8 ランドセルの記憶
小学校6年の時、春か夏頃のコト――
下校時刻に、後輩の1年生2人がバラスの砂利道を裸足で歩いていた。
(うわぁ……痛そう。どうしたんだろ?)
心配はしたが、話し掛けなかった。すると、時田君が2人の前に出ていくのが目に入った。
なにやら、やり取りをしているが聞こえない。近付いてみよう!
声が聞こえるところまで行くと、時田君が親族の4年生に言った。
「とりあえず、俺のランドセル持て」
……は?
私はその光景に絶句していた。小学生が、2個下の子に下校時間、ランドセルを持たせたのだ。
時田君は道場に通い剣道をしている同級生だ。モノを大切にし、ヒトを大切にするはずの剣士が、何故――
「持て」
「え?」
「……いいから」
「分かりました」
多分だが、その4年生は少し不満そうな顔をしたように見えた。時田君はランドセルを持たせて、今度は1年生に話し掛けた。
「靴隠されちゃったんだよな。痛いだろ? 2人は無理だけど、どちらか一人おぶってあげる。どっちがいい?」
あ……
なるほど、そういうコトか。
私は漸く時田君がランドセルを後輩に持たせた意図を理解した。
「はい!」
1人が手を上げた。
「じゃあ、コースケ君で良いかい? ユヒト君」
時田君が質問するとユヒト君は――
「うん! コースケ君をおぶってあげてよ」
「ホントに大丈夫?」
「平気!」
ユヒト君が間髪入れずに返していた。
(男の子だなぁ……)
カッコつける、無理をする――
ユヒト君の中に、男心を見た私はニヤリとして、時田君の顔を見てみた。
「……?」
時田君は少し顔がほころんでいた。
そしてすぐに顔を引き締めていた。
私も心配だった。バラスの砂利道で、さぞ足の裏が痛かろう。
けれど、一人しかおぶれない。
時田君はユヒト君を気に掛けながらも、前へ進むしかなかった。
あ……!
暫くすると誰かが時田君の横に現れた。上坂君だ。しかも、1年生のユヒト君をおぶっていた。時田君がそうしたので、私も後ろを振り返ると、あの4年生がランドセルを3つ担いでいた。少し笑ったが、2人の方を向く。
『ありがとう』とか、
『なんで一緒に?』とか
2人の間に、会話はなかったけど、2人はバラスの砂利道を超えるまで1年生をおぶって帰った。
その2人の背中を、私は『世の中、こんな人だらけになればなぁ』という顔で見つめていた。
――、
バラスの砂利道が終わると、キレイに舗装している道になる。そこの三差路で上坂君は道を違う。
じゃあね、
と上坂君はユヒト君をキレイな道に下ろす。
「ここからは痛くないよ。自分で歩けるよね?」
コースケ君は嫌だといっていたが、ユヒト君は
「分かった! ありがとう上坂君」
と言い降りてキレイな舗装道を歩き出した。それを見たコースケ君も、釣られて舗装道を歩き出した。
(強く育てよ……少年)
私は子鳥の巣立ちを見守る親鳥のような心境になっていた。
私の小学校時代、『地区集会』というモノがあった。自宅が近い生徒同士が集まって集会を行うと、いうモノだった。夏休み前や冬休み明けなどに生活について話し合ったりする。後日おこなわれたその会で、担当教員が思わせぶりに、ハイ注目と言って地区の生徒達に話を切り出した。
「時田君と上坂君が、靴を隠された1年生をおぶって帰ってくれました! お家の方も感謝されてましたよ」
時田と上坂君はニッと顔を見合わせて頬を緩めた。
私も、穏やかな顔で頬を緩めていた。
ランドセルの記憶、イマ子の記憶――。




