10 告白の記憶
「イマ子ぉー、時田君がメアド教えてほしいんだって」
「岸子!? え……? 時田君が!?」
高校2年の秋――急に時田君とメールを送り合う仲になるのだが……
「い……『良いよ』って、伝えといて……」
時田君とは小学校の途中から、中高とずっと同じ学校だったのに、特段仲良く話したこともない。それなのに……何で?
「りょーかい! 放課後、メアド送っとくからね!」
(時田君……)
小学生の頃から剣道を続けていた。
中学からは野球部に入って、今では高校球児。
(でも……)
――――――
「靴隠されちゃったんだよな。どちらか一人おぶってあげる。どっちがいい?」
――――――
小6の時のあの背中は……忘れない……。
――、
『イマ子ぉー、今から時田君からメールくると思うから……ガンバ♪』
「『何をだよ?』っと……はぁー。時田君何てメールが来るんだぁ? あんまり異性とのやりとり、得意じゃないし……あっ、来た!」
『お疲れー☀☀(顔)野球部の時田です。
アドレス登録してくれてありがとー↑↑』
「こんななんだ……」
予想の範疇を超えていた。あの、時田君が……こんな、フランクに……?
剣道を中学3年まで習いながら野球部を続け、今や高校球児となった堅物が……?
『お疲れ、こちらこそ登録ありがと☀
メールだとこんなんなんだ』
「送信っと……あっ! 返信早……」
『メールだとこんなです(笑)
変ですか?』
……ぷふっ。
『ちょっと意外です(笑)』
それから、とりとめのないことばかり送った。
化学の田辺先生の体調不良の多さ。
現代文の寺岡先生の早口の聞き取りにくさ。
なんとなく――だったが、悪くはなかった。
「時田君、あいつヘンタイなんだって」
「えっ?」
昼休み――、
ナルちゃんが話し掛けてきた。
「小5の時、クラスが一緒だったんだけどぉー、なんとね?」
「なんと!?」
「女子の体操服をさぁー」
「ひっ!?」
ヘンタイだぁ――!!!!
それから、放課後のメールを何十分も返信を遅らせておいて、
『うん』
だとか
『へー』
だとか
3文字以上は送らないでおいた。
罪悪感はあった。
靴を隠された後輩を背負って下校する、優しい6年生だった時田君――
でも――、
5年生の時に……?
「そんな奴だったのかぁー、残念」
悪くなかったメールの時間も、ふつふつと嫌悪感しか沸いてこない気分が悪い時間になっていた。
そんな頃の、ある日の夜――
『話したいことがあります。電話かけて良いですか?』
あっ。これは……
少々、覚悟した。
私と時田君は、女子と男子。何も無いのに、メールをしたがるハズはない。
そして、改まった文面で、改まった通話の申し入れ。
来る……のか……?
『良いよ。今からなら』
ブーっとガラケーが音を立てながら小刻みに揺れた。
2回、揺れたところで、私は通話のボタンを押す。
「もしもし?」
「もしもし、イマ子さん……話って言うのは……」
ゴクリと、私もだが、時田君も喉を鳴らしたように聞こえた。
「ずっと……好きでした……!」
「――!」
初めて、人から告白された……。靴を隠された後輩を背負って下校する、優しい男の子に――。
でも
――――――
「女子の体操服をさぁー」
――――――
イヤ……だ
「……」
「……?」
ベッドの近くに置いた、目覚まし時計の針が時を刻む音だけが、耳に鳴り響いていた。
「あの……? へ、返事は……?」
コワイ
「あ……時田君は、友達……としか思っていなかったから、その……」
「あ、はい。分かり……ました。
今日は、聴いてくれて、ありがとう」
「!」
「また、学校で」
プツリと、通話は切れた。
大きくため息が出て、緊張の糸がウソのように緩んだ。
「はぁー、『聴いてくれて、ありがとう』かぁ……」
学校で時田君は暫く元気がなかった。
2月の駅伝大会も、お腹を壊して不参加だった。そのまま3年生になって、クラスは変わってしまった。
メールもあの通話以来、1通も行き交っていない。
ナルちゃんは、有るコト無いコト言って、他人を蔑む癖があると知ったのは、後になってからだ。
優しい時田君をこの目で見たのだが、卑猥な時田君は、人から聞いただけだった。
それでも私は――
――――――
風の噂だが、時田君は小説家になり、声優さんと付き合っているとかどうとか。真実かどうかなんて、定かではない。
「売れっ子だったら、今頃私は養ってもらえたかなー、なんて。ふー」
指を組んで、ベランダで伸びをした。過ごしやすくなってきた夕方の風が心地よい。
「都合良すぎるか。時田君、幸せになってたら良いなぁ……」
告白の記憶、イマ子の記憶――。




