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白拍子ですが何か?  作者: ナウ
四章・平家の陰り
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鵺退治

「これは今より25年ほど前、時は近衛天皇の御世の話でござる」


べべベン!!


…と琵琶の音を模して自分の口から言ってしまう源頼政みなもとのよりまさ

八条院のとある会に呼ばれた磯は踊りを披露した

最近は自らが踊る事は殆ど無くなっていて、大体は桜やその他の弟子に任せている

今回の会でも弟子を薦めたが磯様に是非という事で久しぶりに舞いを披露した

一応は引退した身とはいえ指名されれば踊りは披露するため、練習は欠かしてはいない

でなければ如何に体が覚えているとはいえ、勘や僅かな動きに差が出てしまう

その会には源氏の長老こと源頼政も警護を兼ねて参加していた

この頼政は清和源氏頼光の流れを汲む武士である

酒呑童子退治で有名な摂津守・源頼光を祖としており『頼国』『頼綱』『仲政』を経て『頼政』に辿りつく

摂津源氏とも呼ばれ、この摂津源氏とは摂津国を拠点とした一族である

摂津国は京に近く、故に京で活躍する武士達であった

かくいう頼政も京官ばかりを務め、公家と接する事も多く、和歌を詠んだりとする宮廷武士である

そして物の怪退治の家系でもある

頼政の高祖父こうそふである頼光には二つの物の怪退治伝説がある

一つは酒呑童子退治、もう一つは土蜘蛛退治だ

そして頼光の玄孫やしゃごに当たるこの頼政にも物の怪退治の経験があった

それが『今より25年も前の近衛天皇の御世の話』である



その近衛天皇の時代に夜な夜な丑の刻になると東三条の森の方から黒雲が沸き立ち、御所の上空を覆った

そして奇なる声を発する物の怪が屋根に現れ鳴いたという

その声に近衛天皇は怯え寝るに寝られず、そもそも病気がちだった天皇はとうとう参ってしまった

鳥の声に似たるその物の怪を退治するべく物の怪退治で有名な先祖を持つ頼政が物の怪退治を命じられた

実はその昔、第73代・堀川天皇の御世の寛治かんじの頃に八幡太郎義家はちまんたろうよしいえが紫宸殿の怪異をその弓の弦を鳴らし鎮めたという先例がある その先例に倣い頼政に弓矢を持ちて御所の異変を鎮めよという達しだったのである

