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第八章 起きている名前 ⑦ 二人目ではない名前


 朝。


 記録室の入口で。


 男が。


 朔を待っていた。


***


 二十代の後半。


 肩。


 太い。


 両手。


 指の根元へ。


 縄の擦れた痕。


***


 腰。


 河岸作業の札。


 濡れた革。


 乾いた泥。


***


 男は。


 朔を見る。


 次。


 手に持った紙を見る。


「お前が」


 と言った。


***


「誰ですか」


 朔が尋ねる。


「サクだ」


***


 朔は。


 すぐに。


 答えなかった。


***


 男も。


 続けない。


***


 二人の間。


 同じ音だけが。


 置かれる。


***


「今」


 朔が言う。


「サクと呼ばれている方ですか」


「そうや」


「俺も。今はサクと呼ばれたいと伝えています」


「知っとる」


***


 男は。


 紙を。


 朔へ差し出さない。


 自分の前で。


 開く。


***


 臨時就労確認票


 勤務先。


 西河岸。


 綱工房。


 作業。


 荷綱の編み直し。


 船留め。


 荷車引き。


***


 勤務者名。


 サク(二)


***


 括弧。


 二。


***


「これは」


 朔。


「あなたの就労確認票ですか」


「そうや」


「二、と書かれたのは」


「昨日からや」


「以前は」


「サク」


***


「家名は」


「使っとらん」


「出生時の記録」


「知らん」


「ほかに呼ばれていた名前」


「サク」


***


「いつから」


 男の顔が。


 少し険しくなる。


「母親が生きとった時からや」


「何年」


「二十八年」


***


 朔が。


 この世界で。


 サクと呼ばれることを選び直してから。


 まだ。


 一年にも届かない。


***


「二人目だから」


 男が言う。


「二を付けたらしい」


「誰が」


「就労札の受付」


「何を基準に」


「塔の記録に。先にサクがあるから」


***


「先に」


 朔。


「登録された?」


「そう言うとった」


「名前を使い始めた順ではなく」


「知らん」


***


 男は。


 紙の裏も見せる。


***


 同名者識別のため、後登録者へ番号を付す。


***


 後登録者。


 男が。


 名前を使い始めた時ではない。


 この受付へ。


 登録された時。


***


「二が嫌ですか」


 朔が尋ねる。


「好きやと思うか」


「思いません」


「なら」


「何が起きたか。確認します」


***


「それだけやない」


 男。


 別の紙。


***


 賃金。


 三日分。


 保留。


***


 理由。


 同名者記録との照合中。


***


「俺の働いた金や」


「はい」


「お前の記録に」


「何が」


「閲覧制限が付いとる」


***


 黒川朔。


 サク。


 K.K.


