6 桜の記憶
私も毎年、その花に目を奪われる。
春の季節にはシートを広げ、淡い薄紅の花びらを眺めながら味わう。
「ふへへっ。進むぜぇ……」
おちょこに酒を注ぎ足した。
ひらひらとそれが、冬に降る雪とは違う調子で落ちてきた。
冬の厳しさを 超えた頃
肌で温もりを 知った頃
当たり前の様に 訪れる頃
10日程の命でも
別れと出会いを知らせ咲くんだ。
ひらひらと落ちるそれを、手のひらに招き入れた。
「フフっ……」
私はその愛らしさに微笑んだ。
たとえその花々が散った後
地に残るくすんだ色が醜くとも――。
誰もが心を奪われる。
淡い薄紅の花びらを、春の季節には顔を上げて眺めるんだ。
新しい制服に 袖を通す頃
新しい名前を 覚える頃
毎年の様に 訪れる頃
儚く散りゆくの命でも
別れと出会いを知らせ咲くんだ。
胸に花のリボンを付けた小学生を見つけた。
ランドセルが少し大きい。
母親の手をぎゅっと握って歩いていた。
「勉強が始まるぞー、がんばれよー」
小声でそう呟く。
フーっと息を吐いて、また桜の木を見上げた。
たとえその花々が散った後
ほうきで掃くのは煩わしくとも――
また次の年も
その次の年も
人々は その花を 恋焦がれるんだ。
桜の記憶、イマ子の記憶――。




