第八章 起きている名前 ⑤ 代理人の声
ミウが。
白い布を。
机の上へ置いた。
***
幅。
指二本。
長さ。
腕へ巻けるほど。
端。
ほつれている。
***
中央。
黒い文字。
黒川朔代理
その下。
小さく。
通行補助
***
「これ」
ミウが言った。
「サクが作った?」
「いいえ」
朔。
「見たことは」
「今が初めてです」
***
「代理を頼んだ?」
「頼んでいません」
「通行補助は」
「何をする役目ですか」
「知らない」
「誰から?」
「第三門の前」
***
ミウは。
古紙市場から。
内塔の記録室へ。
紙を運ぶ途中だった。
荷物。
古い台帳。
二箱。
届け先。
ネラ。
***
旧資材区画。
第三門。
固定警備。
デル・ノーン。
首の右側。
傷。
***
以前。
武装したまま。
旧搬入口の確認へ立ち会い。
黒い手を見たと感じ。
剣を抜いた者。
***
今は。
門の横。
剣を鞘へ入れたまま。
立っている。
***
「ミウさんを」
デルは言った。
「止めたわけではありません」
「では」
朔。
「何がありましたか」
***
「通行札を確認しました」
「はい」
「届け先。荷物。時間。問題なし」
「なら」
「その前に。別の女性が、この布を渡しました」
***
「誰に」
「ミウさんへ」
「何と言った?」
ミウが答える。
「これ巻いたら、次から止められないって」
***
「止めない?」
デル。
「私は。通行札を確認します」
「布があっても?」
「はい」
「布を持つ人は」
「黒川朔さんの代理で。外区画の人や、正式な家名がない人の通行を補助すると」
***
家名。
ミウ。
使っている名。
一つ。
ミウ
出生記録。
不明。
現在使う家名。
なし。
***
以前。
名保持確認票。
という紙で。
配送を止められた。
***
「私」
ミウが言う。
「これ巻いたら。ミウだけで通れるって言われた」
「今も通れます」
デル。
「正式な通行札があります」
「でも、前は止めた」
「はい」
「サクが言ったから変えた?」
***
デルは。
すぐには答えない。
「朔さんだけではありません」
「誰」
「ミウさん。ミエルさん。記録側。経路側。管理側」
「サクも」
「はい」
***
「じゃあ」
ミウは。
白い布を見る。
「少しは本当?」
***
朔は。
布へ触れない。
「俺が。ミウさんの通行について話したことはあります」
「うん」
「俺が代理を決めたことはありません」
「通れるようにした?」
「俺一人ではありません」
***
「でも」
ミウ。
「この布の人は。サクの言葉を運んでるって」
***
言葉を運ぶ。
代理。
補助。
似ている。
同じではない。
***
「その人の名前は」
朔が尋ねる。
「トナ」
「家名」
「ベル」
***
トナ・ベル
***
外区画で。
荷運び。
代筆。
案内。
仕事がある日に。
必要な場所へ入る。
仕事がない日も。
入口で困っている者へ。
声をかける。
***
年齢。
二十に届くか。
少し過ぎたか。
短い髪。
右眉。
細い傷。
腰。
縄。
木札。
紙束。
***
左腕。
同じ白い布。
黒川朔代理
***
「外してください」
朔が言った。
***
トナは。
すぐには外さない。
「理由を聞いていいですか」
「俺は。代理を頼んでいません」
「でも」
「俺の名前が。俺が認めた役目の印になります」
「あなたの言葉を使っています」
「どの言葉ですか」
***
トナは。
紙束から。
公示の写しを出す。
***
今ここにいる私は、サクと呼ばれることを望んでいます。
確認されていない方法を、本人または必要な治療判断を置き去りにして試さないでください。
起きない人の名前を、俺へ渡しきらないでください。
