第57話 練兵場の夜(その2) ー祖母・マーガレットの痕跡ー
(前話からの続き)
ダグ騎兵連隊長は僕に笑顔を向け、うなずき、語る。
「ああ、、、
分隊メンバの中では俺が一番殴られた。。。」
僕も夜空に向けて笑った。
「ははは!」
ダグ騎兵連隊長は急に思案顔になり、僕に問うた。
「ところで、修司殿、
ルイス少尉にパラシュートを、どうやって教えたんだ?」
僕は何げなく返した。
「ああ、ダグ騎兵連隊長に案内されて練兵場の倉庫に連れて行ってもらって、
父・普一の土産で扱いに困っているものについて、
見せてもらったんですが(第45話)、、、
その中にパラシュートがあることに気付いていたんですよ。。。」
(第49話)
僕は続けた。
「そしてルイスさんが
『飛行魔法を授かっているけど、使えない』
と言っていたので、
どんな飛行魔法なのか問うたのですよ。
そしたら、
『空に飛ぶことはできるけど、それ以外ができない』
と言ったんですよ。
実際みせてもらいましたし。。。」
(第49話)
僕はさらに続けた。
「で、、、僕は
『空に飛び立つことが可能なら、方法はいくつかある』
とルイスさんに話して、
倉庫の中のパラシュートを渡したって訳です。。。」
ダグ騎兵連隊長は首を傾げてつぶやいた。
「普一殿は、クラリスには、
『空を飛ぶ方法はある』
と言っただけで、、、
パラシュートを渡すことはなかったな。。。」
僕は「え?」っとつぶやいた。
父・普一もパラシュートを思いついたはずだ。
でも、、、なぜ、『空を飛ぶ方法はある』としか言わなかったのだろう?
そう言えば、、、おかしなことがある。。。
僕はダグ騎兵連隊長に問うた。
「ダグ騎兵連隊長、、、
父・普一は、、、
どう、オフロードバイクを紹介したのですか?」
実は、ダグ騎兵連隊長が、
『オフロードのバイクの適用方法がわからず困っていた』
と話していたことが気になっていたんだ。(第46話)
ダグ騎兵連隊長は、戸惑いの表情を浮かべながら、答えた。
「ああ、、、30年前、普一殿の土産を見せてもらってな。。。
その中にスクーターに似ているが、なんかカッコいいものがあって、、、
普一殿に
『それはなんだ?』
と訊いたんだ。。。
そしたら、普一殿は
『オフロードバイクだ』
と答えてくれた。。。」
どうやら、、、30年前、父・普一は、、、
パラシュートとオフロードバイクを積極的には教えていなかったようだ。。。
でも、、、
それは『何故』?
数秒後、僕はピンときた。
そして思わず、「あ!」とつぶやいた。
あっちゃー、、、
パラシュートとオフロードバイクを教えちゃダメだったかな?
たぶん、僕の「あ!」というつぶやきが聞こえたのだろう。
ダグ騎兵連隊長は怪訝な表情で僕に問うた。
「修司殿、、、どうした?」
僕はシマッタと思ったが、仕方なく話した。
「30年前の父・普一は、僕と同じで、
オウゴウヌ王国の実情は知らなかったはずです。
だから、30年前、父・普一の土産を考えたのは、
祖父・賢治と祖母・マーガレットだったはずです。。。」
ダグ騎兵連隊長はうなずき、先を促した。
「うん、、、それで?」
僕はダグ騎兵連隊長から視線を逸らし、ため息をついて答えた。
「ここからは、僕の完全な推測ですが、、、
もしかしたら、父・普一の土産に、
オフロードバイクとパラシュートを含めるのを、
祖父・賢治は心から賛成せず、
祖母・マーガレットが強引にねじ込んだのかもしれません。。。」
ダグ騎兵連隊長は驚き、「え?」とつぶやいた。
僕はダグ騎兵連隊長のつぶやきをスルーして、話を続けた。
「ここも、僕の推測ですけど、、、
父・普一は祖父・賢治に遠慮して、
積極的にはオフロードバイクとパラシュートを
教えなかったのかもしれません。。。」
ダグ騎兵連隊長は戸惑いながら、問うた。
「普一殿は、なぜ、普一殿の父・賢治殿に遠慮して、
オフロードバイクとパラシュートを積極的に教えなかったんだ?」
僕はダグ騎兵連隊長から視線を逸らし答えた。
「僕の母国にも、軍隊のような組織があるのですが、、、
オフロードバイクもパラシュートも、
その組織の装備品として使われているからです。。。」
僕はダグ騎兵連隊長を見つめ、話を続けた。
「実は、祖父・賢治は『軍隊が好きではない』のです。。。」
ダグ騎兵連隊長はなお戸惑い、僕に問うた。
「普一殿の父・賢治殿が軍隊が好きではないとは、何故?」
僕はため息をついた。
ここまで来たら、正直に話すべきだろう。。。
僕は夜空を見上げて、答えた。
「約80年前、僕の母国では、大きな戦争がありました。。。
その戦争で、僕の母国だけで、民間人を含め、
約300万人の死者が出ました。。。」
あ、この席ではクラレンス君がいたのでね。(第56話)
『日本』とは言えなかった。
だって、僕の正体は明かしちゃいけなかったから。。。
話を戻そう。
ダグ騎兵連隊長は大いに驚いた。
「死者約300万人!?
