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第八章 起きている名前 ⑤ 代理人の声


 ミウが。


 白い布を。


 机の上へ置いた。


***


 幅。


 指二本。


 長さ。


 腕へ巻けるほど。


 端。


 ほつれている。


***


 中央。


 黒い文字。


 黒川朔代理


 その下。


 小さく。


 通行補助


***


「これ」


 ミウが言った。


「サクが作った?」


「いいえ」


 朔。


「見たことは」


「今が初めてです」


***


「代理を頼んだ?」


「頼んでいません」


「通行補助は」


「何をする役目ですか」


「知らない」


「誰から?」


「第三門の前」


***


 ミウは。


 古紙市場から。


 内塔の記録室へ。


 紙を運ぶ途中だった。


 荷物。


 古い台帳。


 二箱。


 届け先。


 ネラ。


***


 旧資材区画。


 第三門。


 固定警備。


 デル・ノーン。


 首の右側。


 傷。


***


 以前。


 武装したまま。


 旧搬入口の確認へ立ち会い。


 黒い手を見たと感じ。


 剣を抜いた者。


***


 今は。


 門の横。


 剣を鞘へ入れたまま。


 立っている。


***


「ミウさんを」


 デルは言った。


「止めたわけではありません」


「では」


 朔。


「何がありましたか」


***


「通行札を確認しました」


「はい」


「届け先。荷物。時間。問題なし」


「なら」


「その前に。別の女性が、この布を渡しました」


***


「誰に」


「ミウさんへ」


「何と言った?」


 ミウが答える。


「これ巻いたら、次から止められないって」


***


「止めない?」


 デル。


「私は。通行札を確認します」


「布があっても?」


「はい」


「布を持つ人は」


「黒川朔さんの代理で。外区画の人や、正式な家名がない人の通行を補助すると」


***


 家名。


 ミウ。


 使っている名。


 一つ。


 ミウ


 出生記録。


 不明。


 現在使う家名。


 なし。


***


 以前。


 名保持確認票。


 という紙で。


 配送を止められた。


***


「私」


 ミウが言う。


「これ巻いたら。ミウだけで通れるって言われた」


「今も通れます」


 デル。


「正式な通行札があります」


「でも、前は止めた」


「はい」


「サクが言ったから変えた?」


***


 デルは。


 すぐには答えない。


「朔さんだけではありません」


「誰」


「ミウさん。ミエルさん。記録側。経路側。管理側」


「サクも」


「はい」


***


「じゃあ」


 ミウは。


 白い布を見る。


「少しは本当?」


***


 朔は。


 布へ触れない。


「俺が。ミウさんの通行について話したことはあります」


「うん」


「俺が代理を決めたことはありません」


「通れるようにした?」


「俺一人ではありません」


***


「でも」


 ミウ。


「この布の人は。サクの言葉を運んでるって」


***


 言葉を運ぶ。


 代理。


 補助。


 似ている。


 同じではない。


***


「その人の名前は」


 朔が尋ねる。


「トナ」


「家名」


「ベル」


***


 トナ・ベル


***


 外区画で。


 荷運び。


 代筆。


 案内。


 仕事がある日に。


 必要な場所へ入る。


 仕事がない日も。


 入口で困っている者へ。


 声をかける。


***


 年齢。


 二十に届くか。


 少し過ぎたか。


 短い髪。


 右眉。


 細い傷。


 腰。


 縄。


 木札。


 紙束。


***


 左腕。


 同じ白い布。


 黒川朔代理


***


「外してください」


 朔が言った。


***


 トナは。


 すぐには外さない。


「理由を聞いていいですか」


「俺は。代理を頼んでいません」


「でも」


「俺の名前が。俺が認めた役目の印になります」


「あなたの言葉を使っています」


「どの言葉ですか」


***


 トナは。


 紙束から。


 公示の写しを出す。


***


 今ここにいる私は、サクと呼ばれることを望んでいます。


