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白拍子ですが何か?  作者: ナウ
三章・平家全盛
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平家であらずんば人にあらず

承安3年[1173年」10月、時忠が責任者として造営していた最勝光院が完成した

これは建春門院・滋子の御願寺で滋子の兄である時忠が責任者としてその造営の任に着いたのである

最近の時忠は後白河法皇とも平清盛とも距離を置き、どちらかというと滋子側で活躍していた

そして造営の任を見事にやりきったのである

伊達に焼けた伊勢神宮を復興させた訳ではない

その時の経験が活きたのである


翌、承和4年[1174年]1月、盛大な落慶供養が行われた

その造営に責任者として関わった時忠は得意の絶頂である

建春門院の御給で従二位に叙せられた時忠は「一門にあらざらん者はみな人非人なるべし」と平家の栄華を褒め称えた


『平家であらずんば人にあらず』

そうした言葉はすぐに広まる

本人がどういった意図で言ったかは分からないが、その本人の意図に関わらずそれは悪い意味として人々の間に広まる

良い事は広がり難いが悪い事はすぐに広まるのだ

それを聞いたあるものは平家の栄華が永遠にあれと願い、あるものは平家の驕りとして罵り、あるものは世も末と嘆いた



「奇人が面白い事を言ったそうだな」


閉じた扇を手でクルクル回しながら磯は言った


「一門にあらざらん者はみな人非人なるべし…でございましたかな?」


時忠の人となりを知っている磯と鈴は時忠が悪意があって言った訳ではない事は知っている

時忠的には単に「平氏でなければ出生は難しいぜ~!!、平氏でよかった~!!」的な感覚で言ったのであろう

しかし少なくとも他の人間が「平家でなければ人とは言えない」と聞けば「何だあいつ?」と思われる事は確実である

貴族から言わせれば「平家の増長ここに極まる!!」と発狂するだろうし一般の民から言わせれば「俺達は人ではないというか!?」と憤るだろう


「いらぬ失言を何故にするかな、あの奇人は」


「昔からでございますれば、治りようのない病みたいなモノでございましょうな」


「少し口を閉じるだけで少しはマシになりそうなモノだが」


「無理でしょうな、そもそもの性格があれでは」


普段は比較的抑えている鈴だが、奇人や文覚には手厳しい

基本的にものすごく嫌いなのだろう、あの二人の事は


「しかしまぁ、今回の奇人の言葉は後の世に残っていきそうな名言であるとは思うぞ」


「迷言の間違いではござりませぬか?」


「なるほど!!、かもしれぬ」


回していた扇をポンっと掌に収める






『一門にあらざらん者はみな人非人なるべし』

その言葉は後世といわず現在の東にも早速届いていた

東とは即ち関東である



「一門にあらざらん者はみな人非人なるべし…か」


そう呟くと男は部屋に一人座り少し眉をひそめた

この男の名は源頼朝みなもとのよりとも

現在28歳

かつて保元の乱で捕縛され伊豆に流された少年である


京にいる三善康信みよしやすのぶからの情報により京の事は1月に3回頼朝の元に届けられていた

三善康信とは下級貴族である

康信の母が源頼朝の乳母の妹であった関係からその繋がりで現在でも頼朝に京の情報を送っている

いわば京の情報は全て頼朝に筒抜けなのだ


頼朝は流人となり鎌倉で亡父・義朝や源氏一門の弔いをしている反面、抜かりなく京の情勢を得ていた

とはいえ北条家預かりの身なのでさして自由は無い


「このままでは済むまい」


京の貴族の中でも平氏を疎ましく思う者達は多く、最近は更に増えていると聞く

このまま行けば一悶着は必ずある

頼朝がその時に如何するかはその時の状況次第であり、時勢を見極めてからだ


そういえば面白い情報がある

文覚という荒行僧が後白河法皇と喧嘩してこの伊豆に流されてくるそうだ

後白河法皇の人となりの情報は多いに越した事はない

直接会って喧嘩までした人間の話は貴重なのである


ドン!!


「うお!?」


いきなり背中を押され倒れそうになる頼朝

何事かと一瞬思ったが瞬時に押した人物に辺りをつけた

そして押した者を見る


「やはりか、政子さん」


「ははん、何をぼけーっとしくさっているか源氏の!!」


そう言い腕を組む若い女


「驚かせないでくれます?」


「武士たる者、背中には気をつけるべし」


「それはそうだが・・・」


「源氏の武士ならば背後を取られそうになれば、相手を一刀の下に屋敷ごとぶった斬るくらいはしてもらわないとな」


「源氏にそんな超人はおりません」


「そうか?、かの後三年の役では八幡太郎義家と新羅三郎義光は二人で数千の敵を相手にして斬って斬って斬りまくり全滅させたと聞く」


「何かの間違いでしょう、流石に盛り過ぎにも程があります」


「そうなのか?、私は源氏まさに最強!!と思っていたが」


「間違いですね、少なくとも私は剣術はさっぱりです」


「実は鉄の体とか?」


「違います」


「空を飛べるとか」


「飛べません」


「水の上を」


「歩けません」


「ふん、つまらん奴だな」


これらは明らかに冗談であるが真面目に答える頼朝に政子は口を尖らせた


この女の名前は北条政子、18歳

罪人である頼朝を見張る役に立っている北条時政の娘である


「何かないのか?、こうもっと面白い話が」


「そうですね、思い当たりません」


「そうか、先程は何を考えておったのだ?」


「いえね、面白い僧がもうじきこちらに流れてくるようなので、それを考えていました」


「面白い僧?」


「京より来るそうです」


「へ~」


特に関心なく言う政子の苦笑する頼朝

政子は合戦や弓矢の事には熱心だが仏の道に関してはまったく無関心のようだ


「源氏の!!、では京の話を聞かせよ」


「いつも聞かせておりますが」


「もっと聞きたいのだ」


「そうですね…」


頼朝は困惑する

正直頼朝自体そんなに京の知識は持ち合わせてはいない

いた期間もそれほど長くはない

それに大体の事は政子に話している

同じ話ぐらいしかしようがない


「そうですね…」


「ふんふん」


何やら期待の眼差を向けられる頼朝


「えーと…」


「えーと?」


「うーんと…」


「うーんと?」


「あ!!」


「うわ!?、どうした?」


「白拍子の話をお聞かせしましょう」


「ん?、何だ空拍子とは?」


「空拍子ではなく白拍子です」


「ふむ、その白拍子とは何だ?」


「それはですね…」


頼朝はかつて一度だけ会った奇妙な女の話を政子にし始めた

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