第八章 起きている名前 ⑪ 返事を求める声
トウマへの手紙が。
南の道へ出た。
同じ朝。
***
旧紙市場へ。
名前を呼ぶ者たちが来た。
***
最初。
九人。
***
その後。
十二人。
***
市場が開く頃には。
二十人を超えていた。
***
眠っている者。
行方不明者。
亡くなった者。
遠くへ行った者。
返事をしなくなった者。
***
名前札。
手紙。
髪。
古い服。
玩具。
仕事道具。
***
誰かが。
市場の外壁へ。
紙を貼っていた。
***
返事があった場所
***
その下。
矢印。
***
旧紙市場の奥。
旧搬入口。
***
「誰が貼った」
ミエル・サドが尋ねた。
***
答える者。
いない。
***
「剥がすよ」
ミエル。
「記録は」
ネラ。
「位置と。文。紙。糊を確認してから」
***
「その間」
ミエルは。
市場の入口を見る。
「人が増える」
***
紙。
位置。
時刻。
見つけた者。
記録。
***
剥がす。
***
だが。
矢印を。
既に見た者は。
市場の奥を知っている。
***
「中へ入れろとは言わん」
男が言った。
***
メル・メナの弟。
ガル・メナ。
***
胸元。
手紙。
***
宛先。
見ている者へ
***
「外から呼ぶだけや」
「誰の名前を」
朔。
「メル」
「何が起きることを望みますか」
「返事」
「どのような」
「どこにいるか」
「声で?」
「何でもいい」
***
「ほかの人は」
朔が尋ねる。
***
前。
女性。
小さな靴。
一足。
***
「娘です」
「名前」
「リナ・ホウ」
「現在」
「七か月前から。分かりません」
「旧搬入口との関係」
「ありません」
「では」
「ここなら。返事があった」
***
老人。
木の匙。
***
「妻」
「名前」
「モラ」
「亡くなっていますか」
「二年前」
「何を聞きたいですか」
「怒っているか」
***
若い男。
血の付いた布。
乾いている。
***
「兄」
「生死」
「分からない」
「最後に」
「北の道」
「旧搬入口」
「知らん」
「では」
「黒い道は。北へも続くんやろ」
***
知らない。
答えがある場所。
***
そういう場所として。
旧搬入口の名前が。
起きていた。
***
「市場は」
ミエルが言った。
「答えを聞く場所じゃない」
「紙を売る場所?」
誰か。
「そうや」
「人の名前も売っとる」
「売ってへん」
「手紙を預かっとる」
「塔がや」
「入口はここやろ」
***
市場。
働く場所。
紙。
荷物。
客。
***
旧搬入口がある。
その事実だけで。
市場全体が。
返事をする場所へ。
変えられ始めている。
***
「奥は閉じます」
ノエ・ハーラ。
灰色の外套。
鍵。
記録札。
***
「いつまで」
ガル。
「今日は」
「明日は」
「決めていません」
「なら」
「構造確認以外の目的で。石枠へ近づける許可は出ていません」
***
「許可」
女。
小さな靴を抱く。
「子どもの名前を呼ぶのに。許可がいる?」
***
「市場で呼ぶことまで」
ノエ。
「止めません」
「では」
「石枠へ向けた接触行為として。奥へ集団で入ることは止めます」
***
「外からなら」
誰か。
「呼べる」
***
一人。
市場の入口で。
声を上げる。
***
「リナ!」
***
小さな靴の女性。
止める前に。
もう一度。
***
「リナ・ホウ!」
***
市場。
紙を選んでいた客。
顔を上げる。
***
次。
老人。
***
「モラ」
***
次。
若い男。
***
「ケン・オウ!」
***
声。
重なる。
***
ガルは。
まだ。
呼ばない。
***
朔を見る。
***
「止める?」
***
朔は。
すぐには答えない。
***
名前を呼ぶこと。
市場で。
家族が。
自分の声で。
***
それ自体を。
禁止する権限。
朔にはない。
***
だが。
返事があるという噂に基づき。
石枠へ向けて。
複数の名を呼ぶ。
***
確認行為。
になっている。
***
「今」
朔が言う。
「名前を呼ぶことで。何が起きるか確認されていません」
「聞いた」
ガル。
「それでも呼ぶ?」
「俺は呼ぶ」
「はい」
「止める?」
「市場の奥へ入ることは止めます」
「声は」
***
朔が。
答える前。
***
「メル・メナ!」
***
ガルが。
呼んだ。
***
一度。
***
市場の奥。
何も。
返らない。
***
ガル。
もう一度。
***
「メル!」
***
ほかの名。
続く。
***
「シア!」
「トル・ベン!」
「アナ!」
「母さん!」
「レフ!」
***
レフ。
***
七区で。
イナが。
名前で呼んだ子。
***
同じレフか。
分からない。
***
朔の身体が。
名へ。
意味を付けかける。
***
「呼ぶ人」
トナ・ベルが。
市場の入口へ立つ。
「通路を塞がないでください」
***
腕。
新しい札。
***
通行補助
トナ・ベル
***
「荷車が通ります」
「今それ?」
誰か。
「今や」
トナ。
「倒れた人を運べん道にしたら。名前を呼ぶ前に人が死ぬ」
