第131話 クラリス参謀総長の苦悩(その3) ー突破口ー
(前話からの続き)
クラリス参謀総長とルイス少尉は、母と娘だ。
長年、一緒に暮らしていた親子だから、わかることがあるのだろう。
ルイス少尉は苦笑いを浮かべたまま、僕に語り掛けた。
「腹黒狸(=クラリス参謀総長)が、何に悩んでいるのか、
思い余ってね。。。
ついに先日、荷物を取りに実家に帰った時、
腹黒狸(=クラリス参謀総長)の書斎のドアのカギをこじ開けて、
書斎にあった書類を読んだの。。。
まだ私、公休が取れないから(第92話)、特別の許可を得て、
実家に帰った時に。。。」
僕は思わずルイス少尉に突っ込んだ。
「あんた(=ルイス少尉)、、、
軍の倉庫の鍵をこじ開けただけでなく、、、
(第92話)
クラリス参謀総長の書斎の鍵をこじ開けたんかい!?」
ルイス少尉は何食わぬ顔で答えた。
「ん?
腹黒狸(=クラリス参謀総長)の書斎の鍵なんて、
小さい頃から、何度もこじ開けているけど?」
僕はあきれて片手で頭を抱えた。
だめだ、、、この人(=ルイス少尉)。。。
ルイス少尉はニヤリと笑い、話を続けた。
「ま、腹黒狸(=クラリス参謀総長)の書斎の鍵をこじ開けたのがバレて、
腹黒狸から何度も叱られたけどね。。。
腹黒狸(=クラリス参謀総長)は書斎の鍵を何度も変えたけど、
しかもこじ開けるのが難しい鍵に変えたけど、
その都度、こじ開けてやったわよ。。。」
そう言うと、ルイス少尉は僕にピースサインを送った。
僕はあきれてため息をついた。
それにしても、、クラリス参謀総長とルイス少尉って、、、どういう親子なんだ?
まったく。。。
ルイス少尉は、再び、少し悲しそうな表情を浮かべた。
「話を戻すとね。。。
腹黒狸(=クラリス参謀総長)の書斎にあった書類を読んで知ったの。。。
我が国に脅威が迫っているの。。。」
僕は戸惑い問うた。
「え? どんな脅威が?」
ルイス少尉は少し悲しそうな表情を浮かべたまま、何度も顔を横に振り、答えた。
「ごめん、、、
今はそれを詳しくは話すことはできないの。。。
でも、とても大きな脅威が我が国に迫っている。。。
腹黒狸(=クラリス参謀総長)は、参謀総長として、
その大きな脅威に対する作戦立案の責任を負っている。。。
今、母(=クラリス参謀総長)は、大変な重責の中にいるの。。。」
ルイス少尉はため息をついた。
そして、夜空を見上げ、少し頬を膨らませ、悲しそうにつぶやいた。
「でも、悩んでいることを、私に話してくれない。。。」
ルイス少尉は、娘として、母であるクラリス参謀総長が心配なのだろう。。。
だが僕は笑顔を浮かべ、ルイス少尉に語り掛けた。
「きっと、部下にも、家族にも話せないんですよ。
もしかすると、オウゴウヌ王国の国民には、誰一人話せないのでは?」
ルイス少尉は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
僕は微笑み答えた。
「参謀総長が作戦立案に悩んでいるなんて、、、
ルイスさんを含め、オウゴウヌ王国の国民には、、、
誰一人話すわけにはいかないじゃないですか。。。」
ルイス少尉は不服そうに僕に問うた。
「じゃあ、どうして腹黒狸(=クラリス参謀総長)は、
わざわざ王城から、ここ(=練兵場)まで来て、
修司殿と話しに来たわけ?」
僕は苦笑いをして答えた。
「たぶん、、、
『僕がオウゴウヌ王国の国民じゃない』から、、、
後腐れなく話せたんだと思います。」
ルイス少尉はため息をついて、つぶやいた。
「そういうこと。。。」
ルイス少尉は真剣な表情で僕に語り掛けた。
「修司殿、今後も腹黒狸(=クラリス参謀総長)の話し相手になってくれる?」
僕は黙ってうなずいた。
ルイス少尉は怪訝な表情を浮かべ、僕に問うた。
「ところで、腹黒狸(=クラリス参謀総長)に何を渡したの?
