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白拍子ですが何か?  作者: ナウ
三章・平家全盛
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奥州藤原氏・後編【奥州藤原三代】

清原清衝きよはらのきよひら

後三年の役にて勝ち残った清衝は厳密に言うと清原氏一族ではない

あくまで待遇が清原一門であるという事であって血縁続きではないのだ

清衝の本来の名は藤原清衝ふじわらのきよひらである

父は藤原経清ふじわらのつねきよ

母は有加一乃末陪ありかいちのまえ


父である経清は陸奥国亘理郡むつこくわたりぐんの豪族である

陸奥国府多賀城に勤めていたらしい

その元を辿れば平将門の乱を鎮圧した藤原秀郷ふじわらのひでさとを祖先に持つ

俘囚の主で奥六郡を支配していた安倍頼良あべのよりよしの娘である有加一乃末陪を妻に迎え安倍氏と結びついた

安倍氏が朝廷への貢租をしなくなったため永承6年[1051年]陸奥守・藤原登任ふじわらのなりとうは安倍氏討伐の兵を出した

しかし玉造郡鬼切部の戦いで惨敗した

代わって源頼義が陸奥守に任じられ阿倍氏を討伐せんとするも、大赦が発令され阿倍氏は赦された


天喜4年[1056年]阿久利川事件が起こり阿部氏が蜂起

経清は陸奥守である源頼義に従って参戦するも、同じく阿倍氏の娘である中加一乃末陪なかかいちのまえを妻にしていた平永衝たいらのながひらが阿倍氏と通じているとの嫌疑で頼義に殺された

