第八章 起きている名前 ⑨ 宛先のいない手紙
白い塔へ。
ハル・ミナトの名前が。
届いた。
***
本人ではない。
紙。
七通。
小さな包み。
二つ。
***
内塔の受付台。
並べられている。
***
一通目。
ハル・ミナト様
その下。
白い塔・黒川朔気付
***
二通目。
勇者殺しヴァルハへ
***
三通目。
黒い道にいるハル
***
四通目。
眠りの勇者
***
五通目。
白い塔が隠している者
***
六通目。
ハル・ミナト、またはヴァルハ
***
七通目。
ハルへ
***
同じ人へ。
届いたとは。
確認できない。
***
違う人へ。
届いたとも。
まだ。
決められない。
***
「受け取れますか」
アナ・セルが尋ねた。
***
赤茶の髪。
左頬。
小さなほくろ。
受付台の前。
受領記録。
筆。
***
「俺が?」
朔。
「黒川朔気付とあります」
「一通だけです」
「はい」
「ほかは」
「届け先が白い塔とだけ」
***
「ハルさんが」
朔は。
一通ずつ見る。
「ここにいるとは。確認されていません」
「はい」
「ヴァルハと。同じ人物とも」
「確認されていません」
「眠りの勇者とも」
「はい」
***
「では」
アナ。
「受取人不在として返送しますか」
「不在?」
朔。
「違いますか」
「ここにいないことは。確認されていますか」
***
アナが。
紙を見る。
「白い塔の居住記録にはいません」
「はい」
「治療記録にも」
「はい」
「拘束、保護、職員、訪問登録」
「ありません」
「では」
「白い塔の記録上。現在位置を確認できない」
***
「不在と」
「同じではない?」
「白い塔にいない可能性は高いです」
「ですが」
「ハルさんが。今どこにいるかは分かりません」
***
「宛先不明」
「それも」
朔は。
白い塔・黒川朔気付
を見る。
「一通は。俺を経由するよう書かれています」
***
「気付」
ユイが。
受付台の横から尋ねた。
「何?」
「その場所にいる別の人へ預けて。本人へ渡してもらう書き方です」
アナ。
「サクが。ハルに渡す?」
「渡せるかは分かりません」
朔。
***
「じゃあ」
ユイ。
「受け取ったら。ハルがいることになる?」
「なりません」
「サクが。ハルの代わり?」
「なりません」
「でも。持つ?」
朔は。
すぐには答えない。
***
青い布。
今も。
朔が持っている。
***
トウマから。
ハルのものとして。
渡された。
***
だから。
ハルが朔へ。
所有を移したとは。
確認できない。
***
朔が。
保管している。
***
「持つことはできます」
朔が言った。
「受け取る?」
「ハルさんが受け取ったことにはしません」
***
「受領欄」
アナ。
「受取人の署名が必要です」
「俺が書けば」
「黒川朔」
「ハル・ミナト宛てを。黒川朔が受領した記録になります」
「本人の代理として?」
「通常は」
「代理を頼まれていません」
***
「では」
アナは。
受領記録を見る。
本人。
家族。
代理人。
所属先。
返送。
***
ほかの欄。
ない。
***
「保管者」
ネラが言った。
記録室から。
呼ばれている。
「という欄を作ります」
「受取人と」
朔。
「分けて?」
「はい」
***
新しい欄。
保管者
保管理由
開封権限
受取人本人への到達
確認済。
未確認。
未達。
不明。
***
「未達」
アナ。
「本人へ届いていない」
「はい」
「本人がいないと」
「決めません」
***
「開ける?」
ユイ。
「宛名によります」
朔。
「気付は?」
「中に。俺へ読んでよいと書かれているか分かりません」
「開けないと分からない」
「はい」
***
「気付なら」
アナ。
「経由者が開封することは通常ありません」
「では」
「外側に。別の指示がなければ。ハルさん宛てのままです」
***
封。
蝋。
茶色。
押された印。
小さな。
木の葉。
***
差出人。
裏。
ダン
***
家名。
なし。
村。
ツヅリ
***
その下。
小さな文字。
***
中の一枚はサクへ。もう一枚はハルへ。先にサクが外側だけ読んでよい。
***
「分かれている」
ユイ。
「はい」
***
封筒の中に。
二つ。
入っていることが。
外から分かる。
***
「開けますか」
アナ。