***
縄。
ファナ。
木箱。
***
奥へ向かう者と。
市場を通る者を。
分ける。
***
完全な列。
作らない。
***
呼ぶ順番を。
認めた形にしない。
***
「皆」
イサラ・ベルンの声。
***
市場の外。
赤い外套。
剣。
鞘にある。
***
勇者候補第一位。
***
警備。
二人。
だが。
イサラは。
剣へ触れない。
***
「押さないでください」
「勇者」
誰かが言う。
「勇者なら。向こうへ行け」
「返事を聞いてこい」
「ヴァルハを呼べ」
***
イサラは。
呼ばれた役目へ。
すぐに答えない。
***
「今」
彼女が言う。
「奥へ進めば。前の人を押します」
「だから」
「名前を呼ぶなら。少なくとも身体が倒れない距離を取ってください」
***
「呼んでいい?」
小さな靴の女性。
「私が許可することではありません」
「では」
「何が起きるか分からない場所へ向けた確認行為だと。理解した上で判断してください」
***
「娘が」
「はい」
「返事するかもしれない」
「あります」
「なら」
「別の声を。娘さんの返事だと受け取る可能性もあります」
***
女性の腕。
靴。
強く抱く。
***
「それでも」
「呼びますか」
***
女性。
答えない。
***
呼ぶ者。
呼ばない者。
どちらも。
残る。
***
「管理局として」
ノエが。
イサラへ。
「呼名行為を止めますか」
「私が決める?」
「現場警備の指揮権があります」
***
イサラは。
石枠のある奥を見る。
***
「止めれば」
彼女。
「夜に来る者が出ます」
「はい」
「続けさせれば」
「現象を誘発する可能性があります」
「はい」
「人が増える」
「はい」
***
「制御して一人ずつ呼ばせる」
イサラが言った。
***
朔は。
彼女を見る。
***
「反対です」
「なぜ」
「呼名の順番を作れば。王都が返事を試す場を認めたことになります」
「今も。呼んでいる」
「はい」
「止められない」
「止められないことと。手順にすることは違います」
***
「では」
イサラ。
「何をする」
「目的を分けます」
「今?」
「今です」
***
返事がほしい。
居場所を知りたい。
謝りたい。
怒っているか聞きたい。
生きているか。
死んでいるか。
名前を覚えているか。
***
「そんな時間」
イサラ。
「ありません」
「でも」
「押し合いが始まる前に。身体を動かす必要がある」
***
正しい。
***
朔は。
群れを見る。
***
子ども。
老人。
荷物。
手紙。
靴。
***
「市場の外へ」
朔。
「一度出します」
「追い返す?」
ガル。
「違います」
「では」
「誰が。何を望んで来たかを。外で聞きます」
「石枠から離す」
「はい」
「返事が来たら」
「今。全員で呼べば。誰への音か分かりません」
***
「一人ずつなら」
イサラ。
「だから。その形を王都が作ることには反対です」
「でも」
「全員を同じ方法へ並べないために。外で分けます」
***
イサラ。
少し。
息を吐く。
「時間がかかる」
「はい」
「逃げる者」
「います」
「奥へ走る者」
「止めます」
***
「分かった」
イサラ。
「今は。市場から出す」
***
「どの今ですか」
朔が尋ねる。
***
イサラ。
朔を見る。
***
「押し合いと。無断進入を防ぐための。現在の現場判断です」
***
「はい」
***
警備。
剣。
抜かない。
***
トナ。
通路。
案内。
***
ファナ。
縄。
***
ミエル。
市場の出口。
***
「名前札は持って出て」
「預ける?」
「預からん」
ミエル。
「自分で持って」
***
人。
少しずつ。
外へ。
***
その時。
市場の奥。
仮板。
***
低い音。
***
木。
擦れる。
***
全員。
止まる。
***
「動かないで」
イサラ。
***
声。
重なる前の。
静けさ。
***
奥。
石枠の方。
***
音。
***
最初。
長い。
***
風。
人の息。
遠い声。
どれとも。
決められない。
***
「聞こえた者」
ノエ。
「手を上げず。今は声に出さないでください」
***
だが。
誰かが言う。
***
「リナ」
***
「違う」
別の者。
「モラって」
***
「メルや」
ガル。
***
「ケン」
***
「返せ」
***
「待って」
***
「ここ」
***
音。
同じ。
***
聞いた言葉。
違う。
***
「静かに」
イサラ。
***
だが。
名前を聞いたと感じた者が。
奥へ。
一歩。
***
小さな靴の女性。
***
「リナ!」
***
次。
老人。
***
「モラ!」
***
前へ。
***
後ろ。
押す。
***
縄。
たわむ。
***
「下がって!」
トナ。
***
木箱。
傾く。
***
紙束。
落ちる。
***
子ども。
一人。
足。
箱の間。
***
朔は。
名前を聞く前に。
身体を見る。
***
右。
箱。
左。
縄。
前。
大人の膝。
***
低く入る。
***
子どもの肩。
引かない。
