第九章 名前の先の道 ⑦ 返された靴
雨の翌朝。
元の痕跡は。
半分ほど。
形を失っていた。
***
細い先。
ない。
***
三本の斜め溝。
一つ。
残る。
***
横傷。
水の跡と。
重なっている。
***
白い型。
箱。
***
雨の前に。
取った形。
***
元の地面ではない。
***
だが。
今。
元の地面より。
多くを残している。
***
「残った」
ガル・メナ。
「はい」
ネラ・ヴォス。
***
「元は」
「変わりました」
***
「型が」
「代わり?」
***
「代わりにはしません」
朔。
「では」
「接触した時点の形を。一部持つ記録です」
***
ガル。
白い型を見る。
***
「足跡が消えたら」
「型だけが残ります」
「なら」
「型を。元の足跡としては扱いません」
***
「面倒やな」
「はい」
***
「でも」
ガル。
「前より分かる」
***
同じ朝。
仮靴を。
以前履いた者が。
旧紙倉へ来た。
***
トエ・ラン。
***
治療側の。
帰還確認を担った女。
***
右腕。
籠。
***
ナフ・オル。
***
染め場の運搬人。
***
背。
高い。
***
左肩。
少し。
下がっている。
***
エダ・セルク。
***
昨日から。
続けている。
***
靴直し。
オダ・ヘン。
***
貸出帳。
返し箱帳。
修理帳。
***
三冊。
***
「まず」
ネラ。
「同じ靴を履いた、と書かれている三人へ確認します」
***
「同じ靴?」
トエ。
「帳面では」
「はい」
「実際に同じ一組?」
「まだ確認していません」
***
「私は」
トエ。
「細い型の三号を借りました」
「三斜溝」
「はい」
「個体」
「見分けていません」
***
「三号は」
朔。
「一つの靴を示しますか」
***
オダ。
帳面。
見る。
***
「足の大きさ」
***
部屋。
静か。
***
「個体番号では」
ネラ。
「ない?」
「違う」
オダ。
「細型。底は斜め三本。大きさ三号」
***
「同じ表記の靴」
ガル。
「何組」
***
オダ。
指。
折る。
***
「当時」
「六か。七」
「どっち」
「一組。修理中やった」
***
「では」
朔。
「貸出帳で同じ表記でも。同じ一組とは限らない」
「はい」
ネラ。
***
同じ名前。
別の人。
***
同じ型。
別の靴。
***
同じ帳面の文字。
別の物。
***
「昨日」
ガル。
「同じ靴を。複数の人が履いたって」
「はい」
朔。
「今は」
「同じ表記の。別の靴だった可能性も増えました」
***
「減った?」
「同じ一組を共有したと確認できる範囲が。減りました」
***
「足跡」
「同じ型に近いことは変わりません」
***
「メル」
「失踪時に。同じ型の仮靴を借りた可能性が高いことも」
***
「でも」
「どの一組かを。帳面の三号だけでは分けられません」
***
ガル。
帳面を見る。
***
細型・三斜溝・三号
***
一つの名前に。
見える。
***
だが。
六か。
七。
***
「番号」
ユイ。
机の端。
「人の順番じゃなくても。物を一つにする?」
***
「今回は」
ネラ。
「大きさの区分を。個体の番号と読んでいました」
「誰が」
「私たちです」
***
「帳面を書いた人」
「大きさとして使っていました」
***
「じゃあ」
「書いた側の意味と。読んだ側の意味が違いました」
***
記録。
***
貸出帳の「三号」は靴の大きさ区分であり、個体識別番号ではない。
***
同表記の貸出記録のみでは、同一の一組が複数人へ渡ったことを確認できない。
***
「では」
ネラ。
「個別に分けられる特徴を確認します」
***
オダ。
紙。
***
「メルさんへ渡した靴」
「踵」
「はい」
***
内側。
半月形。
革。
***
左。
厚い。
***
右。
薄い。
***
「両方?」
「左だけ補強」
***
「前は」
ガル。
「踵の内側って」
「左の靴」
***
「理由」
「中の革が剥がれとった」
***
「外から」
「見えにくい」
「足跡」
「踵が残れば。底の釘が少し出るかもしれん」
***
「今回」
白い型。
***
踵。
ない。
***
「比べられません」
ネラ。
***
「ほか」
「紐」
オダ。
「片方。違う色」
「何色」
「灰と。薄茶」
***
「布の外から」
「見える」
***
「貸した時」
「はい」
***
「返した時」
ガル。
「見た?」
***
オダ。
止まる。
***
「返した時は」
「はい」
「俺が受け取ってへん」
***
「返却欄」
ネラ。
***
空白。
***
「戻っていない?」
ガル。
「まだ」
朔。
***
「返し箱」
トエ・ランが言う。
***
「何」
「夜に靴直しが閉まっていたら。工房の返し箱へ入れます」
***
「帳面」
「朝。箱を運ぶ人が数える」
***
「誰が返したか」
「書かない日もあります」
***
「私は」
トエ。
「直接返した記憶がありません」
「では」
「箱へ入れたと思います」
「思う」
「はい」
「いつ」
「治療所へ戻る前」
***
「返却欄」
「後で工房の人が書いたはず」
***
「誰が」
「分かりません」
***
「署名」
「していません」
***
「では」
