11 傘の記憶
「あ……」
灰色の空からパラパラとまばらに、雫が降ってきた。
「やっぱりかぁ……見ていて良かった、天気予報ってね!」
それでも私は準備万端。何時ぞやの時とは違って、500円の透明ビニール傘を用意しているのだよ。
「ポチっとな!」
ボタンを引くと、それはバサッと目一杯開いた。
ポツポツとビニールを不規則に水が鳴らす。
「♪」
何となく落ち着くなぁー。靴は少し濡れるけど。
よし、コンビニに到着だ。今晩は豪勢に炭火焼豚丼にするぞっ!
――、
「ありがとうございましたー」
(へへっ。売り切れてなかったぜぇー。お茶を選ぶのに、少し時間を取ったが……!)
傘立ての右奥の私の傘が……
「あ……無い」
頭を抱えた。
「ウッソー!? さっきの間に!? マジか! ちょっとお茶選んでただけで!!! 酒買ってたオッサン? 化粧品の女? 誰だよクッソ!」
雨は音を立てて激しくなっていた。
「……」
チラリと、手に下げたビニール袋と炭火焼豚丼を見る。
(同じビニール傘をチェンジして帰るか……? いや、それでは私のビニール傘を誘拐した犯人と同じ罪を背負うコトとなってしまう……かくなる上は……)
「ダッシュだ!」
私は猛スピードでコンビニを後にした。
――
「……って無理だぁ!!」
私は猛スピードでコンビニにUターンしてきた。
「靴ビシャビシャだぁ!! 炭火焼も浸水してまうわぁ!!」
……踏ん切りをつけるしかないのか。
「あぁ! 私の、500円傘!!」
結局8年間愛用した傘に今生の別れを告げ、新たなビニール傘を授かることにしたのだが……
「は? 770円?」
物価高でビニール傘を授かるのにも世知辛い世の中になっているとは……
――、
「あー損した損した!」
家に着いた私は、腹いせに『傘 盗難 対策』の検索キーワードで調べ物をするコトに……
「えぇ……!? 世にはこんなモノがぁ!?」
あの頃の私は知らない。
この国には、盗難防止アクセサリーなるグッズがあることを――。
「何!? なんて便利! でもこっちの田舎には無いわー(涙目)」
あの頃の私は知らない。
傘を買わずに、必要な時だけ借りられるサービスが存在することを――。
傘の記憶、イマ子の記憶――。