***
腕を。
脇の下へ。
***
身体を。
自分の胸へ。
***
箱の倒れる方向から。
横へ。
***
「ファナさん!」
「はい!」
***
ファナ。
棚の支柱。
押さえる。
***
イサラ。
前へ。
***
剣ではなく。
鞘。
横。
***
人の胸へ当てない。
***
縄の支点へ。
通す。
***
倒れた箱と。
人の流れの間へ。
即席の横棒。
***
「押さない!」
***
声。
大きい。
***
人。
止まらない。
***
エリオ・レイス。
市場の入口。
***
白い光。
床。
細い線。
***
壁ではない。
***
足元。
出口へ向かう。
矢印。
***
「光の線より外へ」
エリオ。
「走らないでください」
***
「勇者候補」
誰か。
「第二位!」
***
エリオは。
振り向かない。
***
「今は。出口を示しています」
***
光。
増やさない。
***
派手な壁へ。
しない。
***
人が。
奇跡の印と。
受け取らないため。
***
床だけ。
***
トナ。
自分の名。
***
「トナ・ベルです!」
***
「出口へ案内します!」
***
ノエ。
子どもの確認。
***
「名前」
「ロウ」
***
旧紙市場で。
返し場の意味を。
尋ねた子。
***
同じロウ。
確認。
***
「痛い場所」
「足」
「立てる?」
「分からん」
***
朔。
足首。
触れない。
***
「動かせますか」
***
ロウ。
動かす。
***
顔。
歪む。
***
「運びます」
マレア。
市場の外から。
入る。
***
朔。
ロウを。
渡す。
***
「誰が助けた」
ロウ。
「今は。外へ運びます」
***
名前への返事。
ではなく。
身体への対応。
***
人。
外へ。
***
最後。
ガル。
***
奥を見る。
***
「メル」
小さく。
もう一度。
***
返事。
なし。
***
イサラが。
ガルの前へ。
立つ。
***
「押しません」
彼女が言う。
「剣も抜きません」
「なら」
「自分で歩いて外へ出てください」
「返事が」
「誰への音か。分かっていません」
「俺にはメルって」
「はい」
「聞こえた」
「そのことは。外で記録します」
***
「消す?」
「消しません」
「返事にする?」
「しません」
***
ガル。
手紙。
胸元。
***
「明日の昼」
ネラ。
外から。
「メルさんの記録照合結果を伝える約束があります」
***
「返事より」
ガル。
「紙?」
***
「違います」
朔。
「今日聞こえた音も。明日見る記録も。どちらかを先に答えにはしません」
***
「また分ける」
「はい」
***
ガルは。
外へ歩く。
***
市場。
空く。
***
床。
紙。
靴跡。
倒れた箱。
縄。
光の線。
***
奥。
仮板。
***
動いていない。
***
「閉鎖」
ノエ。
「市場全体?」
ミエル。
「奥の通路です」
「商売」
「入口と中央は。安全確認後に戻します」
「誰が決める」
「市場側と。構造側で」
***
ガド。
ファナ。
棚。
柱。
床。
確認。
***
ロウ。
足。
捻り。
骨の明らかな変形。
なし。
***
痛み。
あり。
***
冷却。
固定。
***
「俺」
ロウ。
「リナって聞こえた」
***
小さな靴の女性が。
顔を上げる。
***
「本当?」
***
「待ってください」
朔。
***
女性。
朔を見る。
***
「ロウさんが」
朔。
「リナと聞こえたことは。ロウさんの知覚です」
「娘を知らない」
「今日。名前を呼ぶ声を聞いています」
「でも」
「音が。リナさんからの返事だったとは。まだ確認できません」
***
「ロウ」
女性。
「何て聞こえたの」
***
「リナ」
ロウ。
「一回?」
「長く」
「声は」
「女か。男か分からん」
「どこから」
「奥」
***
女性。
泣かない。
***
靴を。
抱く。
***
「聞いた」
「はい」
朔。
「この子が」
「はい」
「私じゃなく」
「はい」
***
「じゃあ」
女性。
「私が聞きたかったから。聞こえたんじゃない?」
***
朔は。
答えを急がない。
***
「ロウさんも。リナさんという名前を。今日聞いています」
「はい」
「影響した可能性があります」
「でも」
「俺たちの知識が。知覚へ影響する可能性は。前にもありました」
***
「返事じゃない?」
「決められません」
***
女性。
靴。
胸。
***
「分かった」
とは。
言わない。
***
「記録して」
と言う。
***
「何を」
ネラ。
***
「ロウが。リナって聞いたこと」
「はい」
「私も。奥から女の声を聞いたこと」
「内容」
「分からなかった」
「それも」
「はい」
***
「娘が返事したとは」
女性。
「書かないで」
***
「はい」
***
個別記録。
***
先に。
互いに話さず。
一人ずつ。
***
何が。
どう聞こえたか。
音の長さ。
位置。
声の高低。
知っていた名前。
自分が呼んだ名前。
望んでいた答え。
***
四十に近い報告。