そんな戦争、聞いたことがないぜ!?」
僕は視線をダグ騎兵連隊長に視線を戻すと、僕の人差し指を僕の顔に向け、苦笑いを浮かべて、話しかけた。
「今でこそ、僕や父・普一の容貌は、
オウゴウヌ王国の人と変わりません。
でも、僕や父・普一の肌や髪や瞳の色は、、、
僕の母国の人の本来の色とは、異なるのですよ。。。」
(第1話)
僕は右手を下ろすと、ダグ騎兵連隊長から視線を逸らし、ため息をついて、話を続けた。
「その約80年前の戦争の時、この容貌から、
和泉家は『敵性外国人』と疑われ、
ヒドイ偏見やヒドイ迫害を受けたそうです。。。」
(第3話、第13話)
ダグ騎兵連隊長は更に驚いた。
「そんなこと、、、
普一殿から聞いたことがないぜ!」
僕はダグ騎兵連隊長をスルーして、空を見上げ、話を続けた。
「祖父・賢治はもう90歳近い年齢です。
その約80年前の戦争の頃は、幼少期でした。
その幼少期にヒドイ偏見や迫害を受けたのです。。。」
(第13話)
僕は再びダグ騎兵連隊長を見つめ、話を続けた。
「幼少期、そんな社会を過ごした祖父・賢治は、
軍隊や戦争が好きではないのです。。。」
ダグ騎兵連隊長は半ば唖然としながら、黙ってうなずいた。
僕は再び夜空を見上げると、話を続けた。
「一方、祖母・マーガレットはそんな時代を知りません。
だって、祖母・マーガレットが僕の母国に来たのは59年前ですから。。。
だから、純粋にオウゴウヌ王国に役立つものとして、
オフロードバイクとパラシュートを土産に選んだのではないでしょうか?」
僕は視線を下げ、ダグ騎兵連隊長から視線を逸らして、話を続けた。
「もしかしたら、祖父・賢治は反対したかもしれません。。。
でも、それを祖母・マーガレットは説得し、
土産としてねじ込んだのかもしれません。。。
これは僕の勝手な想像ですけど。。。」
ダグ騎兵連隊長は戸惑いながら、僕に問うた。
「修司殿、ちょっと待ってくれ。
普一殿だって、約80年前のことはよく知らないんじゃないか?」
僕はうなずき答えた。
「ええ、父・普一はそんな時代のことは知りません。
でも、祖父・賢治だけでなく、
曾祖父・正志や、曾祖母・アナースターシアにも遠慮したんだと思います。
特に、曾祖父・正志と曾祖母・アナースターシアは、
ヒドイ偏見やヒドイ迫害をまともに経験している筈です。」
僕はため息をつき、話を続けた。
「父・普一は幼少期、
曾祖父・正志や、曾祖母・アナースターシアと一緒に暮らしています。
祖父・賢治だけでなく、
曾祖父・正志と曾祖母・アナースターシアから、
そんな時代のことを聞かされて育ったことは容易に想像できます。」
僕はこう結んだ。
「だから、、、
父・普一は、
祖父・賢治と曾祖父・正志と曾祖母・アナースターシアに遠慮して、、、
積極的にはオフロードバイクとパラシュートを
教えなかったのだと思います。。。」
ダグ騎兵連隊長は唖然として夜空を見上げた。
祖父・賢治はこの国が本当に好きなのだろう。
祖父・賢治はこの国を60年前に訪ねた。
その30年後、祖母・マーガレットと共にこの国の発展を願い、父・普一の土産を考えた。
(第31話)
でも、
『祖母・マーガレットは、祖父・賢治以上に、
【純粋に】この国の発展を願った』
のだろう。
だって、
『この国は祖母・マーガレットの祖国』
なのだから!
だから、父・普一の土産に、オフロードバイクとパラシュートを加えたのだろう。
倉庫に眠っていた、
『オフロードバイクとパラシュートは、祖母・マーガレットの痕跡』
なのだ。
僕は練兵場の満天の星空を見上げ、5年前に亡くなった祖母・マーガレットを思い出していた。。。
孫(修司、弟・幸一、妹・倫子)には優しかった、あの祖母・マーガレット(第1話)を思い出していた。。。
次話は2026/4/4 0時に更新予定です。