「俺へ向けた一枚だけ」
「どうやって分ける?」
「外封を開けると。中に別の封がある可能性があります」
「なかったら」
「読まずに閉じる?」
「一度見た文字は。見なかったことにできません」
***
開封前。
記録。
***
外封。
宛先。
ハル・ミナト。
黒川朔気付。
***
差出人。
ダン。
ツヅリ。
***
外面指示。
サクによる外側文書の先行開封を許可。
ハル宛て文書。
別封を示唆。
***
「危険物の確認」
アナ。
「紙の厚み。二枚以上」
「匂い」
ノエ。
「油。薬品。強い香りなし」
「粉」
「封の外には確認せず」
「針」
「触れた範囲ではなし」
***
完全に。
安全とは。
決めない。
***
だが。
通常の手紙として。
開く。
***
朔が。
蝋を。
端から外す。
***
中。
紙。
一枚。
小さな封筒。
一つ。
***
小さな封筒。
表。
***
ハルへ
***
裏。
***
トウマ
***
封。
青い糸。
***
朔は。
触れない。
***
外側の紙。
ダン。
字。
大きい。
線。
不揃い。
***
サクへ。
***
こっちにも、王都でハルの名前が出ているという話が届いた。
黒い人影。勇者殺し。ヴァルハ。眠りの勇者。
どれが同じ話か、こっちでは分からない。
***
朔は。
読む速度を。
落とす。
***
トウマが、ハルへ書きたいと言った。
ハルがそこにいると決めたわけではない。
お前がハルを見つけたとも聞いていない。
だから、ハルの代わりに返事はするな。
***
リオが。
朔の横で。
息を吐く。
***
手紙を持てるなら持ってくれ。
本人へ渡せると判断できなければ、開けなくていい。
黒い人影へ見せるかは、手紙を受け取ることとは別に考えろ。
***
村では、ハルが死んだとも、戻ってきたとも言っていない。
寝床はそのままではない。
使える布と道具は使っている。
名前は消していない。
***
朔の指。
紙の端。
止まる。
***
リーネは、ハルのための祈りはしていない。
祈らないことを、忘れたことにはしていない。
***
俺は北柵を直した。
前にハルが直したところより、少し下手だ。
***
トウマは元気だ。
森で母親の声がしても、返事をしない。
***
ハル宛ての中身は読んでいない。
トウマが、ハルがいないならサクが読んでもいいと言った。
だが、読んだことを、ハルが読んだことにはするな。
***
最後。
***
帰ってこいとは書かない。
帰る場所が、まだ同じとは限らないからだ。
ただ、生きているなら、自分で名前を言え。
***
ダン
***
部屋。
静か。
***
「読む?」
ユイが。
小さな封筒を見る。
***
ハルへ
トウマ
***
「外側の紙には」
朔。
「ハルさんがいなければ。俺が読んでもいいとあります」
「読むことと」
ネラ。
「本人へ渡すことは別です」
「はい」
「今読む理由は」
***
朔は。
青い糸を見る。
「トウマさんが。今。ハルさんへ何を言いたいかを知りたいです」
「黒い人影へ使うため?」
「その気持ちもあります」
「確認の材料?」
「はい」
「ハルだと決めるため?」
「それには使いません」
***
「でも」
リオ。
「読んだら。使いたなるぞ」
「はい」
「見せたくも」
「なると思います」
「ほな」
「読む前に。使う条件を決めます」
***
小さな封筒。
開封。
だけ。
***
黒い人影へ。
提示しない。
***
呼名に。
使わない。
***
内容を。
本人確認の質問に。
しない。
***
トウマしか知り得ない内容があっても。
人影の同一性を。
それだけで。
確定しない。
***
今後。
提示を検討する場合。
目的。
危険。
誰が持つか。
どこまで見せるか。
返答をどう扱うか。
別に決める。
***
「読まない選択も」
マレア。
「残っています」
「はい」
「今は」
「読みたいです」
***
「誰のため」
「トウマさんの言葉を。俺が勝手に中身へ作らないため」
***
読まなくても。
想像できる。
***
帰ってきて。
助けてくれてありがとう。
怖かった。
待っている。
***
そのどれも。
トウマが。
実際に書いたとは。
限らない。
***
「開けます」
朔。
***
青い糸。
ほどく。
***
小さな紙。
折り目。
何度も。