それを持って自分にも同じ疑いが掛けられ殺されるのではないかと考えた経清は頼義を見限り阿倍氏の元に寝返った

康平5年[1062年]、戦況不利に頼義は出羽国の俘囚長・清原氏に援軍を要請

大軍を擁した清原氏の増援部隊の前に阿倍氏は抗しきれず敗北した

『奥州十二年合戦』と呼ばれる戦いは終わり、経清は捕えられ斬首される


本来ならば経清の子である清衝も殺される筈であったが、母である有加一乃末陪が清原武則の長男である清原武貞の嫁となる事で清衝は殺されずに済む

そして武貞の養子となり藤原氏から清原氏へ姓を変える

やがて母の有加一乃末陪と武貞の間に家衝いえひらという子が出来た

清衝に取っては異父弟に当たる


永保3年[1083年]、出羽国の吉彦秀武きみこのひでたけが叛乱を起こした

武貞の子、清原真衝きよはらのさねひらは秀武討伐に乗り出す

秀武に同調した清衝と家衝は真衝の本拠地の館を攻撃

しかし陸奥守である源義家みなもとのよしいえがこれを阻んだ

義家との戦いで敗れた清衝と家衝は義家に降伏

しかし出羽に兵を持って向かった真衝は途中で急死してしまった

義家は奥六郡を分割しそれぞれ清衝と家衝に与え、これにて事件は終わった・・・筈であった

応徳3年[1086年]、この裁定に不服であったのか家衝は突然清衝の屋敷を急襲しその妻子眷族を悉く皆殺しにした

唯一その難を逃れた清衝は義家に助けを求め、義家の助力により家衝を討ち取った

この家衝が起こした乱の根底にはそもそも清原氏の血が入っていない清衝が清原氏の遺領を継承する事に不満があっての事ともされるが詳しい事は定かではない



「と、ここまでは宜しいですかな?、磯様」


欠伸を発する磯に鈴は気難しい顔で言う

静はいつの間にやら眠っているし、桜も話を聞いているのかどうかは分からずうつらうつらしている


「ああ、何やら疲れたが何となく分かった」


「疲れておる場合ではございませぬぞ」


「分かった分かった

で、その清衝しんしょうがどうしたと?」


「はい、では…」



吉彦秀武の乱から端を発した戦いは清衝と家衝の争いにて清衝の勝利で終わった

世にこれを『後三年合戦』と呼ぶ

結果的には清衝は清原家の唯一の生き残りとして清原氏の遺産を全て継承する事になった

云わば阿倍氏の血を引く者が清原氏から所領を全て奪い返した形になった

寛治元年[1087年]、奥六郡の領主となった清衝は清原氏から旧姓である藤原氏へ姓を戻した

藤原清衝、これが奥州藤原氏の祖である



「そやつか!!」


鈴の話を聞いていた磯は声を出す


「はい、この方でございます」


「なるほど、歴史をなぞれば色々な人生があるという事だな」


「左様でございまするな」


「奥六郡は手に入れた、これにてめでたしめでたしだな」


「勝手に終わらせないで下さいませ」


「まだ何かあるのか?」


「はい、馬と金でございます」


「馬と金?」


「左様でございます」



陸奥や出羽の馬は都でも評判がよく、飛ぶように売れたという

陸奥を手中にした清衝は武士との繋がりは重視せず都の貴族と結びつく事を考えた

武士など所詮は朝廷の犬にしか過ぎない

源義家といえども都にいけば単なる使い走りの者にしか過ぎないのだ

こうして清衝は時の関白・藤原師実ふじわらのもろざねに馬を二匹貢物した

それだけに留まらずいくつかの荘園を摂関家に寄進したようである


陸奥・出羽の田の収穫量も田地の大きさから畿内五カ国を合わせたよりも遥かに超える収穫量を持っていた

かつ金産地を多く持つ陸奥はきんの宝庫であり、まさに黄金の国と言っても言い過ぎではない

そうした生産力を背景に奥州藤原氏は更に大きくなっていく


寛治5年[1091年]、義家の後任として藤原基家ふじわらのもといえが陸奥守に赴任

基家は清衝に合戦の企みがあると朝廷に訴えたが、朝廷はこれをうやむやにして終わらせた

関白家と通じた清衝の勝ちである


嘉保年[1094~1095年]頃に清衝はこれまで本拠地としていた江刺郡豊田館えさしぐんとよたのたてから衣川近くの平泉に移った

長治2年[1105年]、かつて関所のあった要害の地である関山に中尊寺の建立を開始、大治元年[1126年]3月、楽慶供養らくけいくようを行う

中尊寺の堂宇、仏像は全て金箔の押された『皆黄金』と称されている

その威容は凄まじい


大治3年[1128年]7月、中尊寺の完成を見届けた清衝は死没、亨年73歳



「死んだか」


「はい、亡くなられました」


「とはいえ今より42年前か、言う程昔ではないな」


「そうでございますね」


「それにしてもその総黄金造りとやらの中尊寺は見たいな」


「陸奥国に行けば見れますぞ」


「……いや、良い」


「また何故でございますか?」


「遠出をすれば何があるやも知れん、静が大きくなるまでは自重だ」


そう言うと寝ている静の顔をのぞき見る


「のう静」


特に反応はせずにこんこんと眠る静

その傍らでは桜も寝息を立てている


「なるほど、もっともな事にございます」


鈴は頷く


「それで?」


「は?」


「いや、話の続きだ、奥州藤原家は今はどうなっておる?」


「あ、はい、それでは…」



どこの世界でも見られる事ではあるが、清衝の死後跡目相続の争いが起こった

大治4年[1129年]、基衝もとひらと異母兄・惟常これつな兄弟との戦い

その戦いに勝利した基衝が清衝の後を継いだ

その後、康治元年[1142年]には陸奥守として藤原師綱ふじわらのもとつなが赴任

赴任した師綱は驚いた

陸奥国はまるで基衝の天下であり国司など無きが如しの状態であったからだ

仔細を朝廷に秦上し、宣旨を持って信夫郡の公田検注を実施しようとしたが基衝は自頭大庄司・季春に命じて師綱を妨害せしめた

これに怒った師綱は兵を持って答えた

事の大事に季春は師綱の元に出頭し、審議を経て処刑される

こうした事から基衝は反省し、国府と結びつく事を考えた

康治2年[1143年]、陸奥守として来た院近臣である藤原基成ふじわらのもとなりの娘を子の秀衝ひでひらに嫁がせ国府とも院とも繋がった

久安8年[1148年]、左大臣・藤原頼長ふじわらのよりながは父から譲り受けた高鞍たかくら本良もとよし大曽禰おおそね屋代やしろ遊佐ゆさの五荘に年貢の増徴を指示

この五荘はいずれも陸奥や出羽国内にあって、その指示を基衝は粘り強く説得し改定案を提示してそれを飲ませた


やがて基衝は中尊寺を凌ぐ大伽藍を建立した、毛越寺である


父清衝の跡を継ぎ、奥州の覇者として君臨した基衝は保元2年[1157年]死没、亨年53歳



「……」


話し終えた鈴はふと磯を見る

机に突っ伏して寝息を立てている


「おやおや、仕方がありませぬな」


すぅーと布を取りだし磯の体に掛けた

こうして見るとまだまだ子供である


「……」


鈴が磯邸に来たのはどのぐらい前であろうか?

今は亡き信西殿に雇われてまだ10代前半の磯の元に来た時の事を思い出す

最初に会った時「何?この小憎たらしい娘は!!」と思ったものだ

あの時はまさかこれほど長くに渡って磯と接する事になるとは思いもしなかった

信西殿が亡くなられた時にはこれでお別れだと思った

しかし磯は自力で独り立ちし、雇用は継続された

これはそれで不思議な縁である

そして今やかつての子供は新たなる子を生み育てている

しかし母親になっても子供は子供のままだ



基康が死ぬ前年には保元の乱が起こっている

それはごく最近の事であり、既に磯も白拍子として活動し鈴も京に居た

基衝の跡を継いだ秀衝ひでひらはまさしく磯達と同じく今を生きている

藤原秀衝ふじわらのひでひら、現在49歳

京の、そして日本の情勢を遥か奥州の地にて今はまだ黙って見ている

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