第56話 練兵場の夜(その1) ー満天の星空の下でー
僕は指揮権もないのに分隊メンバを指揮して(第53話)、こっぴどく叱られた(第54話)。
その夜のことだった。。。
一応、夜には謹慎も解け、僕とクラレンス君は、この星の近くの恒星のスペクトル解析を行っていた。
あ、クラレンス君は巨大生物飛来の報を聞くと、すぐに官舎に逃げ込んだらしく、僕がこっぴどく叱られたことは知らない様子だった。
ただ、巨大生物の「ガッシャ! ドオン!」と言う落下音だけを聞いたと言う。
僕とクラレンス君は官舎より少し離れたところにワンボックスカーを移動させ、ワンボックスカーの脇に望遠鏡を設置した。
まあ、この望遠鏡は第43話で述べたように、ホビー用なんだけど、、、その望遠鏡にスペクトル解析装置を取り付け、天体観測を行っていた。
望遠鏡の脇には折り畳みの椅子ニ脚を置き、僕とクラレンス君が座っていた。
僕とクラレンスの前には小さなテーブルがあり、天体望遠鏡につなげたパソコンが置いてあった。
パソコンの画面には望遠鏡の映像が映っている。
僕もクラレンス君も、テーブルの上のパソコンの画面を見つめていた。
あ、さっき、望遠鏡はホビー用と言ったが、結構値の張る、ホビー用としては最高額に近いものをこの国に持ち込んでいる。
練兵場に来る前にフレッド副長が言ったとおり(第43話)、練兵場の夜は真っ暗だった。
加えて、その夜は月もなく、満天の星空だった。
その満天の星空を見上げると、やはりここが地球ではないって思う。
第20話で言ったように、これでも世界中の夜空を見たのでね。
ま、そもそも、事前に近くの恒星の位置のリストを、カドワダドル教授からもらっていてね。
その位置関係から見ても、この星が地球でないことは明白だったんだけど。。。
近くの恒星スペクトルをみると、この星の太陽のスペクトルと共通の特徴が見えた。(第31話)
もし、近くの恒星に惑星があり、そこに知的生命体があり、地球と行き来があるのなら、、、
父・普一の仮説(第3話)が成立するかもしれない。。。
そして、その惑星は、この星と同様、鉄があまり産出されないだろう(第26話)。。。
もちろん硝石もほとんど取れないだろう(第20話)。。。
要するに、この星の太陽周辺の恒星は同じ特徴を持っている。。。
考えられる原因はいくつかある。。。
まずそれにはこの星の銀河の近くの球状星団を調べるつもりでいる。。。
ただし、第31話でも言ったように、まだ断言はできない。
いろんな要因を取り除いていく必要がある。
半年くらい継続する必要があるだろう。
そして、同時に、、、
王城でこの星の太陽をスペクトル解析した時に感じた『別の妙な違和感』(第31話)が強くなった。。。
念のために言っておくけど、別に計測結果がおかしいわけではない。。。
でも、なんか『引っかかりを感じる』のだ。。。
特に、、、
この星から遠い恒星のスペクトル程、この『別の妙な違和感』を強く感じるのだ。。。
心の中の誰かがささやくのだ、『もっと遠くの恒星を調べてみろ』って。。。
僕は何げなくつぶやいた。
「もっと遠くの恒星も調べてみるか。。。」
そんなとき、官舎に目を向けると、官舎から僕達に近づく影を見つけた。
小さなテーブルにはパソコンだけでなく、暗視用の赤外線カメラも置いてあり、カメラを覗くとダグ騎兵連隊長が近づいているのが分かった。
僕は何事かと思い、ダグ騎兵連隊長に声をかけた。
「ダグ騎兵連隊長、どうなさいました?」
ダグ騎兵連隊長は、僕とクラレンス君が座っていた場所から10mくらい手前で立ち止まり、驚いたように答えた。
「なぜ、近づいたのか分かった?」
僕は赤外線カメラを掲げ、答えた。
「これなら150m先の暗闇も見えますから。。。」
実は、同じ赤外線カメラを10台ほど、持ち込んでいる。