 白い塔。


 睡眠状態様表示。


 閲覧条件。


***


 その中身を。


 男は。


 見ていない。


 だが。


 サクという名を。


 照合した受付が。


 制限された記録を見つけた。


***


 賃金を渡してよいサクか。


 判断できない。


 だから。


 止めた。


***


「俺の記録で」


 朔が言う。


「あなたの賃金が止まった可能性があります」


「可能性やない」


「ほかの理由も確認します」


「また確認か」


「はい」


***


「俺は」


 男は。


 朔を見る。


「お前に名前を返せって言いに来た」


***


「返す?」


「どっちかが変えんと。ずっと止まる」


「受付から?」


「工房主に言われた」


「工房主は」


「俺が変えた方が早いって」


***


「なぜ」


「塔のサクは変えられんやろ」


***


 塔のサク。


 眠りの勇者。


 白い手の子。


 起こす者。


 心を読む子。


***


 今度は。


 変えられない名前。


***


「俺の名前は」


 朔が言う。


「変えられないとは決めていません」


「変えるんか」


「今は。サクと呼ばれたいです」


「なら」


「あなたから外してほしいとも言いません」


***


 男の眉が。


 寄る。


「二人ともサクで」


「はい」


「金が止まっとる」


「名前を一つにする以外の方法を作ります」


「今から?」


「はい」


「俺の三日分は」


「先に。働いた事実を確認してもらいます」


***


「お前が許す?」


「違います」


「署名する?」


「俺の署名で。あなたの賃金を渡す理由にはしません」


「では」


「工房の勤務記録。作業を見た人。荷札。以前の支払い。あなたが受け取っていた印を確認します」


***


「時間がかかる」


「はい」


「名前を変えたら」


「早い可能性があります」


「なら」


「早くするために。今まで使っていた名前を外すことを、あなたへ求めません」


***


 男は。


 紙を握る。


「お前は困らん」


***


 朔は。


 すぐには否定しない。


***


「今」


 男。


「二が付いたのは俺や」


「はい」


「金が止まったのも」


「はい」


「偽物って言われたのも」


***


「誰に」


「工房の奴」


「何と言われましたか」


「塔の本物が来たから。お前は河岸の偽物やって」


***


 朔は。


 男を見る。


「俺は。あなたを偽物だとは言いません」


「お前が言わんでも」


「はい」


「皆。塔の記録を信じる」


「はい」


「白い壁に名前が出たんやろ」


「俺には。黒川朔と読める表示が見えました」


「なら。本物や」


「それは。あなたの名前を偽物にする表示ではありません」


***


「同じ音や」


「はい」


「どっちかやろ」


「名前が同じであることと。同じ人であることは違います」


「分かっとる」


「では」


「周りが分からん」


***


 男の声。


 怒り。


 疲れ。


 空腹。


 賃金。


 三日。


 どれも。


 一つにしない。


***


「名前を」


 朔が尋ねる。


「もう一度聞いていいですか」


「聞いたやろ」


「今。何と呼ばれたいですか」


***


 男は。


 すぐに。


 サク。


 とは言わなかった。


***


 紙の。


 サク(二)。


 見る。


***


「サクや」


 男が言う。


「二は付けるな」


***


「はい」


 朔。


「サクさん」


***


 男が。


 朔を見る。


***


「お前もやろ」


「はい」


「呼びにくいな」


「はい」


***


 リオが。


 記録室の奥から出てくる。


「二人とも」


 彼は言う。


「呼ばれたら返事すんのか」


「する」


 男。


「はい」


 朔。


***


「ほな」


 リオは。


 男を見る。


「仕事は」


「綱」


「場所」


「西河岸」


 次。


 朔。


「お前は」


「今は。白い塔の記録室にいます」


「ほな」


「西河岸のサク。白い塔におるサク」


***


「それが名前になる?」


 朔が尋ねる。


「用がある時の区別や」


「ずっと?」


「必要な時だけ」


***


 男。


 西河岸のサクは。


 嫌そうな顔をする。


「綱屋のサクって呼ばれとる時はある」


「その呼び方を」


 朔。


「使っていいですか」


「工房の近くなら」


「ここでは」


 男は考える。


「西河岸のサクでええ」


***


「俺は」


 朔。


「白い塔にいるサクで」


「白い塔のサク」


 男。


「勇者は」


「付けないでください」


「分かった」


***


 それは。


 名前の変更ではない。


 その場で。


 どちらへ話しかけているかを。


 示す言葉。


***


 西河岸のサク。


 いつでも。


