第八章 起きている名前 ⑬ 呼ばなかった名前
中央塔からの返答は。
夜半を過ぎて。
届いた。
***
封。
銀。
***
前の命令書より。
薄い紙。
***
だが。
文字は。
増えていた。
***
見出し。
***
旧搬入口・対話可能性確認任務に関する実施条件変更通知
***
「変更」
イサラ・ベルン。
最初の一行を読む。
***
関係者から提出された構造・音響確認案を、第一段階として採用する。
***
次。
***
第一段階において意味を有する音声様反応、名称様反応、黒色人影様輪郭その他の対象反応が確認された場合、第二段階として呼名手順を実施する。
***
「実施する」
朔。
「誰の判断で」
グラドが。
下を見る。
***
現地統括判断者
勇者候補第一位 イサラ・ベルン
***
「また」
ユイが言った。
「第一位」
***
イサラ。
紙を。
机へ置く。
***
「私は」
彼女。
「第一段階の中止判断には参加すると書きました」
「はい」
アナ。
「第二段階への移行を」
「認めたとは書いていません」
***
次。
***
第一呼名者が拒否または実施不能の場合、現地統括補佐または中央塔派遣員が規定文を代読する。
***
「私の声がなくても」
イサラ。
「私の肩書きで呼ぶ?」
***
呼名文。
変更なし。
***
勇者候補第一位、イサラ・ベルンが命じる。ヴァルハ、姿を示せ。
***
「代読者が」
朔。
「イサラさんが命じる、と読む」
「はい」
セオ。
***
「本人が拒否していても」
「中央は」
グラド。
「役職上の命令として扱っています」
***
「役職」
エリオ・レイス。
「本人から切り離せると?」
***
次。
***
補助呼名・反応知覚担当が拒否または実施不能の場合、呼名内容の読み上げおよび反応記録は中央派遣記録官が行う。
***
「俺の代わり」
朔。
「ではありません」
「中央は」
セオ。
「機能の代替と考えています」
***
「俺の知覚も」
「記録官の知覚へ置き換えられるとは書いていません」
「では」
「呼名補助という役目だけを。切り離しています」
***
次。
***
浄化・退路確保担当については、旧勇者候補第二位相当の能力を有するエリオ・レイスを優先する。本人拒否時は同等能力者を派遣する。
***
「相当」
エリオ。
「また残っています」
***
「中央は」
グラド。
「現在の呼称ではなく。能力分類として使用したと考えられます」
「能力と」
エリオ。
「第二位は同じではありません」
***
「でも」
ユイ。
「同じ人を呼んでる」
「はい」
エリオ。
***
名前。
肩書き。
能力。
役目。
***
切り離したように書き。
必要な時だけ。
同じ人へ戻す。
***
最後。
***
第二段階への移行を拒否する場合、拒否者名、理由、代替手順、予想される遅延および危険を記録し、中央判断を待つ。
***
「待つ」
イサラ。
「現場で反応が起きている間に?」
「はい」
グラド。
***
「中央判断が来るまで」
「第二段階を保留」
「対象が近づいたら」
「中止条件に従う」
「人が押し寄せたら」
「現場安全」
「黒くなったら」
「退避」
***
「なら」
イサラ。
「呼名をしなくても。現場判断で退避できる」
「はい」
「第二段階へ進む義務は」
「反応が確認された場合」
「誰が。意味のある反応と決める」
***
紙。
余白。
***
書かれていない。
***
「また」
朔。
「返事と思った者が。返事を確認したことになる」
***
「では」
イサラ。
「第一段階を実施する前に。意味のある反応の判断を決める」
***
「誰か一人?」
ユイ。
「しません」
朔。
***
名前に聞こえた。
命令に聞こえた。
返事に聞こえた。
***
それだけで。
第二段階へ。
移らない。
***
仮条件。
***
意味を有する音声様反応を一名以上が知覚した場合、第二段階へ移行せず、第一段階を中止して退出する。
***
「意味があったら」
グラド。
「対話を続けない?」
「はい」
朔。
「なぜ」
「今日の目的は。名前を呼ばない状態での構造と音の確認です」
***
「応答可能性を」
「見つけても」
「使わない?」
「その場では」
***
「機会」
イサラ。
