第69話 ルイス少尉、再び空へ(その1) ークラリス参謀総長が母・エリーゼの分隊にいた謎ー
さて、金曜日の朝に、ルイス少尉のための新たな空を飛ぶ装備が届く予定だ。
(第64話)
そこで、木曜日の夜までの活動をサラッと話そうと思う。
僕とクラレンス君は、昼は太陽のスペクトル解析、夜は近くの恒星のスペクトル解析を行った。
近くの恒星とは言っても、先週調べた恒星より、少し遠い恒星だ。
別におかしな計測結果はない。
でも、なにか違和感を感じる。
そして、、、遠い恒星になればなるほど、違和感が強くなるんだ。
加えて、『もっと遠くを調べよ』と心の声が聞こえるんだ。。。(第56話)
でも、遠ざかれば遠ざかるほど、持ち込んだホビー用の口径の狭い望遠鏡では、観測が難しくなる。
スペクトル解析に時間がかかりすぎるからだ。。。
となると、、、天文台での計測項目を増やす必要がある。
僕はダメもとでアルバート教育次官に手紙を送り、天文台での観測機会を増やしてもらうよう頼んだ。
僕とクラレンス君以外の、ドーラの分隊メンバは何をしていたかと言うと、、、
まず、ケイシー上等兵は設置した天幕の下で、ポーションの瓶を持って待機していた。
もちろん、分隊メンバの怪我に備えてだ。
ケント准尉とローレンス曹長は、ときどきフレッド副長とベリンダ上等兵が加わり、合成火炎魔法と、合成竜巻魔法の修練を行っていた。
(第66話)
エイミー少尉とベリンダ上等兵、そしてときどきローレンス曹長は、オフロードバイクの修練だ。
もちろん、オフロードバイクからの遠笠懸も行った。(第64話)
ジャクソン少尉は、、、
ほら合体魔性を試行して、失敗したり(第67話)、封印したり(第68話)した。
もう、『面白くない』って表情が出ていたな。。。
申し訳ないことをしたな。。。
フレッド副長は、合成火炎魔法の修練の合間に、自分も騎乗して遠笠懸や、ドローン操作の習得を行っていた。
ヒュー少尉は天幕の下で長距離無線通信機を組み立てて、たまに自分も騎乗して遠笠懸を行っていた。
さて、もちろんルイス少尉は、空中での自衛策を地上訓練するため、ドーラが騎乗する馬に乗って、遠笠懸を行った。
(第64話)
ルイス少尉は、武芸の腕は高いものがあるので、徐々に精度が上がっていった。
金曜日の朝、ルイス少尉への新たな装備を受け取る。
ただし、午後には練兵場を離れ、首都レワヅワに戻る予定だ。
先日、ヒラリー後方支援連隊長からもらった手紙(第64話)には、練兵場の待ち合わせ場所と時刻が指定してあった。
だって、練兵場ってものすごく広いから。。。
そこにワンボックスカーと軽トラ数台で僕とドーラの分隊メンバが移動すると、すでにヒラリー後方支援連隊長と、後方支援連隊隷下の分隊10名が待っていた。
その後方支援連隊隷下の分隊の前には、二つの大きな包みが置かれていた。
たぶん、その包みの中に、ルイス少尉への新しい装備が入っているのだろう。
ワンボックスカーからドーラは飛び降り、ヒラリー後方支援連隊長の1m手前まで駆け寄り、頭を下げ、問うた。
「お待たせして申し訳ありません。
ヒラリー・エイリー後方支援連隊長閣下、
いつ、練兵場におつきなられたのですか?」
ヒラリー後方支援連隊長はすまし顔で答えた。
「昨晩、馬車に乗って王城を発したわ。
今朝、ついさっき、練兵場に着いたの。。。」
ドーラは頭を下げたまま、返した。
「恐縮です!」
そういうと、ドーラは頭を上げた。
ということで、、、
そこにヒラリー後方支援連隊長と、後方支援連隊隷下の分隊10名がいるのは良いとして、、、
思わずルイス少尉が突っ込んだ。
「どうして、母さん、、、じゃない!