ユイ。
「返した人が書いてないのに。返したことになる?」
***
「箱に」
トエ。
「靴があれば」
***
「誰の靴」
「型と数で」
***
「誰が返したか」
「分からない」
***
「誰が借りてたか」
「貸出帳」
***
「つなぐ?」
「朝の数が合えば」
***
数。
同じ。
***
靴。
同じとは。
限らない。
***
「返却欄の空白は」
ネラ。
「本人が返していないことを示しますか」
「示しません」
トエ。
***
「返し箱から戻ったが。貸出記録へ結び付けられなかった可能性」
「あります」
***
「では」
ガル。
「メルが返した可能性も」
「あります」
朔。
***
「誰かが。代わりに返した」
「あります」
「返してない」
「あります」
***
「靴だけ戻った」
「あります」
***
ガル。
最後の言葉を。
見るように。
止まる。
***
「靴だけ」
***
「はい」
***
「人が戻らず」
「はい」
***
古い帳面。
***
欠けた文。
***
人の帰還と……を同じにせず。
***
空白。
***
靴。
とは。
書かれていない。
***
それでも。
今。
近くに。
置ける意味がある。
***
「埋める?」
ユイ。
「何を」
「欠けたところに。荷とか。靴って」
***
「埋めません」
朔。
「でも」
「今の出来事を。隣へ書きます」
***
古い文は。
古い文のまま。
***
新しい紙。
***
仮靴の返却と、借用者本人の帰還を同じにしない。
***
「メルさんのこと?」
ユイ。
「今回の調査で使う原則です」
***
「古い人が」
「同じことを書いたとは決めません」
***
返し箱帳。
開く。
***
失踪の日。
***
夕方。
***
返却。
***
細型三号。
二組。
***
翌朝。
***
細型三号。
一組。
***
「一組」
ガル。
***
「はい」
ネラ。
***
「メルが借りた靴?」
「個体を分けていません」
***
「ほかに」
「同日。細型三号を借りていた者」
***
帳面。
***
三人。
***
メル・メナ。
***
ナフ・オル。
***
セト・バン
***
「俺」
ナフ。
***
「返した?」
「覚えてる」
「いつ」
「翌朝」
「返し箱?」
「直接」
***
「誰へ」
「オダさんの弟子」
***
「名前」
「もうおらん」
***
「記録」
返却欄。
***
ナフ・オル。
***
返
***
「では」
ネラ。
「翌朝の返し箱一組は。ナフさんの物ではない可能性が高い」
「はい」
***
「セト・バン」
返却欄。
***
返し箱
***
「本人へ」
「確認します」
***
「なら」
ガル。
「残り」
***
「メルさんの仮靴である可能性があります」
朔。
***
「高い?」
***
同日。
三人。
***
一人。
直接返却記録。
***
一人。
返し箱記録。
***
一人。
空白。
***
翌朝。
返し箱。
一組。
***
「数だけなら」
ネラ。
「メルさんの仮靴と対応させられます」
***
「でも」
「個体を確認していません」
「誰が入れたか」
「未確認」
「いつ」
「夜から翌朝まで」
「メルが」
「返した可能性」
「ほかの人が」
「返した可能性」
「別の細型三号」
「数え間違い、別の貸出、記録漏れの可能性」
***
「増える」
ガル。
***
「はい」
***
「でも」
「翌朝。同じ型の一組が返し箱から回収されたことは確認できます」
***
「靴の紐」
ナフ。
「違う色やった」
***
全員。
ナフを見る。
***
「何を」
ガル。
「翌朝の箱」
***
「見た?」
「俺が運んだ」
***
「返し箱を」
「染め場から。靴直しへ」
***
「中」
「細型。大きいの。子ども用。いくつか」
***
「違う紐」
「一足。灰と薄茶」
***
オダ。
顔を上げる。
***
「半月の補強」
「中までは見てへん」
「靴」
「泥。青い粉」
***
「青」
ガル。
***
「はい」
***
「木片の」
「同じかは分からん」
***
「どこに」
「靴の外側。踵と。紐」
***
「濡れていた?」
「湿っとった」
「雨」
「前の夜は降ってへん」
***
「水路」
ガル。
「可能性」
朔。
***
「染め場の床」
エダ。
「それでも付く」
***
「返し箱」
ネラ。
「どこに置かれていましたか」
「いつもの場所」
ナフ。
「どこ」
「工房裏。旧水路の手前」
***
「誰でも」
「入れられる」
***
「門」
「なし」
***
「箱の蓋」
「閉まってた」
「鍵」
「ない」
***
「靴を見た時」
ナフ。
「メルさんを知っていましたか」
「名前は」
「失踪を」
「その朝。聞いた」
***
「靴を」
「メルさんの物だと思った?」
「後で」
***
「その時は」
「返された靴」
***
「今」
ネラ。
「記憶が。失踪の話に影響されている可能性」
「あります」
ナフ。
***
「紐の色」
「後からオダさんに。メルへ貸した靴は紐が違うと聞いた」
「いつ」
「何日か後」
***
「では」
「見た時から覚えていたのか。後の話でそう思ったのか。分けられません」
***
「青い粉」
「染め場の靴には。よく付く」
***
「湿り」
