第120話 南西州都コアブルッズ市からの土産(その1) ー土産の選定ー
話はさかのぼり、王城から天文台に発した直後だった。
(第110話)
王立オウゴウヌ大学でカドワダドル教授とクラレンス君を拾うため、ワンボックスカーを運転中の僕は、助手席のドーラに問うた。
「ドーラさん、、、
数年前、天文台付近をご家族で訪ねたのですか?
オリビアさんが供応を受けたと言ってましたが。。。」
(第109話)
ドーラは車の正面に顔を向けたまま、苦笑いを浮かべて答えた。
「ああ、、、
毎年1回、地方視察に母上(=アン女王)は出かけるんだ。。。
数年前、家族全員で南西州へ地方視察に出掛けてな。。。
南西州の州都、コアブルッズ市で供応を受けた。。。」
ドーラは苦笑いを浮かべながら話を続けた。
「シャーロットやオリビアの言うとおり、、、
南西州の州都、コアブルッズ市の周辺は、果物が名物でな。。。
供応の際に食したのだが、、、
特に果物のゼリーは逸品だったな。。。」
僕は微笑みながら返した。
「ドーラさん、、、
じゃあ、そのゼリーを土産にしましょうか?
シャーロットさんとオリビアさんにねだられてますし。。。」
(第109話)
ドーラは腕を組み、顔を横に傾けて、答えた。
「うーん、、、
母上(=アン女王)の言うとおり、
今回の天文台行きにはいろんな人の世話になっているから、
土産は買わねばならんな。。。」
(第109話)
僕は黙ってうなずいた。
そう、今回の天文台行きには、軍事省、警察消防省、教育省を巻き込んで、いろんな人の世話になっている。
お礼の意味で、土産を買っていかなくてはならないだろう。
しかし、ドーラは「だが。。。」とつぶやいた。
僕は戸惑った。
「なんですか?
その『だが』って?」
ドーラは腕を組んだまま、苦笑いを浮かべて答えた。
「実はあの時、『ゼリーを持って帰りたい』と言ったら、
店の人から、『賞味期限は1日だけ』と言われたんだ。。。」
ドーラは顔を僕に向けると、苦笑いを浮かべたまま、話を続けた。
「だから、ゼリーを配れるのは、、、
持って帰って、その日に配れる相手だけだ。。。」
僕はため息をついた。
この世界で土産と言うのは難しいものだ。。。
この世界には、王室のキッチン以外は冷蔵庫はない。
(第19話)
だから、傷みやすいものは土産にはならないのだ。
話は少し進んで、南西州警察消防本部長であるマシュー・ヒリヤー警視監と、ギレエ町警察消防署署長であるヒューバート・スタイルズ警視との打ち合わせだった。
(第116話)
ドーラは打ち合わせが終わると、マシュー本部長とヒューバート署長に恐る恐る語り掛けた。
「マシュー・ヒリヤー警視監、ヒューバート・スタイルズ警視、
一つお尋ねしたいことがあるのですが。。。」
マシュー本部長は戸惑いながら、ドーラに問うた。
「なんでしょうか?」
ドーラは苦笑いを浮かべ、話しかけた。
「実は、我が妹二人、
つまりシャーロットとオリビアが数年前、
南西州州都コアブルッズ市を訪ねた時、
この地の果物に大変感銘しました。
特に、果物ゼリーをもう一度食したいと申しております。
(第109話)
コアブルッズ市のどこで購入したら良いでしょうか?