これは土産ではなく、天体観測中に必要と思って持ち込んでいたものだ。
このオウゴウヌ王国に来る前に、父・普一と祖父・賢治から、事情があって、この国は全土電化されているわけではないと聞かされていた。(第16話)
よって、夜は真っ暗闇の場所もあると聞かされており、用心のために持ち込んだものだ。
ダグ騎兵連隊長は苦笑いを浮かべ、更に近付いてきた。
そして、僕とクラレンス君が座っている場所から2,3m手前まで進み、立ち止まった。
「修司殿、少し話をしないか?」
僕はうなずき、「そうですか。」と答えると、椅子から立ち上がり、ワンボックスカーから、折り畳みの椅子をもう一つ出した。
そして、ダグ騎兵連隊長に「どうかお掛けください」と、椅子を勧めた。
ダグ騎兵連隊長は黙って、折り畳みの椅子に座った。
僕はクラレンス君に顔を向けると、「休憩にしよう」と告げた。
クラレンス君は黙ってうなずいた。
僕は小さなテーブルの上のパソコンを片付け、立ち上がり、ダグ騎兵連隊長に話しかけた。
「コーヒーを準備します。
少々お待ちください。」
僕はヤカンとカセットガスコンロをワンボックスカーの荷台から取り出し、カセットガスコンロを小さなテーブルに置いた。
次にヤカンに水を入れ、火をつけた。
そして、ワンボックスカーの荷台から、コーヒー豆の袋と小型の手挽きミルを取り出した。
まず、コーヒー豆の袋から、コーヒー豆の適当な量を、計量カップを用いて取り出した。
その計量カップのコーヒー豆を小型手挽きミルに入れ、ゆっくりと挽いた。
そして、ワンボックスカーの荷台からドリッパとコーヒーポット、そしてコーヒーペーパーフィルタの袋を取り出した。
小さなテーブルの上にコーヒーポットを置き、その上にドリッパを置いた。
さらにコーヒーペーパーフィルタの一枚を、袋から取り出し、ドリッパの上に置いた。
そして、挽いたコーヒー豆をコーヒーペーパーフィルタの上に入れた。
ちょうどヤカンの水が沸騰して来たので、ドリッパな挽いた豆に『の』の字を描くように、少しだけ湯を注ぎ、挽いたコーヒー豆を蒸らした。
次にワンボックスカーの荷台から3個のコーヒーカップを取り出し、小さなテーブルの上に置いた。
そして、コーヒーカップに湯を注いだ。これはコーヒーカップを温めるためだ。
次にドリッパにコーヒー3杯分のお湯を一気に注いだ。『の』の字を描くように。。。
コーヒーポットに3人分のコーヒーが抽出されたのを確認すると、コーヒーポットからドリッパを外した。
3個のコーヒーカップのお湯を捨て、そのコーヒーカップそれぞれに、コーヒーポットのコーヒーを注いだ。
僕はダグ騎兵連隊長に笑顔を向け、「どうぞ」とコーヒーを勧めた。
さらに、ワンボックスカーの荷台をクッキーの缶を取り出し、ダグ騎兵連隊長に「お茶請けにどうぞ」と勧めた。
ダグ騎兵連隊長に戸惑った表情で、僕に顔を向け、「なかなか本格的だな。」と話した。
僕は微笑み、こう言って返した。
「こうやってコーヒーを淹れると落ち着くのですよ。」
ダグ騎兵連隊長はコーヒーカップの持ち手をつまむように持つと、コーヒーを一口飲んだ。
そしてクッキーの缶からクッキーを一つ取り出すと、口の中に入れた。
ダグ騎兵連隊長は思わずつぶやいた。
「このクッキー、美味いな。。。」
僕は微笑み、ダグ騎兵連隊長に語り掛けた。
「僕の母国の土産です。」
そして、いたずらっぽく、僕の口の前に人差し指を立て、ダグ騎兵連隊長に語り掛けた。
「秘密ですよ。。。。
オウゴウヌ王国向けの土産の一部をくすねました。」
(第12話)
実は、日本からオウゴウヌ王国に持ち込んだ土産の中で、高級ブランドコーヒー豆と高級洋菓子、特に日持ちができるものを、一部くすねていたんだ。。。
いや、、、というより、正確には、、、『大量に』、、、くすねていたんだ。
しかも、、、
『僕一人が楽しむために』。。。
だって!