「朝露。水路。洗い場。どれもある」
***
有力。
に見えた。
***
すぐ。
複数へ。
戻る。
***
「それでも」
ガル。
「ナフは。一組を見た」
「はい」
「違う色の紐かもしれない」
「はい」
「青い粉」
「はい」
「翌朝」
「はい」
***
「それだけ」
「はい」
***
ナフ。
左肩。
下がる。
***
「俺」
彼。
「その靴を。後で履いたかもしれん」
***
「何」
ガル。
***
「一月くらい後」
「はい」
「自分の靴が。染液で駄目になった」
「貸出」
***
帳面。
***
ナフ・オル。
***
同じ型。
***
細型。
三斜溝。
三号。
***
「違う紐」
「覚えてる」
「今回は」
「履いたから」
***
「左」
「薄茶」
「右」
「灰」
***
オダ。
「俺が直した可能性がある」
***
「踵」
ナフ。
「左だけ。中が硬かった」
***
半月補強。
***
「同じ一組」
ガル。
***
止まる。
***
「メルに貸した靴と。同じ特徴がある一組を。ナフが後で履いた」
***
「はい」
ネラ。
「個体が同じである可能性は高まりました」
***
「返ってた」
***
「靴は」
朔。
「はい」
***
「メルは」
「それでは分かりません」
***
ガル。
目。
閉じる。
***
「靴だけ」
「はい」
***
「戻った」
「返し箱へ戻った可能性が高い」
***
「誰が」
「分かりません」
***
「メルが履いて」
「失踪の二日前に借りた記録があります」
***
「翌朝」
「特徴の近い靴が返し箱にあり」
***
「一月後」
「ナフさんが特徴の近い一組を借りた」
***
「ナフ」
ガル。
「どこへ行った」
***
「染料水路」
ナフ。
***
部屋。
止まる。
***
「どの」
「北東門外。古い槽の方」
***
「穴」
「崩れた壁の近くまで」
***
「いつ」
「借りた翌日」
***
「何を」
「藍灰の袋を。古い倉へ運んだ」
***
「足跡」
ガル。
「俺かもしれん」
ナフ。
***
「靴は」
「同じ一組の可能性」
***
「場所」
「近い」
***
「時期」
「メルさん失踪の。一月後」
***
「痕跡が」
ガド。
「一月後の物でも。屋根下なら残る可能性はある」
***
「ナフさん」
朔。
「穴へ向かって立ちましたか」
「はい」
「入りましたか」
「入ってへん」
「足を」
「右足を前へ」
***
「痕跡」
片足。
***
方向。
穴側に。
見える。
***
「荷物」
「右肩」
「地面」
「濡れてた」
「滑った?」
「少し」
***
「左側の沈み」
「分からん」
***
ナフ。
自分の歩き方。
思い出す。
***
「右足を前に出して。袋を下ろした」
***
「痕跡は」
朔。
「右か左か確認できていますか」
***
白い型。
***
先。
細い。
***
左右。
判断。
できない。
***
「三斜溝」
どちらも。
同じ。
***
「では」
ネラ。
「ナフさんの足跡である可能性」
「あります」
***
「高い?」
ガル。
***
場所。
靴。
時期。
行為。
***
「以前より」
朔。
「具体的な可能性です」
***
「メルより」
***
朔。
すぐには答えない。
***
「メルさんは。同じ型の仮靴を失踪時に使用していた可能性」
「はい」
「ナフさんは。特徴が近い靴を履き、後日その場所へ行った申告」
「はい」
「ナフさんの方が」
「現地へ行ったことについて。本人の申告があります」
***
「足跡が」
「ナフさんの物である可能性は。具体的に確認できます」
***
「メルの可能性」
「消えません」
***
「でも」
「足跡だけを。メルさんへ結び付ける根拠は弱くなりました」
***
ガル。
白い型を見る。
***
昨日まで。
姉が。
穴へ入ったかもしれない形。
***
今日。
荷物を運んだ男が。
一月後に立ったかもしれない形。
***
同じ形。
***
名前が。
替わる。
***
どちらも。
まだ。
入らない。
***
「嫌やな」
ガル。
***
「はい」
朔。
***
「でも」
ガル。
止まる。
***
「ナフが。ここへ来たことを。消したらあかん」
***
「はい」
***
「メルだけを。置くために」
「はい」
***
「ナフ」
ガル。
「足跡。お前のって書いていい?」
***
「俺のかもしれん」
ナフ。
「俺のとは。書かんといて」
***
「どうして」
「覚えてるだけや」
「でも来た」
「はい」
「同じ靴」
「可能性」
***
「じゃあ」
ガル。
「ナフが。同じ特徴の靴で。穴の近くに立ったと書く」
***
「はい」
ナフ。
***
「足跡は」
「誰のか未確認」
***
「はい」
***
記録。
***
ナフ・オルは、メル・メナ失踪の約一月後、左踵内側補強および左右で異なる色の紐を持つ細型・三斜溝・三号靴を借用したと申告。
***
当該特徴は、オダ・ヘンがメル・メナへ貸し出したと記憶する仮靴の特徴と近い。
***
ナフ・オルは借用翌日、北東門外旧染料水路脇へ藍灰袋を運び、崩落部付近で一方の足を穴側へ置いたと申告。
***
発見靴底様痕跡をナフ・オルのものと確認していない。
***
「メル」
ガル。
「同じ紙?」
***
「同じ痕跡へ関係する情報として」
