第64話 空中での自衛策
話はちょっと巻き戻り、火曜日の夕方、大学から戻ると、官舎の僕の部屋に、ヒラリー後方支援連隊長からの手紙が届いていた。
何事かと手紙を読むと、
『ルイス少尉のために作ってほしいと頼んでいた(第55話)、
2つのもののうち、1つができあがった。
金曜日の朝に練兵場まで持っていく。』
とのことだった。
僕は手紙を読むと、隣のドーラの部屋のドアにノックをした。
ドーラは部屋を開け、僕が立っているのを見ると、無言で入室を促した。
僕はドーラの部屋に入ると、無言でヒラリー後方支援連隊長からの手紙を渡した。
ドーラは黙って、手紙を読むと、天井を見つめ、ため息をついた。
そして、僕に視線を戻し、問うた。
「それで?
我にこの手紙を見せた理由は?」
僕はうなずき、答えた。
「この前、ルイスさんがパラシュート降下中に、
巨大生物に襲われた時、、、
(第53話)
分かったことがあるんです。。。
空中では逃げ場がないってことに。。。」
(第54話)
ドーラは再びため息をつき、黙ってうなずいた。
ドーラのうなずきを見て、僕は話を続けた。
「もし、ルイスさんが再び空を飛んだ時、
地上からの援護が受けらない場所、
たとえば、この前よりも、もっと高く飛んだら、、、
しかも、そのときに巨大生物に襲われたら、、、
地上からは何もできません。。。」
(第55話)
ドーラは再び、黙ってうなずいた。
僕は更に話を続けた。
「だから、、、
新しい道具が届く前に、、、
新しい道具でルイスさんが再び空を飛ぶ前に、、、
ルイスさん自身で自分の身を守る術を、
身につけさせる必要があります。。。」
ドーラは視線を僕から逸らし、つぶやいた。
「そうだな。。。
我も同意する。。。」
ドーラは僕を見つめ、「ルイスを呼んでくる」と僕に告げると、彼女は自分の部屋を出て行った。
数十秒後、ドーラはルイス少尉を連れて、自分の部屋に戻ってきた。
そして、ドーラはヒラリー後方支援連隊長からの手紙を、ルイス少尉に見せた。
ドーラはルイス少尉が手紙を読み終わるのを確認すると、ルイス少尉に語り掛けた。
「ルイス。
明日からの練兵場にて、空中での自衛策を訓練せよ。」
ルイス少尉は直立し、「は!」と答えた。
すると、ドーラはルイス少尉に問うた。
「それで?
どんな自衛策をとる気だ?」
ルイス少尉は苦笑いを浮かべて答えた。
「そんなもん、、、一つしかありません。。。」
ドーラも苦笑いを浮かべ、うなずき、つぶやいた。
「そうだな。。。
選択肢は一つしかない。。。」
僕は黙ってうなずいた。
翌日の水曜日、ドーラ分隊メンバと共に、僕とクラレンス君は、再び練兵場に来た。
僕とクラレンス君は夜に天文観測するための準備を行った。
フレッド副長はドローンの操作練習を行った。
(第48話)
ヒュー少尉は天幕の下で長距離無線通信機を組み立てていた。
(第47話)
エイミー少尉とローレンス曹長とベリンダ上等兵は、練兵場をオフロードバイクで走って、不整地走行を練習した。
(第45話、第46話)
ジャクソン少尉とケント少尉は、自分の得意な雷魔法や火炎魔法の練習を行った。
ケイシー上等兵は、訓練中のけがに備えて、天幕の下でポーションの瓶を持って待機していた。
肝心のルイス少尉は、、、
もちろん、空中での自衛策を訓練を行った。
とは言っても、金曜日の朝にならないと、次の空を飛ぶ道具は来ないし、、、
空を飛ぶ前に自衛策の訓練を行う必要もあるので、、
地上での訓練だ。
なにをやったかというと、、、
まあ、ドーラに馬に乗せてもらってね。。。
約60cmの的を設置してね、その的の15~20m先を馬が走り抜けるんだ。。。
そして馬が走り抜ける瞬間に、ドーラの後ろに騎乗したルイス少尉が、的に向けて矢を射るんだ。。。
要するに、遠笠懸だ。
え?
なぜ弓矢の練習かって?
まあ、今回、作ってもらった道具は、パラシュートとほぼ同じサイズのもので、刀や槍ではあまり役に立たないからだ。
前回と同様、巨大生物がルイス少尉より先に、その道具を攻撃したら、、、
(第53話)
刀や槍では届かないからだ。
そう、空中での自衛策は、弓矢しかないんだ。
だから、ドーラもルイス少尉も『選択肢は一つしかない』って言ったんだ。
これには僕も同意見だ。
え?
じゃあ、なぜ遠笠懸を行ったのかって?