参謀総長閣下がおられるのですか!?」
そう、そこにはルイス少尉の母、クラリス参謀総長がいたのだ。
クラリス参謀総長は、娘のルイス少尉に向けて、ニヤリと笑って答えた。
「ルイス、、、
あなたの空中での自衛策を確かめに来たの。。。」
ルイス少尉は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
クラリス参謀総長はニヤリと笑ったまま、ヒラリー後方支援連隊長に顔を向けて、話を続けた。
「もしダメなら、、、
新しい装備を渡すのは延期してもらおうと思ってね。。。」
ヒラリー後方支援連隊長もニヤリと笑い、黙ってうなずいた。
ルイス少尉は思わず、「えー!」と不満を漏らした。
だが、クラリス参謀総長は首を横に振り、少し優しく、ルイス少尉に語り掛けた。
「だって、、、母として、、、
また、あなたが空中で泣き叫ぶ声を聞きたくないの。。。」
(第53話)
ルイス少尉は「醜態は二度と晒さないわよ」とつぶやくと、ちらりとドーラを見た。
ドーラはため息をつくと、再び、クラリス参謀総長とヒラリー後方支援連隊長に頭を下げ、語り掛けた。
「クラリス・イング参謀総長閣下、
ヒラリー・エイリー後方支援連隊長閣下、
ルイスの地上訓練をお見せします。」
ドーラは頭を上げると、分隊メンバに目配せを送った。
ドーラは官舎まで走ると馬に乗って帰ってきた。
その間、分隊メンバは分担して、遠笠懸の的を設置した。
ドーラは馬から降りると、クラリス参謀総長とヒラリー後方支援連隊長の1m手前に近寄り、頭を下げた。
「空中での自衛策は弓矢しかございません。」
クラリス参謀総長は「そうね。私も同意見よ。」とつぶやき、うなずいた。
ドーラは頭を下げたまま、話を続けた。
「しかしながら、空中では風で揺れます。
しかも、高速で移動する巨大生物を
弓矢で射るタイミングは一瞬しかないと思われます。」
クラリス参謀総長は「確かに」とつぶやき、うなずいた。
ドーラはなおも頭を下げたまま、話を続けた。
「そこで、ルイスは、ずっと、
『揺れる中で、一瞬で矢を射る』
練習を重ねておりました。
今からお見せする訓練は『遠笠懸』と言って、
日本の武芸の一つです。」
クラリス参謀総長とヒラリー後方支援連隊長は、一緒に「「え?」」とつぶやき、僕に視線を向けた。
僕は黙ってうなずいた。
ドーラは頭を上げると、ルイス少尉に目配せを送った。
ドーラは馬に騎乗し、その後ろにルイス少尉が乗った。
ドーラは馬を操作し、的の15~20m先を馬が走り抜けた。
そして馬が走り抜ける瞬間に、ドーラの後ろに騎乗したルイス少尉が、的に向けて矢を射た。
だが、矢は的を外してしまった。
まあ、徐々に精度が上がったとは言ったが、この時点では命中率は半分くらいだったんだ。
それを見たクラリス参謀総長は半ば呆れ、半ば嘲笑った。
「下手くそね~。」
それが聞こえたのか、むっとした表情でルイス少尉は下馬すると、クラリス参謀総長に近づき、弓矢を押し付けた。
「参謀総長閣下、そう言うのなら、やってみてください。」
クラリス参謀総長は戸惑いながら弓矢を受け取ると、ドーラが騎乗する馬に、ドーラの後ろに乗った。
騎乗する際、ドーラ分隊メンバに手伝ってもらった。
どうやら、クラリス参謀総長もルイス少尉同様、騎乗できないようだ。
僕はヒラリー後方支援連隊長に近づくと、恐る恐る小声で尋ねた。
「クラリス参謀総長は、ルイスさんと同様に、騎乗できないのですか?」
すると、ヒラリー後方支援連隊長は苦笑いを浮かべ、うなずき、小声で答えた。
「ええ、クラリスは騎乗できないわ。」
そして、ヒラリー後方支援連隊長は苦笑いを浮かべたまま、小声で話を続けた。
「ま、クラリスだけでなく、、、
ウオーレンも私も騎乗できないけど。。。」
僕は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
だが、ヒラリー後方支援連隊長は、僕の戸惑いをスルーして、僕に視線を向けると、苦笑いを浮かべたまま、小声で話を続けた。
「修司殿、
あなたの母、エリーゼ分隊長が指揮していた分隊は、
近衛師団・騎兵連隊隷下だったんだけどね。。。
私やウオーレンやクラリスだけでなく、
あと他にも騎乗できないメンバがいて、、、
ときどき、エリーゼ分隊長は愚痴っていたわ。。。
『私の分隊は騎兵連隊の落ちこぼれ分隊だ』
って。。。」
ヒラリー後方支援連隊長は、なおも苦笑いを浮かべたまま、両方の手のひらを上に向けて、小声で話を続けた。
「ま、私は30年前、エリーゼ分隊長の分隊への配属は、
衛生兵としての1年間の派遣だったから、、、
衛生兵は騎乗できる者は、そもそもほとんどいないの。。。」
僕は戸惑い、小声で問うた。
「え?