 確認されていない方法を、本人または必要な治療判断を置き去りにして試さないでください。


 起きない人の名前を、俺へ渡しきらないでください。


 その人の身体と、以前の言葉と、今困っていることを、それぞれ見られる人へ分けて持ってください。


***


「この最後」


 トナ。


「分けて持つ」


「はい」


「私は。通行を持つ」


「誰から?」


「通れない人から」


「俺からでは」


「頼まれてはいません」


***


「では」


 朔。


「なぜ。黒川朔代理と書いたんですか」


「私の名前だけでは。門が開かなかったからです」


***


 トナは。


 右手で。


 白い布を押さえる。


「三日前」


「はい」


「紙工房のセムが。手を潰しました」


***


 セム・ハラ


 十六。


 紙工房。


 圧し板。


 右手。


 指。


 三本。


 板と台の間。


***


「外区画の治療所では」


 トナ。


「骨まで見られないと言われた」


「内区画へ?」


「連れてきた」


「通行登録」


「ない」


「紹介者」


「工房主は。街の外」


「門では」


「明日の仮登録まで待て、と」


***


「手の状態」


 マレアが尋ねる。


 治療区画から。


 呼ばれて来ている。


「出血」


 トナ。


「止まりきってなかった」


「指の色」


「二本。白かった」


「感覚」


「本人は。ないと言った」


***


「それで」


 朔。


「俺の名前を?」


「最初は使っていない」


「何と言いましたか」


「怪我人です。治療側へ確認してください」


「門は」


「登録が先だと」


「その後」


***


「白い塔のサクが」


 トナは言う。


「名前や登録で、身体を見るのを遅らせるなと言っている、と言いました」


***


「俺は」


 朔が止まる。


 実際。


 似たことを。


 何度も言った。


***


 危険が確認できる身体から。


 助けてください。


 名がないことを。


 治療しない理由にしない。


 現在身体を。


 通常の身体として扱う。


***


「その言葉を」


 朔。


「どこで聞きましたか」


「公示。相談机。市場での話」


「正確な文は」


「覚えていません」


「では」


「意味は同じでしょう」


***


 意味。


 同じ。


 そう思った者の口で。


 言葉が。


 短くなる。


***


「門は開きましたか」


「確認が来た」


「誰が」


「ノエさん」


***


 ノエ・ハーラ。


 管理局。


 白い外套ではない。


 灰色。


 腰。


 鍵。


 記録札。


***


「私は」


 ノエが言う。


「黒川朔さんの代理人がいるとは。聞いていませんでした」


「はい」


 トナ。


「ですが。セムさんの状態を確認しました」


「門を開けた?」


「治療側へ緊急確認を送り。マレアさんの許可で通しました」


***


「俺の名前で?」


 朔。


「いいえ」


 ノエ。


「怪我の状態で」


***


「でも」


 トナ。


「あなたの名前を出さなければ。ノエさんは来なかった」


「可能性はあります」


 ノエ。


「最初の警備担当が。私を呼んだ理由として。黒川朔代理という申告を記録しています」


***


「セムさんの手は」


 朔が尋ねる。


「処置しました」


 マレア。


「傷。骨。血流」


「残りましたか」


「右手は残っています」


「指」


「動きは。今後確認します」


***


「遅れていたら」


 トナ。


「分かりません」


 マレア。


「悪化した可能性はあります」


「なら」


「あなたが連れてきたことは。対応に繋がりました」


「サクの名前も」


「呼び出しを早めた可能性があります」


***


 トナは。


 朔を見る。


「役に立った」


「はい」


「では」


「役に立ったことと。俺が代理を頼んだことは違います」


***


「名前を使わなければ」


「セムさんは。待たされた可能性があります」


「なら」


「待たせる門の方を変えます」


「今すぐ?」


「すぐには変わりません」


「次のセムは」


「俺の名前を使わせる?」


***


 トナは。


 答えない。


***


「次のセムが」


 朔は続ける。


「俺の名前を知らなかったら」


「誰かが教える」


「俺が街を出たら」


「公示は残る」


「俺が。言葉を変えたら」


「新しい公示を」