そりゃ、空中では風で揺れるし、矢を正確に射るのは難しいからだ。
しかも、相手は高速に飛行する、翼竜のような巨大生物だ。
また、今回作ってもらった道具は、空中をパラシュートよりは自由に動き回れる。
つまり、矢を射るタイミングはほんの一瞬しかないと思われたからだ。
したがって、『揺れる中で、一瞬で矢を射る』ことを、地上で練習する必要がある。
これには、遠笠懸が良いって判断したからだ。
ちなみにこれは僕のアイデアだ。
ドーラもルイス少尉も遠笠懸を知らなくって、説明するのに苦労したけど。。。
もちろん、空中での揺れと、馬上での揺れは性質が全く異なる。
しかも、空中では風が強いから、矢は正確に飛ばない。
空中での訓練は、新しい道具が来てからになるだろう。
もちろん、新しい道具が来ても、当面の間、ルイス少尉には地上からの援護が受けられる場所、すなわち練兵場上空で、高度も抑えてもらって、飛んでもらう予定だ。
まあ、本当はルイス少尉が騎乗できればいいのだが、騎乗できないので、、、
しかたなく、ドーラが馬を操作し、後ろに同乗しているルイス少尉が矢を射ることになったけど。。。
当然、最初のうちは、なかなか的に当てることができなかった。
それどころか、矢を射るタイミングをつかむことができず、矢を射ることさえ、できないこともあった。
小休止のため、馬から降りたルイス少尉は「難しいわね。」とボヤいた。
ちなみに、ルイス少尉の名誉のために言っておくと、彼女の武芸の腕は高い。
彼女は良く言っていた。
「小さいころから、
あの『腹黒狸』(=クラリス参謀総長)に、
武芸は鍛えられたわよ。。。」
そう、単に騎乗だけができないだけなんだ。
実際、ルイス少尉は騎乗を除くと、分隊メンバの中では武芸の腕は高い。
武芸の腕で、分隊メンバの一番はエイミー少尉だ。
やっぱり、父親であるダグ騎兵連隊長に小さいころから鍛えられたそうだ。
ドーラは彼女の武芸をこう評価していた。
「エイミーは身体強化魔法がなくても、
分隊メンバで武芸で勝てる人はいない。
これに身体強化魔法が発動している間は、
分隊メンバどころか、近衛師団の中でも、
勝てる人はほとんどいない。」
言っておくが、近衛師団はオウゴウヌ王国軍では最強を誇る精鋭部隊だ。
つまり、エイミー少尉は、身体強化魔法が発動している間は、
武芸において、オウゴウヌ王国軍中で勝てる人はほとんどいないのだ。
次のグループは、歩兵科と騎兵科出身の、ドーラ、ヒュー少尉、ルイス少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵だ。
ドーラに言わせると、『武芸では頼りになる』と評価していた。
つまり、ルイス少尉は、ドーラにとって、『武芸では頼りになる』部下の一人なんだ。
当然、弓矢についても、分隊のメンバの中では『頼りになる』レベルにある。
その『頼りになる』レベルをもってしても、遠笠懸は難しいのだ。
どころで、ローレンス曹長は、『武芸では頼りになる』し、『騎乗できる』し、、、
しかも、ずっと前からドーラの部下だった。
だから、彼女は、ドーラにとって、一番頼りになる部下なんだ。。。
(第30話、第49話)
その次にドーラにとって頼りになるベリンダ上等兵も、ローレンス曹長と同じだ。
ちなみに、その下は後方支援兵科出身のフレッド副長で、、、
ドーラに言わせると、『武芸はまあまま使い物になる』レベルらしい。
で、さらにその下が、魔法科出身のジャクソン少尉とケント准尉で、、、
ドーラに言わせると、『一応、武芸はできる。自分の身を守れるくらい』というレベルらしい。
まあ最後尾が衛生兵のケイシー上等兵で、、、
『武芸は全くダメ。そもそも華奢だし。』と、ドーラは言っていた。
(あきれた笑い)ははは。。。
話を遠笠懸に戻すと、ルイス少尉が小休止を取っている間、ドーラも遠笠懸を試しにやってみた。
ドーラもこう、こぼしていた。
「矢を射るのは一瞬しかチャンスはないし、、、
しかも馬の揺れにタイミング合わせなくちゃいけないし、、、
難しい。。。」
興味を持った、騎乗できる他のメンバ(フレッド副長、ヒュー少尉、エイミー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵)も、騎乗して遠笠懸を試しにやってみた。
やっぱり、口々に「難しい」とこぼしていた。
エイミー少尉は、ローレンス曹長とベリンダ上等兵に語り掛けた。
「オフロードバイクの訓練に、この笠懸を取り入れてみようか?
馬の代わりに、オフロードバイクを運転して、
矢を射かけるの。。。」
ローレンス曹長はうなずき答えた。
「そうですね。良い訓練だと思います。
軍にいる以上、オフロードバイクに乗りながら、
矢を射ることはあり得ることですし。。。」
ということで、エイミー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵は、オフロードバイクの練習に、笠懸を加えた。
(次話に続く)
次話は2026/4/11 0時に更新予定です。