その人の身体と、以前の言葉と、今困っていることを、それぞれ見られる人へ分けて持ってください。
***
「この最後」
トナ。
「分けて持つ」
「はい」
「私は。通行を持つ」
「誰から?」
「通れない人から」
「俺からでは」
「頼まれてはいません」
***
「では」
朔。
「なぜ。黒川朔代理と書いたんですか」
「私の名前だけでは。門が開かなかったからです」
***
トナは。
右手で。
白い布を押さえる。
「三日前」
「はい」
「紙工房のセムが。手を潰しました」
***
セム・ハラ
十六。
紙工房。
圧し板。
右手。
指。
三本。
板と台の間。
***
「外区画の治療所では」
トナ。
「骨まで見られないと言われた」
「内区画へ?」
「連れてきた」
「通行登録」
「ない」
「紹介者」
「工房主は。街の外」
「門では」
「明日の仮登録まで待て、と」
***
「手の状態」
マレアが尋ねる。
治療区画から。
呼ばれて来ている。
「出血」
トナ。
「止まりきってなかった」
「指の色」
「二本。白かった」
「感覚」
「本人は。ないと言った」
***
「それで」
朔。
「俺の名前を?」
「最初は使っていない」
「何と言いましたか」
「怪我人です。治療側へ確認してください」
「門は」
「登録が先だと」
「その後」
***
「白い塔のサクが」
トナは言う。
「名前や登録で、身体を見るのを遅らせるなと言っている、と言いました」
***
「俺は」
朔が止まる。
実際。
似たことを。
何度も言った。
***
危険が確認できる身体から。
助けてください。
名がないことを。
治療しない理由にしない。
現在身体を。
通常の身体として扱う。
***
「その言葉を」
朔。
「どこで聞きましたか」
「公示。相談机。市場での話」
「正確な文は」
「覚えていません」
「では」
「意味は同じでしょう」
***
意味。
同じ。
そう思った者の口で。
言葉が。
短くなる。
***
「門は開きましたか」
「確認が来た」
「誰が」
「ノエさん」
***
ノエ・ハーラ。
管理局。
白い外套ではない。
灰色。
腰。
鍵。
記録札。
***
「私は」
ノエが言う。
「黒川朔さんの代理人がいるとは。聞いていませんでした」
「はい」
トナ。
「ですが。セムさんの状態を確認しました」
「門を開けた?」
「治療側へ緊急確認を送り。マレアさんの許可で通しました」
***
「俺の名前で?」
朔。
「いいえ」
ノエ。
「怪我の状態で」
***
「でも」
トナ。
「あなたの名前を出さなければ。ノエさんは来なかった」
「可能性はあります」
ノエ。
「最初の警備担当が。私を呼んだ理由として。黒川朔代理という申告を記録しています」
***
「セムさんの手は」
朔が尋ねる。
「処置しました」
マレア。
「傷。骨。血流」
「残りましたか」
「右手は残っています」
「指」
「動きは。今後確認します」
***
「遅れていたら」
トナ。
「分かりません」
マレア。
「悪化した可能性はあります」
「なら」
「あなたが連れてきたことは。対応に繋がりました」
「サクの名前も」
「呼び出しを早めた可能性があります」
***
トナは。
朔を見る。
「役に立った」
「はい」
「では」
「役に立ったことと。俺が代理を頼んだことは違います」
***
「名前を使わなければ」
「セムさんは。待たされた可能性があります」
「なら」
「待たせる門の方を変えます」
「今すぐ?」
「すぐには変わりません」
「次のセムは」
「俺の名前を使わせる?」
***
トナは。
答えない。
***
「次のセムが」
朔は続ける。
「俺の名前を知らなかったら」
「誰かが教える」
「俺が街を出たら」
「公示は残る」
「俺が。言葉を変えたら」
「新しい公示を」
「誰が運ぶ?」
「私たちが」