「誰が運ぶ?」


「私たちが」


***


「俺の代理として?」


「必要なら」


***


「必要だと決めるのは」


「今。困っている人です」


「俺ではない?」


「あなたを待っていたら。間に合わない」


***


 間に合わない。


 正しい。


 ことがある。


***


 朔が。


 その場へいない時。


 本人の確認を待てない。


 身体。


 危険。


 時間。


***


 だが。


 その時に。


 誰かが。


 朔の名で。


 決める。


***


「トナさんは」


 マレアが尋ねる。


「何を決められる代理ですか」


「通行の補助」


「治療の優先」


「危険なら」


「記録閲覧」


「必要なら」


「白い手の確認」


 トナが止まる。


***


「誰かに」


 朔。


「白い手を試すと。約束しましたか」


「約束はしていない」


「何と言いましたか」


「サクの側へ。話を持って行ける」


「俺へ?」


「相談入口へ」


「同じではありません」


***


「でも」


 トナ。


「皆。あなたに聞いてほしい」


「はい」


「相談机だけでは。塔の中へ届かないと思っている」


「あります」


「私が。この布を見せれば。役人が止まる」


「はい」


「話を聞く」


「はい」


「なら」


「その力が。俺から渡されたものに見えます」


***


「実際」


 トナ。


「あなたが始めたことでしょう」


「始まったことと」


 朔は言う。


「俺が。あなたへ判断を任せたことは違います」


***


 第四話。


 同じ言葉。


 始まったこと。


 申請したこと。


 違う。


***


 今。


 始まったこと。


 代理を頼んだこと。


 違う。


***


「私は」


 トナ。


「あなたの考えを広げた」


「はい」


「それも駄目?」


「広げることは。できます」


「では」


「トナさんの名前で。広げてください」


***


「私の名前では」


「門が開かない」


「だから」


 リオが言う。


「門を変える話や」


***


「変わるまで」


 トナ。


「怪我人に待てと言う?」


「言いません」


 朔。


「緊急時に。誰の名でも。身体確認を求められるようにします」


「今から?」


「今日。仮の手順を作ります」


「その間」


「トナさんは。トナさんとして。危険を報告してください」


「無視されたら」


「無視した人の名前を残してください」


***


「名前で戦えと」


「違います」


「同じです」


 トナの声が。


 少し強くなる。


「役人の名前を記録しても。潰れた手は戻らない」


「はい」


「サクの名前なら。今。人が動く」


「はい」


「なら使う」


***


 正しい。


 部分がある。


 だから。


 危ない。


***


 セムの手。


 残った。


 トナの行為。


 役に立った。


 朔の名。


 人を動かした。


***


 同じ方法が。


 別の場所で。


 何を動かすか。


 分からない。


***


「昨日」


 ノエが言う。


「別の人が。その布を使いました」


***


「誰」


 トナ。


「名前は。ガル・メナ」


「渡した?」


「はい」


「何のため」


「姉の記録を見るため」


***


「記録室へ」


 ネラ。


「来ました」


「通した?」


「外の受付までは」


 ノエ。


「内側の記録廊下で。止めました」


「なぜ」


「閲覧許可がなかったからです」


***


「ガルさんは」


 朔。


「何を見たかった?」


「姉が」


 トナ。


「王都の保護対象になったことがある」


「名前」


「メル・メナ」


「現在」


「行方が分からない」


「記録がある可能性」


「ある」


***


「布は」


 ノエ。


「通行補助として。入口では通されました」


「代理人だから?」


「はい」


「閲覧は」


「認めませんでした」


「何か見ましたか」


「廊下の索引板を」


 ネラ。


「一部」


***


 索引。


 保護。


 移送。


 未帰還。


 対象。


 短い言葉。


***


「メルさんの名は」


「索引にはありませんでした」


「では」


「近い家名を。自分の姉だと思った可能性があります」


「何と」


「M.E.様符号」


***


 K.K.


 Y.I.