***
完全な名前として聞いた者。
十三。
***
そのうち。
自分が呼んだ名。
九。
***
近くで他人が呼んだ名。
三。
***
誰も呼んでいないと。
本人が考える名。
一。
***
だが。
市場で以前。
話した可能性。
あり。
***
言葉。
返せ。
待て。
ここ。
見る。
来るな。
名前。
不明。
***
聞こえなかった者。
六。
***
「一つの音?」
グラド。
「現場では。長い音声様現象が一度」
ノエ。
「その後」
「人の呼名と。叫びが重なり。分離不能」
***
「人影」
「視認なし」
「黒色化」
「確認なし」
「石枠」
「外観変化なし」
「市場」
「箱一つ破損。棚一部傾き。ロウさん負傷」
***
「原因」
「人の移動と。箱への接触」
「音声現象が原因?」
「人が前進した契機ではあります」
「では」
「音そのものが箱を倒したとは確認していません」
***
「群衆事故」
グラド。
「使いますか」
「人を一つの群れにする?」
朔。
***
グラド。
止まる。
***
「複数人の前進に伴う市場内転倒・物品傾倒事案」
「長い」
「はい」
***
「でも」
ミエル。
「群衆でええ時もある」
***
朔。
ミエルを見る。
***
「一人ずつやったことは違う」
ミエル。
「でも。店から見たら。二十人以上が一斉に奥へ動いた」
「はい」
「それを。個別の気持ちだけにされたら困る」
***
市場。
受けた危険。
***
人。
それぞれの理由。
***
両方。
***
記録。
見出し。
***
旧紙市場内における集団呼名中の音声様知覚および複数人の前進による負傷・物品損傷
***
「集団呼名」
ガル。
外で。
聞く。
「王都がやらせたみたいやな」
「王都は」
ノエ。
「呼名を実施していません」
「でも止めなかった」
「奥への進入は止めました」
「声は」
「市場内での呼名自体を禁止しませんでした」
***
「なら」
「王都が認めたとも書きません」
***
追記。
***
呼名は来訪者各自の判断で開始され、王都または市場による試験・行事として実施されたものではない。管理側は旧搬入口奥への進入を制限し、市場外への移動を求めた。
***
「止めるのが遅かった」
ミエル。
「はい」
ノエ。
「誰が」
「現場判断は。私とイサラさん」
「朔は」
「意見を述べました」
「何を」
「一人ずつの呼名手順を王都が作ることに反対しました」
「結果」
「集団のまま音が起きました」
***
朔は。
その言葉を。
受ける。
***
「俺が」
朔。
「手順を作ることへ反対したことが。人をすぐに外へ動かす判断を遅らせた可能性があります」
「私も」
イサラ。
「一人ずつ呼ばせる案を出したことで。呼名を止めるか。退去させるかの決定を遅らせました」
***
「どっちが正しかった」
グラド。
「今は」
イサラ。
止まる。
***
「事故が起きた後の結果だけで。片方を正解にはしません」
***
朔は。
彼女を見る。
***
「でも」
イサラ。
「次は。人が集まった時点で。市場の外へ出します」
「呼ぶ前?」
「奥への確認目的で集まった場合は」
「市場の客は」
「分ける」
「手紙を持っているだけなら」
「目的を聞く」
***
「また時間」
「はい」
イサラ。
「でも。今日より早く動く」
***
ミエル。
市場の床。
見る。
***
「旧搬入口へ答えを聞きに来た人は」
彼女。
「市場へ入れないで」
「全員?」
「客として紙を買うなら入る」
「その場で名前を呼んだら」
「商売を止める行為として。外へ出てもらう」
***
「市場の権限」
「はい」
セオ。
「王都の実験禁止とは別に」
「ここは私らの働く場所や」
***
市場の規則。
***
旧搬入口または音声様現象への確認を目的とする呼名、手紙・遺品の提示、待機を、市場内で行わない。
***
「名前を呼ぶな?」
ミウ。
「客同士で呼ぶ名前は」
「止めへん」
ミエル。
「返事を試すために。奥へ向けて呼ぶのを止める」
***
「どう見分ける」
「聞く」
「嘘ついたら」
「その時の行為を見る」
***
完全には。
防げない。
***
だが。
市場が。
答えを売る場所ではないことを。
市場側が。
自分の名で。
決める。
***
ミエル・サド
***
市場運営上の判断
***
王都の命令へ。
しない。
***
「では」
イサラ。
「外に。名前を呼ぶ場所を作る?」
「作りません」
朔。
「でも。人は呼ぶ」
「はい」
「場所がなければ。別の入口を探す」
「あります」
***
「なら」
「呼ぶ場所ではなく。望みを聞く場所を増やします」
「返事は」
「約束しません」
「来なくなる?」
「来ない人もいます」
***
「ガルみたいに」
「別の道を探す人も」
「はい」
***
「それでも」
イサラ。
「止めるだけよりは」
「はい」
***
外区画。
相談入口。
追加。
***
旧搬入口・黒い道・音声様現象へ、名前・手紙・遺品を届けたい人の相談
***
「届ける?」
グラド。
「届けることを約束しない」
ネラ。
「では」