「逃す可能性があります」
「はい」
「それでも」
彼女は。
止まる。
***
「私も。中止に賛成します」
***
「なぜ」
グラド。
「意味を聞いたと感じた者が。その場で次の問いを作るからです」
***
イサラ。
自分の紙へ書く。
***
意味のある反応を確認したから中止するのではない。参加者が意味を知覚し、事前に定めた構造確認の範囲を超えるため中止する。
***
「確認した」
と。
書かない。
***
知覚した。
***
その夜。
全員。
眠らなかった。
わけではない。
***
イサラ。
二刻。
寝た。
***
エリオ。
三刻。
***
ノエ。
交代で。
四刻。
***
朔は。
寝台へ入った。
***
目を閉じた時間。
分からない。
***
朝。
身体。
起きている。
***
眠ったか。
眠っていないか。
感覚だけでは。
決めない。
***
マレア。
呼吸。
脈。
目。
***
「参加できますか」
「はい」
「頭痛」
「なし」
「昨日の音を」
「思い出します」
「それでも」
「はい」
***
「途中で」
「止められます」
「自分で?」
「言える状態なら」
「言えない時」
「身体の変化を見てください」
***
中止の合図。
手。
二度。
胸。
***
声が。
出ない時。
***
テオの。
石と布を。
同じ意味で。
借りない。
***
朔が。
今回。
選んだ動き。
***
右手で。
左胸を。
二度。
***
「誰でも同じ?」
ユイ。
「違います」
朔。
「サクの今日の止める?」
「はい」
***
イサラ。
左手。
開く。
下へ。
***
エリオ。
光を。
消す。
***
ノエ。
鍵束を。
床へ一度。
鳴らす。
***
それぞれ。
違う。
***
「間違えない?」
ユイ。
「事前に確認します」
***
朝。
旧紙市場の外。
***
人。
百に近い。
***
中央の三行を。
見に来た者。
***
イサラが。
ヴァルハへ呼ぶ。
***
サクが。
ハルの返事を聞く。
***
エリオが。
黒い道を開く。
***
市場の入口。
縄。
***
トナ・ベル。
通行補助。
***
「今日は」
彼女。
「公開の呼名はありません」
***
「でも任務」
「変更案を確認中です」
「勇者は」
「イサラさん本人から話します」
***
イサラ。
市場の前。
***
赤い外套。
剣。
ある。
***
抜かない。
***
「私は」
声。
届く。
***
「本日。ヴァルハと呼ばれる者へ、勇者候補第一位として命令することに同意していません」
***
人。
動く。
***
「怖いから?」
「はい」
イサラ。
***
ざわめき。
***
「何が起きるか分からない状態で。私の肩書きと声を使い、敵対反応を引き出すことを怖いと思っています」
***
「勇者をやめる?」
「その問いへの答えではありません」
「では」
「今日。何をするかについての答えです」
***
「呼ばない?」
「呼びません」
「ヴァルハが出たら」
「人を守り。退路を確保します」
「戦う?」
「必要な時まで。剣を抜きません」
***
エリオ。
次。
***
「私は」
額。
銀の輪。
***
「勇者候補第二位として。道を開きません」
***
「元第二位!」
「現在。その役目を使っていません」
「光は」
「退出経路を示すために使用します」
「浄化」
「対象を確認せず。行いません」
***
朔。
前へ。
***
名前。
呼ばれる。
***
「サク!」
「返事を聞いて!」
「ハルを呼べ!」
***
「俺は」
朔。
「今日。ハルさん、トウマさん、ヴァルハという名前を呼びません」
***
「でも聞こえる」
「聞こえた音は報告します」
「返事を分かる?」
「俺だけに。完全な言葉として聞こえることがありました」
「なら」
「それを。対話できる力とは確認していません」
***
「何しに行く」
「構造と。音の発生条件を確認します」
「意味ない」
「そう思う人がいることは分かります」
***
「名前を呼ばないなら」
ガル・メナ。
人の前。
「メルは」
「別の捜索を進めています」
「今日は」
「呼びません」
***
「俺は呼ぶ」
「市場の中で。旧搬入口へ向けた呼名はできません」
ミエル。
自分の名札。
胸。
***
「王都の命令?」
