第119話 オリビア第三王女の日常
さて、ドーラと僕が天文台に行っているとき、当然のことながら、オリビア第三王女は首都レワヅワにいた。
オリビア第三王女は末席ながらジョージ宰相の秘書をしている。
午前8時半には車に乗って、ジョージ宰相の私邸に行く。
私邸には筆頭秘書も同行する。
このときは筆頭秘書は助手席に座る。
王城からジョージ宰相の私邸には、近衛師団騎兵連隊隷下の1個分隊、つまり騎乗した兵10名と一緒に行く。
王城からジョージ宰相の私邸には、大体30分くらいかかるので、午前8時には王城を出て、午前8時半にはジョージ宰相の私邸に行く。
実際には、ゆとりを持って、大抵は午前7時45分に王城を出て、午前8時15分にジョージ宰相の私邸に行く。
となると、午前7時半に、筆頭秘書と騎乗した10名の兵と待ち合わせなくてはならない。
筆頭秘書は大変だ。
午前7時半までに王城の宰相官邸に出勤し、ジョージ宰相のスケジュールを確認し、車の中で話すことを考えておかなくてはならない。
一体、何時に起きているのだろう?
護衛の近衛兵も大変だ。
それまでに自らの身支度と馬の手入れを終えておかなくてはならない。
毎日、オリビア第三王女は秘書として、ジョージ宰相を私邸から官邸まで車で送っている。
こうした送迎の車が付くのは、決してステータスではない。
ジョージ宰相が多忙であるからだ。
オリビア第三王女によると、私邸で迎えの車に乗るときから、ジョージ宰相は仕事に入るそうだ。
ジョージ宰相は後部座席に座ると、その横に筆頭秘書が座る。
まず最初に筆頭秘書から、その日のスケジュールを確認する。
そして、そのスケジュールを確認すると、ジョージ宰相あてに届いた大量の手紙のうち、筆頭秘書が最優先と判断した手紙を渡すのだ。
ジョージ宰相は後部座席に座り、その手紙を確認する。
その手紙をジョージ宰相は手早く読むと、筆頭秘書に指示する。
筆頭秘書は指示した内容をメモに取る。
筆頭秘書が最優先と判断した手紙も結構な数があるので、私邸から官邸までの30分ではすべてが終わらないらしい。
そんなときは、官邸のジョージ宰相の個室で、筆頭秘書とやりとりをする。
そう、筆頭秘書は午前7時半までに王城の宰相官邸に出勤し、迎えの車の30分以内で処置が完了するように、大量の手紙の中で、最優先の手紙を厳選しなくてはならないのだ。
ま、オリビア第三王女を含め、秘書全員が午前7時半までに出勤し、大量の手紙の中で最優先の手紙を厳選し、最終的に筆頭秘書が決めるのであるが。。。
一方、オリビア第三王女は夜間大学に通っている。
(第33話)
なので、オリビア第三王女自身が実際に見たわけではないが、ジョージ宰相は夜遅くまで仕事をしているらしい。
帰りも車でジョージ宰相を送るのであるが、その帰りの車の中でも、ジョージ宰相は仕事をしているらしい。
残った仕事を第二秘書に話し、明日のスケジュール調整を行っているらしい。
ジョージ宰相が仕事から解放されるのは、私邸に着き、車から降りた瞬間なんだそうだ。
先ほど、送迎の車が付くのは、決してステータスではないと言った。
ジョージ宰相に秘書がいるのも、決してステータスではない。
ジョージ宰相が多忙であるからだ。
ジョージ宰相には、宰相として行ってほしい仕事に専念してもらわないといけない。
宰相として行ってほしい仕事だけでも、山ほどあるのだ。
だが、宰相して行う必要のない仕事も山ほどあるのだ。
一方、そんな仕事に忙殺されていたら、とても一日では終わらない。
そう、だから、秘書がいるのだ。
しかも、何人も秘書がいるのだ。
宰相して行う必要のない仕事は、基本、秘書に回ってくる。
秘書の権限を越えることは、宰相官邸の官僚に仕事が振られる。
先ほど言ったように、ジョージ宰相の私邸から宰相官邸までに、おおよそ30分かかる。
午前8時15分に私邸をでると、午前8時45分前後に、ジョージ宰相を宰相官邸に迎える。
筆頭秘書はジョージ宰相と共に首相官邸に戻ると、秘書全員に仕事を割り振る。
今日も朝から、オリビア第三王女は忙しい。
オリビア第三王女が彼女の机で仕事をしていると、今日もブリトニー・ヨーク、クリスティアナ・ワーシントン、ディーン・ウエストウイックが話しかけてきた。
そして、ブリトニーとクリスティアナとディーンは、今日もオリビア第三王女に遠慮がない。
(第84話)
ブリトニーはニヤリと笑い、オリビア第三王女をからかう。
「オリビア~♪
今日も大量の仕事、ご愁傷様~♪」
クリスティアナはニタリと笑う。
「フフフ。。。
オリビア、頑張んな。。。」
ディーンも笑顔でオリビア第三王女に語り掛ける。
「お仕事頑張ってね~♪」
ただでさえ大量の仕事を抱え、ストレスの溜まったオリビア第三王女は、ブリトニーとクリスティアナとディーンを罵る。
「ウッサイわね!
