第105話 上位貴族王族派メンバの会合(その3) ー譲れぬものー
(前話からの続き)
トーマス公爵はアン女王に向けて話しかけた。
「我が国とガエリア教皇国との和平が必要だな。」
アン女王はトーマス公爵に語り掛けた。
「トーマス、、、
密書をしたためるが、トーマスの方からも、こう伝えてくれるか?
『異世界との考え方や技術の取り入れを
受け入れてもらえるのならば、、、
余自らがガエリア教皇国に赴き、
教皇猊下に頭を下げても良い。』
と。。。」
トーマス公爵は戸惑いながら問うた。
「なぜ、
『異世界との考え方や技術の取り入れを
受け入れてもらえるのならば』
を先頭につける?」
アン女王はトーマス公爵に答えた。
「いま修司殿がいる。
その修司殿が帰るのは11か月後だぞ?
修司殿の安全を確保せねばならぬ。
また、そもそも『異世界の考え方や技術の取り入れ』は
創造神ガエリア様からの約束でもある。
(第26話)
そして、異世界との交流でこの国を守り、
発展させてきた歴史もある。
これだけは譲れぬ。。。」
トーマス公爵はあきれて返した。
「これまでもずっと、秘密外交で、
『異世界との考え方や技術の取り入れを
受け入れてもらえるのならば』
を条件に和平をガエリア教皇国と結ぼうとしたが、
受けいれてもらえなかったのだぞ?」
そう、約200年前の戦争は、ガエリヤ教皇国が異世界の考え方や技術を取り入れているオウゴウヌ王国を異端視して始まった。
(第27話)
大陸諸国連合を率いたガエリヤ教皇国としては、引くわけにはいかないのだ。
アン女王はため息をついて、トーマス公爵に語り掛けた。
「だから、
『余自らがガエリア教皇国に赴き、
教皇猊下に頭を下げても良い。』
と追加したのだ。。。
余が大衆の面前で教皇猊下に頭を下げ、
『臣下の礼』をとり、
加えて、
『200年前の戦争の敗者は我が国である』
と示しても良いと言っているのだ。。。」
そう、200年前の戦争の勝者はオウゴウヌ王国である。
でも、敗者を装っても良いと、アン女王は妥協しているのだ。
そして、オウゴウヌ王国は、ガエリア教皇国に臣下の礼をとっても良いと、妥協しているのだ。
ジャック外相はトーマス公爵に苦笑いを浮かべて語り掛けた。
「トーマス公爵閣下、、、
ガエリア教皇国も、
ワスイ帝国の脅威が迫り、大陸諸国連合崩壊の危機にあることは
認識しているはず。。。
今の状況ならば、ガエリア教皇国も受け入れやもしれませぬ。。。」
トーマス公爵はうなずいた。
だが、「正直難しいぞ。。。」とつぶやいた。
だが、トーマス公爵は気を取り直すと、出席者を見渡し、語り掛けた。
「この状況を打破するためには、、、
これから、我々、王族派の貴族は団結を強め、
数々の予算と法案を通す必要がありますな。」
すると、オスカー元老院議長とその妻のソフィア叔母さんは、苦笑いを浮かべ、黙ってうなずいた。
ジェイラス伯爵も、出席者を見渡した。
「王族派だけでなく、中間派の貴族も取り込む必要がありますな。」
ジェイラス伯爵はこう言うと、苦笑いを浮かべ、アースキン財務相に語り掛けた。
「アースキン、、、色々活躍してもらう必要があるな。。。」
すると、アースキン財務相も苦笑いを浮かべ、黙ってうなずいた
上位貴族の公爵と伯爵は、総収入・総支出を正確に女王に申告する義務がある。
(第35話)
その申告内容をいちいち女王はチェックできないから、実際にチェックするのは財務省なのだ。
財務省がチェックし、記載漏れがあれば、記載漏れの数倍の罰金を公爵と伯爵は払わなければならない。
それどころか、記載漏れを何度も繰り返せば、公爵から伯爵に、伯爵から子爵へと降格もありうる。
(第35話)
よって、財務相が、法案や予算に反対する公爵と伯爵の耳元に、こうささやくのだ。
「閣下の領地の申告された総収入・総支出について、
疑義があると部署が言っておりますが、、、」
公爵と伯爵は罰金を払うのは嫌だし。降格なんて論外だ。
よって、渋々、法案や予算に賛成する公爵と伯爵は少なくない。
元老院にて、公爵は2票、伯爵は1票を有する。
(第35話)
これに加え、現役閣僚として、ロビンソン伯爵家(首相)、バーナード伯爵家(財務相)、パージ伯爵家(外相)にはプラス1票を有する。
つまり、ジョージ・ロビンソン宰相、アースキン・バーナード財務相、ジャック・パーシー外相は、元老院では2票を持ち、公爵と同じだ。
しかし、現役閣僚である宰相と外相と財務相は権限があるだけに、実際のところ、元老院において公爵より力は上なのだ。
ジャック外相は笑顔で参加者を見渡し語り掛けた。
「積極的な秘密外交も行います。」
今回、トーマス公爵とウイルフレッド伯爵が、大陸諸国連合の主要国とガエリア教皇国に訪れる。
トーマス公爵は前元老院議長の息子であり、しかもアン女王の従兄妹にあたる。
(第17話)
そしてウイルフレッド伯爵は前外相の息子なのだ。
今回派遣する使者は、あくまで秘密外交で、非公式なものだ。
だが、選ばれた使者が誰かと知れば、それだけで大陸諸国連合の主要国とガエリア教皇国へのオウゴウヌ王国のメッセージ、つまり本気度が伝わるのだ。
ウイルフレッド伯爵は苦笑いを浮かべ、アン女王に話しかけた。
「女王陛下、、、
今回の渡航を最後に、
ウエストウイック伯爵家当主から引退しとうございます。
当主は倅、ディーンとなります。
どうか、引退を許可願えませんか?