 西河岸にいるわけではない。


***


 白い塔にいるサク。


 塔を出れば。


 変わる。


***


 役目。


 身分。


 本来の名。


 ではない。


***


「記録へ」


 ネラが言う。


「どう入れますか」


***


 男。


 使用名。


 サク


***


 本人が。


 現在望む呼称。


 サク


***


 家名。


 現在使用せず。


***


 識別が必要な範囲。


 西河岸就労記録。


 白い塔関連記録との照合。


***


 本人が。


 当該範囲で使用を認める補助表記。


 西河岸のサク


***


 期限。


 賃金照合終了まで。


 その後。


 再確認。


***


「ずっと西河岸のサクには」


 ネラ。


「しません」


「仕事を辞めたら」


 男。


「違うからな」


「はい」


「俺が嫌になったら」


「変更します」


「塔のサクが街を出たら」


「区別が必要か。確認します」


***


 朔の記録。


 使用名。


 黒川朔


 現在望む呼称。


 サク


***


 識別が必要な範囲。


 今回の賃金照合。


***


 補助表記。


 白い塔滞在中のサク


***


「黒川を使えば」


 グラドが言う。


「区別できます」


「はい」


 朔。


「では」


「正式な記録では使えます」


「日常では」


「今は。サクと呼ばれたいです」


***


「相手は家名がない」


「はい」


「なら。黒川を持つ方が譲れば」


「譲る?」


「識別上です」


「俺だけを黒川と呼ぶことを。強制しますか」


「効率は上がります」


***


「でも」


 ユイが。


 紙を見る。


「サクって呼ばれたいって書いてる」


「はい」


 朔。


「黒川朔でもある」


「はい」


「じゃあ、黒川は嫌?」


「嫌ではありません」


「でも」


「毎回。正式名だけで呼ばれたいわけではありません」


***


「二人いるから」


 ユイ。


「片方だけ。呼ばれたい名前を変える?」


「それを」


 朔。


「本人へ先に求めない方法を作ります」


***


 グラド。


 紙。


「記録は」


「同じ名前だけでは。誤配が起きます」


「はい」


「賃金。治療。通行。処分」


「間違えられません」


「なら」


「名前以外の事実も使います」


***


 勤務先。


 作業日。


 本人確認をした者。


 受け取り印。


 居住区画。


 年齢。


 身体的特徴。


 本人が望む補助表記。


***


「身体的特徴」


 西河岸のサク。


「傷とか?」


「必要な時だけ」


 ネラ。


「左腕の火傷」


「ある」


「それを名札へ?」


「常には書きません」


「なぜ」


「本人を。傷で呼ぶことになる可能性があります」


***


「では」


「賃金受け取り時。ほかの確認で区別できない場合に。本人へ確認します」


「俺の腕を見せる?」


「無理にではありません」


「断ったら」


「別の確認を探します」


***


 名前だけで。


 人を識別する。


 簡単。


 同じ名がいれば。


 番号を付ける。


 さらに簡単。


***


 だが。


 簡単な方法が。


 二人目を作る。


***


「二」


 エリオが言った。


***


 記録室の入口。


 白と青。


 薄い金の髪。


 額。


 銀の輪。


***


「私にも」


 彼は続ける。


「付いていました」


***


 勇者候補第二位。


***


「順位と」


 グラド。


「同名者番号は違います」


「はい」


 エリオ。


「ですが」


 サク(二)。


 指す。


「先に記録された者を基準に。後から来た者へ数字を付ける点は似ています」


***


「識別のためです」


「私の第二位も。識別と順序のためでした」


「競争順位」


「はい」


「彼は競争していない」


「だから。なおさら数字が意味を作ります」


***


「二人目」


 西河岸のサク。


「そう言われた」


「あなたは」


 エリオ。


「二人目ではありません」


「お前が決める?」


「いいえ」


「では」


「記録が二番目だったことを。名前の順序へ広げない方がよいと思います」


***


「お前は」


 男。


「第二位を外したんか」


「記録上は。勇者候補という役目を外しました」


「今は」


「エリオ・レイスと名乗っています」


「第二位って呼ばれたら」


「誰が。何のために呼んだかを聞きます」


***


「腹立つ?」


 エリオは。


 少し考える。


「時によります」


***


 西河岸のサクが。


 初めて。


 少しだけ。


 口元を動かした。


***


 賃金確認。


 工房主。


 呼ばれる。


***


 ポラ・ドゥン


 五十代。


 腕。


 縄の粉。


 帳面。


***


「三日」


 ポラ。


