第130話 クラリス参謀総長の苦悩(その2) ー娘の心配ー
(前話からの続き)
この日もクラリス参謀総長は、パラグライダーで首都レワヅワの上空を飛んでいた。
彼女はふと思いつき、つぶやいた。
「今日は練兵場まで飛んでいくか。。。」
首都レワヅワから練兵場まで、パラグライダーなら1時間程度で着くことができる。
(第98話)
その日の空の散歩は少し長めに、練兵場まで行くことにした。
クラリス参謀総長がパラグライダーに乗って、練兵場に着くと、もう夕暮れが迫っていた。
僕は夜の観測を始めるため、早めに夕食を練兵場の官舎にある食堂で、クラレンス君と共にとると、観測準備をワンボックスカーの近くで行っていた。
ふと、空を見ると、ひとつのパラグライダーが練兵場に近づいてくるのが見えた。
ルイス少尉はこの日の訓練を終え、官舎に戻っていたはずだ。
一体誰だろうと思うと、パラグライダーが着陸した。
その着陸したパラグライダーのパイロットは、ヘルメットとゴーグルを取った。
その人は笑顔で近づいてきた。
「どう? 修司殿、観測は順調に進んでいる?」
僕は思わずつぶやいた。
「クラリス参謀総長、、、
どうしてここ(=練兵場)に?」
そう、パラグライダーでやって来たのはクラリス参謀総長だった。
クラリス参謀総長は苦笑いを浮かべて答えた。
「ちょっと、煮詰まってしまって。。。
気分転換にここ(=練兵場)にきた。」
僕は戸惑いながら、「そうですか」と答えた。
僕はワンボックスカーから折り畳みの椅子を3脚と小さなテーブルを出した。
僕はクラレンス君に「休憩にしよう」と言うと、クラリス参謀総長に椅子を勧めた。
そして、僕はクラリス参謀総長に語り掛けた。
「コーヒーを準備します。
少々お待ちください。」
そう言うと、僕は第56話と同様に、コーヒーを淹れ、クラリス参謀総長に差し出した。
また、お茶請けに洋菓子の缶も差し出した。
僕も折り畳みの椅子に座ると、クラリス参謀総長は戸惑いながら、第56話のダグ騎兵連隊長と同様に、語り掛けた。
「(コーヒーの淹れ方が)結構本格的ね。」
僕は微笑み答えた。
「ダグ騎兵連隊長もそう言います。」
(第56話)
クラリス参謀総長はなおも戸惑いながら、僕に問うた。
「あいつ(=ダグ騎兵連隊長)、、、
修司殿のコーヒーを飲んだことがあるの?」
僕は微笑み答えた。
「僕が軍の規律を無視して、分隊メンバ指示して、
ダグ騎兵連隊長から叱られた日、、、
(第54話)
その日の晩、謝りに来ました。」
(第56話)
クラリス参謀総長は唖然としてつぶやいた。
「そんなことが。。。」
僕は話を続けた。
「その日から、コーヒーと菓子を目当てに、
ダグ騎兵連隊長は僕の官舎の部屋にたまにきます。」
(第63話)
クラリス参謀総長はあきれて問うた。
「あいつ(=ダグ騎兵連隊長)、、、
なにやってんの?」
僕は微笑み答えた。
「まあ、書類作業に疲れた時、息抜きに来ているのでは?」
(第56話)
クラリス参謀総長はあきれたまま、右手で頭を抱え、つぶやいた。
「ま、、、
(書類作業から)脱走されるよりマシか。。。」
クラリス参謀総長は洋菓子の缶から洋菓子を一つ取り出すと、口の中に入れた。
するとつぶやいた。
「ダグが目当てにするの分かる。。。
この菓子美味い。。。」
第56話のように、いたずらっぽく、僕の口の前に人差し指を立て、クラリス参謀総長に語り掛けた。
「内緒ですよ。。。
ダグ騎兵連隊長しか知りません。。。
日本からの土産を一部くすねました。。。」
するとクラリス参謀総長は口元を抑えて笑い出した。
「フフフ、、、
あんた(=修司)、何やってんの?」
僕は頬を膨らませて答えた。
「だって、、、
和泉家じゃ日頃食べさせてもらえない高級洋菓子だったので。。。」
(第56話)
こんな他愛もない会話をしていると、すっかり夜になっていた。
クラリス参謀総長は立ち上がり、語り掛けた。
「じゃあ、もう、王城に帰るわ。。。」
僕は心配になって問うた。
「え? もう夜ですよ?
