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イマ子の記憶  作者: 時田総司(いぶさん)


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7 生活科の記憶


 生活科の授業。


 秋になると、私はいつも焼き芋の匂いを思い出す。


 あの日も、みんなで育てた芋を掘って、枯れ葉で焼いた。


 生活科――。

 今では当たり前になったけれど、私が小学生だった頃に初めて土や植物に触れた、不思議で楽しい授業だった。



――――――


 私達は畑に辿り着いた。その秋晴れの空のように、からりとした爽やかさで担任が声を上げる。


「皆居ますね? それじゃあお芋を収穫しましょう!」


 皆で無我夢中になった。泥だらけになりながら、芋を掘っていた。



 ――、


 サッサッと、皆はほうきで枯葉を集めていた。これに火を点けてお芋を焼くんだ。


「皆ぁー、これからアルミホイルを巻いたお芋を焼きますよー」


 担任の一声で、焼き芋作りが始まる。


 ――数十分、芋が焼かれた。


「そろそろ頃合いかな? 皆、お芋を取り出しましょう」


 ほくほくの焼き芋が出来上がった。皮を割った途端、香ばしい湯気が立ちのぼる。焦げ目の奥に潜んだ甘い香りが、私の鼻腔をくすぐった。


「はふっはふっ」

「あっちぃー」

「熱いけどおいひーぉ」


 皆は、はしゃぎながら焼き芋を食べる。


(旨いなぁ……)


 私も静かに焼き芋をたしなんだ。


 数分後――、


「あー、美味しかった!」


 生徒達は全員、焼き芋を食べ、教室に帰ろうとしていた。


「!」


私は気付いた。芋を掘る際に使ったスコップ類が、そのまま片付けられずに放置されているコトに――。


 フー、やれやれ……。


「仕方ないな」


 私は一人でそれを片付けるべく、スコップ類を5つ、よっこらせっと手に持った。


「あっ!」


「!」


 振り向いた。『あっ』という声のする方へ――。


 そこには片付けられずに残ったスコップに気付いた、サチコの姿があった。残るスコップ類は3つ。


(これくらいならサチコちゃんでも持てるかな)


 そう思った私は残りのスコップ類をサチコに任せ、5つのスコップ類を片付けた後、教室に戻った。


 その日の帰りの会――、


 担任が興奮した様子で話を始めた。


「サチコちゃんだけが片付けに気付いて!」


「!!」


 私は驚愕した。『サチコだけが?』片付けたのはサチコだけではない。


 私も片付けた、なのにどうして?


 私の頭にはそういった言葉が浮かんでいた。


(先に動いたのは、アタシだったのに……)


 小学校二年生だった私は、『良いコトをしたので褒めてもらいたい』という当たり前の感情が至極当然湧き上げてきた。


「センセー、アタシも片付けを……」


「それでねー、サチコちゃんは……」


「!!」


 担任の話は、そのまま続いていった。


「ちぇっ。アタシも片付けたのに……」


 私はぶつくさ呟いていた。


 サチコは、少し困ったような顔をしていた。


「くっそ、何でアタシは……」


 私は未だに呟いていた。


『ただ褒めてほしかった』


 当たり前の感情を持った私は、不満だった。せっかく自分から動いたのに、担任は気付いてくれないのか? 担任を見る。


「それでね、……」


 私の声は、最後まで届かなかった。


「くっそ……」


 私は下を向いた。


 すると――、


「黙りなさい!!」


「!?」


「私が話しているに! ぶつくさぶつくさと!!」


「!!」


 当時小2の私は泣きそうになった。


「黙っときなさい!!!!」


「!」


 私はまた、下を向いた。



――――――


あの頃の私は知らない。


「ありがとう」が返ってこない善意もあることを――。


 それでも。


 誰かが困っていた時、見返りを求めず手を差し伸べる自分になっていることを――。


「石焼~き芋~」


 遠くで焼き芋屋がメガホンを使っている。


「1つ……買いに行くかな」


 生活科の記憶、イマ子の記憶――。

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