あんた達も大量の仕事抱えているんだから、
仕事に専念しなさいよ!」
そのオリビア第三王女の罵声を聞いて、周囲はあきれて見ている。
筆頭秘書は片手で頭を抱え、つぶやく。
「あの4人、仲が良いんだか、悪いんだか。。。」
オリビア第三王女と、ブリトニーとクリスティアナとディーンは、今日も仲良く、喧嘩している。
ディーンは苦笑いを浮かべ、両手を上げて「まあまあ」とオリビア第三王女をなだめると、語り掛けた。
「ところでさ、オリビア。。。
修司殿が月曜日からずっと官舎にいないんだけど。。。」
ああ、ディーンはよく僕の官舎の部屋に遊びに来ていたから(第85話)、僕の不在が気になったみたい。
オリビア第三王女はうんざりとした表情で答えた。
「あー、、、
修司殿はドーラ姉上と共に、月曜の朝から、
ずっと天文台に行っているわ。。。
帰ってくるのは日曜日の夕方だったかな?」
(第95話、第109話)
ブリトニーは驚いて問う。
「えー? 天文台って、ここ、首都レワヅワから約200kmあるけど?」
オリビア第三王女はあきれた表情で答えた。
「その約200kmの距離を、1日で移動したんだって。。。
(第110話)
昨日、ダグ・ハミルトン騎兵連隊長閣下が帰って来てね。。。
そう言ったと父上が言ってた。。。
通常は馬車で4日半の距離らしいんだけど。。。」
クリスティアナは片手で頭を抱え、あきれてつぶやいた。
「まあ、ここ王城から練兵場まで約50kmの距離を2時間弱で移動したから、、、
(第85話)
理屈の上では可能だけど。。。」
こうして雑談をしていると筆頭秘書から罵られた。
「あんた達、忙しいんだから、仕事に専念しなさい!」
ブリトニーとクリスティアナとディーンは「は~い」と答えると、トボトボと自席に戻っていった。。。
実際、オリビア第三王女と同様、ブリトニーとクリスティアナとディーンも忙しい。
ブルトニー・ヨークは出身官庁・産業農林水産省との調整で忙しいし、、、
クリスティアナ・ワーシントンは出身官庁・財務省との調整で忙しいし、、、
ディーン・ウエストウイックは出身官庁・外務省との調整で忙しい。。。
この宰相官邸には多くの官僚が他省庁からの出向者だ。
そのほとんどが出向元の利益誘導に走る。
しかし、この3人は国全体を考え、出身官庁の不利益になることも調整する。
しかもこの3人は能力も高い。
だから、ジョージ宰相もオリビア第三王女も思うのだ。
『この3人が選外の6伯爵家でなかったら?』と。。。
(第84話)
さて、ジョージ宰相の個室は宰相官邸の3階にあり、オリビア第三王女をはじめ、スタッフの事務所は宰相官邸の1階にある。
(第39話)
ジョージ宰相の個室の入口には秘書の席がある。
と言っても、秘書末席のオリビア第三王女が座ることはない。
秘書でも上位にいる秘書、筆頭秘書から第四秘書までの持ち回り制となっている。
この日のジョージ宰相の個室の入口に座っていた女性秘書が、1階のスタッフの事務所まで下りてきて、ディーンの席にやって来た。
そして、その女性秘書はディーンに語り掛けた。
「ディーン、、、
ジョージ・ロビンソン宰相閣下がお呼びです。。。」
突然の呼び出しにディーンは戸惑い、顔を傾けた。
しかし、緊張の表情で、女性秘書と共に、ジョージ宰相の個室へ向かった。
その日の昼、オリビア第三王女とブリトニーとクリスティアナとディーンは、王城の官舎の食堂で、一緒にランチを楽しんでいた。
第49話でも述べたが、ここの食堂はソコソコうまい。
ブリトニーはランチを食しながら、ディーンに問うた。
「で、、、ディーン、、、
宰相閣下に呼ばれたけど、、、
なんだったの?」
ディーンもランチを食しながら答えた。
「うーん、、、
トーマス・ライト公爵閣下と、
僕の父上(ウイルフレッド・ウエストウイック伯爵)が、
外国に行くから、随行しろって。。。」
(第105話)
クリスティーナは驚き、ディーンに問うた。
「外国ってどこ?」
ディーンは苦笑い浮かべて答えた。
「大陸諸国連合の主要3か国と、ガエリア教皇国。」
オリビア第三王女も驚く。
「えー! 長期出張ってこと?」
するとディーンは人差し指を口の前に立て、「しー」と言った。
ディーンは3人が落ち着くのを待つと、小声で話した。
「あまり大きな声では言えないけど、
我が国は大陸諸国とは約200年前の戦争の後、
和平を結んでおらず、戦争状態にある。」
(第27話)
オリビア第三王女とブリトニーとクリスティアナは黙ってうなずいた。
ディーンは小声で話を続けた。
「でも、約200年間、我が国は何もしなかったわけじゃない。。。
秘密裏に大陸諸国、特にガエリア教皇国とは、
和平交渉を行っていたんだ。。。
