9 プールの記憶
私は今、水だ。
水と一体となっている。
雨の日の匂いのような、
それが濃くなっているような――
カルキの匂いのような、
……
カルキ?
「ピ――――!!!!」
甲高い音が響いた。それは、水中ではくぐもった音で――
「っぷはっ!」
「よーし、みんな。プールから上がるんだ。今から5分休憩!」
小学校のプールの授業。私は頭が全部浸かるまで潜っていた。休憩の笛が鳴るまで――
「あっちー。このきゅーけーが長いんだよな」
「あっ! 三郎鼻血出てる!」
「えっ? やべっ」
「三郎、女子の水着姿見てたんだなー!?」
「ちっ、ちげぇよ。俺は鼻炎持ってんだよ! カルキが鼻に入ったんだい!」
果たして、本当だろうか……?
「鼻炎?」
「びえーん」
「ぴえーん(笑)」
ぴえん?
後の流行語が生まれた瞬間だったとかどうとか……
「よーし! 休憩終わり! みんな、ゆっくり足から入るんだぞ」
『いえーい!!』
担任の声を皮切りに、男子達が一斉に水面に飛び込んでいく。ざぶーんと、音を立てて飛沫が上がり、こっちに掛かってきた。
「こら! 飛び込むな、お前ら!!」
飛び込みたい理由も分かる。この暑さだもの――
でも私は後が怖いので、階段を使い足からゆっくりと入水した。
「気持ちいい……」
今度は、顔を上に向けて水に身体をあずけてみた。
ゆらゆらと水面が揺れるにつれて、私の身体も、揺れる――
授業の前半にはクロールや平泳ぎの練習もした。
ちゃんと泳いだ。
そのうえで――、
「疲れた」
プールの授業後に来る、倦怠感。
クラスの7割が寝ている、算数の授業。
プールの記憶、イマ子の記憶――。




