第72話 女王の驚き(その1) ーオフロードバイクー
(前話からの続き)
そんなときだった。
後ろから、「何じゃ、あれは?」という声が聞こえた。
後ろを振り向くと、スーツ姿のアン女王が立っていた。
彼女は空を見上げ、パラグライダーで空を飛んでいる、クラリス参謀総長とルイス少尉を見ていた。
いや、アン女王だけでなく、スーツ姿の王太子のシャーロット第二王女とオリビア第三王女、背広姿のジョージ・ロビンソン宰相も立っていた。
3人はアン女王の後ろに立っていた。
そして、アン女王と同様、3人とも空を見上げ、パラグライダーで空を飛んでいる、クラリス参謀総長とルイス少尉を見ていた。
僕は戸惑い、問うた。
「アン女王陛下、ジョージ宰相、シャーロットさん、オリビアさん、、、
どうして、ここ、練兵場にいるのですか?」
ジョージ宰相は僕に顔を向けると、戸惑いの表情を浮かべながら、答えた。
「実は、軍がバイクの増産を主張しているのです。
バイクを増産すれば、自動車走行時の警備が可能となり、
自動車による高速な移動が可能になるからと。。。」
そしてジョージ宰相は顔を何度も横に振り、言葉を続けた。
「そんな軍の主張は信じられなかったのですが、、、
実際に軍から、
スクーター1台とオフロードバイク1台の、
計2台のバイクの警護をつけてもらって、、、
私の車で王城から練兵場には2時間弱で来て、、、
驚いていたところです。。。」
さらにジョージ宰相は再び空を見上げた。
「そして、、、さらに、、、
あのように空を飛ぶ姿を見せられて、、、
もっと驚いています。。。」
アン女王、シャーロット第二王女、オリビア第三王女も、僕に顔を向けて、黙ってうなずいた。
そしてすぐに3人は、再び空を見上げた。
僕はヒラリー後方支援連隊長に顔を向け、戸惑い、問うた。
「スクーター1台とオフロードバイク1台の警護って、、、
それをどこから調達したのですか?」
ヒラリー後方支援連隊長はニヤリと笑い答えた。
「修司殿、わが国には100台あまり、自動車があることはご存じ?」
(第30話、第31話)
僕は黙ってうなずいた。
ヒラリー後方支援連隊長は、僕のうなずきを見ると、首を縦に振り、微笑み、話を続けた。
「そう。
その100台余りの自動車のうち、40台は軍に配備されているの。。。
ま、約200年前の戦争から戦時状態が続いているからね。。。
(第27話)
優先的に軍に自動車が配備されているの。。。
40台は全て軽トラで、各師団に2台が配備されているわ。。。」
補足すると、オウゴウヌ王国には約20万人の兵がいて、20個師団から形成される。
軍に配備された自動車は全て軽トラ40台で、各師団に2台配備されている。
近衛師団では、その2台の軽トラは兵站用ということで、ヒラリー後方支援連隊長が率いる後方支援連隊に配備されている。
軍立病院に日本からの土産を数台の軽トラで運び込んだ。(第33話)
あのとき、手伝ってくれた後方支援連隊隷下の分隊メンバの一部が自動車教習を受けていたのは、それが理由なんだ。
すると、ヒラリー後方支援連隊長は苦笑いを浮かべて、話を続けた。
「実は、スクーターも我が国で生産されていて、
わが国には約50台あるの。。。
そのうちの20台が軍に割り当てられ、
各師団に1台ずつ配備されているの。。。」
僕は「え?」と驚いた。初めて聞いたことだったから。。。
ヒラリー後方支援連隊長は、僕の驚きをスルーして、話を続けた。
「先週、ドーラ中尉の分隊に同行して、練兵場から王城に戻った時、
驚いたわ。。。
だって、急行便の馬車で半日かかる練兵場と王城の移動が、
わずか約1時間45分で戻ったんですもの。。。」
(第58話)
ヒラリー後方支援連隊長は僕から視線を逸らし、ため息をついて、話を続けた。
「あれは、軍に配備された軽トラでも実現したいわ。
そうすれば、軍の物資を高速に輸送できるもの。。。
でも、先週、練兵場で、ケイシー上等兵が、修司殿とダグに言ったそうね。。。
『常時2台の警護がないと難しい』
(第46話)
って。。。
つまり、各師団に少なくとも2台のバイクが必要よ。
配備済のスクーター1台に、さらに1台のバイクが必要なの。
だから、最低でも、全20師団にあと1台のバイク、
合計20台のバイクが欲しいと、