***
旧搬入口等へ名前・手紙・遺品を届けたいと考えている人の相談
***
最初に。
何を望むか。
***
返事。
捜索。
記録確認。
祈り。
保管。
本人へ渡したい。
ただ言いたい。
***
相手。
誰。
***
存在。
確認。
***
現在地。
分かるか。
***
ほかの方法。
あるか。
***
旧搬入口へ持ち込むことで。
何が起きると考えるか。
***
危険。
誰が負うか。
***
「全部聞いて」
ガル。
「最後は止める?」
「止めることがあります」
朔。
「なら」
「ガルさんの希望を。最初から無かったことにはしません」
「返事は」
「今日。メルさんの名に聞こえた音があったと。ガルさんは報告しました」
「はい」
「それを。メルさんの返事とは記録しません」
「はい」
***
「俺」
ガル。
「自分で呼んだ」
「はい」
「その後。メルって聞こえた」
「はい」
「俺の声が返っただけ?」
「可能性があります」
「別の人が聞いた?」
「完全にメルと報告した人は。ガルさん以外にはいません」
***
「じゃあ」
ガル。
「俺が作った?」
***
朔は。
その言葉を。
すぐに肯定しない。
***
「ガルさんの知識と。望みが。聞こえ方へ影響した可能性があります」
「俺のせい?」
「せい、とは決めません」
「じゃあ」
「音声様現象がありました。ガルさんにはメルと聞こえました」
***
「それだけ」
「はい」
***
「少ない」
「はい」
***
ガル。
手紙。
見ている者へ
***
「でも」
朔。
「明日の昼。記録照合の結果を伝えます」
「音より」
「別の情報です」
「答えがなかったら」
「なかったと伝えます」
***
夕方。
市場。
再開。
***
箱。
戻す。
***
破れた紙。
分ける。
***
ロウ。
足。
固定。
***
「今日」
ロウ。
「名前いっぱい聞いた」
「はい」
朔。
「どれが本物?」
「名前は。呼ばれた人たちのものです」
「声は」
「誰が出したか分かりません」
「俺がリナって聞いたの」
「ロウさんが。そう聞いたことです」
***
「リナが言ったんじゃない?」
「決められません」
「でも。あの人。うれしそうだった」
***
朔は。
小さな靴の女性を見る。
***
うれしい。
怖い。
泣きたい。
疑う。
***
一つではない。
***
「うれしかったことは」
朔。
「返事だった証明にはなりません」
「うれしかったら駄目?」
「違います」
「じゃあ」
「うれしかったことも。残していいです」
***
ロウ。
少し考える。
「俺も」
「はい」
「リナって聞こえて。びっくりした」
「はい」
「名前知ってたから?」
「可能性があります」
「でも。聞こえた」
「はい」
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聞こえたことを。
消さない。
***
誰から届いたかを。
足さない。
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夜。
朔は。
自分の紙へ書く。
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旧紙市場に、旧搬入口から返事を得たい者が集まり、複数の名前を呼んだ。
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呼ばれた名前は、行方不明者、死亡確認者、治療中の者、応答しない者等、状態が異なっていた。
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次。
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市場奥から音声様現象があり、参加者はそれぞれ異なる名前や言葉として知覚した。
自分または近くの者が呼んだ名前を聞いたと報告した者が多かった。知覚内容は一致しなかった。
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次。
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音声様現象の後、複数人が旧搬入口方向へ前進し、ロウさんが負傷し、市場の箱と棚が損傷した。
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音が直接負傷を生じさせたとは確認していない。音を返事として受け取り、近づこうとした人の移動が重なった。
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次。
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俺は、一人ずつ名前を呼ばせる手順を王都が作ることに反対した。
その議論中に呼名が始まり、退去の判断が遅れた可能性がある。