「市場の決定や」
***
「外から」
「呼ぶことを。私が全部止めるとは言わん」
「なら」
「調査中に声を重ねれば。何を確認したか分からん。今日は市場周辺での接触行為を止める」
***
「拒否したら」
「市場へ入れへん」
***
ミエル・サド。
市場の名で。
決める。
***
中央派遣員。
二人。
到着。
***
白い外套。
銀の線。
***
一人。
記録箱。
***
一人。
巻かれた紙。
***
「中央判断です」
派遣員。
***
新しい紙。
***
第一段階の実施を認める。
***
次。
***
意味を有する反応が認められた場合、現地統括判断者は第二段階への移行可否を即時判断する。
***
「即時」
イサラ。
「はい」
「中央を待たない?」
「現場判断へ変更されました」
「私が」
「現地統括判断者です」
***
「第二段階を」
「拒否できます」
「理由」
「記録が必要です」
***
「代読」
朔。
「現地統括が拒否した場合は」
派遣員。
「実施しません」
***
「変わった」
ユイ。
「はい」
イサラ。
***
「なぜ」
中央派遣員。
「昨夜の返書を受け。敵対反応の誘発と集団事故の責任範囲が不明確と判断されました」
***
「誰が」
「中央合同判断」
「名前」
ノエ。
***
派遣員。
下を見る。
***
判断者。
五名。
***
個人名。
ある。
***
現地。
見ていない。
***
だが。
書いた者。
残る。
***
「呼名文は」
イサラ。
「撤回されていません」
「第二段階を実施する場合に使用」
「今日は」
「あなたの判断です」
***
イサラ。
紙へ書く。
***
第一段階のみ実施する。意味を有する音声様知覚が一名以上に生じた時点で中止し、第二段階へ移行しない。
***
「理由」
***
当該知覚が事前情報、期待、恐れその他の影響を受ける可能性を排除できず、呼名による追加刺激を行えば、構造確認と対話試験を分離できないため。
***
署名。
イサラ・ベルン
***
順位。
なし。
***
「中央命令に」
派遣員。
「現地判断で制限を」
「認められた範囲です」
***
「責任」
「私の名で残します」
***
旧紙市場。
奥。
***
参加者。
***
イサラ・ベルン。
現地中止判断。
***
ノエ・ハーラ。
経路・人数確認。
***
マレア・ソン。
身体・中止確認。
***
セオ・ラグナ。
記録。
***
エリオ・レイス。
退路灯。
***
ガド・ネン。
石枠。
***
ファナ・リト。
仮板・棚。
***
黒川朔。
構造確認同行。
知覚報告。
***
中央派遣員。
二人。
観察。
命令書。
持つ。
***
リオ。
石枠外。
***
青い布。
通常所持。
提示しない。
***
トウマの手紙。
塔。
***
ガルの手紙。
本人。
市場外。
***
名前札。
なし。
***
呼名。
なし。
***
石枠。
前。
***
退路。
確認。
***
エリオ。
床。
白い線。
***
前回と。
同じ。
***
壁。
作らない。
***
入口から。
市場側へ。
一本。
***
「第二位の光」
中央派遣員が言う。
***
エリオ。
光を。
止めない。
***
「エリオ・レイスが。退出経路を示すために置いた光です」
***
「能力分類上」
「今の行為を記録してください」
***
派遣員。
紙。
***
エリオ・レイスによる退路灯設置。
***
第二位。
書かない。
***
石枠。
右下。
手形様窪み。
***
触れない。
***
ガド。
外側。
測る。
***
前回。
横幅。
同じ。
***
上部。
同じ。
***
石粉。
増加。
確認できず。
***
「音源確認」
ノエ。
***
最初。
市場側。
***
ファナ。
木片。
床へ一度。
***
全員。
音。
確認。
***
次。
石枠の横。
***
ガド。
細い棒。
外側の石へ。
一度。
***
反響。
***
記録。
***
次。
石枠の手前。
小さな鐘。
***
鳴らす者。
ノエ。
***
名前。
呼ばない。
***
音。
一度。
***
奥。
返る。
***
朔には。
二つ。
***
イサラ。
一つ。
***
エリオ。
三つ。
***
ほか。
一つか。
二つ。