 短い符号。


 名に。


 見える。


***


「ガルさんは」


 ノエ。


「市場で。姉が白い塔にいるかもしれないと話しました」


***


 トナが。


 白い布を見る。


***


「私が」


 彼女は言う。


「通した」


「入口まで」


 ノエ。


「はい」


「記録を見せるとは」


「言っていない」


「通行補助と」


 朔。


「どこまでを考えていましたか」


「必要な人へ会うところまで」


「誰が必要か」


「本人が」


「閲覧してよい記録は」


「記録側が決める」


「では」


「私は。入口まで」


***


「布には」


 ネラ。


「入口まで、とありません」


***


 黒川朔代理


 通行補助


 それだけ。


***


 持つ者。


 見る者。


 門。


 それぞれが。


 範囲を作る。


***


「私のせいで」


 トナ。


「ガルさんが。姉は塔にいると思った?」


「それだけとは決めません」


 ネラ。


「以前から。そう考えていた可能性があります」


「布が」


「記録廊下へ近づく手段にはなりました」


***


「セムは助かった」


 トナ。


「はい」


「ガルは」


「姉について。確認されていない話を広げました」


「はい」


「同じ布」


「はい」


***


 役に立つ。


 危険。


 同じ物が。


 両方を。


 動かした。


***


「外します」


 トナが言った。


***


 左腕。


 結び目。


 固い。


 右手。


 爪。


 布を引く。


***


 黒川朔代理


 机の上。


 ミウの布と。


 二本。


***


「捨てますか」


 トナ。


「空の見本を残します」


 ネラ。


「私の名前も?」


「はい」


「作ったのは」


「私です」


 トナ。


「文字は」


「カイに頼んだ」


***


「カイさんの名前も」


「入れます」


***


 トナ・ベル。


 目的。


 通行や相談を。


 早く進める。


 文字を書けない者。


 登録のない者。


 外区画の者。


 治療や記録へ。


 繋ぐ。


***


 黒川朔の名前を使った理由。


 門と担当者が。


 話を聞きやすくなる。


 公示の考えを。


 運ぶ者だと。


 示す。


***


 結果。


 セム・ハラ。


 治療へ接続。


 右手。


 処置。


***


 結果。


 ガル・メナ。


 記録廊下入口まで通行。


 閲覧許可なし。


 索引板を一部視認。


 M.E.様符号を。


 姉と関係する可能性として。


 市場で発言。


***


「私が」


 トナ。


「悪い?」


 朔は。


 すぐには答えない。


「俺の代理だと。俺の許可なく名乗ったことは。認めません」


「はい」


「セムさんを。治療へ連れてきたことは」


「はい」


「ガルさんを。記録へ繋ごうとしたことは」


「はい」


「範囲を決めずに。布を渡したことは」


「はい」


***


「全部」


 トナ。


「私がした」


「はい」


「助けたのも」


「はい」


「危ないことをしたのも」


「はい」


「同じ名前で残る?」


「トナ・ベルさんの行為として」


***


「サクの代理じゃなく」


「はい」


***


 トナは。


 自分の名前を。


 記録へ書く。


 字。


 大きい。


 傾く。


***


「今後」


 グラドが言う。


「無断代理を禁止します」


「それだけでは」


 朔。


「足りません」


「処罰も」


「必要なら。管理側が決めてください」


「では」


「代理を使わなければ。身体の危険を知らせられない門を変えてください」


***


 仮の手順。


 その日。


 第三門。


 治療区画入口。


 記録区画入口。


 外区画受付。


 四か所。


***


 身体危険の確認要求


 誰でも。


 登録。


 紹介者。


 通行権。


 なしでも。


 申し出られる。


***


 最初に聞く。


 申告者の名前。


 分からない。


 言いたくない。


 それも分ける。


***


 次。


 誰の身体。


 どこ。


 どのような状態。


 呼吸。


 出血。


 意識。


 痛み。


 移動可能か。


***


 門の担当者が。


 治療判断をしない。


 治療側へ。


 短い確認を送る。


***


 緊急確認を求めた者に。


 登録者の紹介を。


 要求しない。


***


「虚偽なら」


 デル。


「対応後に記録します」


 マレア。


「何度も虚偽を出す者は」


「別の対処をします」


「先に排除しない?」