「働いとる」


「誰が」


 グラド。


「サク」


「二人います」


「綱の方や」


「本人が。当該範囲では西河岸のサクという補助表記を認めています」


「長いな」


「はい」


***


「作業」


「東の荷船。二本。南の荷車。四台。雨の日に一台」


「見た者」


「俺。マノ。リッカ」


「印」


「これ」


***


 帳面。


 縄を。


 三つ編みにした形。


 指で。


 墨を押した印。


***


「毎回」


「サクが付ける」


「もう一人のサクも」


「この印を使いますか」


 朔。


「使いません」


「なら」


「勤務記録と印で確認できます」


***


「閲覧制限」


 ポラ。


「関係ない?」


「西河岸のサクさんの賃金支払いには。白い塔滞在中のサクの記録を参照する必要はありません」


「同じ名やから」


「同じ名であることだけでは。参照理由になりません」


***


「払っていい?」


「グラドさんが許可するのではなく」


 朔。


「働いた事実と。受け取る人を確認してください」


***


 ポラ。


 西河岸のサクを見る。


「縄の印」


「俺のや」


「東の荷船」


「二本。片方は古縄も替えた」


「雨の日」


「荷車の軸が外れたから。綱は一台分編んでない」


***


 帳面。


 雨の日。


 四台と。


 書かれている。


***


「三台や」


 男。


「俺が間違えた」


 ポラ。


「賃金は」


「一本分引く」


「はい」


***


 働いた者。


 確認。


 作業。


 確認。


 記録。


 一部。


 訂正。


***


 賃金。


 渡される。


***


 サクという名だけではなく。


 その男が。


 行った仕事によって。


***


 西河岸のサクは。


 硬貨を数える。


 少ない。


 雨の日の一台分。


 引かれている。


***


「合っとる」


 彼が言う。


***


「受領名」


 ポラ。


「サクでええか」


「サク」


「二は」


「付けるな」


「西河岸は」


「今回だけ横へ」


***


 受領欄。


 サク


 補助。


 西河岸・綱工房勤務分


***


 番号。


 なし。


***


「塔の方は」


 ポラ。


「署名せんでええ?」


「はい」


 朔。


「一人も助けたことにならんぞ」


「俺は。この綱を編んでいません」


「でも。止まった金を」


「問題を確認しました」


「助けた?」


 西河岸のサクが。


 朔を見る。


***


「一緒に」


 朔は答える。


「賃金を止めた理由を変えました」


「俺の仕事は」


「あなたのものです」


***


 男。


 硬貨。


 袋へ入れる。


「名前」


「はい」


「返せとは。今は言わん」


***


「今は?」


「お前の言う。時間が要るって意味やない」


「では」


「まだ腹が立っとる」


***


「はい」


「塔の本物って。これからも言われる」


「あります」


「二人目って」


「あります」


「その時」


「俺が聞けば。俺は違うと伝えます」


「俺がおらん時」


「公示を?」


「すぐに。俺の言葉を出すことはできます」


「またお前の名前で」


***


 朔は止まる。


***


「俺の言葉だけではなく」


「では」


「西河岸のサクさんが。何と呼ばれたいかも。本人の言葉で残します」


***


「公示?」


「望みますか」


「嫌や」


「では出しません」


「でも。偽物って言う奴には」


「どうしたいですか」


***


 男は。


 硬貨の袋を。


 腰へ結ぶ。


「俺が言う」


***


「何と」


「サクや。二は付けるなって」


***


「はい」


***


「お前は」


「俺も。サクです」


「譲らん?」


「今は」


 男が。


 眉を上げる。


「それ。どの今や」


***


 朔は。


 少し考える。


「現在。俺が呼ばれたい名についての答えです」


「変わる可能性」


「あります」


「俺も」


「はい」


***


 二人。


 同じ名。


 どちらも。


 永久には。


 紙へ閉じない。


***


 午後。


 同名者記録の。


 仮手順を作る。


***


 最初。


 同じ呼称を使用する者が複数いる場合、先登録・後登録を、人の順位、真正性、名称使用権へ広げない。


***


 次。


 本人が望まない番号、第一・第二、真・偽、元・別人等の表記を使用しない。


***


「別人も?」


 グラド。


「事実では」


「互いに別人です」


 ネラ。


「ですが。一方へだけ付ければ。もう一方が基準になります」


***


 次。


 識別が必要な行為ごとに、名前以外の事実を確認する。


 勤務。


 居住。


 関係者。


 本人の印。


 日時。


 目的。


 その場で本人が望む補助表記。


***


 次。


