第61話 練兵場からの帰り道(その4) ーカドワダドル教授の個室にてー
練兵場から戻ってきたとき、僕はクラレンス君を王立オウゴウヌ大学まで送った。
(第58話)
彼は僕の運転するワンボックスカーから降りると、まだ金曜日の正午ぐらいだったので、一旦、カドワダドル教授の研究室に向かった。
カドワダドル教授は、クラレンス君が研究室に来たと、別の研究室のメンバから聞くと、彼を個室に呼んだ。
クラレンス君がカドワダドル教授の個室に来ると、教授とクラレンス君は机を挟んで、二人は椅子に座った。
カドワダドル教授はクラレンス君を見つめ、問うた。
「で、、、どうだった?
練兵場での計測は?」
クラレンス君は最初は言いにくそうにしたが、数秒後、思い切って尋ねた。
「教授、、、そんなことより、、、
修司殿とは何者なのですか?」
カドワダドル教授は戸惑いの表情を浮かべ、クラレンス君に問うた。
「なぜ、そんなことを訊くんだい?」
クラレンス君はカドワダドル教授に訴えた。
「修司殿が使っている天体望遠鏡の性能が良すぎるんです!」
クラレンス君はさらにカドワダドル教授に訴えた。
「修司殿は使っている天体望遠鏡は『ホビー用』と言います。
でも、そもそもこの国にホビー用の天体望遠鏡などありません!
たとえ趣味でも、望遠鏡で星を眺めていたら、
狂信的な教徒から何されるかわかりませんから!」
(第43話)
クラレンス君は少し落ち着き、カドワダドル教授に話した。
「修司殿が言う、『ホビー用の天体望遠鏡』は、
なるほど、天文台より口径は遥かに小さいです。
でも、自動追尾装置が付いています。
王立天文台の望遠鏡も自動追尾装置が付いていますが、
追尾精度が遥かに高いんです。」
クラレンス君はカドワダドル教授から視線を外し、話を続けた。
「しかも、望遠鏡の映像が、、、
修司殿がもってきた『パソコン』なるものから表示されるんです。。。
(第56話)
この映像が、接眼レンズで見るより、はるかに鮮明なんです。。。」
クラレンス君はカドワダドル教示を見つめ、語り掛けた。
「つまり、、、
修司殿がもってきた『ホビー用の天体望遠鏡』は、
王立天文台の望遠鏡より口径は小さいものの、、、
それ以外の性能は遥かに上なんです。。。
そんなこと、『ありえない』です。。。」
クラレンス君は再び、カドワダドル教授から視線を逸らし、話を続けた。
「天体望遠鏡だけじゃない。。。
練兵場に行く前は、ここで、重力定数Gを計測していました。。。
(第43話)
その装置が『レーザー』を使っているんです。。。」
クラレンス君は再びカドワダドル教授を見つめ、話を続けた。
「僕は研究室に配属される前、大学図書館の日本からの文献で、
レーザーなるものは知っていました。
でも、、、この国では、、、
レーザーは実現できていない筈なんです。。。」
クラレンス君はカドワダドル教授を見つめたまま、問うた。
「修司殿が持ち込んだ天体望遠鏡や重力定数Gの計測装置は、
僕の知識から言うと、あり得ないレベルのものです。
修司殿は留学生と言いますが、
そんな技術を持っている国は、僕の知る限りありません。
一体、修司殿は何者なんですか?」
カドワダドル教授は口を開こうとした。
でも、それより先に、クラレンス君が更に話した。
「それだけじゃない。。。
練兵場の夜、ある将校と修司殿は話をしました。」
(第56話、第57話)
クラレンス君はカドワダドル教授から視線を逸らし、話を続けた。
「その時、修司殿は、彼の母国の戦争の話をしました。
修司殿によると、その戦争は約80年前のことであり、
民間人を含め約300万人の死者が出たと話しました。。。」
(第56話)
クラレンス君はカドワダドル教授を見つめ、話した。
「でも、僕が知る限り、この大陸でそんな戦争はなかった筈です。
そもそも、この王立オウゴウヌ大学は、この国一番の難関大学で、
学科試験を突破するために、僕は猛勉強しました。
当然、この大陸の歴史も勉強しました。
その勉強した歴史において、
そんな戦争はこの大陸ではなかった筈です。。。」
クラレンス君は視線を逸らし、話を続けた。
「加えて、、、
修司殿を護衛している将校、ドーラさんは、、、
第一王女じゃないですか?」
(第44話)
クラレンス君は視線をカドワダドル教授に戻すと、訴えた。
「しかも、、、
帰りは女王陛下の夫、
レオ・オウゴウヌ閣下が、僕の隣の席に座ったんですよ!」
(第58話)
クラレンス君は、カドワダドル教授を見つめたまま、問うた。
「修司殿がとてつもない重要人物じゃないと、これはあり得ません!