「身体危険の申告だけで。門を完全に開けるわけではありません」


***


 治療側。


 門へ来る。


 または。


 本人の場所へ。


 向かう。


***


 通行許可と。


 身体確認を。


 分ける。


***


「記録については」


 ネラ。


「緊急ではない」


「行方不明は」


 トナ。


「急ぐことがあります」


「はい」


「なら」


「捜索と。閲覧を分けます」


***


 行方不明。


 本人の名。


 最後に見た場所。


 時間。


 身体的特徴。


 持ち物。


 危険。


 捜索受付。


***


 記録閲覧。


 本人との関係。


 閲覧目的。


 公開できる範囲。


 個人情報。


 別。


***


「ガルさんは」


 トナ。


「捜索へ?」


「まず」


 ネラ。


「メル・メナさんの行方不明記録を確認します」


「M.E.は」


「関係は未確認」


「本人へ」


「そう伝えます」


***


「私が行く」


「トナさんとして?」


 朔。


「はい」


「代理ではなく」


「はい」


***


 次。


 通行補助者


 という役目。


 作るか。


***


「また役目」


 ユイが言った。


「はい」


 セオ。


「今度は。何をする人?」


「書類を読む。場所を案内する。本人の言葉を聞く。担当者へ繋ぐ」


「決める?」


「通行を許可しない」


「治療を決めない」


「記録を見せることも」


「決めない」


***


「本人の代わりに話す?」


「本人が話せるなら」


 朔。


「本人へ聞きます」


「話せないなら」


「相談者の言葉。以前の言葉。身体状態を分けて伝えます」


「サクの代わりは」


「しません」


***


「誰が通行補助者を決める」


 グラド。


「募集。確認。研修」


「王都が」


「市場側も」


 ミエル。


「王都だけで決めたら。外の人が来なくなる」


***


「名前」


 トナが尋ねる。


「布に書く?」


「はい」


 ルカ。


「本人の名前を」


***


 通行補助


 トナ・ベル


***


 その下。


 できること。


 案内。


 申請補助。


 身体危険の確認要求。


 担当者への接続。


***


 できないこと。


 通行許可。


 治療同意。


 記録閲覧許可。


 代理署名。


 本人の希望の代替。


***


「長い」


 トナ。


「札は短く」


 ルカ。


「詳しい範囲は登録紙へ」


「札だけ見た人は」


「通行補助。トナ・ベル」


「範囲を知らない」


「門に。確認表を置きます」


***


「また紙」


 ミエル。


「はい」


「紙がない時」


 朔。


「口頭で。自分の名前と。できる範囲を言います」


***


「私が」


 トナ。


「緊急だと思ったら」


「身体危険の確認を求めます」


「担当が遅い」


「再度求める」


「無視」


「担当者名を確認する」


「それでも」


「ほかの門。治療区画。ノエさん。マレアさん。使える経路を」


「サクの名前」


「使わないでください」


***


「サクが言ったことは」


「引用できます」


「どうやって」


「言った言葉を。変えずに」


「全部覚えてない」


「公示を持つ」


「長い」


「使う部分と。日付。出典」


***


 引用札。


 小さい。


***


 黒川朔による公示より


 「確認されていない方法を、本人または必要な治療判断を置き去りにして試さないでください」


 日付。


 掲示場所。


***


 その下。


 この言葉を参照して、トナ・ベルが身体危険の確認を求めます。


***


「これなら」


 トナ。


「サクの言葉を使っている」


「はい」


「でも、サクの代理ではない」


「はい」


「私が求める」


「はい」


***


「引用を間違えたら」


「訂正します」


「意味を広げたら」


「トナさんの判断として残します」


「サクの考えと同じなら」


「同じだと。トナさんが考えたことです」


***


「面倒」


「はい」


「でも」


 トナは。


 白い布を見る。


「私の名前が消えない」


「はい」


***


 伝言。


 という形も。


 分ける。


***


 朔が。


 特定の相手へ。


 特定の言葉を。


 届けるよう。


 頼む。


***


 伝言者。


 誰。


 受取人。


 誰。


 内容。


 何。


 期限。


 いつまで。


***


 伝言者は。


 質問へ。


 朔の代わりに答えない。


 追加の約束。


 しない。


***


「代理は」


 グラド。


「必要な場合があります」


「はい」


 朔。


「例えば」