コアブルッズ市に王室御用達の果物専門店があると聞いておりますが、
場所が分からないのです。」
そう言うと、ドーラはコアブルッズ市の地図を広げた。
マシュー本部長は天井を見上げ、「ははは!」と笑った。
そして彼は笑顔をドーラに向けた。
「そうですか。。。
この地の果物は、
シャーロット王太子殿下とオリビア第三王女殿下のお気に入りですか。。。」
ドーラは恥ずかしそうに語る。
「いえ、シャーロットとオリビアだけでなく、
我もこの地の果物には感銘を受けました。」
ヒューバート署長も「ははは!」と笑った。
そしてヒューバート署長は笑顔をドーラに向けると、店の名前と店の位置を教えてくれた。
翌日の水曜日の朝、ドーラはルイス巡査(本当は少尉)とベリンダ巡査(本当は上等兵)に語り掛けた。
「我らは首都レワヅワに帰るとき、この地の土産を持って帰らねばならぬ。
この店に行き、土産を探してほしい。
ただし、逸品と分かっている果物ゼリー以外でな。
ついでに、久しぶりに果物ゼリーを所望する。
果物ゼリーを10個買ってきてくれ。」
そう言うと、ルイス巡査(本当は少尉)とベリンダ巡査(本当は上等兵)に、店の名前と店の位置を教え、彼女の王室専用の買い物カードを渡した。
あ、この王室専用の買い物カードは僕も持っている。
まあ、一応、僕も王族だし。
王宮内の売店や食堂ではそれを使っている。
実は天文台の売店や食堂も。
どうやら、天文台台長・デニス教授が、手を尽くしてくれたようだ。
話を戻すと、アイスクリーム騒動を引き起こし、1ヶ月の公休なしの処分を受けたルイス巡査(本当は少尉)は喜んだ。
だって、実質休暇を与えられたのと同じだからだ。
ドーラは同様の処分、つまり公休なしの処分を受けたエイミー巡査(本当は少尉)に、実質休暇を与えた。
(第114話)
次の日に、ルイス巡査(本当は少尉)に実質休暇を与えたのだ。
彼女は軽トラを運転し、ベリンダ巡査(本当は上等兵)のオフロードバイクの警護を受けながら、南西州の州都コアブルッズ市に向かった。
その日の午後3時過ぎ、パンフレットとゼリー10個を持って、ルイス巡査(本当は少尉)とベリンダ巡査(本当は上等兵)が戻ってきた。
ドーラは休暇をとっていた、フレッド巡査長(本当は副長)、ヒュー巡査(本当は少尉)、ローレンス巡査(本当は曹長)以外のメンバに果物ゼリーを配り、一緒に食した。
確かに甘さ控えめで、とっても美味しいフルーツゼリーだった。
あ、余りはカドワダドル教授とクラレンス君に配った。
彼等も「美味しい」と大好評だった。
ドーラは果物ゼリーを食しながら、パンフレットを一目見て、僕に渡した。
「どうだろう?
今回の天文台行きで世話になった、
フランクリン・クーパー軍事相閣下、
リネット・ホーリス警察消防相閣下、
ジョシュア・アクトン教育相閣下と、
キース・ランバート軍事次官、
コンラッド・カニング警察消防次官、
アルバート・ネビル教育次官には、、、
果物の詰め合わせを土産に送ろうと思うのだが。。。」
僕はうなずき答えた。
「そうですね。
ゼリーよりは、日持ちがするでしょうし。。。」
だが、僕はそれでは不十分だと思った。
「でも、ドーラさん、、、
その6人だけで良いのでしょうか?」
ドーラは戸惑い問うた。
「どうして?」
僕は答えた。
「だって、、、
ダグ騎兵連隊長、ウオーレン魔法兵連隊長、
ヒラリー後方支援連隊長、クラリス参謀総長には、
日頃から世話になっているし。。。
日頃の感謝の意味を込めて、土産は必要だと思うんですよ。。。
しかも、、、
ダグ騎兵連隊長、ウオーレン魔法兵連隊長、クラリス参謀総長は
エイミーさん、ジャクソンさん、ルイスさんの親ですよ。。。」
ドーラはため息をついてうなずいた。
「そうだな。。。」
僕は問うた。
「あと、王城で、ドーラさん、
『近衛師団の同僚や上司にも土産が必要』
と仰いましたが、彼等への土産はどうします?」
ドーラは腕を組み、「うーん」とつぶやくと、こう語った。
「大量にいるな。。。
果物詰め合わせでは合計額が高すぎる。。。
これは果物ゼリーにしよう。。。
果物ゼリーはその日のうちに食さねばならぬから、、、
帰った日に当番としていた人だけにするか。。。」
脇にいたジャクソン巡査(本当は少尉)が戸惑い問うた。
「少なくとも100人は当番勤務していると思います。
つまり、少なくとも100個の果物ゼリーが必要ですが。。。」
ああ、ドーラの分隊は近衛師団・騎兵連隊の隷下である。
そして第45話で述べたとおり、王城に駐屯しているのは騎兵連隊のうち、1個大隊で、約500名だ。
しかし、交代で公休をとらせているし、官舎で待機任務に就いている部隊もある。
当番勤務しているのは約100名から約200名なんだ。
ドーラは苦笑いを浮かべてジャクソン巡査(本当は少尉)に答えた。
「100個では足らんな。。。」
ジャクソン巡査(本当は少尉)は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
(次話に続く)
次話は2026/6/6 0時に更新予定です。