王城ってどうやって帰るんですか?」
クラリス参謀総長は笑顔で答えた。
「これでも夜間訓練は受けているわ。
大丈夫。」
クラリス参謀総長は、外国に諜報活動を行った経験がある。
その際に、様々なスキルを身につけた。
その中に、夜間戦闘訓練、しかもかなり高度な夜間戦闘スキルを身に着けていた。
だから、夜間には絶対の自信があった。
だが、この時点では、僕はそのことを知らなかった。
心配になって、ワンボックスカーから暗視用の赤外線カメラをクラリス参謀総長に渡した。
「これは夜間でも150m先まで見ることができます。
これを使ってください。」
クラリス参謀総長は戸惑いながらも、暗視用の赤外線カメラを受け取った。
「わかった。ありがとう。」
僕は更にワンボックスカーから、くすねた高級洋菓子の複数の缶とコーヒー豆の複数の袋の中から、それぞれ一つずつ、クラリス参謀総長に渡した。
「王城でコーヒーと洋菓子を楽しんでください。」
クラリス参謀総長はなおも戸惑いながら、「いいの?」と問うた。
僕は笑顔で答えた。
「まだまだたくさん、くすねたコーヒーと洋菓子があります。」
すると、クラリス参謀総長は半ば呆れ、半ば笑って答えた。
「フフフ、、、
本当、あんた(=修司)、何してるの?
でも、ありがとう。。。」
そう言うと、クラリス参謀総長は夜空をパラグライダーで飛んで行った。
クラリス参謀総長が帰った後、暗闇の中から、誰か一人近づいてきた。
誰かと思うと、クラリス参謀総長の娘である、ルイス少尉だった。
ルイス少尉は僕に近づくと、頭を下げた。
「修司殿、ありがとう。」
僕は驚き、ルイス少尉に問うた。
「ルイスさん、、、
僕とクラリス参謀総長との会話を見ていたのですか?
一体いつから?」
ルイス少尉は微笑み答えた。
「最初から。。。
(第129話)
官舎の窓からパラグライダーが近付いてきたのを見て、
母(=クラリス参謀総長)が来たってわかった。。。
私は草むらに隠れて、
修司殿と母との会話を、ずっと見ていたわ。。。」
僕は思わずつぶやいた。
「そうだったんですか。。。」
ルイス少尉はクラリス参謀総長が座っていた折り畳みの椅子に座った。
僕も折り畳みの椅子に座った。
ルイス少尉は少し悲し気に、僕に語り掛けた。
「腹黒狸(=クラリス参謀総長)は、いま、大変悩んでいるの。。。」
ああ、ルイス少尉は、いつも母親のクラリス参謀総長のことを、本人がいないときは『腹黒狸』と呼んでいる。
話を戻そう。僕は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
ルイス少尉は、僕の戸惑いをスルーして、話を続けた。
「腹黒狸(=クラリス参謀総長)は、参謀総長だから、とても忙しいの。。。
だから、私が公休の日、実家に帰っても、
腹黒狸(=クラリス参謀総長)は不在の時が多いの。。。
ま、これは以前からそうなんだけど。。。
それでも最近は、以前と比べても、不在な時が多いの。。。」
そう言うと、ルイス少尉はため息をついた。
そして、彼女は話を続けた。
「私が王城で待機任務の時、
参謀本部の建物の近くに行って、
腹黒狸(=クラリス参謀総長)の個室を眺めると、
深夜まで灯りが点いているわ。。。
まあ、これも以前からそうなんだけど、、、
それでも、以前と比べても異常なくらい。。。」
ルイスは苦笑いを浮かべた。
「それでも、私が公休の時は、
たぶん、腹黒狸は無理して休みを取っているんだと思う。。。
大量の資料を抱えてね、
実家に帰ってくることがあるの。。。
でも、一緒に食事していると、上の空のことが多いの。。。
私にはわかった。
『腹黒狸(=クラリス参謀総長)は、何かに悩んでいる。』
って。。。」
クラリス参謀総長とルイス少尉は、母と娘だ。
長年、一緒に暮らしていた親子だから、わかることがあるのだろう。
(次話に続く)
次話は2026/6/21 0時に更新予定です。