「朔さんが。自分で書けない時。物を受け取る。時間変更を伝える。手続きを行う」


「では」


「行為を限定します」


***


 代理。


 誰。


 何を。


 どこまで。


 いつまで。


 変更。


 取消。


***


「全部」


 トナ。


「本人に聞く?」


「可能なら」


「話せない時」


「以前の明示的な委任。緊急対応。別の根拠を分けます」


***


「公示を出したら」


 トナ。


「街全体へ委任したことには」


「なりません」


***


 引用。


 伝言。


 賛同。


 代理。


***


 似ている。


 同じではない。


***


 引用。


 誰かの言葉を。


 出典とともに。


 運ぶ。


***


 伝言。


 頼まれた内容を。


 決められた相手へ。


 届ける。


***


 賛同。


 自分が。


 同じだと考えることを。


 自分の名で言う。


***


 代理。


 本人から渡された範囲で。


 本人に代わって。


 行為する。


***


「今までの私は」


 トナが尋ねる。


「どれ?」


「俺の公示を引用した」


 朔。


「はい」


「自分も。そうすべきだと考えた」


「はい」


「通行や優先について。俺の代わりに決めたと名乗った」


「はい」


「混ざっています」


***


「一つには」


「しません」


***


 午後。


 セム・ハラが。


 治療区画から。


 市場へ来た。


***


 右手。


 厚い布。


 胸の前。


 吊る。


 指。


 先。


 二本。


 見える。


***


 顔。


 青白い。


 だが。


 歩く。


***


「トナ」


 セムが呼ぶ。


「おる」


***


 トナが。


 近づく。


 腕。


 白い布。


 もうない。


***


「それ」


 セム。


「外した?」


「うん」


「サク代理」


「違ったから」


***


 セムは。


 朔を見る。


「あなたが。助けてくれた?」


***


 朔は。


 すぐに。


 いいえ。


 とは言わない。


***


「その時」


 朔は言う。


「俺は。門にいませんでした」


「でも」


「トナさんが。俺の名前を使いました」


「はい」


「その言葉で。ノエさんが呼ばれた可能性があります」


「はい」


「ノエさんが。身体を確認しました」


「はい」


「マレアさんが。治療の判断をしました」


「はい」


「トナさんが。セムさんを連れてきました」


***


「誰が助けた?」


 セム。


「一人にはしません」


***


 セムは。


 吊った手を見る。


「でも。サクの名前がなかったら」


「待った可能性があります」


「なら」


「俺の名前が。門を早く動かした可能性はあります」


「助けた?」


「名前だけでは。手を治療できません」


***


「トナが」


「連れてきました」


「ノエさんが」


「門で止めず。確認へ繋ぎました」


「マレアさんが」


「処置しました」


「俺は」


「身体の状態を伝えましたか」


「痛いって。白いって。感覚ないって」


「それも必要でした」


***


 セムは。


 少し考える。


「俺も?」


「はい」


***


「動くか」


 セムが。


 包帯の外。


 指先を。


 わずかに動かす。


「まだ分からない」


「はい」


「でも、残ってる」


「はい」


***


「サク代理じゃないなら」


 セム。


「トナは何」


 トナが答える。


「通行補助になるかもしれない」


「何する」


「お前みたいなのを。門まで連れてく」


「通す?」


「通すって決めるのは。門と治療側」


「役に立たん」


「身体危険の確認を。私の名前で求められるようにする」


***


「前と同じ?」


「前は。サクの名で止めた」


「今は」


「トナ・ベルが。セム・ハラの手を見ろって言う」


「弱い」


「弱いな」


 トナは。


 認める。


***


「でも」


 彼女は続ける。


「弱い名前でも。聞く門に変える」


***


 セムは。


 朔。


 トナ。


 ノエ。


 マレア。


 一人ずつ見る。


***


「俺の名前は」


「セム・ハラ」


 朔。


「手」


「右」


「仕事」


「紙工房」


「戻れる?」


「まだ分かりません」


***


「それ」


 セム。


「サクのまだ?」


「今の治療状態について。確認が続いているという意味です」


「俺のまだは」


「仕事へ戻れるか。指が動くか。痛みがどうなるか」


「同じじゃない」


「はい」


***


 セムは。


 左手で。


 トナの新しい札を持つ。