前外相を輩出した、
我がウエストウイック伯爵家も、
いま、秘密外交を担っているのさ。。。
ま、うまくいかないんだけど。。。
で、今回、
父上(ウイルフレッド・ウエストウイック伯爵)と共に、
僕も秘密外交を担うことになったというわけ。。。」
オリビア第三王女は、おそるおそる、小声で問うた。
「いつ、外国へ旅立つの?」
ディーンは苦笑いを浮かべ、小声で答えた。
「うーん、、、
今回は我が国も和平に対して、
本気であることを外国に示す必要があるってことで、、、
大々的に使者を送る必要があって、
補正予算を組む必要があるらしい。。。
その補正予算も成立の目途が立ったらしいから、、、
まあ数週間以内かな?」
ブリトニーは小声で、半ばあきれた表情でつぶやいた。
「あー、あの補正予算ね。。。
軍と警察のオフロードバイクと、
軍のパラグライダーの補正予算。。。
(第95話、第96話、第99話)
よく通ったわね~。。。
てっきり、来年度予算だと思った。。。」
クリスティアナも小声で、半ばあきれた表情でうなずいた。
「そうね。。。
なんでも、かなり強引な元老院工作をしたって噂よ。。。
特に、アースキン・バーナード財務相閣下が、
上位貴族を脅して回ったって。。。」
(第105話)
クリスティアナはふと天井を見上げ、小声でつぶやいた。
「そういえば、ディーンの海外渡航費用って、
補正予算の項目にはなかったけど。。。」
ディーンは苦笑いを浮かべ、小声で答えた。
「ああ、、、
こういう秘密外交の費用は表に出せないから、、、
大抵、王室調査費から捻出するね。。。」
オリビア第三王女はあきれて、小声でディーンに問う。
「どうして、そんなこと知っているの?」
ディーンは苦笑いを浮かべたまま、小声で答えた。
「そりゃ、僕は外務省から出向しているし、、
父上(ウイルフレッド・ウエストウイック伯爵)は、
何度も秘密外交で外国に行っているから、、、
そういう裏側のことも知っているのさ。。。」
ブリトニーはハッとした表情で、小声でつぶやいた。
「ん?
そういえば、、、
確かに、補正予算には王室調査費も含まれていたわ。。。
まあ、ディーンの外国渡航費ってことなんだろうけど、、、
それだけかしら?」
クリスティアナもハッとした表情で、小声でつぶやいた。
「王室調査費は、王室調査室の予算よ。。。
諜報活動にも使うことができるわ。。。」
ディーンもハッとした表情で、小声でつぶやいた。
「しかも、、、
軍と警察の補正予算を組んだ。。。」
クリスティアナはブリトニーとディーンを見渡し、小声でつぶやいた。
「そういえば、ジャック・パーシー外務相閣下が、
オスカー・デービス元老院議長閣下と
ソフィア・デービス殿下に、
『どうか補正予算での対応をお願いします』
とお願いしてたわね。。。」
(第96話)
ディーンもブリトニーとクリスティアナを見渡し、小声でつぶやいた。
「その場で、ジョージ・ロビンソン宰相閣下は、
『女王陛下と王太子殿下臨席の上、
閣議で説明する』
って言ってた。。。」
(第96話)
ブリトニーもクリスティアナとディーンを見渡し、小声でつぶやいた。
「オスカー・デービス元老院議長閣下も、
『信用できる貴族当主に限定し、
別に会議を設け、そこで説明する。』
って言ってた。
そして、ソフィア・デービス殿下から、
『私達の父上もその会議に呼びたい』
って言ってた。。。」
(第96話)
クリスティアナはなおもブリトニーとディーンを見渡し、小声でつぶやいた。
「そして、本当に補正予算を通した。
しかも、、、
かなり強引に。。。」
ブリトニーも、なおもクリスティアナとディーンを見渡し、小声でつぶやいた。
「かなり、きな臭いわね。。。」
ブリトニーとクリスティアナとディーンは、政府上層部のきな臭い動きを感じ取った。
特に国際関係、とりわけ、安全保障関係にきな臭い動きを感じ取ったのだ。
ブリトニーとクリスティアナとディーンは、真剣な表情で、黙ってうなずいた。
ディーンは真剣な表情のまま、小声でオリビア第三王女に語り掛けた。
「オリビア、、、
アン女王陛下、レオ近衛師団長閣下、シャーロット王太子殿下に、
おかしな動きはないか?」
オリビア第三王女は、この時点ではまだ、ワスイ帝国の脅威について、聞かされていなかった。
彼女は戸惑いながら、顔を何度も横に振った。
ブリトニーも、真剣な表情のまま、小声でディーンに話しかけた。
「ディーン、、、
今回の外国渡航について、
あなたの父上、ウイルフレッド・ウエストウイック伯爵閣下に、
目的を問い詰めてくれる?」
ディーンはうなずき、「ああ」と答えるしかなかった。
次話は2026/6/5 0時に更新予定です。