軍から政府にお願いしていたの。。。」
僕は思わずつぶやいた。「そういうことですか。。。」
さらに、ヒラリー後方支援連隊長は、両掌を天井に向け、両手を伸ばし、僕に話しかけた。
「それに、ダグももっとバイクが欲しいって言っているのよ。。。」
僕は戸惑い「え?」とつぶやいた。
ヒラリー後方支援連隊長が答えようとしたが、ジョージ宰相が先に答えた。
「要人警護は、近衛師団・騎兵連隊が担っています。
実際、首都レワヅワの私邸から、
王城まではオリビア殿下の運転する車に乗って、通っておりますが、
騎乗した近衛兵に周囲を警護してもらっておりますし。。。」
(第39話)
補足すると、近衛師団・騎兵連隊って雑務が多いんだ。
ルイス少尉が言うように、歩兵、騎兵、魔法兵、後方支援兵の中で、最も騎兵が重要度が低い。
(第65話)
だけど、一見華やかなので、要人警護の仕事も、近衛師団・騎兵連隊に回ってくるんだよ。
だから、ジョージ宰相が私邸と王城の間を移動するときは、近衛師団・騎兵連隊が騎乗して警護しているわけ。
また、第二王女シャーロットが大学に通っていた頃、そして現在オリビア第三王女が大学に通っている。
(第41話、第47話)
彼女達は近衛師団の1分隊が警護している。
で、、、それは騎兵連隊隷下の分隊なんだ。
そう、要人警護も近衛師団・騎兵連隊の業務なんだ。
話を元に戻そう。
ヒラリー後方支援連隊長が話を繋いだ。
「ええ、でも、、、
警護の馬の駆足を維持できるのは30分ほどだから、、、
(第44話)
首都レワヅワ内なら、馬の警護でなんとかなるけど、、、
首都レワヅワから距離があるところに移動する場合、
馬では警護が難しいの。。。
だから、ダグが要人警護のために、バイクが欲しいって言っているの。。。」
これは当初、馬の警護で首都レワヅワから練兵場に行くときの議論と同じだ。
(第44話)
僕は黙ってうなずくしかなかった。
ヒラリー後方支援連隊長は笑顔で語った。
「バイクの必要性を分かってもらうためにね。。。
女王陛下と宰相閣下に、実際に2台のバイクで警護してもらって、
車で移動してもらったの。。。
ま、デモンストレーションね。。。」
アン女王は戸惑いながら、うなずき、答えた。
「ああ、、、
確かに、バイクの警護があると、
自動車の機動力が発揮できるな。。。」
ジョージ宰相もうなずいた。
僕は戸惑いながら、ヒラリー後方支援連隊長に問うた。
「先ほど、ジョージ宰相が、
『軍からスクーター1台とオフロードバイク1台の、
計2台のバイクの警護をつけてもらった』
と言いました。
スクーター1台は近衛師団に配備されていたものでしょうが、
まさか、残りのオフロードバイク1台って?
この国でオフロードバイクを運転できるのは、
ドーラさんの分隊のエイミーさん、ローレンスさん、ブリッドさんと、
ダグ騎兵連隊長だけです。
つまり?」
ヒラリー後方支援連隊長は微笑み答えた。
「ええ、ダグがオフロードバイクを運転して、
女王陛下一行を警護したってわけ。」
すると、ヒラリー後方支援連隊長は僕から視線を逸らすと、大きく手を振った。
僕はヒラリー後方支援連隊長が見ている方向に顔を向けると、レオ近衛師団長、ウオーレン魔法兵連隊長、ダグ騎兵連隊長が歩いてきた。
ダグ騎兵連隊長はオフロードバイクを運転して、ここ、練兵場に来ているはずなので、不思議ではない。
でも、どうして、レオ近衛師団長とウオーレン魔法兵連隊長が、ここ、練兵場に来ているのだろう?
僕は戸惑い、二人に問うた。
「レオ近衛師団長、ウオーレン魔法兵連隊長、
どうやって、ここ、練兵場に来たのですか?」
レオ近衛師団長は笑って答えた。
「あはは。。。
近衛師団に配備されていた軽トラに乗ってね。。。
宰相閣下の車には、アン、シャーロットが乗り、オリビアが運転したんだ。
僕とウオーレンは、軽トラに乗って、僕が運転した。
オリビアが運転する車の後ろを、僕が運転する軽トラで走ってね。。。
自動車2台に対して、スクーターと、
ダグが運転したオフロードバイクで警護して、
ここ、練兵場までやってきたってわけ。。。」
ウオーレン魔法兵連隊長は微笑み、「そういうこった」と答えた。
(次話に続く)
次話は2026/4/19 0時に更新予定です。