コーヒー豆と菓子以外に。。。」
僕は「ああ」とつぶやくと、折り畳みの椅子から立ち上がり、ワンボックスカーから一つの暗視用の赤外線カメラを持ち出すと、テーブルに置いた。
僕は折り畳みの椅子に座ると、右手で赤外線カメラを指さした。
「赤外線カメラです。150m先の暗闇も見えます。」
(第56話)
そう言うと、赤外線カメラのスイッチを入れた。
ルイス少尉は赤外線カメラを手に取ると、「どれどれ」と赤外線カメラで周囲を見渡した。
ルイス少尉は突然つぶやいた。
「ん! そうだ!」
ルイス少尉は笑顔で僕に語り掛けた。
「修司殿、この赤外線カメラ、頂戴!」
僕は戸惑いながら、うなずいた。
「ええ、、、
暗視用の赤外線カメラは10台持ってきてますから。。。
(第56話)
1台くらいは。。。」
ルイス少尉は立ち上がり、赤外線カメラを持って、官舎へ走り出した。
そして、振り向き、僕に向かって叫んだ。
「ありがとう! 1台もらっていく!」
後で聞くと、官舎に戻ったルイス少尉は、赤外線カメラを持って、パラグライダーで夜空に飛び出したそうだ。
ちょうどそのころ、ルイス少尉の母、クラリス参謀総長は、夜空をパラグライダーで飛びながら、練兵場から王城に戻った。
僕の心配通り、夜間戦闘訓練を受けていたとしても、夜空を飛ぶのは断然に難しかった。
方向は方位磁石や、星の位置から、ある程度推測できる。
だが、暗闇の中での飛行では、高度はわかりにくい。
後にクラリス参謀総長は語る。
「修司殿から、暗視用の赤外線カメラをもらっていなかったら、、、
(第130話)
遭難してたかも。。」
でも、首都レワヅワに近づけば、首都レワヅワの町灯りから方向が分かり、そこからは大丈夫だったそうだけど。。。
クラリス参謀総長は、いつもの通り、王城の参謀本部の屋上に着陸すると、そのまま彼女の個室に戻った。
個室の前の廊下に、秘書代わりの副官の机と椅子がある。
いつもなら、副官が座っているはずだが、副官はいない。
たぶん、夕食でも食しているのだろう。
王城から練兵場まではパラグライダーで1時間ほどかかる。
往復では2時間だ。
しかも、僕と話をした。
3時間くらい、クラリス参謀総長は仕事をさぼったことになる。
それを考えれば、副官の不在を責めることはできなかった。
クラリス参謀総長は、彼女の個室に入るとつぶやいた。
「サボった分、今日は深夜まで、残業ね。。。
もしかしたら、徹夜かも。。。」
彼女は執務室の革張りの肘掛け付きの高級の椅子に座り、大きな事務机に向かって、仕事を始めた。
30分ほどだろうか、副官がノックもせず、個室に入ってきた。
おそらく、副官はクラリス参謀総長が個室に戻って、作業を行っているとは思わなかったのだろう。
副官は慌てて驚き問うた。
「参謀総長閣下、、、いつ戻られたのですか?」
クラリス参謀総長はキョトンして答えた。
「え? 30分ほど前に、ここ、参謀本部の屋上に着陸したけど。。。」
副官は冷や汗をハンカチで拭きながら、答えた。
「そうですか。。。
真夜中にパラグライダーで着陸されると気付くのが困難でした。。。
しかも、、、
参謀総長閣下は諜報員のスキルを極めていらっしゃるので。。。」
そう言うと、副官は頭を下げた。
「気付かず、申し訳ありません!」
クラリス参謀総長は慌てて、席を立ち、副官に近づき、優しく話しかけた。
「何を謝っているの?
悪いのは私よ。
仕事をさぼった私が悪いの。。。」
そう言うと、クラリス参謀総長は副官に微笑んだ。
「今日、私は夜遅くまで仕事をしなくちゃいけない。。。
だから、もうあなたは帰りなさい。」
副官は頭を下げたまま、「は!」と答えると。
頭を上げ、クラリス参謀総長の個室から出て行った。
クラリス参謀総長は副官の言葉が引っ掛かっていた。
『真夜中にパラグライダーで着陸されると気付くのが困難』という言葉を。。。
(次話に続く)
次話は2026/6/23 0時に更新予定です。