ネラ。
「はい」
***
メル・メナは失踪の二日前、同型の仮靴一組を借用した記録がある。失踪翌朝、同型で特徴の近い一組が返し箱にあった可能性が高い。返却者は未確認。
***
発見痕跡の形成時期は未確認であり、メル・メナ失踪前後、ナフ・オル訪問時、その他の時期のいずれとも確定していない。
***
「同じ紙」
ガル。
「はい」
***
「一つの足跡に」
「複数の可能性」
***
「どっちかを消さん」
「はい」
***
返し箱。
現物。
***
染料工房裏。
***
古い。
木。
***
蓋。
重い。
***
鍵。
ない。
***
底。
青。
***
「当時と」
ナフ。
「同じ箱」
***
「位置」
「少し動いた」
「どこから」
「壁際から。今は水路側」
***
「誰が」
「分からん」
***
「箱の下」
ガド。
***
石。
***
細い溝。
***
返し口記号に。
近い印。
***
「また」
ガル。
「返し」
***
「はい」
朔。
***
箱。
底。
***
板。
一枚。
新しい。
***
「修理」
エダ。
「いつ」
「去年」
***
「その前」
「底に。穴があった」
***
「穴」
「小さい。靴は落ちへん」
「何が」
「水。粉」
***
「下」
ガド。
箱。
動かさない。
***
鏡。
差し入れる。
***
石溝。
***
旧水路方向。
***
「靴を」
ガル。
「ここへ入れたら」
「箱に残る」
エダ。
「底穴からは通らん」
***
「でも」
「粉と水は。溝へ落ちる」
***
「青い粉」
「靴に付いたものが。箱へ。箱から溝へ」
***
「返路の木片」
「返し口へ青を持ってきた」
***
線。
また。
引ける。
***
返し箱。
青い粉。
溝。
返し口。
返路。
***
「木片の青は」
ガル。
「この箱から?」
***
「可能性」
朔。
***
「メルの工房ではなく」
「箱の底に残った。複数の靴や染め場の粉かもしれません」
***
「どっちも」
「あります」
***
「増える」
「はい」
***
ガル。
笑わない。
***
怒らない。
***
箱を見る。
***
「靴が戻って」
「はい」
「粉が落ちて」
「はい」
「道を通って」
「それは未確認です」
***
「木片へ付いた」
「可能性」
***
「メルが」
ガル。
止まる。
***
「いなくても。青は戻る」
***
「はい」
***
青。
メルの色。
ではない。
***
染め場で。
複数の手。
複数の布。
複数の靴に。
付く。
***
同じ青。
別の物。
***
同じ靴。
別の足。
***
同じ返し箱。
別の返却者。
***
「じゃあ」
ガル。
「メルの道が。消えた?」
***
「消えていません」
朔。
「どこに」
***
貸出記録。
***
一時保護相談。
***
北東門。
***
薬草採取。
***
返却者不明の靴。
***
青い外套という。
レムの記憶。
***
「足跡と。青い粉だけが」
朔。
「メルさん一人のものではなくなりました」
***
「前から」
「はい」
「俺が」
「一人へ近づけていました」
***
ガル。
頷く。
***
「嫌や」
「はい」
***
「でも」
「はい」
***
「消えたんやなく」
「分けられました」
***
昼。
セト・バン。
来る。
***
細い男。
片目。
赤い。
***
「返し箱」
ネラ。
「失踪翌朝の前夜。同型靴を返した記録があります」
「はい」
***
「自分で」
「箱へ」
「時刻」
「夜。鐘の後」
「靴」
「紐」
「同じ色」
***
「左踵」
「覚えてへん」
***
「では」
「翌朝の特徴の近い靴が。セトさんの物である可能性」
「ある」
***
「返却欄」
「返し箱」
「はい」
***
「メルさん」
「会ってへん」
「白い外套」
「見てへん」
「箱」
「蓋を開けた」
「中」
「ほかの靴はなかったと思う」
***
「思う」
「暗かった」
***
「靴を入れた後」
「蓋を閉めた」
***
「朝」
ナフ。
「複数入ってた」
***
「なら」
ガル。
「夜の後。誰かが入れた」
「可能性」
朔。
***
「セトが見落とした」
「可能性」
「夜より前に。底へ重なってた」
「可能性」
「帳面の数え間違い」
「可能性」
***
「また」
「はい」
***
「でも」
「夜から朝までに。返し箱の中身が増えた可能性があります」
***
「誰か」
「未確認」
***
返した者。
***
靴を。
箱へ。
入れた者。
***
本人か。
家族か。
工房の者か。
知らない者か。
***
「箱を」
イサラ。
「夜間に見た人」
***
染め場。
夜番。
***
帳面。
***
オウ・レク
***
ガル。
紙。
見る。
***
北東門。
メルの失踪と。
同じ時間帯。
***
所属不明。
中央塔外務の。
一時通行札。
***
「夜番?」
ネラ。
「作業員としてではありません」
***
「何」
エダ。
「外務立会」
***
「誰の」
帳面。
***
返却物確認
***
「返却物」
ガル。
「何を」
***
その欄。
空白。
***
「オウ・レク」
「はい」
ネラ。
「現在地」
「中央塔へ照会中」
***
「同じ男」
「北東門を。メルさんと近い時間帯に通った記録があります」