***
内容。
なし。
***
「継続」
イサラ。
***
風。
確認。
***
薄い糸。
石枠の手前。
***
奥へ。
わずかに。
引かれる。
***
前回と。
同程度。
***
「温度」
マレア。
***
石枠前。
市場側。
差。
わずか。
***
「次」
中央派遣員。
巻いた紙へ。
手を置く。
***
呼名文。
***
まだ。
開かない。
***
「第一段階は」
イサラ。
「終了前です」
***
「反応なしなら」
「それも結果です」
***
石枠。
奥。
***
黒。
ない。
***
人影。
ない。
***
声。
ない。
***
名前を。
呼ばなければ。
何も。
起きない。
***
そう。
思い始める。
***
朔の右手。
少し。
温かくなる。
***
「身体」
マレア。
「右手」
「熱」
「痛み」
「なし」
「頭」
「なし」
***
「中止?」
イサラ。
「今は。続けられます」
***
「どの今」
中央派遣員。
少し。
皮肉に。
***
朔は。
彼を見る。
「右手の熱以外に。中止の身体症状を確認していない時点です」
***
石枠。
内側。
***
音。
***
紙を。
一枚。
ゆっくり。
破るような。
***
「知覚」
セオ。
***
全員。
答える。
***
「擦過音」
「紙」
「布」
「石」
「不明」
***
内容。
ない。
***
「継続」
イサラ。
***
朔。
一歩。
動かない。
***
右手。
熱。
強くなる。
***
石枠の。
右下。
***
手形様窪み。
***
黒くない。
***
白い。
***
指の形に沿い。
薄い光。
***
「視認」
ノエ。
「はい」
朔。
「はい」
イサラ。
「光」
エリオ。
「白色変化」
マレア。
「私には。右下が明るくなったように」
セオ。
***
中央派遣員。
二人。
一人。
「文字」
と言う。
***
「何と」
セオ。
「まだ」
***
朔には。
線。
見える。
***
白。
細い。
***
文字。
ではない。
***
指。
掌。
道。
***
次。
内側。
黒。
***
人の形。
ではない。
***
縦。
一筋。
***
「黒色化」
ノエ。
「内側中央」
***
「中止準備」
イサラ。
***
黒。
太くなる。
***
肩。
頭。
腕。
***
輪郭。
***
「人影様」
セオ。
***
呼名。
していない。
***
人影。
現れる。
***
中央派遣員。
巻いた紙を。
開こうとする。
***
イサラ。
左手。
開く。
下へ。
***
中止の合図。
***
「第二段階へ移行しません」
***
「反応が」
「中止条件です」
***
「対話可能性」
「今は調べません」
***
派遣員。
「現地統括として」
「はい」
***
人影。
奥。
***
顔。
ない。
***
口。
見えない。
***
声。
***
「勇者」
***
イサラの身体。
止まる。
***
返事。
しない。
***
左手。
開いたまま。
***
「退出」
彼女。
***
エリオ。
白い線。
強くする。
***
壁には。
しない。
***
市場側へ。
***
中央派遣員。
「イサラ・ベルンが呼名されました」
***
「俺には」
朔。
「勇者、と聞こえました」
***
「私も」
イサラ。
「勇者」
***
「私には」
エリオ。
「来るな、の前半にも聞こえました」
***
「私」
ノエ。
「ゆ、あるいは、ゆう」
***
「マレアさん」
「長い一音。意味は取れません」
***
「退出中」
セオ。
「内容共有を止めます」
***
歩く。
***
人影。
動かない。
***
次。
声。
***
「第二」
***
エリオ。
光。
揺れる。
***
消えない。
***
「退出」
イサラ。
***
「私には第二」
エリオ。
「今は報告だけ」
***
中央派遣員。
巻いた紙を。
握る。
***
「対象が」
「呼名手順を先に」
「しません」
イサラ。
***
「第二位を」
「エリオさんが。そう聞こえたと報告しました」
「対象が役目を認識」
「確認していません」
***
歩く。
***
朔。
石枠へ。
背。
***
声。
***
「サク」
***
足。
止まりかける。
***
右手。
左胸。
二度。
***
自分の中止合図。