***


 通行補助


 トナ・ベル


***


「今度」


 セム。


「また誰か潰したら」


「潰す前に機械止めろ」


 トナ。


「潰れたら」


「私の名前で連れてく」


「サクは」


「必要なら。公示を引用する」


「代理じゃない」


「うん」


***


「それで門が開かなかったら」


 セム。


「門の担当の名前を聞く」


「その間に血が出る」


「治療側を呼ぶ」


「遅かったら」


 トナが。


 答えを止める。


***


「その時」


 朔が言う。


「誰が。何をしなかったかを残すだけでは。手は戻りません」


「はい」


 トナ。


「だから」


「今。門へ。仮手順を置きました」


「それで全部?」


「足りません」


***


「なら」


 セム。


「また変える?」


「はい」


***


 その日の夕方。


 第三門。


 白い布。


 新しい札。


***


 デル・ノーン。


 トナ・ベル。


 ノエ・ハーラ。


 マレア・ソン。


 ルカ・フェン。


 朔。


***


 練習。


 怪我人役。


 セムは。


 治療中のため。


 参加しない。


***


 ファナが。


 布へ。


 赤い染料を。


 少し付ける。


 腕。


 動かない役。


***


 トナ。


「身体危険の確認を求めます」


「名前」


 デル。


「トナ・ベル。通行補助」


「怪我人」


「ファナ・リト」


「状態」


「右前腕。出血。動かないと本人が申告」


「通行登録」


「今は確認より。治療側への連絡を求めます」


***


 デル。


 鐘。


 一回。


 治療確認。


***


「通行許可」


「まだ出していません」


「本人を」


「門の外側の確認場所へ」


***


 マレア。


 来る。


 呼吸。


 出血。


 感覚。


 移動。


 確認。


***


「内側へ」


 治療判断。


「誰の名前で」


 トナが尋ねる。


「マレア・ソンの治療判断で」


***


 門。


 開く。


***


 黒川朔。


 使わない。


***


「遅い?」


 トナ。


 時間。


 記録。


 最初の申告から。


 治療側到着まで。


 七十数える。


***


「セムの時より」


「短いです」


 ノエ。


「次は」


「夜間」


「治療側が遠い時」


「荷車」


「複数人」


***


 練習。


 増える。


 今日だけで。


 終わらない。


***


 役目を。


 名札へ書けば。


 仕組みが。


 完成するわけではない。


***


 トナは。


 自分の札を外す。


「まだ正式じゃない」


「はい」


 ルカ。


「いつ」


「試行記録を確認してから」


「その間」


「仮の補助者として。範囲を毎回伝える」


***


「面倒」


「はい」


「サク代理の方が」


「早い?」


「早かった」


***


「戻したい?」


 朔。


 トナは。


 机の上の。


 白い布を見る。


「少し」


「なぜ」


「人が動いたから」


「はい」


「私が。強くなった感じがした」


***


「助けやすかった?」


「はい」


「命令もできた?」


「少し」


「それを」


 トナは。


 自分で言う。


「私が。サクの考えを分かってるからだと思った」


***


「分かっていない?」


「分かってる部分もある」


「はい」


「でも」


「俺の代わりに決められることとは違います」


「はい」


***


「代理って」


 ユイが尋ねる。


「サクになる人?」


「なりません」


 朔。


「サクの手を使う人?」


「決められたことだけ。代わりにする人です」


「トナは」


「頼まれていませんでした」


「でも、助けた」


「はい」


「じゃあ」


「助けたことは。代理だった証明にはなりません」


***


「サクの名前で」


 ユイ。


「助けた」


「そういう部分があります」


「トナの名前で」


「連れてきました」


「二つ?」


「もっとあります」


***


 ユイは。


 白い布。


 新しい札。


 見比べる。


「白い方は。サクが大きい」


「はい」


「新しい方は。トナが大きい」


「はい」


「通行補助は」


「同じくらい」


***


「誰がするか」


 名前。


 何をするか。


 役目。


 両方。


 読める。


***


 夜。


 トナは。


 古い白い布を。


 自分で記録箱へ入れる。


***


 最後に。


 一度。


 文字を見る。


***


 黒川朔代理


***


「私」


 トナが言う。


「あなたの声を使ってました」