そんな事で妖怪退治を命じられた頼政、しかし浮かない顔をしていた

正直のところ妖怪退治をする為に帝に仕えているわけではない

しかし放っておけば近衛天皇の容態はますます悪くなっていくだろう

頼政は『雷上動』という銘の弓を携えこれに臨んだ

雷上動とは高祖父たる頼光の代から伝わってきた重宝の弓である

この弓もまた一つの伝説があり、ある夜に頼光は奇妙な夢を見た

夢に現れるたる女が一人、それは養由基ようゆうきの娘の枡花女しょうかじょと名乗った

養由基とは春秋時代の楚の国の弓の名手であった人物だ

伝説によればその弓勢の強さは甲冑を7枚貫き、蜻蛉の羽を射る事ができ、100歩離れて柳の葉を射て百発百中の腕を持っていたとされる

そんな人物の娘が夢に現れた事を不思議に思い夢の中で頼光は枡花女にどうした事かと尋ねた

すると枡花女はこう答えた


「我が父養由基は自分の弓を譲るべく長い年月の間弓を受け継ぎし者を探し求めておりました

しかし願いは叶わず700歳で亡くなりました

父から託された願いはこの私が継ぎ弓の後継者を探し求めて参りましたが、この私もまたもう寿命でこの世を去ります

しかしその最後にようやく弓を渡せる者に出会えました

さぁ、受け取りなさい

これなるは『雷上動』、そして二つの矢『水破すいは』と『兵破びょうは』でございます」


そこで目を覚ました頼光

おかしな夢を見るものだと起き上った頼光の傍には夢に出てきた弓『雷上動』と二つの鏑矢『水破』と『兵破』があったという



その伝説の弓と矢を持ちて颯爽と内裏の警備の番をする頼政

そしてその夜に待っていると、噂通りモクモクと東の方より黒雲が来たりて御所の上空を覆った

しかして『ひょー…ひょー…ひょー…』という奇怪な声が辺り一面に轟く


「南無八幡大菩薩!!」


流石の頼政も少しばかり怯んだが、気を取り直してそう叫び黒雲に向けて矢を射った

しかして矢は黒雲に向かって飛び、その中に消え去った

その瞬間、妖怪の奇声が辺りにこだます

そして黒雲な中から黒い大きな物体が落ちてきた


猪早太いのはやた!!」


頼光は家来の猪早太に呼びかけた


骨食こっしょくという号の短刀を抜いて準備していた猪早太はだっと駆け出し妖怪に近寄り短刀を突き刺す

しかし地に降り立った妖怪は尚も暴れる


「おのれ妖怪変化!!」


そう言うと矢をつがえ放つ頼光

矢は見事妖怪の眉間に突き刺さり、妖怪はぐったりした


「とどめ!!」


えいや!!っと猪早太は短刀を突き刺し止めを差した

もう妖怪は動かなくなった

動かなくなった妖怪をよく見ると頭は猿、胴体は狸、尾は蛇、手足は虎の姿をした奇怪な姿であった

その後、妖怪は鵺と名付けられ丸木船に乗せられ流された

鵺を退治した途端に近衛天皇の体調は良くなり、喜んだ天皇は褒美に『獅子王』という宝刀が下賜された


「というお話でござる、べべべん!!」


得意気な顔で締める頼政


「わぁ~、ほんま何度聞いても頼政の鵺退治は面白いわぁ~」


はしゃく八条院に周りの者達も「流石は頼政殿」と褒め称える

その中にあって磯は非常に醒めた目で話を聞いていた

確かに物語としては面白い

しかしあくまで創作の中での話ならばだ

それが実際にあった話としてならば少し見方が異なってくる

まず最大の関心事は鵺である

頭は猿、胴体は狸、尾は蛇、手足は虎の姿をした動物など現実にはいないだろう

話が盛ってあるとしても実際に鵺と呼ばれる何かは存在した事は確かであろう

ならばその正体は何か?、そこが気になる

しかしこの盛りあがっている中でそれを聞く訳にもいかない



「二つ目も聞きたいわぁ~」


八条院の言葉に皆も頷く


「二つ目があるのですか?」


「おお、その通りでございまする磯様

その頼政、実は二度鵺退治を行いました」


「一度目は近衛帝の時代、二つ目は…」


ちらりと八条院を見る頼政

実は二度目は今から10年以上前の二条帝の御世の話になる

しかしこの話は二条帝が崩御されてからは控えていた

八条院は二条帝の准母でありその死は少し昔になったとはいえ、やはり憚られた

それをいうなら近衛帝は八条院の実弟だが、こちらは随分とした昔であり八条院もまた一度目の話に出てくる躰仁なりひと[近衛天皇]を懐かしみを持ってよく聞いた


「二つ目は二条天皇の御世の事にありまする」



近衛帝の時代と同じく二条帝の時代にもまた鵺は現れた

時は応保の頃、再び現れた鵺は夜な夜な宮中で鳴き、二条帝を悩ませた

一度退治しているからとまたしても鵺退治に駆り出された頼政

この時頼政も既に50代半ば


「何が悲しくてこの歳で妖怪退治なんぞせねばならんか!!」


…と思ったが仕えている帝からの命ならば仕方がない

日が沈んだ宵の頃に鵺は一声鳴いた

それを聞いた頼政は揚々と矢をつがえ鵺を射ろうと構えた

しかし今回はそれ以降一切鳴かない

声も姿も闇に溶け姿の見えない鵺に頼政は弱る

いかに弓の名人とはいえ鵺のいる場所が分からなければどうにもできない

そこで頼政は内裏の空に向かって大鏑矢を放った

するとその音に驚いた鵺がぴゅいぴゅいと鳴き周囲を飛び回った

しめたとばかりに頼政は小鏑矢をつがえ鵺を射た

哀れ矢の命中した鵺はそのまま落下し絶命した


「という話でございまする」


べべべん!!…と締め括る頼政に八条院も周囲の者も手を打つ

一方磯は何かしらの違和感を感じた

最初の鵺と違って二度目は随分とあっさりと死んだと思ったからだ

それに何か一回目の鵺と二回目の鵺とでは同一の種類と感じる事が出来ない

だからと言って何がどうという話ではない

単に二回目の鵺が臆病で弱々しかったとも取れる





会が終わり自宅に戻った磯は早速鈴に鵺の話をした


「ああ…鵺でございまするね。そういった物の怪の話を聞いた事はございます」


「本当にそんなものがおるのかのぅ」


「さぁ、私には何とも」


「頭は猿、胴体は狸、尾は蛇、手足は虎の化け物か、会いたくはないの」


「まぁ、磯様ならご自慢の鉄扇でバシンと一叩き致しますれば即座に退治されましょう」


「いや、無理ではないか?」


「そうでございましょうか?」



鵺の正体、それは誰にも分からない

後の世にはその正体は虎鶫とらつぐみではないかと言われている

もしくは海の向こうよりやってきた小熊猫レッサーパンダとも言われる


この年承安5年[1175年]、長雨により各地各国に被害がでた

そして七の月に改元がなされ、承安から安元元年に変わる

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