***
マレア。
見る。
「朔さん。歩けますか」
「はい」
「今の名」
「サク」
「呼ばれた?」
「そう聞こえました」
「返事」
「しません」
***
「退出」
イサラ。
***
一歩。
***
声。
続く。
***
「呼ぶな」
***
朔には。
そう聞こえた。
***
「共有しない」
セオ。
「外で」
***
歩く。
***
人影。
腕。
上がる。
***
手。
見えない。
***
黒。
石枠。
沿う。
***
中央派遣員。
後ろ。
振り返る。
***
「第二段階を」
「進みません!」
イサラ。
***
声。
大きい。
***
人影へ。
命令した声ではない。
***
同行者へ。
退出を伝える声。
***
それでも。
人影が。
反応したように。
頭を上げる。
***
次。
***
「もう」
***
朔。
聞く。
***
「来ている」
***
別々の音。
かもしれない。
***
一つの文。
かもしれない。
***
「出口」
エリオ。
***
光。
***
ノエ。
人数。
***
「一。二。三。四。五。六。七。八。九」
***
全員。
***
石枠。
外。
***
仮板。
ファナ。
***
立てる。
***
閉じない。
***
誤進入防止。
***
人影。
見えなくなる。
***
最後。
音。
***
朔には。
一語。
***
「名前」
***
市場側。
境界。
越える。
***
「全員外」
ノエ。
***
中央派遣員。
巻いた呼名文。
開いていない。
***
イサラ。
剣。
抜いていない。
***
エリオ。
光。
退路だけ。
***
朔。
名前。
呼んでいない。
***
それでも。
勇者。
第二。
サク。
***
役目と。
名前が。
奥から。
聞こえた。
***
市場外。
人。
多い。
***
仮板の向こう。
何が起きたか。
見えない。
***
中央の三行を。
知っている。
***
「呼んだ?」
「ヴァルハは?」
「ハルは?」
***
「今は」
ノエ。
「身体確認と。個別記録を先にします」
***
「返事があった?」
「音声様知覚がありました」
***
「何て」
「報告は一致を確認してから」
***
「隠す!」
***
人。
動く。
***
トナ。
出口。
***
「押さないでください!」
***
「中の人は。全員出ています!」
***
「怪我人はいません!」
***
「今。記録を分けています!」
***
朔。
椅子。
***
マレア。
脈。
***
「速い」
「はい」
「右手」
「熱い」
「痛み」
「なし」
「名前」
「サク」
「現在地」
「旧紙市場の外。確認用の席」
「何が聞こえた」
「今。ほかの人の報告前に書きます」
***
紙。
***
朔。
***
第一音:「勇者」と聞こえた。
***
第二音:「第二」と聞こえた。
***
第三音:「サク」と聞こえた。
***
続いて「呼ぶな」「もう」「来ている」「名前」と聞こえた。
***
各語が一つの話者・一続きの文であるか未確認。
***
封。
閉じる。
***
イサラ。
別の机。
***
最初、「勇者」と聞こえた。
次の音は「次」または「第二」に近い。
その後、サクに近い音。
最後は「来た」または「来ている」に近い。
***
封。
***
エリオ。
***
第一音:「来るな」の冒頭、または「勇者」に近い。
第二音:「第二」と聞こえた。
第三音:「サク」または短い擦過音。
後半:「もう来た」に近い。最後は聞き取れず。
***
ノエ。
***
第一音:ユ、ユウ、または長い呼気。
第二音:ダイ、あるいはタイ。
第三音:サ、または石の擦過。
後半:「来て」に近い部分。最後は一音。
***
マレア。
***
意味のある語として確定できず。複数の断続音。朔への呼びかけ後に朔の脈拍上昇を確認したが、呼びかけ内容との因果は未確認。
***
セオ。
***
複数音。第二音末尾がイに近い。後半にテ音。内容不明。
***
中央派遣員。
一人目。
***
「勇者」「第二」「サク」「呼ぶな」「もう来ている」「名前」と聞こえた。
***
朔と。
ほぼ同じ。
***
「事前に」
ネラ。
聞き取り。
「中央命令書の呼名順を知っていましたか」
「はい」
「勇者、第二、サクという役目を」
「はい」