和泉家ではいつもは食べられない高級洋菓子がいっぱいあったんだもの!
これくらい良いでしょ!?
だって、大量の土産を運ぶの大変だったんだもの!
(第12話)
これくらい許してくれるよね!?
ね!?
それを聞いたダグ騎兵連隊長は夜空に向けて、大声で笑い出した。
「ははは!
じゃあ、書類作業に疲れた時には、
修司殿の部屋を訪ねて、
またコーヒーとクッキーを頂きに来ようかな!?」
僕は微笑み、「いつでもどうぞ」と答えた。
急にダグ騎兵連隊長は表情を変えた。
彼は真剣な表情になると、僕に語り掛けた。
「昼間は怒って済まなかった。(第54話)
修司殿の判断は間違っていない。」
そう言うと、ダグ騎兵連隊長は僕に頭を下げた。
僕は微笑み、片手を振って、ダグ騎兵連隊長に語った。
「ダグ騎兵連隊長、そんな謝罪は不要です。
あの後、クラリス参謀総長とヒラリー後方支援連隊長から
教えてもらいました。」
(第55話)
ダグ騎兵連隊長は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
僕はダグ騎兵連隊長の戸惑いをスルーして、話を続けた。
「ご両名が言うところには、
『軍隊と言うところは規律があるから、
指揮権もない僕が指揮したことを咎めざるを得ない』
のだと、
そして、
『あの場では咎めることができたのは、
レオ近衛師団長とダグ騎兵連隊長とクラリス参謀総長しかいなかった』
のだと、
だけど、
『レオ近衛師団長もクラリス参謀総長も咎めることは難しく、
ダグ騎兵連隊長がイヤな役を担ってくれた』
のだと。。。」
(第55話)
ダグ騎兵連隊長は、半ばあきれて、半ば困ったように、僕から視線を逸らし、つぶやいた。
「あいつら(=クラリス参謀総長、ヒラリー後方支援連隊長)、、、
余計なことを話しやがって、、、」
僕は微笑み、さらに続けた。
「ご両名からさらに教えてもらいました。
今後はドーラさんに
『意見よろしいでしょうか?』
とか
『権限の一時委譲よろしいでしょうか?』
と言いなさいって。。。」
(第55話)
ダグ騎兵連隊長はさらにあきれて、顔を下に向け、つぶやいた。
「あいつら(=クラリス参謀総長、ヒラリー後方支援連隊長)、、、
おまけに余計な知恵まで授けやがって。。。」
僕は真剣な表情になり、ダグ騎兵連隊長に話しかけた。
「今回は知らぬこととはいえ、、、
軍隊の規律を乱す行為をして、すみませんでした。」
そう言うと、ダグ騎兵連隊長に頭を下げた。
ダグ騎兵連隊長は僕を見つめた。
数秒後ため息をつき、僕に語り掛けた。
「だが、、、結果的に、、、
ドーラ中尉に修司殿を殴らせてしまった。。。」
(第54話)
僕は微笑み返した。
「グーパンチで殴られるのは、母・エリーゼで慣れています。」
(第1話)
ダグ騎兵連隊長は再び夜空に向けて笑い出した。
「ははは!
分隊長(=エリーゼ)には、俺もよく殴られた。」
僕は驚いた。
「そうなんですか?」
ダグ騎兵連隊長は僕に笑顔を向け、うなずき、語る。
「ああ、、、
分隊メンバの中では俺が一番殴られた。。。」
僕も夜空に向けて笑った。
「ははは!」
(次話に続く)
次話は2026/4/3 0時に更新予定です。