開き直した跡。
***
字。
子ども。
大きさ。
揃わない。
***
ハルへ。
***
トウマです。
***
あの日、助けてくれてありがとう。
でも、助けてくれたから勇者だったとは書きません。
***
朔の目。
止まる。
***
ハルは、逃げる時に俺を先に出しました。
サクとの約束を破ったのかもしれません。
でも、俺を助けたかったのかもしれません。
どっちもあるかもしれません。
***
青い布はサクに渡しました。
俺が渡したから、サクの物になったとは決めません。
ハルがいらないと言ったとも聞いていません。
***
もし黒い人がハルなら、布を見て分かるかもしれません。
でも、布を分かったからハルとは決めないでください。
***
子どもの字。
同じ行。
途中で。
小さくなる。
***
村で、黒い人はハルだと言う人がいます。
違うと言う人もいます。
俺は分かりません。
***
ハルが中にいるなら、ほかの人もいるかもしれないと聞きました。
ハル一人じゃないなら、ハルじゃないとは思いません。
でも、ハルだけとも思いません。
***
朔は。
紙から。
目を離す。
***
「ダンさんが」
ユイ。
「直した?」
「分かりません」
朔。
「字はトウマさんに見える?」
「以前の字を知りません」
***
差出人名。
トウマ。
それだけで。
本人が書いたとは。
完全には確認できない。
***
だが。
ダンが。
トウマが書いたと。
外側へ書いている。
***
紙。
村。
言葉。
関係。
可能性。
***
「続き」
リオ。
「読めるか」
「はい」
***
朔は。
紙へ戻る。
***
ハル。
戻ってきてとは書きません。
帰る場所が村じゃないかもしれないからです。
***
でも、俺はハルの名前を捨てていません。
待っているとも書きません。
毎日ずっと待っているわけじゃないからです。
***
俺は遊ぶし、食べるし、寝ます。
ハルのことを考えない日もあります。
***
それでも、あの日、俺を助けたハルがいたことは覚えています。
***
最後。
***
もし会えたら、俺の名前を言ってください。
でも、トウマと言えたからハルだとは決めません。
俺の顔を見てください。
俺も見ます。
***
それから、みんなに聞きます。
***
トウマ
***
朔は。
紙を。
机へ置く。
***
青い布。
胸元。
出さない。
***
「待ってない」
ユイが言う。
「はい」
「でも、忘れてない」
「はい」
***
「帰ってきてって」
「書いていません」
「会いたくない?」
「会いたいと思います」
「書いてない」
「帰る場所を。トウマさんが決めたくなかった」
***
「子どもなのに」
グラドが言った。
「はい」
ネラ。
「子どもだから。決められないことを、そのまま書ける場合もあります」
***
「この手紙を」
アナ。
「ハル・ミナト宛てとして保管しますか」
「はい」
朔。
「開封済み」
「はい」
「開封者」
「黒川朔」
「根拠」
「差出人トウマからの、本人不在時に読む許可。ダンさんの外側文書による確認」
***
「受取人」
「未達」
「ハルさんが読んだことには」
「しません」
***
「内容を」
グラド。
「黒色人影様輪郭の確認資料へ」
「今は入れません」
朔。
「なぜ」
「これは。トウマさんからハルさんへの手紙です」
「同一性確認に使える情報があります」
「あります」
「なら」
「使えることと。使ってよいことは違います」
***
「差出人は」
「俺が読んでよいとは言いました」
「黒い人影へ見せることは」
「許可されていません」
***
「ハル本人へなら」
グラド。
「見せるための手紙です」
「黒い人影が。ハル本人だと確認されていません」
***
「循環します」
「はい」
「本人か確認するために見せたい。本人と確認できないから見せられない」
「だから」
朔。
「別の方法で。提示の危険と意味を検討します」
***
「トウマへ」
ネラ。
「再確認の手紙を出せます」
「何を」
「黒い人影へ提示してよいか。全文か。一部か。返答を確認へ使ってよいか」
***
「時間」
グラド。
「かかります」
「はい」
***
「その間に」
朔。
「人影が消える可能性もあります」
「それでも」
「トウマさんの言葉を。俺の確認道具へ勝手に変えません」
