表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白拍子ですが何か?  作者: ナウ
三章・平家全盛
27/40

天魔の所為

承安元年[1170年]、7月に起こった殿下乗合事件からの流れであった10月の平重盛の報復事件によりその日に行われる予定であった高倉天皇の元服定は延引きとなってしまった

この事件に重盛は権大納言の就任を辞任し翌年行われた天皇元服の儀式には参加しなかった


翌、明けて承安元年[1171年]1月、天皇の元服は執り行われる

参加しなかった重盛に代わり儀式の進行を行ったのは藤原邦綱、健春門院滋子の兄弟である平親宗たいらのちかむね、そして重盛の異母弟である平宗盛たいらのむねもりである

高倉天皇この時11歳


同年10月、後白河法皇は健春門院を伴い福原の地を訪れた

この時にとある話し合いが行われその同意がなされたという

その話とは清盛の娘である平徳子たいらののりこの入内である

平徳子の父は清盛、母は時子

兄弟には兄である宗盛むねもり知盛とももり、弟には重衝しげひらがいる

異母兄には重盛と基盛がいる、

ちなみに徳子の母である時子については、その異母弟が時忠であり、異母妹が滋子に当たる


同年12月、徳子が入内し女御となる

徳子は重盛と後白河法皇の猶子となり従三位に叙せられた

この時徳子17歳、何と高倉天皇とは6歳差である

法皇の娘を入内させるのいわば天皇家の姉妹を入内させる行為である

九条兼実いわく「我が朝延喜以来未曾有の事なり、天魔の所為か」と批判した



「天魔の所為か!!、面白いな兼実けんじつは]