「呼ぶなという中止条件」
「はい」
「名前が先に来たという議論」
「報告書で」
***
知っている。
***
二人目。
***
最初は「来るな」。次は「待て」。その後は聞き取れず。最後に「名前」。
***
「事前知識」
「同じ命令書を読みました」
***
全員。
名前を。
知っていた。
***
役目を。
知っていた。
***
呼ばないと。
決めたことも。
知っていた。
***
「人影は」
視認。
全員。
***
形。
一致しない。
***
成人。
子ども。
縦の黒。
外套。
腕。
なし。
***
「誰」
中央派遣員。
「黒色人影様輪郭」
セオ。
「ヴァルハ?」
「未確認」
「ハル」
「未確認」
「話者」
「未確認」
***
「でも」
派遣員。
「呼ばずに。対象が役目を言った」
「俺たちが」
朔。
「そう聞こえました」
「三名の役目と名前を」
「一致しない部分があります」
「中央の順序で」
「勇者。第二。サク。と聞こえた者はいます」
「なら」
「中央命令書を知っていた者です」
***
「対象が命令書を」
「見た?」
「可能性」
「あります」
「なら対話」
「命令書を見た経路も。話者も。確認できません」
***
「しかし」
「今日の呼名は」
イサラ。
「行っていません」
「はい」
「第二段階へ」
「移行しません」
***
「対象から先に」
「それでも」
「機会を」
「事前の中止条件です」
***
「中央へ」
派遣員。
「現地統括が対話機会を放棄したと報告します」
***
イサラ。
彼を見る。
「書いてください」
***
「よい?」
「はい」
「不利になります」
「はい」
「理由」
「同じ紙へ書きます」
***
意味のある語を複数参加者が知覚したため、事前条件に従い第一段階を中止した。
***
知覚内容は一致せず、全参加者が中央命令書または関連議論の全部または一部を知っていた。
***
呼名を追加すれば、対象との対話確認ではなく、事前に知られた語をさらに誘発・選択する行為になる可能性があると判断した。
***
よって第二段階へ移行しなかった。
***
署名。
イサラ・ベルン
***
「勇者候補第一位として」
派遣員。
「書きません」
***
「現地統括判断者」
「その行為は。行いました」
***
横。
***
現地中止判断:イサラ・ベルン
***
エリオ。
***
退路灯を設置し、退出時に光量を上げた。対象への浄化、攻撃、通路開放を実施せず。
***
朔。
***
呼名を実施せず。知覚した音を個別報告。対象への返答を実施せず。
***
「サクと呼ばれたのに」
派遣員。
「はい」
「本人確認の機会」
「返事をした者が。俺を知っている可能性はあります」
「なら」
「俺が返事をすれば。俺がサクであることを教えることになります」
「既に知っている」
「そうとは決めません」
***
「呼ばれた名へ」
「返事をしない選択もあります」
***
「名を否定?」
「違います」
「では」
「今。誰が呼んだか分からないため。返事をしませんでした」
***
外。
噂。
早い。
***
「ヴァルハが」
誰か。
「勇者と第二位とサクを呼んだ」
***
「命令書を読んだ」
***
「呼ばれる前に答えた」
***
「黒い道が。名前を知っている」
***
「ハルがサクを呼んだ」
***
「勇者を待っていた」
***
「来るなと言った」
***
公示。
急ぐ。
***
だが。
急いで。
見出しを。
強くしない。
***
大きな文字。
***
名前を呼ばずに確認を行い、複数の音を聞きました。
***
次。
***
何と聞こえたかは一致していません。
***
次。
***
呼名・返答・浄化・通路開放は行っていません。
***
「ヴァルハ」
入れない。
***
「ハル」
入れない。
***
「勇者」
音の個別報告には。
ある。
***
全文。
***
参加者。
事前知識。
視認。
音。
個別報告。
中止。
***
中央派遣員の報告も。
載せる。
***
反対意見。
***
中央派遣員一名は、中央命令書に記載された三者の役目・名前に近い音が順に知覚されたため、対象が命令内容を認識または先行応答した可能性を記録した。
***
次。
