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イマ子の記憶  作者: 時田総司(いぶさん)


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4 ガラケーの記憶


 今日は引っ越しの日だ――

 明日から私は街に出て働くこととなる。


 荷物の整理は思いのほか上手くは進まない。


(こんなハズでは……ん?)


 メモ書きが貼ったケースが目に留まり、コテンと――


「何が書いてあるんだ?」




『あげる♡木村より』




「夕子!?」


 再びケースはコテンと落ちた。



 ――、


 記憶を探る。このケースは……


「ああ、夕子が私のUSB破壊したからお詫びに新品を……ってまだ使ってなかった! 開けよう」


 ケースからはひらりと、更に紙切れが落ちてきた。


「次から次へと……何だ何だ?」


本井理子

080―××××-……

mer××××@……




「!!」




 心臓が一瞬、止まった。

 タラりと、嫌な汗がこめかみに浮かぶ。

 呼吸が、浅くなる。


「……理子」


――――――


 私は中学卒業の記念にガラケーを買ってもらった。

 初めての携帯電話。機能がいっぱいで説明書に頭が追い付かなかった。

 なんとか親とメールができるようになった頃、私は高校に入学した。


「今井イマ子さん、アドレス交換しましょ」


 クラスメイトから紙切れが手渡された。


名前

電話番号

メールアドレス


 と書いてあった。


「アドレス交換ってそんなもんなの? 本井……さん?」


「んーそんなもんでしょ。よそよそしいから、理子って呼んでね。イマ子さん」


 私は理子の4月のフットワークの軽さというか、初対面での遠慮のなさにキョトンとした。


「……はい、理子……さん」


 家に帰ると、理子とずっとメールする日々だった。


「何々?『男メル友には、即返信しない方が良い』……何で?」


 すっかり意気投合した私達は小さな画面の中に夢中になっていた。


「『私達ずっと仲良しで居ようね』か……」

『うん、ずっと』



 ――、


 2年生になると、理子とは別のクラスになり、理子は別の友達と遊ぶことが多くなった。

 段々、メールの件数が減っていった。


 自室のベッドで仰向けになりながら、センター問い合わせを押す。


「……これくらい待ち時間があるなら、何か……!」


『0件です』


「――! はぁ……」


 思い切って理子を遊びに誘ってみた。


『今度さ、週末うちでマンガ読まない? 理子の好きなジュース用意しとくから』


『ゴメン、その日は友加理とライブ行く』



(!――)



 一瞬、怯んだけど引き下がらない、食い下がる。


『じゃあ、次の週は?』


『ゴメン――』


「……え?」



 画面に映った文字列に、私はしばらく瞬きを忘れていた。



『ゴメン、貴重な休日をアナタの為に使いたくない』


「――!!」


 指先が、

 速く

 速く

 動いていた。


『知らない、理子なんて死んじゃえ』


 送信済みと見えた瞬間から、着信拒否と受信拒否の設定をした。


――――――


「理子……何でこんなトコに挟まってんの……。今更連絡取れるわけ……無いか」


 ガラケーの画面は小さい。


 だけど、あの頃の私の世界は、この中に全部入っていた。


 あの頃の私は知らない。

 この小さな機械が、いつか心を痛める記憶になることを――。


 あの頃の私は知らない。

 あの紙切れが、いつか私を救うことになることを――。


 ガラケーの記憶、イマ子の記憶――。

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