***
返信。
朔が。
書く。
***
トウマさんへ。
ハルさん宛ての手紙を受け取りました。
筆。
止まる。
***
「受け取った?」
ユイ。
「俺が読みました」
「ハルは」
「まだ」
***
書き直す。
***
ハルさん宛ての手紙を、黒川朔が保管し、あなたの許可に基づいて読みました。
ハルさん本人へ届いたことは確認できていません。
***
次。
黒い人影様輪郭へ、この手紙を提示してよいかを確認したいです。
提示する場合も、手紙を理解したこと、トウマという名へ反応したこと、青い布を認識したことだけで、ハルさん本人とは決めません。
***
次。
全文を見せてよいか。
一部だけなら、どの部分か。
声に出して読んでよいか。
返答を記録してよいか。
返答を本人確認の材料へ使ってよいか。
***
「多い」
ユイ。
「はい」
「トウマ、分かる?」
「分からないところは。ダンさんやリーネさんに聞いてもらいます」
「その人たちが決める?」
「トウマさんの理解を助けます」
「答えは」
「トウマさんが」
***
最後。
***
今、手紙は白い塔で保管しています。
ハルさんの物だと確認できるまで、俺の手紙にはしません。
ただし、俺が読んだことは消せません。
***
青い布も持っています。
返す相手は、まだ確認できていません。
***
署名。
黒川朔
その下。
現在はサクと呼ばれています。
***
「なぜ」
リオ。
「下も書いた」
「トウマさんは。サクと呼んでいます」
「黒川朔だけやと」
「別の人に見える可能性があります」
***
二人のサク。
同じ名前。
***
手紙。
誰へ届くか。
名前だけでは。
決まらない。
***
ほかの六通。
包み。
二つ。
***
一つずつ。
外側を確認する。
***
勇者殺しヴァルハへ
差出人。
勇者候補支援会。
内容。
外面。
公開の場へ出ることを要求する。
***
ハル・ミナトとの関係。
記載なし。
***
黒い道にいるハル
差出人。
なし。
封。
破れている。
中の文字。
一部。
外から見える。
***
返せ
***
何を。
誰へ。
分からない。
***
眠りの勇者
差出人。
病床者の家族。
祈り札。
十二枚。
***
白い塔が隠している者
差出人。
なし。
紙。
厚い。
***
安全確認。
必要。
***
ハル・ミナト、またはヴァルハ
差出人。
外壁警備。
警告。
質問。
***
ハルへ
差出人。
名前。
読めない。
雨。
滲み。
***
「同じ箱へ?」
アナ。
「入れません」
朔。
「なぜ」
「同じ受取人と確認できていません」
***
「箱が増える」
グラド。
「はい」
「検索」
「索引で繋ぎます」
「ハル。ヴァルハ。勇者殺し。眠りの勇者」
「宛名として書かれたことを繋ぎます」
「同じ人物の別名?」
「そうは書きません」
***
保管箱。
四つ。
***
ハル・ミナト宛て
***
ヴァルハ宛て
***
黒色人影・旧搬入口関連宛て
***
宛先関係未確認
***
「眠りの勇者は」
ユイ。
「どこ」
「宛先関係未確認」
「どうして」
「俺を指す噂にも。ハルさんを指す噂にも。黒い人影を指す噂にも使われています」
***
「誰か一人へ」
「まだ置けません」
***
包み。
一つ。
木の小さな剣。
外面。
ヴァルハを倒す勇者へ渡してください。
***
「ヴァルハ宛てではない」
アナ。
「はい」
「誰へ」
「ヴァルハを倒す勇者」
「該当者」
「確認できません」
***
「イサラ?」
グラド。
「決めません」
朔。
「エリオ?」
「決めません」
「勇者候補」
「役目を外した者もいます」
***
別箱。
条件付き宛先・該当者未確認
***
もう一つ。
布袋。
乾いた花。
名前札。
十九枚。
***
眠りの勇者へ。起こしてほしい者の名です。
***
朔の名を。
直接書いていない。
***
だが。
第八章。
最初の列。
続き。
***
「相談入口へ」
グラド。
「移しますか」
「差出人の希望は」
朔。
「眠りの勇者へ渡すことです」
「その役目を引き受けていない」
「はい」
「では」
「宛先未達として保管し。名前の相談が必要なら、差出人へ案内を返します」
***
「十九人」
「はい」
「身体の危険」
「ある可能性があります」