***
当該派遣員を含む参加者全員は、実施前に命令書または関連情報を知っていた。情報が知覚へ影響した可能性を除外できない。
***
「両方」
ユイ。
「はい」
ネラ。
***
「中央の人が」
「そう思ったことも」
「サクたちが」
「決められないと考えたことも」
***
「どっちが正しい」
「今は」
ユイが。
自分で止まる。
***
「どの今?」
***
朔。
少し。
息を吐く。
「今日の個別報告を確認した時点では。どちらかを確定できません」
***
昼。
中央へ。
速報。
***
見出し案。
派遣員。
***
呼名未実施下における対象からの先行名称応答
***
「使いません」
イサラ。
***
「対象は視認されました」
「黒色人影様輪郭を」
「名称を」
「そう聞こえました」
「複数人が」
「一致は」
「中心語は一致」
「どれ」
***
勇者。
イサラ。
朔。
派遣員一名。
***
エリオ。
来るな。
***
ノエ。
ユウ。
***
マレア。
不明。
***
第二。
エリオ。
朔。
派遣員。
***
イサラ。
次か第二。
***
ほか。
ダイ。
不明。
***
サク。
朔。
イサラ。
派遣員。
***
エリオ。
サクか擦過。
***
ノエ。
サ。
***
マレア。
不明。
***
「一致」
朔。
「程度があります」
***
見出し。
***
呼名未実施下における黒色人影様輪郭の出現および複数参加者の名称・役目様音声知覚
***
「名称・役目様」
派遣員。
「はい」
「対象から」
「話者未確認」
***
書き直す。
***
呼名未実施下における黒色人影様輪郭の出現および複数参加者の名称・役目に近い音声様知覚
***
「長い」
「はい」
***
速報。
出る。
***
中央へ。
***
市場へ。
***
公開版。
個人の私的情報。
なし。
***
だが。
人は。
大きな三行を読む。
***
名前を呼ばずに確認を行い、複数の音を聞きました。
***
何と聞こえたかは一致していません。
***
呼名・返答・浄化・通路開放は行っていません。
***
「何もしてない」
誰か。
***
「逃げた」
***
「ヴァルハが先に呼んだ」
***
「サクは返事しなかった」
***
「勇者が怖がった」
***
「第二位が光を出した」
***
名前。
また。
短い役目へ。
戻る。
***
夕方。
イサラ。
公示の横へ。
自分の紙を貼る。
***
私は今日、ヴァルハ、ハル・ミナト、トウマその他の名を呼びませんでした。
***
黒色人影様輪郭が現れ、私には「勇者」と聞こえる音がありました。私は返答せず、事前条件に基づいて退出を決めました。
***
私が勇者であると対象が確認したこと、私へ呼びかけたこと、敵意または対話意思を示したことは確認していません。
***
今日、私が行ったのは、中止を決め、全員を退出させることです。
***
署名。
イサラ・ベルン
***
エリオ。
隣。
***
私は今日、勇者候補第二位として参加しませんでした。
***
私には「第二」と聞こえる音がありました。事前に自分が旧第二位相当と記された命令書を読んでいました。
***
今日、私が行ったのは、退出経路へ光を置き、全員が出るまで消さないことです。
***
署名。
エリオ・レイス
***
朔。
隣。
***
俺は今日、誰の名前も呼びませんでした。
***
俺には「勇者」「第二」「サク」「呼ぶな」「もう来ている」「名前」と聞こえました。
***
俺は中央命令書と、名前が本人より先に役目を持つという議論を知っていました。その知識が聞こえ方へ影響した可能性があります。
***
今日、俺が行ったのは、聞こえたことを報告し、返事をせず、自分の足で退出することです。
***
署名。
黒川朔
その下。
現在はサクと呼ばれています。
***
「三人」
ユイ。
「役目を書いた?」
「行ったことを」
朔。
***
「勇者じゃなく」
「退出を決めた」
「第二じゃなく」
「光を置いた」
「返事を聞く人じゃなく」
「聞こえたことを報告した」
***
「名前は」
「その行為をした人を。見失わないために置きました」
***
「人影は」
ユイ。
「名前を言った?」
「俺には。そう聞こえました」
「呼ばなかったのに」
「はい」
***
「どうして知ってた」