***
「俺の代理として?」
「必要なら」
***
「必要だと決めるのは」
「今。困っている人です」
「俺ではない?」
「あなたを待っていたら。間に合わない」
***
間に合わない。
正しい。
ことがある。
***
朔が。
その場へいない時。
本人の確認を待てない。
身体。
危険。
時間。
***
だが。
その時に。
誰かが。
朔の名で。
決める。
***
「トナさんは」
マレアが尋ねる。
「何を決められる代理ですか」
「通行の補助」
「治療の優先」
「危険なら」
「記録閲覧」
「必要なら」
「白い手の確認」
トナが止まる。
***
「誰かに」
朔。
「白い手を試すと。約束しましたか」
「約束はしていない」
「何と言いましたか」
「サクの側へ。話を持って行ける」
「俺へ?」
「相談入口へ」
「同じではありません」
***
「でも」
トナ。
「皆。あなたに聞いてほしい」
「はい」
「相談机だけでは。塔の中へ届かないと思っている」
「あります」
「私が。この布を見せれば。役人が止まる」
「はい」
「話を聞く」
「はい」
「なら」
「その力が。俺から渡されたものに見えます」
***
「実際」
トナ。
「あなたが始めたことでしょう」
「始まったことと」
朔は言う。
「俺が。あなたへ判断を任せたことは違います」
***
第四話。
同じ言葉。
始まったこと。
申請したこと。
違う。
***
今。
始まったこと。
代理を頼んだこと。
違う。
***
「私は」
トナ。
「あなたの考えを広げた」
「はい」
「それも駄目?」
「広げることは。できます」
「では」
「トナさんの名前で。広げてください」
***
「私の名前では」
「門が開かない」
「だから」
リオが言う。
「門を変える話や」
***
「変わるまで」
トナ。
「怪我人に待てと言う?」
「言いません」
朔。
「緊急時に。誰の名でも。身体確認を求められるようにします」
「今から?」
「今日。仮の手順を作ります」
「その間」
「トナさんは。トナさんとして。危険を報告してください」
「無視されたら」
「無視した人の名前を残してください」
***
「名前で戦えと」
「違います」
「同じです」
トナの声が。
少し強くなる。
「役人の名前を記録しても。潰れた手は戻らない」
「はい」
「サクの名前なら。今。人が動く」
「はい」
「なら使う」
***
正しい。
部分がある。
だから。
危ない。
***
セムの手。
残った。
トナの行為。
役に立った。
朔の名。
人を動かした。
***
同じ方法が。
別の場所で。
何を動かすか。
分からない。
***
「昨日」
ノエが言う。
「別の人が。その布を使いました」
***
「誰」
トナ。
「名前は。ガル・メナ」
「渡した?」
「はい」
「何のため」
「姉の記録を見るため」
***
「記録室へ」
ネラ。
「来ました」
「通した?」
「外の受付までは」
ノエ。
「内側の記録廊下で。止めました」
「なぜ」
「閲覧許可がなかったからです」
***
「ガルさんは」
朔。
「何を見たかった?」
「姉が」
トナ。
「王都の保護対象になったことがある」
「名前」
「メル・メナ」
「現在」
「行方が分からない」
「記録がある可能性」
「ある」
***
「布は」
ノエ。
「通行補助として。入口では通されました」
「代理人だから?」
「はい」
「閲覧は」
「認めませんでした」
「何か見ましたか」
「廊下の索引板を」
ネラ。
「一部」
***
索引。
保護。
移送。
未帰還。
対象。
短い言葉。
***
「メルさんの名は」
「索引にはありませんでした」
「では」
「近い家名を。自分の姉だと思った可能性があります」
「何と」
「M.E.様符号」
***
K.K.
Y.I.