***
「追ってた」
「確認されていません」
***
「返し箱を」
「見た可能性」
***
「靴を」
「入れた可能性も。見ただけの可能性もあります」
***
「メルの」
「まだ」
***
ガル。
息。
***
「分かっとる」
***
今度。
止められる前に。
自分で。
***
「オウ・レクに聞く」
「はい」
***
「靴を見たか」
「はい」
「誰が入れたか」
「はい」
「メルを見たか」
「はい」
「白い外套」
「本人の服装も」
***
「追ってたか」
「その問いも」
***
「答え」
「記録します」
***
ガル。
自分の紙。
***
新しい行。
***
失踪翌朝、メルへ貸し出した仮靴と特徴の近い一組が、返し箱にあった可能性が高い。
***
次。
***
同型靴は複数組あり、同夜にセト・バンが一組を返し箱へ入れた。
***
次。
***
セトが入れた時点では、ほかの靴がなかったと本人は記憶している。ただし暗く、確認は十分ではない。翌朝は複数の靴があった。
***
次。
***
同夜、オウ・レクが返却物確認の立会者として染め場にいた記録がある。
***
止まる。
***
その下。
***
靴が返されたことを、メルが返したことにはしない。
***
次。
***
靴が返されたことを、メルが帰ったことにはしない。
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署名。
ガル・メナ
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「二つ」
ユイ。
「何が違う?」
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「返した」
ガル。
「行為」
「帰った」
「人」
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「誰かが」
「靴を返した」
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「メルが」
「帰ったとは分からん」
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「メルが返した?」
「それも分からん」
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古い帳面。
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人の帰還と……を同じにせず。
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欠けたまま。
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埋めない。
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その隣。
ガルの紙。
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靴が。
戻った可能性。
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人が。
戻っていない事実。
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夕方。
白い型。
返し箱帳。
貸出帳。
修理帳。
夜番帳。
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足跡。
靴。
借りた者。
返した者。
運んだ者。
立ち会った者。
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一つの形へ。
複数の名前。
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朔。
自分の記録。
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発見靴底様痕跡は、メル・メナが失踪時に使用していた可能性のある仮靴と、型特徴が近い。
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当該仮靴と特徴の近い一組は、失踪翌朝に返し箱から回収された可能性が高い。
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その約一月後、ナフ・オルが特徴の近い一組を借り、痕跡発見場所付近へ行ったと申告した。
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次。
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発見痕跡は、メルさん、ナフさん、同型靴を使用した別人、歩行以外の形成原因のいずれとも確定していない。
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次。