「分かりません」
***
命令書。
市場の噂。
白い塔の記録。
朔たちの記憶。
石枠。
黒い人影。
別の何か。
***
どこから。
名前が。
届いたか。
分からない。
***
「名前が」
ユイ。
「先に行った?」
***
朔は。
すぐには。
はい。
と言わない。
***
「俺たちが呼ぶ前に。名前に近い音がありました」
「うん」
「その名前が。奥へ届いていたかは」
「分からない」
「はい」
***
「でも」
ユイ。
「街では。先に行ってた」
「はい」
***
勇者イサラ。
第二位エリオ。
返事を聞くサク。
***
本人たちより先に。
市場へ。
命令書へ。
明日の任務へ。
***
その役目を。
人影が。
読んだのか。
***
参加者が。
自分の中から聞いたのか。
***
分からない。
***
だが。
人影の声を。
待たなくても。
役目は。
既に。
人を動かしていた。
***
中央派遣員。
呼名文。
持ち帰る。
***
開かれなかった紙。
***
勇者候補第一位、イサラ・ベルンが命じる。
***
読まれなかった。
***
それでも。
イサラは。
勇者と。
聞いた。
***
ヴァルハ、姿を示せ。
***
呼ばれなかった。
***
それでも。
黒い人影様輪郭は。
現れた。
***
ハル・ミナト
***
呼ばなかった。
***
その名に近い音は。
今日は。
誰も報告しなかった。
***
トウマ
***
呼ばなかった。
***
その音も。
なかった。
***
呼ばなかった名前。
全てが。
返ったわけではない。
***
命令書にある順番が。
そのまま。
読まれたとも。
決められない。
***
夜。
朔は。
自分の紙へ書く。
***
中央命令書は、イサラさん、エリオさん、俺へ、それぞれ呼名、浄化、反応知覚の役目を与えた。本人たちは当該役目へ同意していなかった。
***
名前を呼ばない構造・音響確認を実施した。黒色人影様輪郭が現れ、複数参加者が役目または名前に近い音を知覚した。
***
次。
***
俺には、命令書に記載された役目と名前に近い順序で聞こえた。
参加者全員が、命令書または関連する情報を事前に知っていた。
***
次。
***
呼ばなかった名に近い音が聞こえたことは、対象がその名の本人を知っていること、命令書を読んだこと、呼びかけたことの確認ではない。
***
次。
***
それでも、名前と役目が、本人の同意より先に中央命令、市場の噂、参加者の知識へ広がっていたことは確認できる。
***
次。
***
イサラさんは呼名せず、中止を決めた。
エリオさんは浄化せず、退路へ光を置いた。
俺は返答せず、知覚を報告した。
***
最後。
***
名前に与えられた役目を、本人が行ったことにはしない。
同時に、本人が行わなかったことも、その名の記録へ残す。
***
筆。
止まる。
***
呼ばなかった。
***
それは。
何もしなかった。
ではない。
***
声を。
使わなかった。
***
肩書きを。
命令にしなかった。
***
返事を。
完成させなかった。
***
人影が。
現れても。
欲しかった問いを。
投げなかった。
***
機会を。
失った可能性。
ある。
***
危険を。
増やさなかった可能性。
ある。
***
どちらも。
まだ。
確認できない。
***
だが。
三人が。
何をしなかったかは。
確認できる。
***
名前だけが。
先に。
任務へ立っていた。
***
本人たちは。
後から。
自分の身体で。
そこへ行った。
***
そして。
名前へ与えられた通りには。
動かなかった。
***
勇者は。
命じなかった。
***
第二位は。
道を開かなかった。
***
返事を聞く者は。
返事をしなかった。
***
代わりに。
***
イサラ・ベルンが。
退出を決めた。
***
エリオ・レイスが。
帰る光を置いた。
***
黒川朔が。
聞こえたことと。
分からないことを。
分けて書いた。
***
名前は。
既に起きていた。
***
それでも。
本人が。
目を開けたまま。
その名へ。
別の行為を。
返すことはできた。
***
誰かが。
先に。
役目を書いても。
***
その名前で。
何をするかは。
まだ。
本人へ。
残されていた。