「なら」
「手紙を待つのではなく。差出人へ、相談入口で状態を伝えてほしいと返します」
***
手紙に。
名前がある。
***
それだけで。
十九人の身体を。
確認したことにはならない。
***
だが。
名前を。
箱へ入れたまま。
何もしないことにも。
しない。
***
差出人。
確認。
返書。
***
名前札を受領しました。
また。
止まる。
***
受取人。
眠りの勇者。
確認できない。
***
書き直す。
***
白い塔は、眠りの勇者宛てとして送られた名前札を保管しています。
眠りの勇者に該当する者、および当該者が名前を受け取ったことは確認できていません。
***
身体の危険や治療相談がある場合は、本人の現在地、状態、最後に応答した時、既に行った対応を相談入口へ伝えてください。
***
「冷たい」
アナ。
「はい」
朔。
「もっと」
***
追記。
***
札に書かれた名前を、見なかったことにはしません。
ただし、名前だけでは、今必要な助けを決められません。
***
午後。
保管棚。
***
箱。
増える。
***
名前。
増える。
***
受取人。
確認できない。
***
「手紙って」
ユイが言う。
「名前がある場所へ行く?」
「多くは」
アナ。
「住所へ行きます」
「住所が分からない時」
「知っていそうな場所へ」
「白い塔」
「はい」
「サク」
「はい」
***
「ハルの場所は」
「分かりません」
朔。
「じゃあ」
「手紙だけ。先に来ました」
***
「名前が」
ユイ。
「住所になった?」
「そういう部分があります」
***
ハル・ミナト。
ヴァルハ。
勇者殺し。
眠りの勇者。
***
誰かが。
そこにいると。
思った場所。
***
白い塔。
朔。
旧搬入口。
黒い道。
***
名前が。
人を探す。
***
「本人がいなかったら」
ユイ。
「手紙は寝る?」
***
保管箱。
閉じている。
***
「待ちます」
アナ。
「誰を」
「受け取る人が確認されるまで」
「ずっと?」
「期限は必要です」
グラド。
***
「返送できる物」
「差出人へ」
「差出人不明」
「保管」
「いつまで」
「決める必要があります」
***
「期限が来たら」
ユイ。
「捨てる?」
「内容と危険。差出人。宛先。保管量」
アナ。
「それを見て」
***
「本人が」
朔。
「期限の後に来る可能性もあります」
「永久に持つ?」
グラド。
「全てはできません」
***
紙。
場所。
人手。
安全。
限り。
***
「では」
ネラ。
「保管期限と。期限後に何を残すかを。最初に書きます」
***
原物。
返送。
廃棄。
内容索引。
宛名のみ。
差出人のみ。
安全上の記録。
***
「手紙の中身を」
朔。
「本人が読んでいないのに。記録側が要約する?」
「必要な場合だけ」
ネラ。
「なぜ」
「脅迫。危険物。制度上の問題。再発確認」
「私的な手紙は」
「原則、開けません」
***
「トウマさんの手紙は」
「朔さんに開封許可がありました」
「記録へ全文?」
「入れません」
「なぜ」
「トウマさんとハルさんの手紙だからです」
***
開封記録。
存在。
開封者。
許可。
保管場所。
***
内容。
必要な範囲だけ。
朔の判断記録へ。
引用。
***
「全文を」
グラド。
「黒い人影の確認に使うなら」
「その時に。トウマさんの許可範囲を確認します」
***
名前が。
宛先になる。
***
だから。
名前を書けば。
誰かへ届くとは。
限らない。
***
届かなかった手紙を。
関係者が。
自由に使ってよいとも。
限らない。
***
夕方。
ダンとトウマへの返書。
封。
***
宛先。
トウマ
その下。
ツヅリ村・ダン気付
***
「トウマが」
ユイ。
「いなかったら」
「ダンさんが保管します」
「読める?」
「外側に。ダンさんは開けず。トウマさんへ渡してほしいと書きます」
***
「トウマが」
「読めない部分は」
「ダンさんに聞く?」
「トウマさんが望めば」
***
「サクの返事は」
「ハルさんの代わりではありません」
「うん」
***
朔は。
封の外へ書く。
***
ダンさんへ。トウマさん本人へ渡してください。内容の理解を助ける場合も、返答はトウマさんへ確認してください。
***
差出人。
黒川朔