加えて、引継ぎもあり、今回の渡航に、
倅、ディーンの同行を許可願えませんか。。。」
アン女王は戸惑い、ウイルフレッド伯爵に問うた。
「ウイルフレッド、、、なぜじゃ?
なぜ、引退せねばならぬ?」
ウイルフレッド伯爵は苦笑いを浮かべ、天井を見上げ、遠いところを見るように語り掛けた。
「思い起こせば、26年前、陛下が即位されたとき、
同時に外相は、父・バートからジャックに交代し、、、
その際、ウエストウイック伯爵家の当主も、
父・バートから私に交代しました。。。」
ウイルフレッド伯爵は苦笑いを浮かべたまま、アン女王に視線を戻し、話を続けた。
「当主になって26年、私は年を取りました。。。
今の状況では、今回の渡航だけでなく、
今後も多く渡航することになりましょう。。。
もう、その激務に耐えられそうにありませぬ。。。
それでは、我が国の危機に、
我がウエストウイック伯爵家が足を引っ張る形となってしまいます。。。
ならば、倅、ディーンに当主の座を譲り、
秘密外交の中心を担ってもらい、
我が国の危機に立ちむかう方が良いかと思います。」
そう言うと、ウイルフレッド伯爵はトーマス公爵に顔を向け、頭を下げた。
「トーマス・ライト公爵閣下、、、
未熟者ですが、倅、ディーンを導いてやってはもらえませぬか。。。
秘密外交の何たるかを、倅、ディーンに教えてやってほしいのです。。。」
トーマス公爵は困った表情でアン女王に顔を向けた。
アン女王も困った表情で、ジョージ宰相とジャック外相に顔を向けた。
ジョージ宰相とジャック外相は黙ってうなずいた。
それを見たアン女王はため息をつくと、ウイルフレッド伯爵に語り掛けた。
「仕方ないの~。。。
ウイルフレッド、ディーンと共に、
大陸諸国連合の主要国とガエリヤ教皇国に行け。
帰ってきたら、ディーンの徐爵式を執り行う。」
そう言うとアン女王はトーマス公爵に語り掛けた。
「トーマス、、、
ウイルフレッドの息子、ディーンは優れた外務官僚と聞く。
きっと、そなたの役に立つであろう。」
トーマス公爵は「わかりました」とうなずいた。
ジョージ宰相は笑顔でウイルフレッド伯爵に語り掛けた。
「ディーンは今、宰相官邸に出向しておりますが、
彼には随行員として長期出張を命じます。」
ウイルフレッド伯爵は笑顔で、アン女王に頭を下げた。
「女王陛下、ありがとうございます。」
アーチボルト伯爵も苦笑いを浮かべ、アン女王に話しかけた。
「女王陛下、私も陛下が即位された26年前、
宰相が、母・ブライズから、ジョージに交代しました。
そして数年後、ヨーク伯爵家の当主も母・ブライズから私に交代しました。
私も年を取ったのですが。。。」
すると、アン女王はキッと睨み、アーチボルト伯爵に語り掛けた。
「引退したいのなら、拒否じゃ。」
アーチボルト伯爵は「えー」とつぶやいた。
アン女王はアーチボルト伯爵に語り掛けた。
「一度に何人も引退されると困る!」
ジェイラス伯爵も「えー」とつぶやいた。
どうやら彼も引退を考えていたらしい。
アン女王はジェイラス伯爵も睨みつけた。
アーチボルト伯爵は苦笑いを浮かべ、アン女王に話しかけた。
「わかりました。しばらくは老骨に鞭を打ち頑張ります。
でも、私が引退するときは、そんなに先ではありません。
後学のため、娘・ブリトニーも、今回の渡航に同行さえてもらえませんか?」
すると、ジョージ宰相が苦笑いを浮かべ、拒否した。
「一度に2人の長期出張は困ります。」
ジャック外相も苦笑いを浮かべ、アーチボルト伯爵に語り掛けた。
「今回だけでなく、何度も秘密外交で渡航する機会が訪れます。
次の機会に、お嬢さん(=ブリトニー)に同行いただくで、
どうでしょうか?」
するとアーチボルト伯爵は苦笑いを浮かべたまま、黙ってうなずいた。
このやり取りを見ていたトーマス公爵も苦笑いを浮かべ、アン女王に話しかけた。
「そうだな、、、
アン、君が即位した時、
元老院議長が父・アーサーからオスカーに代わった。
そのとき、ライト公爵家の当主も父・アーサーから僕に代わった。
あれから、もう26年が経つ。。。
まだ、僕はもう少し頑張るつもりだが、
数年後には娘・イライザがライト公爵家を継ぐだろう。。。
アン、どうだろう?
娘・イライザの後学のため、
今回の渡航に同行させたいんだが、、、
いいだろうか?」
すると、アン女王は苦笑いを浮かべ、ジャック外相を見た。
ま、イライザさんはジャック外相の秘書を務めているからね。。。
(第33話、第95話)
ジャック外相は苦笑いを浮かべ、トーマス公爵に話しかけた。
「トーマス・ライト公爵閣下、
仕方がありません。。。
イライザにも長期出張を命じましょう。。。」
こうして、今回の秘密外交として、トーマス・ライト公爵と、彼の娘であるイライザさんと、ウイルフレッド・ウエストウイック伯爵と、彼の息子であるディーン君が、大陸諸国連合の主要3カ国とガエリア教皇国を訪れることになった。
次話は2026/5/22 0時に更新予定です。