「はい」


「勝手に」


「はい」


「でも。全部が嘘ではなかった」


「はい」


「どこから嘘?」


 朔は。


 少し考える。


「俺の言葉を引用したことは。嘘ではありません」


「はい」


「トナさんも。そうすべきだと考えたことも」


「はい」


「俺が。トナさんへ判断を任せたこと」


「ない」


「そこです」


***


「じゃあ」


 トナ。


「今度から」


 新しい引用札。


 手に持つ。


***


 黒川朔による公示より


 引用。


 日付。


 場所。


***


 その下。


 トナは。


 自分で書く。


***


 この言葉を参照して、トナ・ベルが身体危険の確認を求めます。


***


「これ」


 トナ。


「私の声?」


「はい」


「サクの言葉も」


「はい」


「混ざらない?」


「分けてあります」


「読む人が。混ぜたら」


「説明します」


「時間がなかったら」


「短く言う」


***


 トナは。


 門へ向けて。


 練習する。


「黒川朔の代理です」


 止める。


 首を振る。


***


「黒川朔の公示を読んだ」


 止まる。


「それで?」


***


 もう一度。


「トナ・ベルです。怪我人の身体確認を求めます。黒川朔の公示にある、治療判断を置き去りにしないという言葉を参照します」


***


「長い」


 リオ。


「分かってる」


***


「でも」


 トナは言う。


「私が言ってる」


「はい」


 朔。


***


 誰かの言葉を。


 運ぶことはできる。


 言葉を。


 運んだ者の口を。


 消さずに。


***


 誰かの考えへ。


 賛同することもできる。


 賛同した者の名を。


 置いたまま。


***


 頼まれた伝言を。


 届けることもできる。


 届いた先で。


 勝手に答えを増やさずに。


***


 代理することも。


 必要な時がある。


 何を。


 いつまで。


 誰に。


 任されたかを。


 残した上で。


***


 声は。


 名前より。


 速く歩く。


***


 サクが言った。


 サクなら認める。


 サクの考えだ。


 サクの代理だ。


***


 短くなれば。


 口だけが残る。


 誰が。


 その言葉を選び。


 どこまで広げ。


 何を決めたか。


 消える。


***


 だから。


 借りた声の後ろへ。


 自分の声を。


 隠さない。


***


 朔は。


 自分の紙へ書く。


***


 トナ・ベルは、俺の公示を参照し、俺の代理と名乗って通行および相談の補助を行った。俺は代理を依頼していなかった。


 トナさんの行為により、セム・ハラさんの治療確認が早まった可能性がある。


 同じ表示を持つ者が、記録閲覧許可のない範囲まで進み、未確認の符号を家族名と結びつけた。


***


 次。


 役に立ったことと、任せたことは同じではない。


 危険が生じたことと、助けようとしたことも、片方から消さない。


***


 次。


 俺の言葉を引用する者は、引用した言葉、出典、自分の名前、自分が求める行為を分けて示す。


 賛同、伝言、代理を同じものとして扱わない。


***


 最後。


 俺の声を運ぶ者が、自分の口を空白にしないでほしい。


***


 筆。


 止まる。


***


 トナは。


 黒川朔ではない。


 朔の声でもない。


***


 だが。


 朔の言葉を。


 聞いた。


 使った。


 広げた。


 変えた。


***


 その全てを。


 無関係にはしない。


***


 代理ではなかったから。


 助けたことまで。


 消さない。


***


 助けたから。


 代理だったことにも。


 しない。


***


 翌朝。


 第三門。


 怪我人を背負った男が。


 走ってくる。


***


 トナが。


 先に。


 門へ着く。


***


「トナ・ベルです」


 自分の名。


***


「この人の身体危険の確認を求めます」


 求める行為。


***


「黒川朔さんの代理ではありません」


 頼まれていない役目を。


 先に外す。


***


「通行補助として。治療側へ繋いでください」


 自分が。


 今。


 持つ範囲。


***


 デルは。


 黒川朔を。


 探さない。


***


 怪我人を見る。


 呼吸。


 血。


 意識。


***


 鐘を鳴らす。


***


 門が開く。


***


 誰かの名前を。


 鍵にしたのではなく。


 目の前の身体を。


 見るために。

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