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白拍子ですが何か?  作者: ナウ
三章・平家全盛
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物語と蜂蜜

前年の嘉応元年[1170年]7月、一つの事件が起きた

平重盛たいらのしげもりの次男である平資盛たいらのすけもりと摂政・松殿基房まつどのもとふさとの揉め事だ

平重盛は清盛の長男であり、現在は引退した清盛に代わって平氏の棟梁となっている

その日、松殿基房は法華八講に行く途中車に乗った平資盛の車と路上で遭遇した際に資盛が馬から降りなかった事を従者達が咎め恥辱を与えた

ところが後でその車が重盛の子資盛の車だと知った基房は慌てて重盛に謝罪し乱暴を働いた従者の引き渡しを申し出た

しかし激怒した重盛はこれを拒否し、基房の使者を追い返したのだ

基房は手を尽く重盛の怒りを解こうとしたが重盛はまったく聞く耳を持たなかった

重盛からの報復を恐れた基房は自邸に籠り参内もせずに震えていた

しかし高倉天皇の加冠の儀に摂政として参内しない訳にはいかない

10月、基房の参内途中に重盛の兵に襲われ馬から引き落とされる等の仕返しをされた

『殿下乗合事件』と言われるこの事件だが、平氏の中でも比較的温厚と言われる重盛にしては随分とした対応であると皆は噂しあった

あるいは裏で清盛の意向が働いていたとも言われている

重盛は後継者であり現在平家を率いているが、それは表の話であって裏では清盛が依然として力を持っているからだ



「子供か!!、重盛は」


「まぁ、色々と不満があるのでございましょう」


「まぁ、私が重盛なら鉄の扇で摂政を完膚無きまで叩きのめしておろうが」


「どちらが子供でありまするか!!」


「冗談だ」


「左様でございますか」


「うむ」




翌、嘉応3年[1171年]、磯邸にて珍しき物が届けられた

磯は小さな陶器の壺に入っているその黄金色のどろりとした液体を匙で掬う


とろー……と液体は糸を引き下に線を引いた


「磯姉さん、これが…」


「うむ、これが蜂蜜というモノだ」


黄金色でどろりとし、そして口に入れると甘い

蜂の巣から取れるこの蜜

その正体は分からないが、これは蜂が所有している

食しても毒にはならず、むしろ甘くて美味しい

蜂の所有する蜂蜜、大したモノだ


この蜂蜜はその昔天皇に献上する一品として知られていた

かなり貴重な品で本来一般の人間が口にする機会はそうそうない

しかしそれも昔の事で、最近では貴族でも口に出来る機会も増えて来た

その理由は国内での採蜜が増えてきた事と、宋からの舶来品である

そこで磯も手に入れてみた


「甘いですねぇ~」


蜜を口にして桜が嬉しそうに言う


「確かにな」


同じく蜜を口に含み磯は言った


「あまい~!!」


静も嬉しそうにはしゃぐ


「……」


鈴は食べない

甘いモノが好きではない事と蜂が採集している得体の知れない蜜は気持ち悪いからだ

何ゆえに小さな羽虫の巣より取れたる液を食さねばならないのか

そもそも虫自体が鈴は大嫌いだ

虫など見ただけで蕁麻疹が起きてしまう

そう、こちらは蟲愛ずる姫君ではない



「あ!!」


「ん?、どうした?」


「そういえば言おうと思っていて忘れておりましたが、続世継しょくよつぎが完成したようにございます」


蜂蜜を堪能する磯達を見ながら鈴は言う


「続世継?、何だそれは?」


「前に申し上げておりました歴史の物語にございます」


「ああ、言っておったな、そう言えば」


「鈴さん、それって何ですか?」


聞いてきた桜に鈴は答える


「文徳天皇の御代から後一条天皇の御代に至るまでの物語じゃな」


「え?、何ですか?、それ?」


「桜、世継物語は知っておりまするか?」


「いえ、知りませんが」


「ふむ、左様か、世継物語という物語があっての」


「はい」


「その世継物語の続きが続世継なのじゃ」



世継物語、またの名を大鏡おおかがみという

その意味は歴史を明らかに映し出す優れた鏡という意味で付けられた

作者は不明、しかし摂関家や村上源氏に近い官人説が有力