短い符号。
名に。
見える。
***
「ガルさんは」
ノエ。
「市場で。姉が白い塔にいるかもしれないと話しました」
***
トナが。
白い布を見る。
***
「私が」
彼女は言う。
「通した」
「入口まで」
ノエ。
「はい」
「記録を見せるとは」
「言っていない」
「通行補助と」
朔。
「どこまでを考えていましたか」
「必要な人へ会うところまで」
「誰が必要か」
「本人が」
「閲覧してよい記録は」
「記録側が決める」
「では」
「私は。入口まで」
***
「布には」
ネラ。
「入口まで、とありません」
***
黒川朔代理
通行補助
それだけ。
***
持つ者。
見る者。
門。
それぞれが。
範囲を作る。
***
「私のせいで」
トナ。
「ガルさんが。姉は塔にいると思った?」
「それだけとは決めません」
ネラ。
「以前から。そう考えていた可能性があります」
「布が」
「記録廊下へ近づく手段にはなりました」
***
「セムは助かった」
トナ。
「はい」
「ガルは」
「姉について。確認されていない話を広げました」
「はい」
「同じ布」
「はい」
***
役に立つ。
危険。
同じ物が。
両方を。
動かした。
***
「外します」
トナが言った。
***
左腕。
結び目。
固い。
右手。
爪。
布を引く。
***
黒川朔代理
机の上。
ミウの布と。
二本。
***
「捨てますか」
トナ。
「空の見本を残します」
ネラ。
「私の名前も?」
「はい」
「作ったのは」
「私です」
トナ。
「文字は」
「カイに頼んだ」
***
「カイさんの名前も」
「入れます」
***
トナ・ベル。
目的。
通行や相談を。
早く進める。
文字を書けない者。
登録のない者。
外区画の者。
治療や記録へ。
繋ぐ。
***
黒川朔の名前を使った理由。
門と担当者が。
話を聞きやすくなる。
公示の考えを。
運ぶ者だと。
示す。
***
結果。
セム・ハラ。
治療へ接続。
右手。
処置。
***
結果。
ガル・メナ。
記録廊下入口まで通行。
閲覧許可なし。
索引板を一部視認。
M.E.様符号を。
姉と関係する可能性として。
市場で発言。
***
「私が」
トナ。
「悪い?」
朔は。
すぐには答えない。
「俺の代理だと。俺の許可なく名乗ったことは。認めません」
「はい」
「セムさんを。治療へ連れてきたことは」
「はい」
「ガルさんを。記録へ繋ごうとしたことは」
「はい」
「範囲を決めずに。布を渡したことは」
「はい」
***
「全部」
トナ。
「私がした」
「はい」
「助けたのも」
「はい」
「危ないことをしたのも」
「はい」
「同じ名前で残る?」
「トナ・ベルさんの行為として」
***
「サクの代理じゃなく」
「はい」
***
トナは。
自分の名前を。
記録へ書く。
字。
大きい。
傾く。
***
「今後」
グラドが言う。
「無断代理を禁止します」
「それだけでは」
朔。
「足りません」
「処罰も」
「必要なら。管理側が決めてください」
「では」
「代理を使わなければ。身体の危険を知らせられない門を変えてください」
***
仮の手順。
その日。
第三門。
治療区画入口。
記録区画入口。
外区画受付。
四か所。
***
身体危険の確認要求
誰でも。
登録。
紹介者。
通行権。
なしでも。
申し出られる。
***
最初に聞く。
申告者の名前。
分からない。
言いたくない。
それも分ける。
***
次。
誰の身体。
どこ。
どのような状態。
呼吸。
出血。
意識。
痛み。
移動可能か。
***
門の担当者が。
治療判断をしない。
治療側へ。
短い確認を送る。
***
緊急確認を求めた者に。
登録者の紹介を。
要求しない。
***
「虚偽なら」
デル。
「対応後に記録します」
マレア。
「何度も虚偽を出す者は」
「別の対処をします」
「先に排除しない?」
「身体危険の申告だけで。門を完全に開けるわけではありません」