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書く。
消さない。
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次。
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人を一つの群れとしてのみ扱わない。
同時に、市場へ生じた集団としての危険を、個々の事情だけで消さない。
***
次。
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返事を求める声を禁止するだけでは、その声は別の入口を探す。
だから、何を求めているかを聞く場所を作る。
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最後。
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それでも、旧搬入口を、名前を呼べば答えが返る場所として運用しない。
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筆。
止まる。
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名前を呼ぶ。
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誰かが。
返事をする。
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それは。
日常では。
人を見つける方法だった。
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市場。
家。
仕事場。
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「サク」
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二人。
振り向く。
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「どっち」
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用を足す。
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返事。
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だが。
相手が。
どこにいるか分からない場所へ。
名前を投げる時。
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返ってきた音を。
誰の声にするかは。
呼んだ者の望みに。
近づきやすい。
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リナ。
モラ。
メル。
ケン。
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同じ音から。
複数の名が。
起きた。
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そのどれかが。
届いた返事である可能性を。
消さない。
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だが。
聞きたかった名を。
返事をした者の名へ。
先にしない。
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返事を求める声が。
多いほど。
答えは。
強くなったのではない。
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誰の答えかを。
分けにくくなった。
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だから。
朔は。
名前を呼ぶ順番を。
作らなかった。
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代わりに。
名前を呼びたかった者の。
名前と。
望みを。
一人ずつ。
聞いた。
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返事を約束せず。
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聞こえた音を。
奪わず。
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呼ばれた名前の数だけ。
誰かがそこにいることにも。
しないために。