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同じ表記の靴が複数組あり、貸出帳の「三号」は個体番号ではなく大きさ区分だった。
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次。
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失踪翌朝に靴が返し箱へ戻った可能性は、借用者本人が返したこと、本人が工房へ戻ったこと、本人が生存していたことの確認ではない。
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次。
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同夜の返却物確認立会記録に、オウ・レクの名がある。本人への聞き取りを行う。
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最後。
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足跡から、一人の名前を外した。
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筆。
止まる。
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消した。
のではない。
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メルの可能性。
残る。
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ナフの可能性。
加わる。
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同じ型の靴を履いた。
ほかの者。
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歩いた跡ではない可能性。
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一つの形に。
一つの名前だけを。
入れない。
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代わりに。
靴の方へ。
道が伸びた。
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貸出。
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修理。
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返し箱。
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運搬。
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夜番。
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オウ・レク。
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靴は。
返事をしない。
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誰が履いたか。
誰が脱いだか。
誰が箱へ入れたか。
自分では言わない。
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だが。
人より長く。
複数の足を。
覚えていることがある。
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同じ靴が。
メルの足を。
通った可能性。
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ナフの足を。
通った可能性。
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別の者の手で。
返し箱へ入った可能性。
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靴が戻った。
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それだけでは。
人は。
戻らない。
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だから。
ガルは。
返された靴へ。
姉の名前を。
付けなかった。
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代わりに。
返した者の名が。
まだ空いていることを。
そのまま。
残した。