白河院政期に成立した歴史物語

第55代・文徳天皇『嘉祥3年[850年]』~第68代・後一条天皇『万寿2年[1025年]』までの175年間の時代を描く

物語の内容は大宅世継おおやけのよつぎ夏山繁樹なつやまのしげきという二人の老人が菩提講で語り合っているという話

ただこの二人の年齢は190歳と180歳である


「えらく長寿だな」


磯の言葉に鈴は苦笑する


「まぁ、物語でございますれば」


「古代の天皇もびっくりだな」


「続世継も150歳の女が出てくるとか」


「まぁ、物語とはそんなモノか」


「え~と、磯姉さんと鈴さんはそれを読まれた事があるんですか?」


「私はない」


キッパリという磯に鈴は苦笑した


「私はありまするぞ」


「流石は鈴だな」


「流石です、鈴さん」


二人に言われ複雑な顔になる鈴


「磯様も桜ももう少し物語を読みなされ」


「は~い」


返事する桜に渋顔の磯


「如何なされましたか?、磯様」


「いや、そういった物語は非常に苦手だ」


「と申されますと?」


「栄花物語も世継物語も作者が分からないという奇妙な物語が今に生きて存在しておるのが気に入らぬからな」


「では何ならお読みになられたのでございますか?」


日本国現報善悪霊異記にほんこくげんほうぜんあくりょういきだな!!、あれは面白い」


「説話集でございますね、確かにあれは作者が景戒様と言われておりますが」


「温泉僧・行基や最強の修験道者・役小角えんのおづぬも出てきていて面白い」


「確かにあれは磯様がお好きそうにございますな」


「作者自身も出てくるからな」



日本国現報善悪霊異記にほんこくげんほうぜんあくりょういき、略して『日本霊異記』ともいう

平安時代初期の書かれた最古とされる説話集である

著者は薬師寺の僧・景戒

成立年代は諸説ありはっきりとした所はわからないが、弘仁13年[822年]辺りとされている

弘仁13年[822年]といえば第52代嵯峨天皇の御代の時代であり、かの伝教大師・最澄が没した年でもある

その内容は仏教に関する不可思議な物語集である

基本的には良いことをすれば良い事が起き、悪い事をすれば悪い事が起きるという勧善懲悪的な話が中心を為す



「そう言われれば作者が分かっている読み物ならば源氏物語がありまするが?」


「あれはつまらん」


「全部お読みになられましたのか?」


「最初で挫折した」


「全て読まずしてそう言われるのは如何なものかと存じます」


「長編は頭に入ってこないのでな」


「呆れましたな」


「そもそもあれの作者は本当に紫式部なのか?」」


「と申されますと?」


「あの長編を一人で書くには無理があると思うぞ?」


「協力した者達は勿論いたでしょうし、何より…」


「何より?」


「血統の成せる才でございましょう」


「ほう、血統か!!」


「紫式部様もそうですが、清少納言様の家系も歌人の才ある血統でございます」


「出たな、伝説の宮廷女流作家」


「左様です、少納言様は今でも語り草になっておりまするゆえ」


随筆ずいひつ枕草紙まくらのそうしか」


「読まれた事は?」


「少しだけな」


「あ、私ありま~す!!」


桜が明るい声で言う


「桜に負けましたな磯様」


「むぅ…」


蜂蜜を舐めながら唸る磯

そして更に食べたがる静にはもうやらない


「あまり食べてはいかんのだぞ、静」


「どして~?」


不服そうにする静に磯は言う


「子供があまり食べ過ぎるとポンポンが痛くなるのだぞ」


「そなの~?」


「そうだ」


この言葉は単に食べ過ぎるのを注意する事と同時に子供が蜂蜜を沢山食べると体に良くないと言われているからだ

信憑性や原因は分からないがどちらにせよ食べ過ぎは良くない



清少納言と紫式部

磯達の生きているこの時代から170年ぐらい昔に活躍したこの二人の才女

そもそも仕えた人物が異なり、その使えた時代も若干異なり二人が宮廷で顔を合わせた事は無いと言われている

にも関わらずのこの時代においても絶えず比較される二人はまさに時代を超えた有名人である

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