 補助表記は、必要な範囲と期間を定め、本人の名へ恒久的に追加しない。


***


 次。


 一方の機密、処分、治療、通行、債務その他を、同じ呼称のみを理由として他方へ関連づけない。


***


「債務」


 リオ。


「借金も来る?」


「可能性があります」


 グラド。


「処分」


「逮捕も」


「治療」


「薬の取り違え」


***


 名前が同じ。


 だけで。


 誰かの罪。


 病気。


 金。


 役目。


 別の者へ。


 歩く。


***


「同じ名前を」


 ユイ。


「使ったら駄目ってした方が。簡単?」


「簡単です」


 朔。


「でも」


「後から登録した人が。名前を変えさせられます」


「先に使ってたかもしれない」


「はい」


「どっちが先か分からなかったら」


「記録を探すことになります」


「見つからなかったら」


「力がある方が。先になる可能性があります」


***


「白い塔」


「はい」


「王都」


「はい」


「勇者」


「はい」


***


 名を守る制度が。


 強い者の名を。


 唯一にする。


***


「二人とも」


 ユイ。


「サクでいい?」


「はい」


 朔。


「本人たちが。そう望むなら」


***


「呼んだら」


「二人とも返事をするかもしれません」


「どうする」


「次の言葉を足します」


***


 夕方。


 旧紙市場。


 西河岸のサクが。


 綱を届けに来る。


***


 朔は。


 ミウと。


 相談票の紙を運ぶ。


***


 市場の入口。


 子どもの声。


「サク!」


***


 二人が。


 振り向く。


***


 子ども。


 止まる。


「どっち?」


 西河岸のサク。


「呼んだんはお前やろ」


「綱の方!」


「西河岸の?」


「うん」


***


「何や」


「荷車の縄、外れた」


***


 西河岸のサク。


 子どもの方へ。


 歩く。


***


 次。


 別の声。


「サクさん」


***


 朔。


 振り向く。


 同時に。


 西河岸のサクも。


 半分だけ。


 顔を向ける。


***


 呼んだのは。


 カイ。


「相談票の文を。見てほしい」


「どちらへ」


 朔が尋ねる。


「白い塔にいる方」


***


「俺やない」


 西河岸のサク。


「はい」


 カイ。


「綱屋のサクさんには。後で荷台の紐を頼みたいです」


「ほな、後で来い」


***


 二人。


 別の方向へ。


 歩く。


***


 同じ名。


 同じ返事。


 それでも。


 同じ人ではない。


***


 一人が。


 本物になるために。


 もう一人を。


 偽物へ。


 しなくてよい。


***


 西河岸のサクは。


 朔より。


 先に。


 サクと呼ばれていた。


***


 だから。


 朔が。


 今。


 サクと呼ばれることを。


 やめなければならないとは。


 限らない。


***


 白い塔の記録へ。


 朔の名が。


 先に登録された。


***


 だから。


 西河岸のサクが。


 二人目になるわけでもない。


***


 名前が同じ時。


 どちらが名前に値するかを。


 選ばない。


***


 誰へ。


 何の用があるかを。


 もう一つ。


 尋ねる。


***


 名前だけで。


 人を。


 全部分かったことにしない。


***


 夜。


 朔は。


 自分の紙へ書く。


***


 サクという呼称を、俺より前から使用していた者と会った。


 同名を理由に、その者の賃金記録が俺の閲覧制限記録と照合され、支払いが保留された。


 その者には「二」が付され、二人目、偽物と呼ばれた。


***


 次。


 俺は、サクという名をその者へ許可しない。


 筆。


 止まる。


***


 書き直す。


***


 俺には、その者がサクと呼ばれることを許可する権限はない。


***


 次。


 その者も、俺がサクと呼ばれることを許可する者ではない。


***


 次。


 俺たちは現在、どちらもサクと呼ばれることを望んでいる。


***


 最後。


 同じ名前を使う者がいることを、一方の名前を眠らせる理由にはしない。


***


 市場の向こう。


 綱を。


 木へ打つ音。


***


 西河岸のサク。


 仕事。


 続いている。


***


 白い塔。


 朔。


 紙。


 書いている。


***


 二つの場所で。


 同じ名前が。


 呼ばれる。


***


 片方が。


 起きているから。


 もう片方を。


 眠らせなくてよい。


***


 二人目ではない名前が。


 それぞれの身体で。


 それぞれの用へ。


 返事をしていた。

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