***
治療側。
門へ来る。
または。
本人の場所へ。
向かう。
***
通行許可と。
身体確認を。
分ける。
***
「記録については」
ネラ。
「緊急ではない」
「行方不明は」
トナ。
「急ぐことがあります」
「はい」
「なら」
「捜索と。閲覧を分けます」
***
行方不明。
本人の名。
最後に見た場所。
時間。
身体的特徴。
持ち物。
危険。
捜索受付。
***
記録閲覧。
本人との関係。
閲覧目的。
公開できる範囲。
個人情報。
別。
***
「ガルさんは」
トナ。
「捜索へ?」
「まず」
ネラ。
「メル・メナさんの行方不明記録を確認します」
「M.E.は」
「関係は未確認」
「本人へ」
「そう伝えます」
***
「私が行く」
「トナさんとして?」
朔。
「はい」
「代理ではなく」
「はい」
***
次。
通行補助者
という役目。
作るか。
***
「また役目」
ユイが言った。
「はい」
セオ。
「今度は。何をする人?」
「書類を読む。場所を案内する。本人の言葉を聞く。担当者へ繋ぐ」
「決める?」
「通行を許可しない」
「治療を決めない」
「記録を見せることも」
「決めない」
***
「本人の代わりに話す?」
「本人が話せるなら」
朔。
「本人へ聞きます」
「話せないなら」
「相談者の言葉。以前の言葉。身体状態を分けて伝えます」
「サクの代わりは」
「しません」
***
「誰が通行補助者を決める」
グラド。
「募集。確認。研修」
「王都が」
「市場側も」
ミエル。
「王都だけで決めたら。外の人が来なくなる」
***
「名前」
トナが尋ねる。
「布に書く?」
「はい」
ルカ。
「本人の名前を」
***
通行補助
トナ・ベル
***
その下。
できること。
案内。
申請補助。
身体危険の確認要求。
担当者への接続。
***
できないこと。
通行許可。
治療同意。
記録閲覧許可。
代理署名。
本人の希望の代替。
***
「長い」
トナ。
「札は短く」
ルカ。
「詳しい範囲は登録紙へ」
「札だけ見た人は」
「通行補助。トナ・ベル」
「範囲を知らない」
「門に。確認表を置きます」
***
「また紙」
ミエル。
「はい」
「紙がない時」
朔。
「口頭で。自分の名前と。できる範囲を言います」
***
「私が」
トナ。
「緊急だと思ったら」
「身体危険の確認を求めます」
「担当が遅い」
「再度求める」
「無視」
「担当者名を確認する」
「それでも」
「ほかの門。治療区画。ノエさん。マレアさん。使える経路を」
「サクの名前」
「使わないでください」
***
「サクが言ったことは」
「引用できます」
「どうやって」
「言った言葉を。変えずに」
「全部覚えてない」
「公示を持つ」
「長い」
「使う部分と。日付。出典」
***
引用札。
小さい。
***
黒川朔による公示より
「確認されていない方法を、本人または必要な治療判断を置き去りにして試さないでください」
日付。
掲示場所。
***
その下。
この言葉を参照して、トナ・ベルが身体危険の確認を求めます。
***
「これなら」
トナ。
「サクの言葉を使っている」
「はい」
「でも、サクの代理ではない」
「はい」
「私が求める」
「はい」
***
「引用を間違えたら」
「訂正します」
「意味を広げたら」
「トナさんの判断として残します」
「サクの考えと同じなら」
「同じだと。トナさんが考えたことです」
***
「面倒」
「はい」
「でも」
トナは。
白い布を見る。
「私の名前が消えない」
「はい」
***
伝言。
という形も。
分ける。
***
朔が。
特定の相手へ。
特定の言葉を。
届けるよう。
頼む。
***
伝言者。
誰。
受取人。
誰。
内容。
何。
期限。
いつまで。
***
伝言者は。
質問へ。
朔の代わりに答えない。
追加の約束。
しない。
***
「代理は」
グラド。
「必要な場合があります」
「はい」
朔。