教授、一体、修司殿は何者なんですか?」
カドワダドル教授は天井を見上げた。
そして目を閉じ、しばらく黙考した。
数十秒後、目を開け、クラレンス君に視線を戻すと、ため息をつき、答えた。
「実は、修司殿は日本から来た留学生で、、、
しかも、、、
アン女王陛下の甥にあたる。。。」
カドワダドル教授はクラレンス君を見つめたまま、話を続けた。
「加えて、、、
修司殿が持ち込んだ計測機器や、天体望遠鏡は、、、
すべて日本から持ち込んだものだ。。。」
(第42話)
カドワダドル教授はこう結んだ。
「そして、、、
君はさっき、
『大学図書館の日本からの文献で、
レーザーを知った』
といったが、、、
その日本からの文献は、、、
彼の祖父や父からの土産だ。。。
(第41話)
実は修司殿の祖父や父も、この国を訪れているんだ。。。」
クラレンス君は大きく目を見開いた。
だが、数秒後、うなずいた。
「そうですか。。。
それなら、、、わかります。。。
全てが、、、繋がりました。。。」
カドワダドル教授は、クラレンス君を見つめ、口の前に右人差し指を立て、語り掛けた。
「だが、クラレンス、、、
このことは口外無用だ。。。
むろん、研究室の他のメンバに対しても口外無用だ。
修司殿を守るためだ。。。
いや、『我々を守るため』でもある。。。
さっき君が言った、『狂信的信徒』が、
もし日本人がこの大学にいると知ったら、、、
彼らは修司殿や我々に何をするのか、、、
まったく予想できぬ。。。」
クラレンス君は黙ってうなずいた。
数十秒後、カドワダドル教授は微笑み、クラレンス君に問うた。
「クラレンス、、、
どうして、私が、君に修司殿の研究を手伝うように言ったのか、
わかるか?」
クラレンス君は戸惑いの表情を浮かべ、顔を横に振り、答えた。
「わかりません。。。」
カドワダドル教授は微笑みながら、クラレンス君にさらに問うた。
「それでは、、、医学部のルーク教授は知っているか?」
(第41話)
クラレンス君はなおも戸惑いの表情を浮かべ、答えた。
「我が国で初めての、そして随一の外科医と聞いてますが。。。」
カドワダドル教授はうなずき、クラレンス君に話しかけた。
「そのとおり。。。
実は彼は30年前、外科医だった修司殿の父と、一緒に働いたんだ。。。」
クラレンス君は再び驚いた。
「え!?」
カドワダドル教授はクラレンス君の驚きをスルーして話を続けた。
「彼は30年前、一緒に働いたことで、日本の医療を吸収し、
今、我が国で随一の外科医となったのだ。。。」
カドワダドル教授は微笑み、クラレンス君を見つめ、話しかけた。
「同様に、僕は、、、
君(=クラレンス)が、修司殿と共に研究することで、
日本の研究レベルを吸収し、
我が国随一の物理学者になってほしいんだ。。。」
カドワダドル教授の思いがけない言葉にクラレンス君は驚き、「え?」とつぶやいた。
カドワダドル教授はクラレンス君にさらに言葉を掛けた。
「クラレンス、君には期待している。。。
僕は君は研究室のメンバの中では抜きんでた存在と思っている。。。
だから、君に、修司殿の研究を手伝うよう、命じたのだ。。。」
クラレンス君は戸惑いの表情を浮かべ、どのようにカドワダドル教授に言葉を返してよいのか、分からなくなった。
カドワダドル教授は、そんなクラレンス君を無視して、さらに言葉を掛けた。
「いいか、クラレンス。。。
修司殿がこの国にいるのは、たったの1年間だ。。。
その1年間、必死に喰らいつくんだ。。。」
クラレンス君は黙ってうなずいた。
カドワダドル教授は、微笑み、クラレンス君に問うが。
「じゃあ、最初の質問に戻ろうか。
クラレンス、練兵場の計測はどうだった?」
クラレンス君は、カドワダドル教授を見つめ、率直に答えた。
「練兵場の夜は真っ暗で、一般人は立ち入ることができませんから、
計測自体は順調に進みました。」
ここまで答えた後、クラレンスは視線を逸らし、顔を斜めに傾け、言葉を続けた。
「ただ、、、おかしな計測結果は出ていない筈なのですが、、、」
カドワダドル教授は怪訝な表情で問う。
「なんだい、、、その、、、
『おかしな計測結果は出ていない筈なのですが』
っというのは。。。」
クラレンス君は視線をカドワダドル教授に戻すと、苦笑いを浮かべて答えた。
「修司殿も
『おかしな計測結果は出ていないよ。。。
でも、なんか引っかかるだよね~。
妙な違和感を感じるんだ。。。』
と言ってました。」
(第56話)
クラレンス君は苦笑いを浮かべたまま、更に話を続けた。
「修司殿は、
『もっと遠くの恒星を調べてみるか』
ってつぶやいてました。。。」
(第56話)
カドワダドル教授は戸惑いの表情を浮かべ、顔を斜めに傾け、「はて?」とつぶやいた。
次話は2026/4/8 0時に更新予定です。




