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イマ子の記憶  作者: 時田総司(いぶさん)


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8/14

8 ランドセルの記憶


 小学校6年の時、春か夏頃のコト――


 下校時刻に、後輩の1年生2人がバラスの砂利道を裸足で歩いていた。


(うわぁ……痛そう。どうしたんだろ?)


 心配はしたが、話し掛けなかった。すると、時田君が2人の前に出ていくのが目に入った。

 なにやら、やり取りをしているが聞こえない。近付いてみよう!


 声が聞こえるところまで行くと、時田君が親族の4年生に言った。


「とりあえず、俺のランドセル持て」


 ……は?


 私はその光景に絶句していた。小学生が、2個下の子に下校時間、ランドセルを持たせたのだ。


 時田君は道場に通い剣道をしている同級生だ。モノを大切にし、ヒトを大切にするはずの剣士が、何故――


「持て」

「え?」


「……いいから」

「分かりました」


 多分だが、その4年生は少し不満そうな顔をしたように見えた。時田君はランドセルを持たせて、今度は1年生に話し掛けた。


「靴隠されちゃったんだよな。痛いだろ? 2人は無理だけど、どちらか一人おぶってあげる。どっちがいい?」



 あ……



 なるほど、そういうコトか。


 私は漸く時田君がランドセルを後輩に持たせた意図を理解した。


「はい!」


 1人が手を上げた。


「じゃあ、コースケ君で良いかい? ユヒト君」


 時田君が質問するとユヒト君は――


「うん! コースケ君をおぶってあげてよ」


「ホントに大丈夫?」


「平気!」


 ユヒト君が間髪入れずに返していた。


(男の子だなぁ……)


 カッコつける、無理をする――


 ユヒト君の中に、男心を見た私はニヤリとして、時田君の顔を見てみた。


「……?」


 時田君は少し顔がほころんでいた。

 そしてすぐに顔を引き締めていた。


 私も心配だった。バラスの砂利道で、さぞ足の裏が痛かろう。

 けれど、一人しかおぶれない。

 時田君はユヒト君を気に掛けながらも、前へ進むしかなかった。


 あ……!


 暫くすると誰かが時田君の横に現れた。上坂君だ。しかも、1年生のユヒト君をおぶっていた。時田君がそうしたので、私も後ろを振り返ると、あの4年生がランドセルを3つ担いでいた。少し笑ったが、2人の方を向く。


『ありがとう』とか、


『なんで一緒に?』とか


 2人の間に、会話はなかったけど、2人はバラスの砂利道を超えるまで1年生をおぶって帰った。


 その2人の背中を、私は『世の中、こんな人だらけになればなぁ』という顔で見つめていた。



 ――、


 バラスの砂利道が終わると、キレイに舗装している道になる。そこの三差路で上坂君は道を違う。


 じゃあね、


 と上坂君はユヒト君をキレイな道に下ろす。


「ここからは痛くないよ。自分で歩けるよね?」


 コースケ君は嫌だといっていたが、ユヒト君は


「分かった! ありがとう上坂君」


 と言い降りてキレイな舗装道を歩き出した。それを見たコースケ君も、釣られて舗装道を歩き出した。


(強く育てよ……少年)


 私は子鳥の巣立ちを見守る親鳥のような心境になっていた。


 私の小学校時代、『地区集会』というモノがあった。自宅が近い生徒同士が集まって集会を行うと、いうモノだった。夏休み前や冬休み明けなどに生活について話し合ったりする。後日おこなわれたその会で、担当教員が思わせぶりに、ハイ注目と言って地区の生徒達に話を切り出した。


「時田君と上坂君が、靴を隠された1年生をおぶって帰ってくれました! お家の方も感謝されてましたよ」


 時田と上坂君はニッと顔を見合わせて頬を緩めた。

 私も、穏やかな顔で頬を緩めていた。


 ランドセルの記憶、イマ子の記憶――。

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