こっそり伝え聞いた磯はかつて一度会った時に見た兼実の顔を思い浮かべた


「天魔の所為か!!…うむ、天魔の所為か!!」


「もう結構でございます」


うんざりした顔で言う鈴

どうにも磯は一度嵌ると飽きるまで言う癖がある


「それ程面白い奴ならあの時にもう少し話しておれば良かったな」


「まぁ、どの道磯様とはお合いにはならないでしょうけれど」


「だろうな、聞けば古式を重んじる者だそうではないか」


「古き時代の復古を掲げておられるお方のようですからな」


「確かに私とは合わぬな」


「磯様は荒ぶる神にございますからな」


「魔王じゃ」


「天魔ではございませぬか?」


「第六天魔王じゃな」


「なるほど」



「てんまのしょいかとはなんでございまするか?」」


磯の言葉を聞いていた静が聞いてくる

二人は顔を見合わせて苦笑した


「気にするな、こちらの話だ」


「はい」


「勉強は終わったのかの?」


「わからないところがあります」


「どれ、見せてみよ」


静も今年で5歳

現在は文字を覚えている真っ最中である

主に平仮名、そして片仮名だ

漢字はまだ難しいので勉強はまだだが、漢文を目にはさせている

平仮名と片仮名を習得すれば次は漢字と漢文の勉強である

本来この時代には識字率は非常に低く、一般人は平仮名すら読み書きが出来ない者も多い

もしくは平仮名は何とか読めても片仮名は駄目な人間が圧倒的に多い

漢字など無理の中の無理であり、貴族が使う特殊な文字になってしまっている

磯の讃岐の家は比較的富裕の家であり、磯は幼い頃より平仮名と片仮名はきっちり勉強させられた

しかし漢字や漢文の勉強はごく簡単なモノで終わってしまっていて、本格的に学んだのは京に来てからだ

しかしある程度年齢が行くと頭に入ってこず、習得に苦労させられた

ある程度は読めるとはいえ、今でも普段使わない難しい漢字は読めない場合がある

それならば幼少の最初から覚えさせた方が良いと磯は思った

だから静には子供の頃に平仮名・片仮名は勿論、漢字も普通に漢文が滞る事無く読めるまで覚えさせようと思っている

文字が読めれば本も巻物も読める

歴史も小説も読めれば知識を蓄えられるのだ

それともう一つ、数の数え方である

基本的な数の数え方を教え始めている

平安時代になって衰退したと言われている算学ではあるが、少なくとも上流貴族の女子の中では足し算・引き算・九九が出来る事は常識となっている

実は和算については讃岐の実家で教わった経験があるため京では苦労しなかった

むしろ京の人間が和算については磯と同じ程度かもしくは酷い場合があるのに当時驚いた

具体的には九九も一桁ならまだしも掛け算二桁の場合途端に放棄してしまうのだ

計算については貴族よりも一般で商いをしている人間の方が遥かに得意であるのである

そういう意味で貴族とはどうでもいい儀式や儀礼は一人前だが、肝心な事はまるで駄目な連中だとその時に見切った

今の磯を形作っているのはそういった経験からだ

そしてそれは公家が支配するこの国に対する見限りでもある

ただ国は停滞し女が学を必要とされない国ではあるが、一人ぐらいは学のある女がいても良いとは思う

それが例え可愛くないと批判され、それが不利になるとしても静には賢くあって欲しいのだ



「これはいかなるいみでございますか?」


「ああ、これはな」」


静にそう言葉の意味を教える磯を見て何らや顔が綻んでくる鈴

それは時代の流れを感じるからだ

まだ漢字の読み書きが上手く出来ない磯に漢字の読み書きを教えたのが他ならぬ鈴であるからだ

当時は実にモノ覚えの悪い娘だと思っていたが、幼少の頃より漢文に接してきた鈴とは違い10代になってからの勉強はそれは実に苦労するものだと今なら分かる

そう考えれば磯は実に早くに習得してしまっていた

しかも舞踊を学びながら、それを仕事にしながらである

その才能は文化人と呼ばれし宮廷の歴史に出てくる才女達と肩を並べる程だと感じた

いや、更に歴史にある程度精通しなおかつ先を見通す目を持つならば才女どころか才ある殿方であっても比肩できる者などいないのではなかとさえ思えてくる


「ん?、どうした?鈴?」


そんな磯と静を見て感慨に耽る鈴に訝った磯が聞く


「何でもございませぬ」


年がいったせいか何やら込み上げてくるものが大きい

鈴と鈴とは8歳離れている

磯は今年で30歳

鈴は今年で38歳になる




翌、明けて承安2年[1172年]2月

平徳子が女御から晴れて高倉天皇の中宮になる


そのまま何事もなく終わるかと思われていたこの年の12月に再び大事件が起こった

平重盛の家人が春日大社の神人を殺害したがそれを重盛が力で抑えつけようとした

興福寺の僧兵が京に入り強訴したのだ



「重盛近辺が騒がしいな」


それを聞いた磯は少し顔を曇らせた

結局は清盛が乗り出して事なきを得たが、清盛が調停に乗り出してこなければ激しい暴動に発展しかねなかった

要するに清盛がいなければ今ある平氏もまた成り立たない事を示している

清盛とて不死ではない

清盛死後には現在の体制は崩れていく事は目に見えている


「清盛が突出しすぎていたか」


子供じみた重盛の対応に磯は眉を寄せる

今や平氏一門にモノを申せる人間は一人もいない

どうこう言っても平氏の力なくしては後白河も立ちいかない

昔なら源氏と競わせる事で均衡を保っていた京も今や源氏はいない


そんな事を考えながら京の街を歩く磯


最近では宋から入ってきた渡来品を積んだ車が走りまわっている

まさに福原にいる平清盛様々であろう

かくいう磯もその恩恵に預かっていた

輸出する金やその際に使われる金などが大量に福原に送られているために、景気は良い

その金はどこから来たのか?

言わずと知れた陸奥国からである

奥州藤原氏現当主、藤原秀衝ふじわらのひでひらより送られてきし金の山

前々年に鎮首府将軍に任命されたお礼として送られている金は宋との貿易に大きく貢献していた

これもつまる所は後白河と清盛の計画の内であろう

そのお陰で磯もまた宋銭で色々と買い物が出来ている

しかしそれはあくまでも富を持てる者、もしくは権利ある者が富んでいるだけでしかない



「磯様?」


道をゆったりと歩いていた磯に男が声をかけてきた


「ん?」


呼び止められるのは今に始まった事ではない

特に今は白拍子は辞めているので、昔接していた人々から今はどうしているのか?と声を掛けられたりする事がしばしばだ


「おや?、貴男は…」


男の顔を見て磯は思い出した


「行隆殿ですね、懐かしい」


「覚えていて下さいましたか!!」


男は嬉しそうにする


この男の名は藤原行隆ふじわらのゆきたか

特に何かあるわけではなく、冴えない公家である

磯も特に行長とは親しいという間柄ではない

とはいえ行長の父親である藤原顕時ふじわらのあきときとも面識はあって、まったくの知らない間柄ではない

顕時は仁安2年[1167」年に亡くなっていて、その時の報に最後のお別れに行った

幸隆とはそれ以来であるから5年以上経っている

この行隆はそもそも美福門院に仕えていた

その後二条天皇に仕えた

しかしその二条天皇も崩御し、今は不遇の身にあるようだ


「人生とはうまくいかぬモノでありますな」


そう苦笑する行隆

それは当然のことだ、むしろ上手くいっている磯がおかしいのである


「お久しぶりです、確か行長様でしたね?」


その隣にいる10代中頃ぐらいのまだ少年の面持ちを残した男を見る


「あっと…お久しぶりです、そうです行長です、覚えていて下ったとは!!」


父親の行隆と同じ反応である

やはり親子は似るものか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