***
受付。
アナ。
受領。
***
「今度は」
ユイ。
「本人がいる?」
「ツヅリにいると。ダンさんの手紙にはあります」
「届く?」
「確認できるまで。分かりません」
***
配達人。
南の道。
出発。
***
手紙。
運ばれる。
***
名前を。
住所にして。
***
夜。
朔は。
ハル宛ての箱を。
見る。
***
トウマの手紙。
開封済み。
***
ハルは。
読んでいない。
***
少なくとも。
確認できていない。
***
朔が。
読んだ。
***
だから。
言葉は。
朔の中に。
残っている。
***
ハルが中にいるなら。
ほかの人もいるかもしれない。
***
ハル一人ではないなら。
ハルではないとは思わない。
***
でも。
ハルだけとも思わない。
***
朔は。
その言葉を。
黒い人影へ。
まだ持って行かない。
***
読んだ者が。
届けたいと思ったことと。
差出人が。
届け方まで任せたことは。
同じではない。
***
リオが。
箱の横へ立つ。
「返事せんのか」
「誰に」
「ハルへ」
***
朔は。
箱を見る。
「どこへ送ればいいか。分かりません」
「黒い道」
「そこにいる者が。ハルさんとは確認できていません」
「手紙に書くなら」
「何と」
***
リオは。
少し考える。
「ハルかもしれん者へ」
***
「それを」
朔。
「ハルさんへの返事にしますか」
「ならん」
***
「黒い人影へ」
「それは別や」
「はい」
***
ハルへ返す言葉。
黒い人影へ問う言葉。
同じにしない。
***
「でも」
リオ。
「言いたいことはあるやろ」
「あります」
「書くか」
「宛先を決めずに?」
「自分の紙に」
***
朔は。
紙を出す。
***
見出し。
書かない。
***
最初。
***
トウマさんの手紙を読みました。
***
次。
***
ハルさん本人へ届いていません。
***
筆。
止まる。
***
続ける。
***
俺は、ハルさんを探しています。
書いて。
止まる。
***
探している。
黒い人影を。
見ている。
ハルの動きを。
探している。
***
それだけでは。
黒い人影を。
ハルへ近づける。
***
書き直す。
***
俺は、ハルさんがどうなったかを知りたいと思っています。
***
次。
***
黒い人影様輪郭の中に、ハルさんを思わせる動きがある可能性を記録しています。
それを、ハルさん本人がいることとも、ハルさんだけがいることとも決めていません。
***
次。
***
トウマさんの言葉を、本人確認の道具へ勝手に変えません。
***
最後。
***
それでも、いつか届く可能性のために、手紙を捨てません。
***
署名。
黒川朔
***
宛先。
なし。
***
ハル宛ての箱へ。
入れない。
***
黒い人影の記録へも。
入れない。
***
朔自身の。
現在の言葉。
として。
別に置く。
***
「誰にも届かん紙」
リオ。
「はい」
「意味あるか」
「今。俺が何を考えているかを。後で別の答えへ変えないために」
***
「ハルが来たら」
「その時に。見せるか聞きます」
「誰に」
朔は。
答えを止める。
***
「来た者へ」
***
リオは。
それ以上。
聞かない。
***
宛先のいない手紙は。
届かない。
***
だからといって。
誰の物にしてもよいわけではない。
***
名前が書かれていても。
その名の者が。
受け取ったとは限らない。
***
朔が持っていても。
朔への手紙にはならない。
***
黒い人影へ。
見せられる可能性があっても。
確認の道具には。
まだならない。
***
名前は。
人を探すために。
先に歩くことがある。
***
だが。
先に着いた名前が。
そこで待つ者を。
本人にするわけではない。
***
白い塔の棚。
閉じた箱。
***
ハル・ミナト宛て
***
その中で。
トウマの手紙は。
眠っていた。
***
名前だけは。
街の中で。
既に起きている。
***
それでも。
手紙を開く者。
返事を書く者。
受け取ったことになる者を。
名前より先に。
決めなかった。
***
いつか。
ハルと呼ばれたい者が。
自分の手で。
封を持つかもしれない。
***
その時。
初めて。
どこへ届いたのかを。
その者へ。
問うために。