「例えば」
「朔さんが。自分で書けない時。物を受け取る。時間変更を伝える。手続きを行う」
「では」
「行為を限定します」
***
代理。
誰。
何を。
どこまで。
いつまで。
変更。
取消。
***
「全部」
トナ。
「本人に聞く?」
「可能なら」
「話せない時」
「以前の明示的な委任。緊急対応。別の根拠を分けます」
***
「公示を出したら」
トナ。
「街全体へ委任したことには」
「なりません」
***
引用。
伝言。
賛同。
代理。
***
似ている。
同じではない。
***
引用。
誰かの言葉を。
出典とともに。
運ぶ。
***
伝言。
頼まれた内容を。
決められた相手へ。
届ける。
***
賛同。
自分が。
同じだと考えることを。
自分の名で言う。
***
代理。
本人から渡された範囲で。
本人に代わって。
行為する。
***
「今までの私は」
トナが尋ねる。
「どれ?」
「俺の公示を引用した」
朔。
「はい」
「自分も。そうすべきだと考えた」
「はい」
「通行や優先について。俺の代わりに決めたと名乗った」
「はい」
「混ざっています」
***
「一つには」
「しません」
***
午後。
セム・ハラが。
治療区画から。
市場へ来た。
***
右手。
厚い布。
胸の前。
吊る。
指。
先。
二本。
見える。
***
顔。
青白い。
だが。
歩く。
***
「トナ」
セムが呼ぶ。
「おる」
***
トナが。
近づく。
腕。
白い布。
もうない。
***
「それ」
セム。
「外した?」
「うん」
「サク代理」
「違ったから」
***
セムは。
朔を見る。
「あなたが。助けてくれた?」
***
朔は。
すぐに。
いいえ。
とは言わない。
***
「その時」
朔は言う。
「俺は。門にいませんでした」
「でも」
「トナさんが。俺の名前を使いました」
「はい」
「その言葉で。ノエさんが呼ばれた可能性があります」
「はい」
「ノエさんが。身体を確認しました」
「はい」
「マレアさんが。治療の判断をしました」
「はい」
「トナさんが。セムさんを連れてきました」
***
「誰が助けた?」
セム。
「一人にはしません」
***
セムは。
吊った手を見る。
「でも。サクの名前がなかったら」
「待った可能性があります」
「なら」
「俺の名前が。門を早く動かした可能性はあります」
「助けた?」
「名前だけでは。手を治療できません」
***
「トナが」
「連れてきました」
「ノエさんが」
「門で止めず。確認へ繋ぎました」
「マレアさんが」
「処置しました」
「俺は」
「身体の状態を伝えましたか」
「痛いって。白いって。感覚ないって」
「それも必要でした」
***
セムは。
少し考える。
「俺も?」
「はい」
***
「動くか」
セムが。
包帯の外。
指先を。
わずかに動かす。
「まだ分からない」
「はい」
「でも、残ってる」
「はい」
***
「サク代理じゃないなら」
セム。
「トナは何」
トナが答える。
「通行補助になるかもしれない」
「何する」
「お前みたいなのを。門まで連れてく」
「通す?」
「通すって決めるのは。門と治療側」
「役に立たん」
「身体危険の確認を。私の名前で求められるようにする」
***
「前と同じ?」
「前は。サクの名で止めた」
「今は」
「トナ・ベルが。セム・ハラの手を見ろって言う」
「弱い」
「弱いな」
トナは。
認める。
***
「でも」
彼女は続ける。
「弱い名前でも。聞く門に変える」
***
セムは。
朔。
トナ。
ノエ。
マレア。
一人ずつ見る。
***
「俺の名前は」
「セム・ハラ」
朔。
「手」
「右」
「仕事」
「紙工房」
「戻れる?」
「まだ分かりません」
***
「それ」
セム。
「サクのまだ?」
「今の治療状態について。確認が続いているという意味です」
「俺のまだは」
「仕事へ戻れるか。指が動くか。痛みがどうなるか」
「同じじゃない」