ヒラリー後方支援連隊長は30年前、
衛生兵だったんですか?」
ヒラリー後方支援連隊長は、両手を降ろし、黙ってうなずいた。
ケイシー上等兵も
「衛生兵で騎乗できる者はほとんどいない」
と言った。
(第65話)
つまり30年前、ヒラリー後方支援連隊長が騎乗できなかったのはやむを得なかったのだろう。
しかし、、、疑問も残る。。。
僕は戸惑いながら、更にヒラリー後方支援連隊長に、小声で問うた。
「じゃあ、、、
ウオーレン魔法兵連隊長と、クラリス参謀総長が騎乗できない理由は?」
ヒラリー後方支援連隊長は、僕から視線を逸らし、遠笠懸をしているクラリス参謀総長に視線を移した。
そしてクラリス参謀総長の訓練の様子を見ながら、小声で答えた。
「クラリスは新兵としては歩兵科、
ウオーレンは新兵としては魔法兵科に配属されてね。。。
30年前、騎兵に転属されるなんて、、、
つまりエリーゼ分隊長の分隊に転属されるなんて、、、
本人曰く、
『思いもしなかった』
そうよ。。。」
これはジャクソン少尉、ルイス少尉、ケント准尉と同じだ。
(第65話)
つまり、母・エリーゼの分隊も同じだったのだ。。。
おそらく、ドーラの分隊と同じ役目が、母・エリーゼの分隊には課せられていたのだろう。。。
僕はフレッド副長、ヒュー少尉、ジャクソン少尉、ケント准尉の4人が、ドーラの分隊に配属された理由を察している。
(第37話)
もし、僕のその推測が正しいなら、、、
30年前、レオ近衛師団長、ダグ騎兵連隊長、ウオーレン後方支援連隊長が母・エリーゼの分隊に配属されていた理由も、、、
おおよそ察しが付く、多分同じだ。。。
でも、、、
クラリス参謀総長が、母・エリーゼの分隊に配属されていた理由って何だ?
もしかすると、、、
『ルイス少尉がドーラの分隊に配属された』ことと、
『クラリス参謀総長が母・エリーゼの分隊に配属された』ことって、、、
ちゃんと理由があったってこと?
しかも、、、もしかすると、、、
『同じ理由』ってこと!?
じゃあ、『その理由って何』!?
さて、クラリス参謀総長の遠笠懸に、話を戻そう。
クラリス参謀総長は何回か遠笠懸を行ったが、的に当たらなかった。
それどころか、矢を射るタイミング逸して、矢を放つことさえできなかったこともあった。
そう、遠笠懸を始めた頃の、ルイス少尉のように。。。
(第64話)
断っておくが、クラリス参謀総長の武芸の腕は、娘のルイス少尉と同様、極めて高い。
ヒラリー後方支援連隊長は、後にこう評していた。
「我が軍で最強はダグよ。
それは衆目一致している。
彼に敵う者は我が軍の中にはいないわ。
でも、そのダグがこう言っていた。
『クラリスだけは相手にしたくない。
そりゃ、まともに戦えば、俺が勝つだろう。
だが、クラリスは何をしてくるか、予測できない。』
って。。。」
つまり、エイミー少尉の父、ダグ騎兵連隊長は武芸の腕はオウゴウヌ王国軍では最強なんだ。
実はレオ近衛師団長が後に評していたけど、「指揮官としても一流」らしい。
だから、ダグ騎兵連隊長は、騎兵の中ではトップの、近衛師団・騎兵連隊長に任じられているんだ。
(第33話)
そう、そんなダグ騎兵連隊長の唯一の欠点は、『書類作業が苦手で、よくサボること』だけなんだ。
(第46話)
そんな、オウゴウヌ王国軍最強のダグ騎兵連隊長もってして、クラリス参謀総長は『相手にしたくない』ほどの腕の持ち主なんだ。
実はクラリス参謀総長は『相手にしたくない』スキルを身に着けているんだ。
その『相手にしたくない』スキルについては、いずれどこかで話そうと思う。
再び、クラリス参謀総長の遠笠懸に話を戻す。
クラリス参謀総長は、ドーラの分隊メンバに手伝ってもらって下馬した。
そして苦笑いを浮かべてルイス少尉に語り掛けた。
「こりゃ、遠笠懸は難しいわ。。。」
(次話に続く)
次話は2026/4/16 0時に更新予定です。




