」


***


「メルが返した?」


「それも分からん」


***


 古い帳面。


***


 人の帰還と……を同じにせず。


***


 欠けたまま。


***


 埋めない。


***


 その隣。


 ガルの紙。


***


 靴が。


 戻った可能性。


***


 人が。


 戻っていない事実。


***


 夕方。


 白い型。


 返し箱帳。


 貸出帳。


 修理帳。


 夜番帳。


***


 足跡。


 靴。


 借りた者。


 返した者。


 運んだ者。


 立ち会った者。


***


 一つの形へ。


 複数の名前。


***


 朔。


 自分の記録。


***


 発見靴底様痕跡は、メル・メナが失踪時に使用していた可能性のある仮靴と、型特徴が近い。


***


 当該仮靴と特徴の近い一組は、失踪翌朝に返し箱から回収された可能性が高い。


***


 その約一月後、ナフ・オルが特徴の近い一組を借り、痕跡発見場所付近へ行ったと申告した。


***


 次。


***


 発見痕跡は、メルさん、ナフさん、同型靴を使用した別人、歩行以外の形成原因のいずれとも確定していない。


***


 次。


***


 同じ表記の靴が複数組あり、貸出帳の「三号」は個体番号ではなく大きさ区分だった。


***


 次。


***


 失踪翌朝に靴が返し箱へ戻った可能性は、借用者本人が返したこと、本人が工房へ戻ったこと、本人が生存していたことの確認ではない。


***


 次。


***


 同夜の返却物確認立会記録に、オウ・レクの名がある。本人への聞き取りを行う。


***


 最後。


***


 足跡から、一人の名前を外した。


***


 筆。


 止まる。


***


 消した。


 のではない。


***


 メルの可能性。


 残る。


***


 ナフの可能性。


 加わる。


***


 同じ型の靴を履いた。


 ほかの者。


***


 歩いた跡ではない可能性。


***


 一つの形に。


 一つの名前だけを。


 入れない。


***


 代わりに。


 靴の方へ。


 道が伸びた。


***


 貸出。


***


 修理。


***


 返し箱。


***


 運搬。


***


 夜番。


***


 オウ・レク。


***


 靴は。


 返事をしない。


***


 誰が履いたか。


 誰が脱いだか。


 誰が箱へ入れたか。


 自分では言わない。


***


 だが。


 人より長く。


 複数の足を。


 覚えていることがある。


***


 同じ靴が。


 メルの足を。


 通った可能性。


***


 ナフの足を。


 通った可能性。


***


 別の者の手で。


 返し箱へ入った可能性。


***


 靴が戻った。


***


 それだけでは。


 人は。


 戻らない。


***


 だから。


 ガルは。


 返された靴へ。


 姉の名前を。


 付けなかった。


***


 代わりに。


 返した者の名が。


 まだ空いていることを。


 そのまま。


 残した。

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