「はい」
***
セムは。
左手で。
トナの新しい札を持つ。
***
通行補助
トナ・ベル
***
「今度」
セム。
「また誰か潰したら」
「潰す前に機械止めろ」
トナ。
「潰れたら」
「私の名前で連れてく」
「サクは」
「必要なら。公示を引用する」
「代理じゃない」
「うん」
***
「それで門が開かなかったら」
セム。
「門の担当の名前を聞く」
「その間に血が出る」
「治療側を呼ぶ」
「遅かったら」
トナが。
答えを止める。
***
「その時」
朔が言う。
「誰が。何をしなかったかを残すだけでは。手は戻りません」
「はい」
トナ。
「だから」
「今。門へ。仮手順を置きました」
「それで全部?」
「足りません」
***
「なら」
セム。
「また変える?」
「はい」
***
その日の夕方。
第三門。
白い布。
新しい札。
***
デル・ノーン。
トナ・ベル。
ノエ・ハーラ。
マレア・ソン。
ルカ・フェン。
朔。
***
練習。
怪我人役。
セムは。
治療中のため。
参加しない。
***
ファナが。
布へ。
赤い染料を。
少し付ける。
腕。
動かない役。
***
トナ。
「身体危険の確認を求めます」
「名前」
デル。
「トナ・ベル。通行補助」
「怪我人」
「ファナ・リト」
「状態」
「右前腕。出血。動かないと本人が申告」
「通行登録」
「今は確認より。治療側への連絡を求めます」
***
デル。
鐘。
一回。
治療確認。
***
「通行許可」
「まだ出していません」
「本人を」
「門の外側の確認場所へ」
***
マレア。
来る。
呼吸。
出血。
感覚。
移動。
確認。
***
「内側へ」
治療判断。
「誰の名前で」
トナが尋ねる。
「マレア・ソンの治療判断で」
***
門。
開く。
***
黒川朔。
使わない。
***
「遅い?」
トナ。
時間。
記録。
最初の申告から。
治療側到着まで。
七十数える。
***
「セムの時より」
「短いです」
ノエ。
「次は」
「夜間」
「治療側が遠い時」
「荷車」
「複数人」
***
練習。
増える。
今日だけで。
終わらない。
***
役目を。
名札へ書けば。
仕組みが。
完成するわけではない。
***
トナは。
自分の札を外す。
「まだ正式じゃない」
「はい」
ルカ。
「いつ」
「試行記録を確認してから」
「その間」
「仮の補助者として。範囲を毎回伝える」
***
「面倒」
「はい」
「サク代理の方が」
「早い?」
「早かった」
***
「戻したい?」
朔。
トナは。
机の上の。
白い布を見る。
「少し」
「なぜ」
「人が動いたから」
「はい」
「私が。強くなった感じがした」
***
「助けやすかった?」
「はい」
「命令もできた?」
「少し」
「それを」
トナは。
自分で言う。
「私が。サクの考えを分かってるからだと思った」
***
「分かっていない?」
「分かってる部分もある」
「はい」
「でも」
「俺の代わりに決められることとは違います」
「はい」
***
「代理って」
ユイが尋ねる。
「サクになる人?」
「なりません」
朔。
「サクの手を使う人?」
「決められたことだけ。代わりにする人です」
「トナは」
「頼まれていませんでした」
「でも、助けた」
「はい」
「じゃあ」
「助けたことは。代理だった証明にはなりません」
***
「サクの名前で」
ユイ。
「助けた」
「そういう部分があります」
「トナの名前で」
「連れてきました」
「二つ?」
「もっとあります」
***
ユイは。
白い布。
新しい札。
見比べる。
「白い方は。サクが大きい」
「はい」
「新しい方は。トナが大きい」
「はい」
「通行補助は」
「同じくらい」
***
「誰がするか」
名前。
何をするか。
役目。
両方。
読める。
***
夜。
トナは。
古い白い布を。
自分で記録箱へ入れる。
***
最後に。
一度。
文字を見る。
***
黒川朔代理
***
「私」
トナが言う。
「あなたの声を使ってました」
「はい」
「勝手に」
「はい」
「でも。全部が嘘ではなかった」
「はい」
「どこから嘘?」
朔は。
少し考える。
「俺の言葉を引用したことは。嘘ではありません」
「はい」
「トナさんも。そうすべきだと考えたことも」
「はい」
「俺が。トナさんへ判断を任せたこと」
「ない」
「そこです」
***
「じゃあ」
トナ。
「今度から」
新しい引用札。
手に持つ。
***
黒川朔による公示より
引用。
日付。
場所。
***
その下。
トナは。
自分で書く。
***
この言葉を参照して、トナ・ベルが身体危険の確認を求めます。
***
「これ」
トナ。
「私の声?」
「はい」
「サクの言葉も」
「はい」
「混ざらない?」
「分けてあります」
「読む人が。混ぜたら」
「説明します」
「時間がなかったら」
「短く言う」
***
トナは。
門へ向けて。
練習する。
「黒川朔の代理です」
止める。
首を振る。
***
「黒川朔の公示を読んだ」
止まる。
「それで?」
***
もう一度。
「トナ・ベルです。怪我人の身体確認を求めます。黒川朔の公示にある、治療判断を置き去りにしないという言葉を参照します」
***
「長い」
リオ。
「分かってる」
***
「でも」
トナは言う。
「私が言ってる」
「はい」
朔。
***
誰かの言葉を。
運ぶことはできる。
言葉を。
運んだ者の口を。
消さずに。
***
誰かの考えへ。
賛同することもできる。
賛同した者の名を。
置いたまま。
***
頼まれた伝言を。
届けることもできる。
届いた先で。
勝手に答えを増やさずに。
***
代理することも。
必要な時がある。
何を。
いつまで。
誰に。
任されたかを。
残した上で。
***
声は。
名前より。
速く歩く。
***
サクが言った。
サクなら認める。
サクの考えだ。
サクの代理だ。
***
短くなれば。
口だけが残る。
誰が。
その言葉を選び。
どこまで広げ。
何を決めたか。
消える。
***
だから。
借りた声の後ろへ。
自分の声を。
隠さない。
***
朔は。
自分の紙へ書く。
***
トナ・ベルは、俺の公示を参照し、俺の代理と名乗って通行および相談の補助を行った。俺は代理を依頼していなかった。
トナさんの行為により、セム・ハラさんの治療確認が早まった可能性がある。
同じ表示を持つ者が、記録閲覧許可のない範囲まで進み、未確認の符号を家族名と結びつけた。
***
次。
役に立ったことと、任せたことは同じではない。
危険が生じたことと、助けようとしたことも、片方から消さない。
***
次。
俺の言葉を引用する者は、引用した言葉、出典、自分の名前、自分が求める行為を分けて示す。
賛同、伝言、代理を同じものとして扱わない。
***
最後。
俺の声を運ぶ者が、自分の口を空白にしないでほしい。
***
筆。
止まる。
***
トナは。
黒川朔ではない。
朔の声でもない。
***
だが。
朔の言葉を。
聞いた。
使った。
広げた。
変えた。
***
その全てを。
無関係にはしない。
***
代理ではなかったから。
助けたことまで。
消さない。
***
助けたから。
代理だったことにも。
しない。
***
翌朝。
第三門。
怪我人を背負った男が。
走ってくる。
***
トナが。
先に。
門へ着く。
***
「トナ・ベルです」
自分の名。
***
「この人の身体危険の確認を求めます」
求める行為。
***
「黒川朔さんの代理ではありません」
頼まれていない役目を。
先に外す。
***
「通行補助として。治療側へ繋いでください」
自分が。
今。
持つ範囲。
***
デルは。
黒川朔を。
探さない。
***
怪我人を見る。
呼吸。
血。
意識。
***
鐘を鳴らす。
***
門が開く。
***
誰かの名前を。
鍵にしたのではなく。
目の前の身体を。
見るために。




